【須藤×西山】変革をやり遂げるには「変人」「生意気」「オタク」が必要

2021/7/2
いま、会社、産業、社会、そして国家、個人までが、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の「対象」かつ「主体」となる時代が到来しているー。
こうした時流のなかで、我々はどんな戦略を描けばいいのだろうか。
今回、経済産業省商務情報政策局で局長を務めたキャリアを持ち、『DXの思考法』を最新上梓した西山圭太氏と、元リクルート最年少執行役員で、現在はDXの専門集団Kaizen PlatformのCEOを務め、NewSchoolでも「DX」をテーマとしたプロジェクトの講師を務める須藤憲司氏の対談が実現。
2人のDXのプロに「DXの思考法」について存分に語ってもらった。

あなたは舵を切れるか

西山 どのような業種やビジネスでも、困っている点は似通っているので、どうせなら、場を変えてでも舵を切る練習はしておきたいですね。
大きな船の船長だか会社人生で一度も自分の判断で舵を切ったことない人と、小さな船でも何度も舵を切っている人で、どちらが大胆かつ上手に大きな船の舵を切れるかと言ったら、小さな船で何度も舵を切ってきた人に決まっていますから。
須藤 たとえ狭い範囲の舵取りでも、自分でコントロールできるなかで変革に挑戦する必要があります。はじめから大きい船だとコントロールできませんが、まず自分一人で判断していけば、徐々に所属部署やグループであれば舵取りの余裕も出てきますから。
西山 自分の役所人生では、30歳を超えたあたりで課長補佐、次に課長と昇進していきます。私は50歳を超えて局長のときに退任しましたが、行動の基盤は30歳頃の課長補佐時代に形成されたと思っています。
役所時代に若手に言っていたのは、「『課長や局長になったら何かできるはず』という考えは捨てた方が良い」ということです。
肩書きがつけば変われるなら、辞令をどんどん出せばいいわけです。しかし、そんなことをしても変化は起きないのは明白です。
須藤 重要なのは役職ではなく、大きかろうが小さかろうが、舵を切れるかどうかですからね。
西山 次に若手に伝えていたのは、もし自由で創造的な人生ほ目指したいのなら、1日も早く「あの人はああいう人だ」と周囲に思わせること。突然上司の言うことを聞かなくなれば、「最近、アイツの態度悪くないか?」と思われるのは当たり前です。摩擦も増えます。
ところが、はじめから「あの人は上司の言うことも聞かないし、会議に積極的にも出ない」と思われていたら、摩擦も起きません。私はおそらくかなり若い頃から「あの人はそういう人だから、あの人に言ってもしょうがない」と諦められていたと思います(笑)。
須藤 確かに、そういう人だと思われていれば、それ以上相手に迷惑がかかることもなさそうです。
西山 そして、最後に組織内と組織外で、一緒に仕事をできる仲間を持つことです。課題が大きくなればなるほど、組織内だけで仕事を回すのは難しくなりますから、外部とも刺激し合いながら仕事を進めるべきです。
こうした習慣を年を取ってから始めるのは難しいので、若いうちから始めておくのが得策でしょうね。若手の頃からできていれば、本質は変わりませんから、その後にどんな大きな責任を背負っても問題なくできるはずです。

東日本大震災の際のエピソード

須藤 本当にその通りですね。多くの人がフォーマットに則って真面目に型を作り続け、結果として同質化を強めていく傾向があります。
私自身も前職時代に、東日本大震災を経て、「ビジネスコンティンジェンシープランを作れ」と指示されたことがあります。
不測の事態が起こり、東京が壊滅的なダメージを受けた際に社員をどのように出社させるか、どのように請求書を発行し、事業を継続するかなど、数百ページにも及びました。
ただ、私はそんな大災害時に自社のビジネスだけを継続し、請求書を送る企業が存在し続けられるわけがないと思い、
「本当に大災害が起きた時は、従業員や地域社会に必要な手助けを優先した方がいい。世間から尊敬されない会社が生き残っていけるはずがない」
と、その数百ページの分厚いファイルの上にメモを書いたのを覚えています。
「間違ってもこのとおりにやってはいけない。最も大事にするのはこれではない」という思いからでした。
西山 やはり会社の資料のページ数の上限規制はすべきですね。もはや1ページにしてくれと。
大量のページ数ではどこかに何か大事なことが書かれていても読まれないし、実はそもそも最も大事なこと、つまりその書類が書かれている大前提が書かれていないことが多い。
ルールはすべて書かれていたとしても、なぜそのルールになったかという前提が書かれていないことが多い。すると前提が変わったのにずっとそれに気づかない、ということになります。
改訂も避けるべきでしょうね。誰も読んでいないルールは改訂するのではなく、廃止して新設した方がいい。

「箱」を外すことが重要に

須藤 確かに、今まで私たちは「人が働く」という前提でオペレーションを組んできていました。しかし、「働かない」と前提を変えた上でオペレーションを組まなければDXも成立しません。
「働かない」という前提はサボるという意味ではなく、人の関与はどこに必要なのか、という逆転の発想になります。AIやデジタルの関与がどこに必要なのかではなく、人が関与しなければいけないことは何なのかを探すべきですね。
西山 まさに、そう思います。AIの時代になると、「人間中心」とよく言われますが、私は違和感を感じています。それは結局現状維持の主張につながりやすいからです。
もしこれまでと変わらずに問題ないのであれば、DXもAIも必要ないはずです。むしろ一旦例えばAIが徹底的に浸透することを前提に思考をしてみないと、結果的にかえって人間中心でないかたちに陥ると思います。
須藤 今までのままでは問題がありそうだから、議論しているわけですからね。
西山 例えば、あえて「AI中心の製造業」というアプローチでやってみたらどうでしょうか。AI中心に一度思い切り振った後に残ることが、人間のやることだという考え方です。
須藤 日本人は真面目ですから、伝えるためにも箱を外すことが重要になりそうですね。
西山 (ジョン・メイナード)ケインズという経済学者の格言に、「It is better to be roughly right than precisely wrong(厳密に間違うよりも、概ね正しいほうが良い)」という言葉があります。日本では、厳密さと真面目さを同一視する傾向があり、結果的に間違いがちです。
須藤 右肩上がりの時代であれば、その日本人らしさが強みだったのでしょうが。
西山 その通りです。当時のような、まさに駆け上がっている状態では日本人の強みが活きました。
須藤 とはいえ、今の時代は過去の延長に答えがないという、新しいパラダイムを生きているコンセンサスは得られて来ています。
西山 「何か決定的な変化が起こりはじめている」とは、誰もが感じていると思います。今は答えを探している段階で、それはまさに新たな時代に進もうとしているあらわれだと思います。
このまま現状維持でいいと考えている人は、実はほとんどいないでしょう。
metamorworks/istock.com

「変人」「生意気」「オタク」

須藤 問題は、製造業をはじめとするパラダイムが、今までフィットしていたこと。非常に成果を上げてきたからこそ打破しづらいという、ある意味呪いにかかっているような状況です。
それだけに、箱を外すことがこれからの時代のテーマになりそうですね。
西山 現在の状況は、“デジタル敗戦”というべきでしょうが、1945年の敗戦とは異なり、「負けた」というよりも「他国が勝った」という表現が近いのではないかと思います。
須藤 確かに製造業をはじめ、隆盛を誇った産業が、何か不手際で敗北したわけではありません。急に世界のルールの方が、DXによって変わってきているという状況です。
西山 製造業は今でもしっかり成立していて、過去からのやり方がそれとして破綻したわけではない。しかし、ほかによりうまいやり方を見つけた人々が、一気に頭角を現してきてしまった、という感覚なのだと思います。だからこそ、気づいていても現状を変えにくいのでしょう。
社員全員が大雑把に概念を捉えて破天荒なことに挑戦する人材である必要はないですが、今のままでは、変化の時代を生きるリーダーの絶対数がさすがに足りません。
須藤 国家という観点から見ると、小型モーターボートをブンブン振り回せるような人材を、どれだけ育てられるかにかかっています。
ただ、そういった可能性を持つ人材は、保守本流から外れている可能性が高い。周りからは、辺境の地でよくわからないことを勝手に楽しんでいる、というくらいにしか見られていないかもしれません。これからのリーダーが、そういった人材をしっかり表舞台で登用できるかが、今後のカギとなりそうです。
西山 実は、東電時代に3つの飲み会グループを作る試みをやっていました。はじめが「変人の会」。次に「生意気の会」。そして、最後が「オタクの会」です。
東電は連結ベースでは従業員が4万人ほどいるため、「社外から連れて来なくても、周りと違うことを考えるヤツは絶対どこかににいるだろう」という発想で、「そういった人材は社内では変人扱いされているに違いない」と考えました。
さらに、変人の友達はまた変人だろうという仮説を立てて、はじめは私から見た「変人」に社内の仲間を連れてきてくれとお願いし、集めていきました。そうやって集まった顔ぶれを見ると、やっぱりみんな変人でしたね(笑)
須藤 「生意気の会」と「オタクの会」は、どのような人材の発掘を目指していたのですか。
西山 大組織において、保守本流でない人材が突拍子もない発想をしたとき、上司が「お前は何を考えているんだ?」と押さえつけることが往々にしてあります。
そこで、「あなたこそ、何を言っているんですか?」と言えるのが、「生意気な人」です。
そして、変革をやり遂げるには、物事を最初から最後までやり切るオタクも必要だと思いました。彼ら「変人」「生意気」「オタク」をチームで表舞台に上げ、しっかりと舵取りをさせる。その代わり、機会を与える以上、責任も果たしてもらおうという考えでした。
これからは人事評価も、そういった特異な才能を持った人材かどうかの発掘にフォーカスを当てるべきでしょうね。
今までのように1万人の社員を対象に、細かな評価項目に照らして1位から1万位まで順位をつけていたら、変革はあり得ません。まさにprecisely wrongですね。
(構成:小谷紘友)
NewSchoolは現在、第5期募集中です。