2021/6/16

【新CFO×常勤監査役】未完成なメルカリが世界で戦える組織になるために

NewsPicks Brand Design Senior Editor
創業から8年、日本トップクラスのユニコーンとして上場を果たし、成長を続けるメルカリ。サービスの急成長とともに組織も急拡大し、約1700名の従業員を抱えるいわば“大企業”と呼ばれる状態になったが、彼らが志向するのはグローバル規模でプロダクトを前進させる、世界基準のコーポレート組織だ。

ほぼ前例がないなか、常に進化を続けるメルカリの現在地とは──。執行役員CFOの江田清香氏、常勤監査役の栃木真由美氏の対談から、ミッション達成に向けたロードマップをひもとく。

「メルカリはまだまだ」経営陣の自認

──江田さんは今年1月にメルカリのCFOに就任されました。なぜ今、メルカリに?
江田 「メルカリをもっと大きくする」という、CEOである山田(進太郎)ら経営陣の志に惹かれたからです。
 これまで15年ほど外資系の証券会社で働いてきました。ポジションにも恵まれていましたし、そもそも転職意向があったわけでもなかった。
 ただ、頭のどこかに「培った知識や経験を事業会社で生かせるとおもしろいのでは」という思いもありました。
 そんなとき、たまたまメルカリの経営陣と話す機会があって。彼らがとても謙虚に自分たちの現在地を捉え、本気で世界を目指している姿に心を動かされたんです。
 日本とアメリカでの事業基盤はできたけれど、“グローバル企業”というにはほど遠い。「世界中で役立つものを生み出したい。自分たちはまだまだこれからなんだ」と。
栃木 私が入社したときもそうでしたが、メルカリの良さを売り込もうと押し付けてくる感じが一切なくて、「僕たちは、ここを目指しています。よろしければ、一緒にいかがですか」とすごくニュートラルなんですよね。
 私も清香さんと同じく、前職は外資系の証券会社等の金融機関で、長年にわたり内部監査やコンプライアンスなど、企業のガバナンス体制を見ていました。
 私も同じように任される業務範囲も広く仕事には満足していた一方、このまま金融業界一筋でキャリアを終えるのかな……と思うところもあって。
 そんなときにちょうど、メルカリの管理体制に携わるポジションがあると知ったんです。
 IT業界は畑違いだと思いましたが、ずっと外資企業にいたからこそ「日本発信のプロダクト」「日本からグローバルを目指す」チャレンジに私も携わりたいと思いました。
 結果として内部監査の室長としてジョインし、2019年9月から常勤監査役を務めています。

常に進化する組織でありたい

──外から見ていたメルカリと入って知ったメルカリにギャップはありましたか。
江田 入社前に具体的なイメージを抱いていたわけではなかったのですが、一般的な“ベンチャー”より、さまざまなルールが整備されているな、と。
 でも実は、周囲に話を聞くと「1年前はなかった」というものばかり。ここ数年での組織の進化がすごいと感じます。
 さらに、パワーをかけて整えたルールや仕組みでも、今の会社の枠に合わなくなれば、どんどん作り変えていく。改善・撤廃するにあたり、「作るのが大変だったから」「せっかく作ったのだから」という固執や妥協が一切ないのも特徴的です。
栃木 常により良い方法をどんどん探して作り出していこうという意欲が本当に強いですよね。そこに、メルカリのベンチャースピリットが宿っていると思います。
江田 社会情勢的にも業界的にも、目まぐるしい環境の変化の中にいるが今のメルカリです。
 だからこそ、中長期的なゴールを定め、その数字やルールに自分たちが縛られオプションやポテンシャルを狭めることは絶対にしたくない、という思いが強い。
 もちろん会社としての大きなマネジメントプランは持ちつつも、状況に応じてフレキシブルに変えていけるだけの余裕を持つことは常に意識しています。
 そして、どんなことがあっても経営のドライバーズシートには絶対に自分たちが座るんだ、という思いがあります。

現場発、課題解決の仕組み

──意思決定の際にはどんな議論があり、どう決めていくのでしょうか。
栃木 何が課題で、何を仕組み化していくのか、全体の大きな目標は経営会議で決めています。
 ただ、その実行に至るプロセスが、全社巻き込み型でけっこうユニーク。
 たとえば、各事業部でいくつかのチームに分かれて課題解決のためのアイデアを考え、経営陣にプレゼンまで行うことも。
 チームごとに「この仕組み化によって、こんなふうに会社に貢献できる」とアイデアを発表し、共感が得られたものが実際に採用されていく。
「うちのチームのアイデアが採用された!」とチームワークにもつながりますし、全社の組織づくりに関わっているという当事者意識も強くなる。そんなふうに、ボトムアップで進んでいくプロジェクトも多いですね。
 また、プレゼンの段階で仕組み化へのロードマップを立て、実装された際は進捗状況をモニタリングするので、そのプロセスがスピード感への意識を根付かせていると思います。
江田 経営陣から事業トップへのデリゲーション(権限委譲)が非常に明確ですよね。
 事業部によってやり方はそれぞれで、多数のアイデアが出てくるように働きかけカンパニー全体を盛り上げるケースもあれば、スピード重視で具体的なメッセージを出すこともある。
 山田は状況を1on1で確認しながら、会社の方針と大きくずれていない限り、現場に委ねています。
 各事業部で進むプロジェクトに関しては、常にプロコン(Pros and Cons:良い点・悪い点)を並べ、今、必要なことなのかを即時に意思決定していますね。

真のグローバルカンパニーとなるために

──2018年の東証マザーズへの上場から、メルカリ・メルカリUS・メルペイ、3つの事業を柱に拡大してきました。そして、2021年1月にはソウゾウの復活、4月には暗号資産やブロックチェーンに関するサービスを担うメルコインが新たに生まれた今、メルカリグループはどんな局面にあると言えますか。
江田 メルカリは実績面でも基盤ができつつあり、メルカリUSとメルペイも徐々に軌道に乗ってきた状況です。
 ここから、各事業の枝葉をどう伸ばし成長させるか。
 現在のサイズから“プラスα”で落ち着くのではなく、真のグローバルカンパニーとして、より存在価値の高い存在になるための過渡期にいるのが今のメルカリです。
栃木 グローバルを目指したサービス付加を考えると、すべてをやり切るだけのコーポレート体制にはまだまだ達していません。
 メルカリには非常に優秀な人たちがそろっていますが、全員がフル稼働してようやく取りこぼしなく回っているというのが現状。
 コーポレートバリューである「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」を体現している組織はすばらしいと思いますが、もっと余裕を生み出さないと、これからのスケールアップに対応することは難しくなる。
──その中で、メルカリのコーポレート部門が果たす役割とは。
江田 コーポレート部門に対しては、牽制機能のイメージがあるかもしれません。
 ただ、メルカリには「自分たちは成長過程の会社である」という認識があり、投資家からもそう見られている。
 CFOとして、数値的な妥当性はしっかりと見ますし、網をすり抜けてトラブルにつながることがあってはならない。リスクを拾う役割は重要です。
 しかし、安定的な結果を出すことだけにとらわれ、何でも牽制する立場にあるとはまったく考えていません。リスクは認知した上で、どうやるべきかを協議していくスタンスでいます。
栃木 メルカリのコーポレート部門には、いかに事業をドライブさせていくかという視点が期待されています。
 守りだけでなく「攻め」の部分もある。事業成長のためにコーポレート部門があります。
 グローバルでの挑戦という意味では、日系・外資問わずさまざまな組織のやり方を学び、体制構築する必要があるでしょう。各国でビジネスの進め方、法令や規制も違いますし、他の日本発グローバル企業のやり方をそのまま取り入れたからといって、うまくいく話でもない。
 世界レベルのコンプライアンス遵守と、メルカリのコーポレートカルチャーとをどう融合させるのか。メルカリの中でワークする方法を選び、作り出していかなくてはなりません。
江田 多様なバックグラウンドの知見を組み合わせて、「この部分ではこのやり方を当てはめてみよう」とアイデアを取り込んでいきたいですね。
 業界や職務上の常識や前例があったとしても、「本当にやる必要があるのか」「自分たちの事業ポートフォリオとはマッチしないのでは」など、フラットに考える視点も大切です。
 国内でも、これだけ短期間に事業拡大したスタートアップはほかにありません。
 今後、同じように大きくなっていく企業が出てきたときにメルカリのやり方を参考にしていただけるよう、しっかりと吟味して作っていきたい。そんな思いが、コーポレートメンバーの中には強くあります。

今のメルカリのオポチュニティとは

──大企業で働く、メガベンチャーで働く、より小規模なスタートアップで働く。さまざまな選択肢がある中で、今のタイミングで、メルカリコーポレートで働く醍醐味はどこにありますか。
栃木 現在のメルカリには、会社としてのネームバリューと強固な事業基盤が築かれてきています。その中で、さらに新しいチャレンジに動いていける。
 もちろん大きなチャレンジにはリスクも伴います。しかし、その分だけ成功したときのインパクトも大きい。ソウゾウ、メルコインの設立が、その一つの形となっていくでしょう。
 コーポレート部門でも、事業拡大に付随して新しいチャレンジの機会が広がっています。社外への影響力も大きく、外からさまざまな知見をいただけるのも、メルカリで働くユニークさだと思います。
江田 新しいことをやりたい。ただ、社会的インパクトもすごく出したい。そんなマインドの人に、今のメルカリは非常に魅力的でしょう。
 ただし、オポチュニティ(機会)は、メルカリ側から“用意”されるわけではありません。自分でつかもうとするマインドが大切。
「このポジションの、この業務をお願いしたい」というメッセージを待つのではなく、自ら足りていない部分を見つけて動ける人、活躍の範囲を広げていく人がメルカリのカルチャーにフィットすると思います。
栃木 優秀な人には、たくさんのチャンスが降ってくる。本人が少しフックを伸ばせば、新しいチャレンジの機会をつかめると思います。
 コーポレート部門においても人材の社内流動性が非常に高く、自分の能力を貢献につなげたい方には学びのチャンスが広がっています。
江田 たとえば、私のチームのファイナンス部門でマネージャーを務めるのは、リーガルのポジションで入社した弁護士です。
 主たる専門領域を持ちつつも、徐々に範囲を広げ新規事業にチャレンジしている方も多いんです。
栃木 新会社設立の際にも「メンバーを募集します! 興味がある人はどんどん手を挙げてください」と大々的に社内へ告知されます。メルペイのときも、ソウゾウのときもそうでした。
 メルペイ設立時は、一気に多くのメンバーがメルカリ事業部からメルペイに異動しましたが、グループとしてメルペイの重要性にアライアンスが取れていて、送り出す側にも納得感がありました。
「All for One(全ては成功のために)」というコーポレートバリューに基づいて、会社として新会社設立の方針を決めたからには全社でサポートしていこうという考え方が土台にあるので、新しい挑戦は応援されるんです。

目指すのは「必要不可欠」な存在

──最後に、メルカリのミッション達成に向け、今後の展望をお聞かせください。
江田 メルカリが目指すのは「循環型社会」の確立をリードする、中心的なプレイヤー。そのためには、社会と共存できるビジネスの仕組みを作っていくことが必要です。
 ユニバーサルなサービスを提供する、真に大きな会社になるためには、社会的責任を意識することは欠かせません。
 2020年8月の決算発表で、山田が「循環型社会の実現に必要不可欠な存在になりたい」と宣言していますが、たとえばプロダクト観点ではメルペイの残高を使った「メルカリ寄付」というサービスも展開しています。
 プロダクト、コーポレート観点双方で、社会的責任を担うプラットフォーマーであるという意識を非常に高めています。
栃木 そして、あらゆるバックグラウンドを考慮した上でプロダクト開発を進めるには、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)はマストです。
 D&Iを進めるほど“普遍的に必要なもの”が研ぎ澄まされていく。会社としても、D&Iのプライオリティは高まっています。
 新たにマネジメントポジションについた方へのメンタリングプログラムなどの取り組みも始めており、部署を横断した相談も推奨していきたい。
 メンバー同士でサポートし合う空気がどんどん広がるように、コーポレート部門への期待も大きいと思っています。
 やらなければならないことも多いし、やりたいことも多い。そのくらい組織として大きな変化を迎えているフェーズだと感じますね。