【TeaRoom×NewIdea】日本初「ウィスキー紅茶」の販売戦略を立案し、実行せよ

2021/7/9
最前線で活躍するトップランナーと共に「学ぶ、創る、稼ぐ」の実現を目指すプロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」。
学びをゴールと位置付けるビジネススクールが多い中、NewSchoolの最大の特長は各プロジェクトで「学び」、それをもとに事業やコンテンツを「創り」、そして「稼ぐ」ところまで視野に入れていることと言えるだろう。
こちらでは「創る」「稼ぐ」の場である「NewIdea」にスポットを当て、NewSchool卒業生によるリアルな企業の課題解決の事例を紹介する。
企業とNewSchool卒業生を繋ぎ、リアルな課題解決に取り組む共創型プログラム、それがNewIdea。アサインされたメンバーはアイディアの提案のみならず実現まで並走することもあり、働きに応じてインセンティブを得ることもできる。
過日、NewSchoolでは、2018年に創業し日本茶の生産・販売、事業プロデュースを手掛けるTeaRoomと卒業生を接続。「日本初“ウィスキー紅茶”の販売戦略を立案し、実行せよ」という特別授業を開講、販売戦略のアイデアコンペを皮切りに、優秀案を実際に展開していく試みがなされた。
携わった卒業生たちは、普段はそれぞれの職務につく、バックグラウンドの異なる社会人たち。「国産ウィスキー樽で熟成させたノンアルコールティー」という特徴的な商品を彼らはいかに捉え、戦略設計の機会を経てどのような成長を感じたのか。
今回のプロジェクトに携わった、TeaRoom代表取締役の岩本宗涼さんに、NewSchool卒業生の中村和人さん・小澤あゆみさんも交え振り返って頂いた。

ナレッジの活用が新しい可能性を拓く

──まずはTeaRoom社のミッションを教えてください。
岩本 お茶の生産から販売までをトータルプロデュースすることで日本文化の価値を世界へ証明していくことです。
前提として日本茶は衰退が顕著な産業であり、農家のある川上から消費者が待つ川下まで課題を抱えています。
その双方へアプローチし、解決を図っているのがTeaRoomです。
川上への取り組みとしては、日本茶産業の複雑なサプライチェーンをグループ企業とともに内製化したことが一例です。静岡県の大河内地域に自社の生産と研究開発拠点をもち、生産から販売まで一貫して向き合う体制を目指しています。
また、川下に対しては「需要開拓」を行っています。お茶と日本文化によって、社会や企業が抱える課題について解決することができれば、お茶は飲料の領域に留まらない幅広い活用が見込まれると考えています。
──今回はNewSchoolや販売パートナーである東急ハンズさんと、なぜ連携しようと考えたのですか?
岩本 現在の小売業の傾向として、PBを含めた製品開発により顧客の体験型消費にリーチする企業が強くなってきています。自ら引き出した顧客ニーズを製品へ反映し、また顧客へ届けるサイクルを実現する“小売シフト”が起きていると考えています。
東急ハンズさんはそれを自社でも加速させるために「NewStore by TOKYU HANDS」をオープンし、新しい在り方の模索を始めていました。そこへ、弊社の新しい商品開発の取り組みや、「学ぶ、創る、稼ぐ」というNewSchoolさんのコンセプトなどが全て絡み合い、販売戦略立案の企画が成立していったのです。
──商材となった「ウィスキー紅茶」とは、どういったものですか?
岩本 国産紅茶の茶葉をウィスキー樽に漬け込んで熟成させた、フレーバーティーです。
すでにコーヒーの領域では、生豆をウィスキー樽に貯蔵して風味を移した「バレルエイジドコーヒー」が商品化され、スターバックスさんでも取り扱われています。お茶の領域には転用されていなかったのですが、ご縁から国産ウィスキー生産で使用された樽を活用させていただくことができ、この度のチャレンジに至りました。
このような、業界をまたいだリソースの活用は、農家さんの知恵から学びました。たとえば、私の知り合いの玉露農家さんは米をつくると伺ったことがあります。理由は、米作りで得た藁で茶を覆い、日光を遮断することで旨みを育てたいからだそうです。
もし、藁を市場から調達し、その残留農薬が移りでもすると、せっかく育てた茶が「無農薬」ではなくなってしまう。それを防ぐためにも自ら栽培するほうが良い。使い終えた藁は肥料になり、作った米は焙煎して玄米茶にする。その焙煎テクニックを使えばほうじ茶も作れる……と、その農家さんはお茶の知識のみならず、お米作りのナレッジを活用していました。
私たちも同様に、業界の慣習に依存せず、ナレッジを「機能」としてフラットに見て活用できないかを考えておりました。まだまだ浸透していない横断可能なクラフトの知恵というものはいくらでもあるはずです。
今回のウィスキー紅茶はそれらを活かしつつ、TeaRoomの生産部が分社化したTHE CRAFT FARMで徹底的につくり手としてのエゴを発揮してもらいました。THE CRAFT FARMの掲げる「クラフトの未踏を登る」を体現した商品と言えるでしょう。

自分の職域を広げるきっかけに

──ここからはNewSchool卒業生にも話を伺ってみましょう。中村さんがこのプロジェクトに参加したきっかけは何ですか?
中村 「食の6次産業化プロデューサー」の活躍に期待が集まっていることなどから、農業分野でのプロダクトアウトには、以前から関心がありました。そんな時に、そちらの方向で最前線を走る岩本さんに加え、東急ハンズさんも参画するプロジェクトがあると目にして好奇心が湧いたのが理由です。
また、自分の職域を広げる良い機会になると感じたこともポイントの1つです。日常の仕事では失敗する訳にいかないため、自分の領域から踏み出せないことも多いもの。
僕は普段、toC向けの映像をCMとして制作する仕事が主ですが、そのナレッジを同じtoCの店頭販売にも拡張していけるはずだと常々考えていました。NewSchoolの環境なら踏み出しやすく、仮説を試してみることもできそうだと思いました。
──チャレンジの好機と捉えたわけですね。小澤さんはいかがですか?
小澤 中村さんと重なる部分もあるのですが、私も普段携わるブランディングという領域からプロジェクトに貢献できるのではないかと思い、勇気を出して一歩踏み出してみました。
実はコロナ禍の関係で、本業でブランディングに関わることができない環境になってしまったこともあり、会社の外で実績をつくる必要性があると考えていました。
自分のホームであるNewSchoolなら講座で学んだことの力試しもしやすいと感じ、挑戦に至ったという背景があります。

ペルソナからの戦略立案という王道

──アイディアコンペは、どのように勝ち進んだのですか。
小澤 ターゲットとそのニーズを探るところに非常に多くの時間を割きました。
まず、「ウィスキー紅茶」と表現されているものの、製品はノンアルコールティーでしたので、基本は男性よりは女性の親和性が高いであろうと見立てました。そこで自分をペルソナに位置付け、その上でニーズを深く堀り下げました。
ペルソナに基づいた提案をしたことで、複数のチームが参加するアイディアコンペの段階で埋もれることもありませんでした。店頭プロモーションの切り口での応募が多いだろうと予想していましたので差別化に繋がったと思います。
──コンペを経て実現までの道のりを歩む上で、仕事の仕方や常識も異なるメンバーで、どのようにチームを成立させていったのですか?
中村 まずは、プロジェクトのステークホルダーが何を価値として、何を成したいのか、全て整理し共通認識としました。
それを踏まえ、各々がどのように連携するかを考えました。テーマこそ販売戦略でしたが、考えることはとても広く、パッケージもネーミングもない、商品すら変わり得る状況でプロジェクトを進行させなければならず、どのようにメンバー同士が関わるべきかが重要だと判断した訳です。
今回は、メンバーのスペシャリスト性を活かし、付随する領域は各々が巻き取る、その上で全員が議論を重ねるというスタイルで進めました。
岩本 個々人がポジションを自ら取ってくれるところは本当にありがたかったです。授業での学びや、従来の仕事で培ってきたノウハウを本人が具体的に明示してくれることで、こちらとしても役割を任せやすくなり、足りない部分を補完し合うことでプロジェクトを円滑に進められたと感じています。
授業に参加された皆さんは、近しい仕事に就く人と「横のつながり」を持ちながら、自分のスキルに対して俯瞰した目線からアドバイスを受けてきたのでしょう。そのような環境にあったことは容易に想像できました。
小澤 途中からはコピーライティングをプロの目線で見ることができる人材が必要と考え、中村さんがNewSchoolの「広告クリエイティブ」でご一緒していた卒業生の方にも加わって頂きました。
必要に応じて新しいプロフェッショナルを増やしつつ、商品名からPRまで、岩本さん含めみんなで喧々囂々しながらアイディアを練り上げました。
──商品が飲料だけに、実際に飲んでみないと魅力が伝わりにくいのも悩みどころです。その魅力を伝えるために、どのようなところに気を配りましたか。
中村 この商品は国産茶葉を国産ウィスキーの樽で熟成させた紅茶であることが最大の特徴です。ただ、「ウィスキーが含まれたアルコール飲料」ではないと理解してもらうことには気を使いました。
消費者にとってのファーストインプレッションはネーミングですから、そこで誤解を与えないことは重視しました。ネーミングだけで紅茶とはわかりにくいところは、コピーやビジュアルで補完することも心がけています。
小澤 ウィスキーに馴染みのない方が手を伸ばせない商品になっては意味がないからこそ、「THE CASK AGING(ザ・カスクエイジング)」というネーミングは、素晴らしいアンサーになったと思います。
このネーミングに至ることができたのも、序盤でペルソナについて全員で徹底的に考え抜いたからこそ。確固たる戻るべき場所があったことで商品名やキャッチコピーが言葉として具現化できたのだと思います。

学びを確信へつなげられる場所

──NewSchoolで学んだことをプロジェクトに活かしたことで、新たな気づきはありましたか?
小澤 実用性の高さですね。ピッチコンテストでは「ブランド・ストラテジー」で学んだ型をそのまま活用しました。基本に忠実に、講師の工藤拓真さんが教えてくださったことを全て転用したことが勝因だったと強く感じています。
中村 講義では、映像制作の仕事で普段から取引先として関わっている講師の皆さんが、どれだけ深く広く考えているかを感じる良い機会になりました。自分の職域を広げるのであれば同じレベルで考えなければいけないとの認識も持つことができました。
また、学んだことを「確信」へ繋げるチャンスにもなりました。今回の作業を通じて、東急ハンズ、TeaRoomの方々とコンセンサスを得ながらローンチまでたどり着けたことで、僕には学びが「確信」となりました。
仕事で映像制作以外に企業課題の解決に携わることもあるのですが、NewSchoolでの経験があるからこそのアドバイスができている部分がとても多くあります。TeaRoomさんの案件がファーストステップとなり、次に進む良いきっかけになったと感じています。
小澤 私も同感です。この4月から1年間はフリーランスとして活動を始めました。職務経歴書にも「NewSchoolのコンペの受賞歴」を入れることができますし、ここでの出会いが一つの理由になり、ブランディングに困っている企業との繋がりも持てています。
もし、何も動かずに会社の仕事だけを進めていたら手にできなかったチャンスを得ることができたと思います。
──今回の案件を通じて、同様に「自分の会社でも何かを一緒にやりたい」と考えるベンチャー企業も出てくるのではないでしょうか。
中村 TeaRoomさんの製品に携わったことで、今後の日本は「クラフトマンシップ」や「伝統」といった付加価値を大事に育てていくことが重要だと改めて感じました。
今回の製品に使われている国産ウィスキーの樽も、世界で評価が上がり続けているジャパニーズウィスキーも、クラフトマンシップあってこそ。今後もそのような案件には積極的に関わりたいですね。
小澤 そういった文脈からしても、今回、NewSchool卒業生が岩本さんたちTeaRoomや、モノの伝え手である東急ハンズと共鳴しながら手を組めたのは、とても良かったのではないかと思います。
岩本 少なくとも、私たちだけで新しい商品を売り出すよりも、はるかに大きな規模感と深い思考が伴ったプロジェクトになったと感じています。
このような機会が増え、企業のみならず日本が抱える課題の解決に繋がっていくことに期待したいですね。
(取材:菊谷邦紘、構成:長谷川賢人、写真:鈴木大喜)
日本初のウィスキー紅茶「THE CASK AGING(ザ・カスクエイジング)」は東急ハンズ店舗、新宿店・池袋店・銀座店・梅田店・NewStore by TOKYU HANDS(NewsPicksGINZA内)、ハンズネットで7月10日より販売。

また、NewsPicksGINZA内NewCafeにおいて、THE CASK AGINGとペアリングスイーツを提供中。THE CASK AGINGを店舗でお召し上がり頂けるのはNewCafeのみとなっております。
NewsPicks NewSchoolは現在、第5期募集中です。