2021/6/12

賢く生きる、消費のネクストノーマル

NewsPicks アナウンサー/キャスター
火曜夜10時からNewsPicksとTwitterで配信中の「The UPDATE」

6月1日は「所有は無駄? 消費のネクストノーマルとは?」と題し、小島 健輔氏(小島ファッションマーケティング 代表取締役)、永濱 利廣氏(第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)、岡井 大輝氏(Luup 代表取締役社長兼CEO)、軍地 彩弓氏(ファッション・クリエイティブ・ディレクター)とともに徹底討論した。
新型コロナ感染拡大から1年以上が経ち、人々の消費は大きく変わった。
今年4月の国内の消費は2年前の同時期に比べ、マイナス8.4%にまで落ち込み、旅行や外食などのサービス系消費も大幅に下がった。
業種別で最も伸びたのは動画や音楽といったコンテンツ配信だ。一方、旅行をはじめとする娯楽や百貨店は厳しい状況が続いている。
さらに最新の消費トレンドをまとめた調査によれば、「マルチハビテーション」と呼ばれる多拠点生活を意味する言葉が最も注目されていた。
また「ワーケーション」といったライフスタイルを示すものも挙がり、「サステナブル消費」や「エシカル消費」などのSDGs関連も急浮上していたのだ。
では、近年の消費トレンドや価値観はどう変わったのか。消費のネクストノーマルを4名の論客とともに議論した。
INDEX
  • 消費トレンドの変化
  • シェアすべきもの・しなくてもいいもの
  • 消費で大切にすべき価値観
  • 消費すべきもの・しないほうがいいもの
  • 付加価値の高い消費とは
  • 本日のキングオブコメント

消費トレンドの変化

軍地 使い捨てを買うことが減りました。
そうなると、買うことが特別になり、厳選して物を選ぶようになります。私たちが毎日のように使っているECサイトでも比較購買がしやすくなったことで、自然と厳選的に物を買うようになりました。
消費はただ消えるものを買うことではなくなり、自分にとって何が必要かということをまずは考えることに。
さらに消費は投資対象にもなっています。何かを学ぶことや英会話でもいい。未来の自分に繋がるようなものです。
軍地 今、若い世代を中心に、20万円くらいするエルメスのブレスレットが売れているんです。
それはなぜかというと、彼らにとって小さいものをこまごま買うより、20万を払って一生物にした方が自分のためになるだろうという価値観です。何かあったらメルカリでも売れる。消費ではなく投資という意識を常に持っているんです。
これからは本当に必要なものしか消費をしなくなると思います。
例えば服でも、エッセンシャルアイテムと呼ばれる定番ものさえ買っておけば、その後10年ぐらい自分にとっての投資になりますよね。つまり、自分の人生において価値のあるものとして投資をするという考え方で、具体的には厳選された物だけを買い、長く大事に使うという消費スタイルです。
永濱 マクロ経済視点で見ると、日本の個人消費はサービス経済化に伴い、財からサービスへの比率が上がってきていました。しかし、このコロナ禍で初めて逆転したんです。
サービス消費である旅行や外食が強制的に抑え込まれた一方、10万円の給付金が出ました。家計全体で見ると金融資産は増えているんです。
去年、白物家電が過去最高の出荷になったのですが、その増えたお金の行先は家電に回りました。ただ、家電っていわゆる耐久消費財なので、一回買ったら頻繁には買い替えません。
となると、去年は売れたけども今年は売れるとは限らない。今後はサービス消費がある程度戻ってこないと、マクロ全体の消費は厳しい状況が続くでしょう。
岡井 増えたシェア・減ったシェアというのがあります。衛生的に人と物を共有すること自体が回避される潮流になりました。
岡井 しかし、バスや電車という移動手段はもともとは公共交通としてシェアで使っていたところが、コロナ以前の高密度の状態で乗るのは避けるべきという流れになったので、僕らがやっている自転車やキックボードのシェアは追い風になりました。翻って最も下がったのは、シェアオフィス。
小島 人との接触が減ったことで、オフィスや町中で、「私のほうがお金持ち」「私のほうがかっこいい」といったマウンティングをする意味がなくなり、そもそもそういった消費は無駄だったよねと、一斉に気付きましたよね。
マウンティング目的のファッションやブランドは全部消えた。
小島 一方、同じブランドでもエルメスやルイ・ヴィトンは、この状況でも好調です。つまり、中途半端なラグジュアリーは全滅なんですね。
ファッションに限らず消費というのは、ファスト消費・ランニング消費・インベストメント消費があります。
ファスト消費というのは、ワンシーズン使い捨て。ランニング消費は、ベーシックだけれども、手ごろで3~4年使える。最後のインベストメント消費は、ある程度再販価値、リユース価値があるようなもの。エルメスのケリーバッグやバーキンのような、何年もかけて何回も使えば元を取れるというもの。
軍地さんもおっしゃっていた通り、消費自体がこのインベストメントの方に移行しています。今まではファスト消費が中心だったので、安物を大量に業界が供給してきたわけですよ。これが流通在庫とたんす在庫にたまっている。
奥井 「かっこ良さの象徴」は変わりましたか?ブランドバッグや高級車はまだ大事なんでしょうか?
軍地 百貨店のブランドコーナーに行ってみても、若い世代がブランドを買っています。けれどまた違うかっこ良さが出てきていると思うんですね。
今の20代はブランドの価値をすごく気にします。その作られているものがどういうところから来たのか。例えば、海外の工場はどういうふうな労働条件があるみたいなことも、結構見ているんです。
軍地 かっこ良さやラグジュアリーの概念がすごく変わったんですよね。
LVMHやケリングではSDGsに関連する数値目標を表明していたりします。そういうことをやらない企業がふるいに落とされていき、残った選択肢の中で、かっこ良さの定義が変わりつつあるように感じますね。
岡井 車を買うことが数十年前と比べてステータスにならなくなってきましたよね。
以前はレンタカーを使っているとちょっとダサかったと思うんです。けれども、買えるのにあえてカーシェアでデートに行っちゃう友達とか結構多くて。
要らないものをわざわざ買うのは、どちらかというとちょっとダサくなってきている。東京や一部の都心部だけの話ではないかという意見もありますが、東京で車を買うという行為がもともと本質的ではなかったはずですよね。

シェアすべきもの・しなくてもいいもの

永濱 東京ではアプリでタクシーは2分で来るし、電車はある、バスもあるで、車は本当に必要ないですからね。しかし、何でもかんでもシェアがいいとは全くむしろ思わない。中には「それ、シェアしなくていいのでは?」ってものもたくさんあります。
永濱 例えば、単価が低いものです。人間ってシェアしながら生きてきましたよね。土地とか、建物とか、車とか。値段の高い順にシェアするんです。水道とか、鉄道だって本来はシェアしていますよね。
ですので、基本的には安いものをあまりシェアすべきではないですが、自転車とかもわざわざ買うより、よくよく考えたら週に3回とかしか使わないとなったら、多分皆さんシェアサイクルを使いますよね。要は本当にその買い物が本質かどうかというのを、より意識した結果、半分ぐらいがシェアに流れたというだけだと思います。
岡井 シェアされるべきものだと思うのは、地方のおじいちゃん・おばあちゃんが使う電動車いすやシニアカー。
大きくて重いので、個人で所有しちゃうと持ち運びに不便なうえ、一台につき高額です。
地方×高齢化という文脈で、ここは日本が先陣を切って作らないといけないシェアリングエコノミーの領域だと感じます。

消費で大切にすべき価値観

岡井 今しか買えないものですね。
こんなに全員がオンラインで何かを買う時代もなければ、外に人がいない情景も今しかない。コロナ禍の今しかできないこともあるかもしれない。
あの時やっていれば良かったって後悔をしないように、今しかできない経験を常に買ってきたような気がしています。
永濱 売ることも考えて買う。
そもそもメルカリなど使えば売れますよね。要らなくなったら売れるということを考えれば、買うときのハードルも低くなります。
そしてこれから、長いスパンで、自分以外の人にも使ってもらえるということは、シェアリングにもなるし、エシカル消費にもつながります。そういったことを複合的に考えて物を買うということは賢いと思います。
またマクロ的な視点から見ると、これを強く言いたい。
永濱 日本の個人消費が低迷していると言われてきましたが、それは消費者が賢くなり過ぎているからだと思うんです。
将来のためにお金をため過ぎているのは、ミクロで考えたらいいことかもしれないですけれど、皆がそれをやっちゃうとマクロ経済全体が良くならない。
節約して買い物することは、短期的には賢いことかもしれないけど、本当に賢いかというとそうでもない。
日本人の国民性として、金融資産をかなりため込んで使わないで亡くなってしまう傾向が昔からあるように、短期的には賢いけど、長い目で考えると、もっとうまい消費の仕方があると思うんです。
永濱 なので、迷ったら買うということをみんなにしていただくと、マクロの消費は少しでも良くなるんじゃないかな。
ただ、でもそれはなかなかやれと言っても、難しいです。財務省を中心に、国の借金がどうこう言って煽っているわけじゃないですか。本当はそんなことないのに。
消費をたくさんした人が得するような税制にするとかにしないと、なかなか厳しいと思います。
軍地 私の考え方だと、ファッションをベースにはなりますが、そのものがどうやって作られていくかということを考えるということも大事なのかなと思っています。
デフレがますます進む今、安いものを買うときに誰が作っているのか、どこから来たのか、産地がどこかなって見るのって結構大事なことだなと思って。
自分が着ているものがどういう価値を持ったものなのかということを考える。作り手が何をしているかということが分かるブランドを、なるべく買うようにしています。
軍地 安いものばかりを買っていくということは、結局は国力を落としていることに繋がるんです。
私たちが安いものを買うということは、巡りめぐって自分たちのお給料を減らすことになるかもしれない。自分たちの国力を落とすことになるかもしれないみたいなことを少し想像できれば、消費自体が変わってくると思うんですよね。
岡井 デジタルの登場で想像ができる商品が増えましたよね。スーパーに並んでいる安いキュウリではなく、生産者の人が思いを込めて特殊な製法で作ったキュウリを、たとえ倍の値段を払ってでも買いたいと思えるようになりました。
ですので、野菜や服もD2Cブランドと呼ばれるぐらい、その商品自体のストーリーが想像しやすいってことが大事になってきます。
奥井 逆を言うと、生産者も発信しないといけないんですよね。
岡井 デジタルというのは、基本的には名指しの消費なんですよ。
やっぱり本屋とかに行くと、想像しなかったものとかを買っちゃうじゃないですか。それって目に入るので。
けれども、もうデジタルってそれがない。そのセレンディピティは基本的にはなくて、買いたいと思ったものをダイレクトで買うようになった。
しかも、ウェブの場合はトップ・オブ・トップしか選ばれないんです。Googleも最初の窓にある、10個程度しか見られないと言われているぐらいなので、名指しされるブランドになっていかないといけない。
小島 前半でお話した脱・マウンティングに加えて、もう一つは理念。先ほどの生産者の思いが伝わるとか、あるいは強制労働を強いていないだとかもそう。
みんな商社とかに任せちゃっていて、自分で工場に行って作っていないので、信用できるブランドや企業が少ない。その中でも、本当にちゃんと職人から材料から全部吟味して、自社で製造をしているブランドに価値を見出すことができるんです。
奥井 一般消費者がこれが本物だって見極めるポイントは何かありますか?
小島 やっぱり企業姿勢で判断するしかないね。
「自社工場でしか作りません、基幹部品まで自分で作ります」みたいな姿勢を示している企業もいる一方、海外の外注工場で大量に作っちゃっているところもまだいっぱいありますからね。
小島 それからもう一つ。やっぱり本物というのは、売れ残ってもたたき売らない。
でも日本のブランドって、売れ残ったらたたき売るじゃないですか。それではラグジュアリーブランドとしての信用や価値は生まれてこないんです。

消費すべきもの・しないほうがいいもの

奥井 今後、消費すべき、あるいはしないほうがいいものとは?
永濱 まず無駄な消費をすべきじゃないのは、携帯電話の利用料。生活水準を下げないで節約できるものはどんどんやるべきです。
もう一つ言えることは、消費だけを考えるんじゃなくて、まずは収入を増やす努力をすべきです。
なかなか急には収入が上がらないかもしれないですけれども、例えば、副業をやってみたり、投資を考えるであったり、収入を増やすというところも考えながら消費を考えていくということになれば、もう少し豊かな消費ができるのではないでしょうか。
奥井 節約じゃなくて、支出を最適化するという意味ですね。
軍地 お金の価値観も変わるということですよね。豊かさの標準が変わってきて、持たなくて豊かみたいなこともあり得るわけですよね。そういう価値観の変化も起きてくる。
消費だけが豊かさの標準じゃないと思っていて、GDPとかの数字の出し方も、これから幸福度みたいなことに価値が変わっていくかもしれません。
小島 でもそれって日本で言えば一握り、3~4%の人の考え方だと思うんですよ。それ以外の人たちは生活の質は毎年下がっていきます。豊かではなくて貧しくなるのが運命だと考えている人が今日本だと9割以上なのでは。
政府の景気刺激策によって、企業に低金利のお金を供給しながら、労働者からは税金や社会負担、消費税によって収奪するという構造になってしまっている。そうすると企業にはお金がどんどんたまっていくんだけど、個人に関しては貯金するゆとりさえない。

付加価値の高い消費とは

奥井 自分というブランドを上げるための消費とは何でしょうか?
軍地 自分にとって一番の心地良さを見つけることだと思います。
例えば農業をやっていることが自分のブランドになるかもしれないし、子育てをしていることも立派なブランドです。決してブランドというのは着るものとか、持ち物じゃない。
自分の生きる価値みたいなことへと、ブランドという概念が変わってきている。
奥井 ミレニアム世代以下の消費の価値観はどのように変わってきていますか?
岡井 寄付やクラウドファンディングに代表されるように、ただ買うという行為ではもはやなくなってきています。
岡井 自分のお金と時間を何に割くかで、自分って構成されていくと思うんです。
それを友達との旅行やサウナに充てるのか、おいしいご飯に充てるのか、はたまた、盲導犬の応援している業界に寄付をしたりと、結局何にお金を使うかで人間が構成されていくんです。金額ではなく、何を応援しているか。
結局、持っている時間とお金と信用をどこに振り分けるかが人生なので、お金の使い方自体がセルフブランディングになる。
好きな商品を売っている会社に投資するとかにちょっと近い。これは応援消費の一つで、人生を豊かにする秘訣でもあると思います。
永濱 私は資格や教育に投資をすることが確実に自分のブランドを上げると思います。当然、資格を取れば、転職するときにも、より待遇のいいところに転職できたりするわけじゃないですか。
永濱 ただ、実はそれをやるのって日本って海外に比べると非常に難しい部分があります。海外だと職業訓練など公的な教育支援みたいなのが手厚いんですね。
例えばフランス政府は全就労者に教育だけにしか使えない電子マネーを定期的に振り込んでくれるんです。そのお金をスキルアップのために使って、転職したり、今働いている会社で昇進してもいい。そういった教育関連の支出というのが日本ではOECD諸国の中では圧倒的にない。
奥井 寄付の話もそうですけれども、渋沢栄一が「お金とは、使う、貯める以外にも、寄付や投資をするためにある」というふうに言っています。だから、昔から正しい形があったのに、どうして今の日本はできてないんですか?
小島 僕は今の社会に透明性がないからだと思う。クラウドファンディングといっても、事実上の受注販売型通販でしかあり得ないから、賛同で投資するという仕組みじゃなくて、ふるさと納税みたいな仕組みになっちゃっている。
軍地 あと私もクラウドファンディングやったんですけれども、個人でやると、集まった寄付金が税制上、そのまま収入という扱いになってしまいます。
これは本当に声を大にして言いたいんですけれども、税制を変えてって。クラファン税制というか、クラファン控除みたいなのをやってくれないと、この寄付社会が回らないと思うんですよ。
小島 それもやっぱり透明性ですよ。
例えば今、母子家庭の子どもたちが大変だよというキャンペーンがネットで行われていますが、その会社の寄付金に対する運営経費率とか、そういうことがちゃんと公開されているケースって非常に限られています。
きちんとした審査機構のあるプラットフォームが出てこないと、本当の意味での寄付経済は広がりません。

本日のキングオブコメント

何のために、なぜそれを消費するのか。
自らのライフスタイルや価値観を再考し、自分と周りにとって本当に気持ちのいい消費を心がけていきたい。
何にお金を使うかが人生を表すとしたら、あなたはこれから何に消費をするだろうか。