[ニューヨーク 16日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)は15─16日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で、現時点では支援的な政策を維持すると確約しながらも、新型コロナウイルス感染拡大状況が改善しているとの認識を示し、コロナ禍による危機が経済の重しになっているとの文言を声明から削除した。

市場関係者のコメントは以下の通り。

●株はレンジ往来、年末にかけ「谷越え」的に=三菱UFJMS証 藤戸氏

<三菱UFJモルガンスタンレー証券 チーフ投資ストラテジスト 藤戸則弘氏>

タカ派的な米連邦公開市場委員会(FOMC)を受けて、日本株も米株と同様に売りが先行した。ただ、荒い動きとなった債券市場の反応に比べると、株式市場への短期的なインパクトは限られそうだ。

為替の円安が追い風となる輸出関連株のほか、医薬品や食品といったディフェンシブ性の高い銘柄群への物色もみられる。日本株がどんどん売られる状況にはならないだろう。先行き1カ月の日経平均は、2万8500円―2万9500円のレンジ往来が継続すると見込んでいる。企業業績はしっかりしており、株価が下がれば買いたい向きも少なからずいる。

決算シーズンに向けては、業種間の強弱感が強まるだろう。空運や鉄道、外食、百貨店、旅行といったコロナ禍でダメージを受けた業種が、国内のワクチン接種の進展への期待先行で買われてきたが、実態が期待に届かないと確認されれば売られるリスクがある。一方、自動車や半導体関連、DX関連といった業績堅調な業種は買われそうだ。結局、指数への影響はイーブンとなるだろう。

米金融政策の面で注目されるジャクソンホール会議を経て、夏の終盤から秋口にかけて米長期金利が上昇する局面が想定される。この際、日経平均は2万7000円付近への調整があり得る。ただ、相場が崩れれば政策対応への思惑も出やすい。年末にかけて再び3万円に向かう「谷越え」的な動きを想定している。

●米金利上昇は限定、ドルは110円台で上値抑制か

<三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ為替ストラテジスト 植野大作氏>

今回のFOMCでは、FRBが利上げ実施時期の見通しを2024年から23年に前倒しすることと、テーパリング(量的緩和の縮小)議論を開始したことが発表され、予想以上にタカ派的な内容だった。テーパリング議論の開始が示唆されるという点は想定内だったが、FRBメンバーによる政策金利の先行き予測(ドットチャート)で、当局者の過半数が23年までに2回の利上げを予想している点は想定外だった。

これまでFRBは「足元のインフレは一時的」との認識を示してきたが、経済指標で強い数字が確認され、早めに金融緩和の出口に向かって動かなければいけないと判断したとみられる。各市場の初期反応は、米長期金利が上昇しドル全面高という、割と分かりやすい動きだった。ただ、足元の米長期金利は1.58%台近辺での推移となり、今年の高値(1.7%台半ば)を抜けて上昇していく雰囲気はみられない。

目先のドル/円相場はドルが底堅く推移するとみられる。仮に米長期金利が今年の高値を超えて、2%近辺まで上昇すればドル高/円安が進行する可能性が高いが、今の水準(1.5%台後半)で収まっている間は、ドル/円は110円台で上値の重さが意識されるだろう。

●インフレが一過性との判断の「敗北宣言」

<三井住友銀行 チーフストラテジスト 宇野大介氏>

米連邦準備理事会(FRB)は、このところどんなに強いインフレの数字が出てきても、ベース効果などによる「一時的(一過性)」のものとの判断を続けてきたが、今回の米連邦公開市場委員会(FOMC)の内容は、そうした判断について、事実上の「敗北宣言」を下した等しいとみている。

  FRBの理事・地区連銀総裁(18人)による金利見通し(ドットチャート)では、23年末までゼロ金利継続を見込むメンバーが11人から5人に急減する一方で、13人が23年中の利上げ開始を見込んだ。

22年のPCEコアデフレーターが上方修正されたほか、ディフュージョンインデックス(DI)は物価見通しについて、上振れリスクが大きいとの見方が示された。

とどめはパウエル議長の記者会見だ。

パウエル議長は会見で、供給制約が物価に及ぼす影響が予想されたより大きかったとし、インフレ率の上振れは予想より大きく、長続きする可能性が高いとの見解を示した。

議長はこれまで、テーパリング(量的緩和の段階的縮小)後も緩和的な環境を維持するとしてきたが、今回はテーパリングを超えて「利上げ後も金融政策は緩和的にとどまる」とし、利上げ後の世界を語るまでになった。

金融市場では、「インフレは一時的」とのFRBの念仏のおかげで、米国債売りと物価連動債買いを組み合わせる「インフレポジション」の巻き戻しを余儀なくされ、ドル/円も少なからずその影響を受けてきた。

しかし、今後はインフレポジションの再構築が見込まれ、米長期金利が上昇し、ドル高が進行し、リスク資産が下落する余地があるとみている。

●想定内のタカ派シフト、円金利上昇は限定的

<アライアンス・バーンスタイン 債券運用調査部長 駱 正彦氏>

全体としては想定内のタカ派シフトだった。ドットチャートの予想中央値で2023年末までに2回の利上げが予想されたことは意外だったが、米国でのワクチン接種が進み経済正常化に向かう中では、これまでの金融緩和姿勢がいずれ修正されるとみていた。

ただ、今後、テーパリング(緩和縮小)や利上げに向けてどんどん議論が進むかどうかはまだ不透明だ。インフレや雇用の状況をみる必要があり、今後2─3カ月がデータ見極めの上で大事な期間となってくるだろう。

FOMCを受けた米金利上昇がそれほどでもなかったことに加え、日銀がイールドカーブ・コントロール政策を当面維持する見込みであり、円金利の上昇は限定的になるとみている。国内のワクチン接種進展や補正予算編成による利付国債増発懸念など、日本独自の材料が金利上昇要因となってくるのは今年後半ではないか。

●短期金利の押し上げに寄与

<ジャニー・モンゴメリー・スコット(フィラデルフィア)の首席債券ストラテジスト、ガイ・ルバス氏>

超過準備の付利金利(IOER)と翌日物リバースレポ金利の引き上げは、キャッシュ余剰でイールドカーブのフロントエンドが受けていたストレスの解消が目的だった。銀行の準備金は過剰となり、短期金融市場でプラスの利回りの確保が難しくなっていたため、今回の引き上げでこうした問題は一部解消されるだろう。一方で今回の措置により、3年くらいまでの利回りはやや押し上げられる見込みだ。

ドット・チャートが伝える情報はさほど多くない。経済状況が変わりやすいときは予想の平均に注目するからだ。予想が前提とする条件も変動しやすく、実現可能性が低い面もある。

●ジャクソンホールが緩和縮小のお膳立てに

<アルビオン・フィナンシャル・グループ(ソルトレークシティー)の最高投資責任者、ジェーソン・ウェア氏>

市場の最初の反応はややタカ派的な受け止めになっている。向こう数日で投資家の真の受け止めが分かるだろう。トレーダーがやや神経質になっているのは、少なくとも声明や利上げ予想時期の前倒しという点で、超短期の投資家にポジション調整を強いるのに十分な変更だったためだろう。長期の投資家にとっては依然として極めて緩い金融状況であり、株式投資家にとって超緩和的だ。

もう1つの要素はFRB当局者がインフレ見通しを引き上げたことだ。これはFRBが最新の消費者物価指数(CPI)統計を注視している表れだ。引き上げたのは好ましく、FRBの信頼性を強固にする。

テーパリング(量的緩和の縮小)の開始時期について、より多くの市場参加者がよりしっかりとした議論を予想していたと思う。われわれは8月のジャクソンホール会議がテーパリングのお膳立てになるとみている。

●2回の利上げ見通しは予想外

<TDセキュリティーズ(ニューヨーク)の金利ストラテジスト、ゲンナディー・ゴールドバーグ氏>

市場はかなりタカ派的にとらえた。主因は2023年の金利予測(ドット・チャート)がわれわれが見込んでいた以上に引き上げられたからだと思う。

われわれは1回の利上げへの変更を予想していたが、実際は2回だった。楽観度が増したと言って間違いないだろう。市場のこのような反応の根拠になるような多くの変更はなかったため、金利予測の影響が大きかった。

FRBは予防的に動くことを決めたようだ。超過準備の付利金利(IOER)と翌日物リバースレポ金利の引き上げによって短期金融市場を下支えし、少なくとも当面はマイナス金利のさらなる浸透を防げるはずだ。誰もがいつかは引き上げられると予期していた。今日の決定は基本的に予防的に動くことが目的だ。

●ドットプロットが債券市場のタカ派サプライズに

<マニュライフ・アセット・マネジメントのグローバルチーフエコノミスト、フランシス・​ドナルド氏>

当局者の金利見通しを示す「ドットプロット」では、2023年までに2回の利上げが示された。これは債券市場にとって十分タカ派的なサプライズであり、注目を集めている。

興味深いのは米連邦準備理事会(FRB)が最初の利上げ時期を前倒しした一方、22年と23年の成長率とインフレ率の見通しを大きく変更していないことだ。このことは、見通しが劇的に変わったわけではないものの、正常な環境に回帰する中でのFRBの自信の現れを示唆している。

声明文については重要な変更はなく、いくつかの調整が行われたのみだった。

●よりタカ派スタンスにシフト

<ケンブリッジ・グローバル・ペイメンツのグローバル製品・市場戦略部門ディレクター、カール・​シャモッタ氏>

「テーパータントラム」(緩和縮小を巡る市場の混乱)は起こっていないようだが、外為市場には影響が見られる。FRBは今回の一連の見通しで、単にインフレ高進や米経済の勢いを認めるだけでなく、本質的には一段とタカ派スタンスにシフトしたと言えよう。

●予想ほど積極姿勢示さず、市場先走り

<みずほ証券USA(ニューヨーク)の米国担当チーフエコノミスト、スティーブン・リッチウト氏>

多くの人は米連邦準備理事会(FRB)がより積極的な姿勢を示すことを望んでいた。そして、FRBは最も積極的でない姿勢を示した。これがFRBとして正しい決定だったと考えている。

FRBがより積極姿勢を示し、テーパリング(量的緩和の縮小)開始を示していたら、利回りは引き続き低下しただろう。こうした展開にならなかったことは、人々はむしろ過度に積極的だったことを示している。