[香港 4日 ロイター] - 銀行大手やファンドなど金融サービス企業が香港での人材採用に力を入れている。香港は中国政府の締め付けという懸念があるが、急成長する中国の「玄関口」という特別な立地が生む魅力は健在で、金融機関を引き付けている。

ゴールドマン・サックス、シティグループ、UBSなど大手銀は今年、それぞれ香港で数百人規模の採用を行い、陣容を大幅に拡大した。例えばシティは、採用と配置転換により年初来で人員を1500人増強。採用規模は前年同期の2倍に膨らんだ。香港の人員は約4000人。

またゴールドマンの広報担当によると、今年は香港での採用を20%増やす計画。ゴールドマンは中国本土と香港、台湾で構成する大中華圏の人員が約2000人だ。

香港証券先物委員会がウェブサイトに掲載したデータによると、資産管理や証券など金融サービス業に従事する人へのライセンス発行は持ち直している。3月末時点の発行件数は昨年6月から1.7%増え、過去最高だった2019年の水準まであと一歩に迫った。

シティのアジア太平洋コーポレートバンク部門を率いるカリーム・リズビ氏は「香港にはほかにはない強みがある。地元や海外の当社顧客の多くが中国にアクセスする『玄関口』であり続けるだろう」と述べた。

大手銀の関係者や人材会社などによると、金融機関の多くが昨年は採用が低調だった。反政府デモと、それを鎮圧するために中国が導入した「国家安全維持法(国安法)」に加え、新型コロナウイルスが世界的に流行したためだ。

大手銀の間で広がる採用増加の動きは、金融機関が政治的なリスクと付き合いながら香港でうまくやって行こうと前向きになっている様子を示している。

香港のプライベートエクイティグループ、PAGのウェイジャン・シャン会長兼最高経営責任者(CEO)は「話をした業界関係者は誰もが今の平和と安定を歓迎している。昨年の混乱と大違いだ」と述べた。

銀行関係者によると、政治情勢を引き続き問題視し、不安に感じる金融関係者ももちろんいる。数千人の香港住民がそうであるように、金融機関の駐在員の一部も既に香港を去ったり、移住を検討したりしている。

香港の警察は一部の銀行に対し、国安法によって逮捕された政治家や反体制活動家の口座情報の提出を求めている。中国政府は、国安法によって凍結されている香港紙・蘋果日報(アップル・デイリー)の創業者、黎智英(ジミー・ライ)氏の資産を扱っている銀行関係者に収監をちらつかせている。

香港の金融当局は、銀行の採用計画や一部の銀行が政治的な締め付けに不安を抱いていることについてコメントを拒否した。

<中国に隣接>

ロイターが取材した金融機関の関係者は、香港にいることの大きな魅力は、中国と中国がもたらすビジネスと密接なつながりを持っている点だと述べた。

中国のビジネスは好調だ。上海および深セン市場と香港市場を結ぶ相互乗り入れ制度は、今年第1・四半期に資金の流れが過去最高を記録した。

リフィニティブのデータによると、今年1-5月に中国本土系を中心とする企業が香港市場の上場で調達した資金は、過去4年間の同期間の合計を突破。大中華圏のM&Aは2018年以来の高水準だ。

パインブリッジ・インベストメンツのアジア太平洋部門トップ、アンソニー・ファッソ氏は、香港は新たな現実に適応しつつあると指摘。「香港は世界で最も巨大で、最も成長スピードが速い経済の一つの入り口に位置し、世界的に競争力を持つ国際都市であり続けるとわれわれは確信している」と話した。

<盛り上がる採用>

ゴールドマンやシティ以外では、UBSが年初から3月までに200人を採用した。広報によると、このうち新規採用したフルタイムのスタッフは20人で、前年度の7人から大幅に増えた。契約社員の採用は100人。新卒は80人と過去10年余りで最大だった。香港の従業員数は2500人だ。

HSBCは今年香港の人員を400人増やす計画を明らかにした。アジア地域の富裕層向けサービスで今後5年間に5000人を採用する計画の一環。

ドイツ銀行の香港部門トップのロク・イム氏によると、同行も第1・四半期が数年ぶりの好調さだったことから、さらに戦略的な採用を展開する計画だ。

人材会社マイケル・ページの幹部、オルガ・ユン氏は「たぶん昨年末に比べて2倍から3倍忙しい」と述べた。

(Scott Murdoch記者、Alun John記者、Kane Wu記者)