2021/6/30

営業改革で悩むすべての人へ。セールスDX成功の4つの鍵

NewsPicks ブランドデザイン シニアエディター
 日本企業において、営業組織をDXする試みは、コロナ禍による非対面営業が急速に広まったことで加速している。
 セールスDXとは、営業活動をツールやデータの力で効率化し、経営インパクトを出すための取り組みだ。
 しかし、各種管理ツールの導入によってSFA(セールス・フォース・オートメーション)を試みても、営業活動の一部の効率化にとどまっている組織が多いのではないだろうか。
 どうすればセールスDXが実現するのか。壁や罠はどこに潜むのか……。
 1000人を超える法人営業のDX実践者としてNTTコミュニケーションズの徳田泰幸氏に、「日本型セールスDX」のリアルなノウハウを聞いた。
INDEX
  • 日本型セールスDXの課題
  • SFAのデータ入力を日本企業で浸透させるポイント
  • 営業成果を生み出す仕組み
  • 失敗した経験がセールスDXを成功へ導く
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日本型セールスDXの課題

──アメリカでは、様々なツールやメソッドでセールスDXが進んでいる印象を受けます。日本企業でなかなか進まない理由は何だと思いますか?
徳田 ジョブ型が進むアメリカでは、受注までのプロセスを密にレポーティングするカルチャーが根付いています。
 一方、日本のエンタープライズ企業のほとんどはメンバーシップ型、終身雇用であって成果報酬ではないため、営業活動のプロセスをデータで残す理由がありません。この違いが非常に大きい。
 売り上げが下がってもボーナスに影響があるくらいの違いでは、現場でSFAは動かないのです。
 雇用形態も独特な日本企業がSFAを浸透させ、セールスDXを実現させるには、日本のカルチャーにフィットする型が必要です。
──そもそもセールスDXとはなんなのでしょうか?
 セールスDXは、経営的・社会的インパクト創出のために、様々なデータを活用して営業モデル改革を進めることです。最終的に成果に結びつけることで経営者・現場の幸せを実現します。
 だから、「SFAを入れたからそれでいい」というものではないのです。
──日本でSFAを浸透させるには独自に工夫しなければいけない。
 そうです。これは、SFAツールを導入した企業の“あるある”なのですが、多くの場合、SFAが「受注管理マシン」になってしまうんです。
 受注したら入力するけれど、失注したら入力しない。後者はデータ上では案件が存在しない状態になります。
 これではアナログで属人的な営業時代と変わらず、受注までがブラックボックスのままになる。

SFAのデータ入力を日本企業で浸透させるポイント

──SFAにデータが入力されないという企業の声を聞きます。
 先ほど申し上げたように、日本企業特有の終身雇用制度があり、データを入力してもらうことがそもそも難しい。
 だから、どうやったらデータを入力してもらえるかを徹底的に考えました。
 なぜなら、SFAにデータが入るようになってくると、今まで分からなかった問題点がハッキリするようになってきますし、そこに対する打ち手が明確になるというメリットがあるからです。
 SFAを導入してから浸透させるためのポイントは4つあります。
 1つ目は、経営ポリシーとして、SFAに入力していない案件は一切認めないこと。
 よく「実はまだ公表していないけれど、こんなにいい案件があって」という営業の奥の手のような情報が出てきますが、それらは案件として認めませんでした。
 2つ目は、きちんと入力している営業にはトップが徹底的に褒めること。
 3つ目は、営業プロセスの仕組み上にデータ入力を入れたこと。たとえば、エンジニアや別の組織に支援依頼をするときなど、SFA上に商談情報がないと支援を得られないようにしました。
 そして4つ目として現在取り組んでいるのは、営業活動の自動示唆です。
 データを入れることでAIがネクストアクションを教えてくれるという、本人にとっても便利で成果につながる機能を入れることで、正のサイクルがぐるぐる回る状態を作っています。
 この浸透させるための4つのポイントは、日本のカルチャーでセールスDXを成功させるために、必須の項目だと思っています。
 特に4つ目の自動示唆は、データをもとにAIが自動的に相関分析をして、「次はこういう行動をしてください」とネクストアクションを促す仕組みをシンガポールのスタートアップと開発しました。
 それを昨年300人の営業に活用してもらったのですが、アンケートを取ると8割、9割が「このツールはかなり有用」と答えたんです。
 営業のツールを導入して8割以上の人が評価するなんてあり得ないことだったのですが反応が良かったため、今年は法人営業すべての1000人まで範囲を広げて利用してもらう予定です。
──1000人もの営業がいれば、データ入力してもらうだけでも大変そうです。
 最初にSFAを導入すると、現場からは「データ入力が手間だな」「面倒くさいな」という感情が生まれるんですね。
 そのうち、仕組みを変えていくと「少し楽になった」「いちいちレポートする必要がなくなった」と1段階上がります。最初は疲弊していたのが、少し喜ぶようになるわけです。
 次に第2階層に上がると、きちんと入力している人を可視化できるようになるので、経営がチェックし始めます。
 「君は今月のパイプラインが足りていないけど、大丈夫なの?」と。経営は喜ぶけれど現場は喜ばないこの第2階層は、必ず訪れます。
 最後は、現場も経営も成果の実感を得られる第3階層に入ります。これは、入力したデータの見返りが経営にも現場にもある状況です。ここまでいけるとセールスDXは成功です。
──SFAが機能すると、営業スキルは属人化せずに済むのでしょうか?
 結論からいうと、SFAだけでは営業スキルの属人化は防げません。ただ、それにきちんとお答えするには、そもそも「営業スキル」をどう評価するか、という話からしなければいけません。
──営業スキルというと、プレゼンテーションやクロージングなどの能力でしょうか。
 もちろんそういったコミュニケーション能力もそうです。ただ、ポイントは商材や相手、フェーズによって必要な能力が違うということです。
 そもそも十数年前の日本企業の営業は商品やサービスパッケージを売り歩く「モノ売り」がほとんどでした。
 弊社でいえば、電話やネットワークを販売しており、今ではクラウドサービスやコンサルティングなどソリューション商材が増えています。
 テクノロジーの進化によってモノ売りからコト売りに変わると、当然営業スタイルも変えざるを得なくなります。
 モノ売りをしていた平均年齢50歳に近い人たちが、最新のICTを商材に営業しなければいけなくなる。
 すると、単一のモノを売っていたときは“レジェンド”と呼ばれていたセールスパーソンが、活躍できなくなってしまうのです。
──時代によって、営業に必要なスキルは変わってきた。
 そうです。
 私は2001年にNTTコミュニケーションズへ入社後、約15年間ずっと法人営業に携わってきました。入社当時の営業の教育スタイルは凄腕のレジェンドの「背中を見て育て」。
 たしかにトップ営業から学ぶべきことはたくさんありましたし、このやり方はトップ営業をコピーして2番手、3番手を作る意味では有効だったと思います。
 しかしながら、当然レジェンドは1人だけではありません。
 本来、「Aさんのこの部分は優れている」「Bさんのこの行動を真似しよう」と、各人が持つ優れたスキルを選択して習得すべきで、特定のレジェンドそのものに近づけるような教え方や事例共有には違和感がありました。
 そして、時代は変わって転職が当たり前になり、属人的なスキルに委ね、特定商材を売りまくるトップ営業が去るようになる。
 すると、組織から営業スキルが消滅することになります。

営業成果を生み出す仕組み

──営業の育成ではどういった取り組みをされているのでしょうか?
 セールスイネーブルメントという「成果起点の営業組織能力向上の仕組み」を導入しています。
 我々の定義では、営業成果の向上を目的として、データを利活用し、1つの戦略の下、営業における育成・ツール・システムを有機的に連携させ、営業組織自体の能力を上げる営みとしています。
出典:『セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の作り方』山下 貴宏(かんき出版)
──セールスイネーブルメントでは具体的にどういった施策を行うのでしょうか?
 ハイパフォーマーをヒアリングし、どういう行動をしているのかをデータ化して把握していきます。
 データを取得することで組織・個人としてどこに営業の強みや弱みがあるのか分かるからです。
 データ化する代表例としては、顧客訪問件数や行動履歴といった営業行動とスキルです。
 このデータを蓄積していき、利活用を組み合わせていくために、セールスDXが必要になってきます。
 だから、成果起点の営業育成という仕組みを作ろうとすれば、必ずデータが必要になってくる。ここでセールスDXとつながります。
──データ管理が大変そうです。
 専門の組織があります。2019年に「Data.Camp」というセールスイネーブルメント機能を持つ組織の立ち上げを行いました。
 Data.Campは営業に係るあらゆるデータを蓄積・分析し、『データドリブン』に『1つの戦略』の下でセールス高度化を目指す"セールスイネーブルメント機能"を持っています。
 組織のスタート時は営業活動におけるあらゆるデータを1カ所に集めることを意識していました。
 アナログに個別最適していたところにデータを組み合わせれば、今まで気付かなかった相関分析ができ、打ち手を作れるようになると考えたからです。

失敗した経験がセールスDXを成功へ導く

──トレンドが移り変わる通信という事業を核に、柔軟に対応してきたNTTコミュニケーションズだからこそ、先んじてセールスDXの成功の法則を見出したとも言えそうです。
 日本企業は、なかなか変えられない「昔からの商慣習」や、組織に占める割合が多く役職者でもある「バブル・団塊ジュニア世代」などのハードルがあるので、いきなり新しいことをやろうとしてもスムーズにいきません。
 しかも、ツール先行で進めると、「そもそもデータを入力しない」「プロセスを改ざんする」といった歪みが必ず生じます。
 我々は先んじてこうした壁にぶつかって失敗を繰り返し、試行錯誤してきたからこそ、お客様がセールスDXを始めるときに「まずはこういった問題が生まれますよ」「今のフェーズでは社員がついてきませんよ」といったリアリティを伝えることができる。
 これは、我々NTTコミュニケーションズの新しいケイパビリティの一つで、推し進めていくべきアドバンテージだと思っています。