【麻生要一】「すべてが自己責任」の起業家とはそもそも何か

2021/6/18
「NewsPicks NewSchool」では、2021年7月から「ゼロからの起業」を開講します。
プロジェクトリーダーを務めるのは、起業家・投資家・経営者という多数の顔を持つ麻生要一氏です。
開講に先立ち麻生氏へのインタビューを実施。なぜこのタイミングで「起業」のプロジェクトを志したのかー。
率直な思いを語ってもらいました。

「起業家」とはどういうものなのか

──プロジェクトではどのような進行を考えていますか。
麻生 起業家という言葉はよく使われますが、本当の意味で、起業家とはどういうものなのかをまず伝えていきたいですね。
そもそも雇われて働くことと、起業家として働くことの違いをしっかりと解説します。その上で、起業家としての働き方や生き方を選ぶとはどういうことかを理解してもらいます。
起業家の根源的なスタートは、「世の中に何かを働きかけたい」「何かを成したい」という気持ちになります。その気持ちがなければはじまらず、心持ちを形作るところから事業を構築していきます。
実際、やりたい気持ちを事業に変換していく手法にも、ある程度のノウハウがあります。思いだけではビジネスにならないため、どのようにその思いを利益の上がる事業につなげていくか。受講者とはプロジェクトでの4か月間で、道を踏み外さず、適切なプロセスをともに歩んでいきたいと考えています。
──それがDay1の「起業とは何か・起業家になろう」と、Day2の「起業家にとって最も重要なWhyを設定する」における内容ですね。
そうですね。次のDay3で先輩起業家を招いた起業家トークを挟み、Day4では「創業事業を設計する」をテーマに、講義を展開していきます。
よく創業期は、「世界を変えるプロダクトに全リソースを集中せよ」、「余計なことをするな」とアドバイスされがちです。しかし、それらはベンチャーキャピタルの出資したスタートアップに対する言葉になります。
実際は必ずしも創業期からやらなければならないかと言えば、そうでもありません。なぜなら、創業期はそもそもVCから出資を受けていませんから。
多くの人が勘違いしていますが、創業するときと、創業後にVCから出資を受けるとき、そして実際に出資を受けた後では、それぞれやるべきことが異なります。本当に事業を絞らなければいけないのは、出資を受けた後のフェーズになります。
一方で出資を受ける前や、何もないところから会社登記してサービスを作り、最初のお客様に届ける段階であれば、事業の絞り込みが必ずしも正解とは限りません。
理由としては、多くの場合において、会社を存続させるためには、まずおカネを稼ぐ必要があるからです。やりたい事業とは異なっていてもとにかく稼がなければならない、という状況に直面する場合は当然あり得ます。
多くの創業期を見て来た経験を踏まえ、私が感じたのは、創業事業におけるポートフォリオ戦略の必要性です。
稼ぐ事業とやりたい事業のバランスを取ったり、もしくは両立させながら、どのように創業していくのか。出資に関しても、もし受けるのであれば、どのように投資家から最初の出資を受けられる状態にするか。受けないのであれば、どのように黒字化させていくのか。
これらには戦略が必要で、思いだけで突っ走っていては失敗する可能性も高くなりがちです。創業初期におけるノウハウを解説することで、受講者には無用な失敗の確率を下げてもらいたいですね。
麻生 要一/起業家・投資家・経営者
筑波大学付属駒場中高、東京大学経済学部卒業。株式会社リクルート(現リクルートホールディングス)に入社後、ファウンダー兼社⻑としてIT事業子会社(株式会社ニジボックス)を立ち上げ、経営者としてゼロから150人規模まで事業を拡大後、ヘッドクオーターにおけるインキュベーション部門を統括。社内事業開発プログラム「Recruit Ventures」及び、スタートアップ企業支援プログラム「TECH LAB PAAK」を立ち上げ、新規事業統括エグゼクティブとして約1500の社内プロジェクト及び約300社のベンチャー企業・スタートアップ企業のインキュベーションを支援した経験を経て、自らフルリスクを取る起業家へと転身。2018年2月に企業内インキュベーションプラットフォームを手がける株式会社アルファドライブを創業。また、2018年4月に医療レベルのゲノム・DNA解析の提供を行う株式会社ゲノムクリニックを共同創業。また、2018年6月より「UB VENTURES」ベンチャー・パートナーに。2018年9月より株式会社ニューズピックスにて執行役員を兼任。

「顧客開発」と「ファイナンス計画」

──Day5は「創業期にやるべき本当の顧客開発手法を知る」、Day7は「創業期の起業家における全人格的ファイナンス計画を立案する」となっていますね。
そもそも、起業家は何もない状態から始まってお客様を捕まえなければいけませんが、「起業家なら、こうやって顧客を捕まえなさい」というパターンは存在します。
この手法は、起業家と社内起業家との決定的な違いでもあります。ある意味、私がこれまで語ってきた社内起業の手法を否定するところも含まれていますから、講座では具体的な手法をじっくり解説つもりです。
その次のDay6で再び起業家トークを挟み、Day7では「創業期の起業家における全人格的ファイナンス計画を立案する」という内容を予定しています。
企業はおカネが尽きた瞬間に倒産してしまいますから、ファイナンス計画の重要さは言うまでもありません。それだけに、「事業計画を書け」「キャッシュフロー計画を書け」というやり取りが多いと思われますが、これらも出資や融資を受ける段階で生じるやり取りになります。
出資や融資の前段階として、今まで勤め人だった人が設立費用や税理士への支払い、経費などをかけつつ、事業を立ち上げていくには、そもそもいくら用意したら大丈夫なのか、という、立ち上げる瞬間にこそ向き合わなければいけない独特なファイナンスの問題があります。
適切な金額は立ち上げるビジネスモデルによっても異なりますが、サラリーマン時代の年収や金融資産額、家族構成や家賃などの生活費によっても当然変わってきます。それらを総合的に踏まえ、創業期に最低限必要な金額を算出していきます。
この金額の算出を誤ると、事業を適切に立ち上げてお客様を捕まえられたとしても、資金が先に尽きてしまう場合があります。逆に、金額を過剰に見積もれば資金効率が悪くなるため、必要以上に用意する必要もありません。
当然、創業資金が自己資金だけでは足らない場合も出てきます。そうなると、創業期で何の信用も実績もない人と会社に対し、資金を出してくれる相手や機関を見つけなければなりません。
この場合、簡単ではありませんが、資金を集めるにも少なからずパターンがあります。それらの状況に応じて、いかに適切に金額を集められるかが、創業初期におけるファイナンスの勝負だと伝えたいですね。
──Day8は「創業期に巻き込むべき3大ステイクホルダーを理解し、巻き込む力を得る」というテーマになります。
ステイクホルダーは、勤め人であればほとんど意識する必要がない概念でもあります。
実際のところ、雇われている場合は、企業や組織が絶対権力として存在しています。そして、評価査定を下す上司もいる。会社と上司だけ見て、気に入ってもらえれば問題ないという仕組みのなかで生きていると言えます。
ところが、起業となれば特定の誰かに好かれていたらいい、という状況ではなくなります。あらゆる関係者と適切な関係を保ち、調和を図りながら価値を提供して認められなければ、企業は大きくなりません。
とはいえ、ステイクホルダーは無数に存在します。お客様をはじめ、出資する投資家や融資する銀行、取引先、社員も含まれます。また、行政や地域住民、業界団体、家族も例外ではありません。
最終的にはすべてのステイクホルダーと調和のとれる経営者を目指す必要がありますが、創業期に全員をケアしていると身動きが取れなくなってしまいます。そのため、創業期においてのみ、優先して関わりを深める相手がいます。
それが、「共同創業者」、「最初の顧客」、「最初の資金提供者」の3人になります。ただ、ステイクホルダーを絞る以上、決死の覚悟で巻き込まなければいけません。
──この3人だけは、創業期に何としても自分の方に向いてもらわなければならないと。
講座では、どう巻き込んでいくのかという手法について解説しますが、相手側の立場についても言及するつもりです。
なぜならば、巻き込まれる側からすれば、登記したばかりで信用も実績もない会社と言えますから。そんな明日飛ぶかもしれない相手に、なぜ巻き込まれるのかと。その仕組みを理解すると、相手を巻き込みやすくなるはずです。

意思決定はすべて自己責任

──起業家でありながら、投資家と経営者の顔も持つ麻生さんだからこそ、伝えられる内容と言えそうです。そして、続くDay9は3回目の起業家トークとなります。
誰を呼ぶかはまだ決まってはいませんが、受講者の先を行く先輩起業家を候補に考えています。
起業家によって、「ああしておけばよかった」「こうしておけばよかった」というポイントも異なるでしょうから、そういった生々しい創業期について語ってもらいつつ、ネットワークを構築できる場にしようと考えています。
──起業して上司がいなくなるなかで、自分をどう律していくのかなど、聞きたい話は多そうです。
新卒時の上司が誰かによってその人のサラリーマン人生が決まることがあるように、起業家も誰の教えを信じて誰のサポートを受けるかで、その人の起業家人生は左右されますからね。
サラリーマンがいい上司についたら伸びる一方、嫌な上司についたら潰されるのと同じで、間違った相手についていってはいけません。とはいえ、社員であれば上司は選べませんが、起業家は誰のサポートを受けるかを自分で選べます。
起業は「この人についていきたい」「この人のサポートで起業したい」という相手を自分で選べるところも、非常に素晴らしい点だと感じます。
もちろん、誰のサポートを受けるにも受けないにせよ、自分の選択を人のせいにしてはいけません。起業家の意思決定はすべて自己責任になりますから。
──究極の自由と言えるかも知れません。
まさしく、究極の自由ですね。しかし、単に自由という、そんなに簡単なものでもありません。
何がいいか悪いかもわからない。そんな状態から創業期ははじまるものです。
──Day10は「最終成果発表」になります。最終日のイメージはありますか。
今回は創業期の時間をともに過ごしたいと考えているので、受講者全員が事業を立ち上げ、船を漕ぎ出している状態が理想です。
ただ、現実的には発表会の時間の問題もあるので、選ばれた参加メンバーに自身の創業プランをピッチしてもらおうと考えています。そして、ゲストとして数名のエンジェル投資家を招き、講座後の懇親会も含め、資金調達のプレゼンテーションの場を提供したいですね。
もちろん、オーナービジネスでの起業を考え、投資を募る必要がない受講者もいるかと思います。そういった場合は、ビジネスにおける審美眼を備える相手から、第三者としての意見やフィードバックを得られる機会として活用してもらえればと考えています。
──最後に、麻生さんの考える起業の魅力を一言で教えてください。
「一言で教えてください」という質問に対してストレートに答えていないように見えるかもしれませんが、「起業は一言だと言い表せない」ということでしょうか。
まず、雇われて働くこととは、まったく違うと伝えたい。考え方も、仕事の仕方も、稼ぎ方も、生き方も、すべてが違います。
ものすごい苦しい部分と、その反面、最高にワクワクする部分とが両方同時に存在します。
プロジェクトでは私の思いを伝えることで、一人でも、自分の足で立って動き始める起業家を増やしたいと思っています。
(取材:上田裕、構成:小谷紘友、写真:大隅智洋)
「NewsPicks NewSchool」では、2021年7月から「ゼロからの起業」を開講します。詳細はこちらをご確認ください。