2021/5/29

【解説】決算書=企業の成績表を読み解く方法

NewsPicksアンカー
木曜22時〜隔週で配信している、投資リアリティショー『INVESTORS』。

5/20(木)公開の勉強編では、累計20万部を突破した「会計クイズを解くだけで財務三表がわかる世界一楽しい決算書の読み方」の著者、大手町のランダムウォーカー氏がゲストとして登場。
投資初心者にとって知りたいが、数字が多くてついつい避けがちな「決算書」
今回は楽しく理解するため、小売業の中でも特徴的なビジネスモデルを構築している数社の損益計算書を例に挙げ、クイズ形式で学んでいきます。
INDEX
  • 決算書とは
  • 損益計算書を読む
  • 同じ業種でもビジネスモデルで変わる
  • 一般的な小売業 - キャンドゥ
  • 独特な小売業 - コストコ
  • 損益計算書の後はROAを確認
  • 決算書は企業の成績表

決算書とは

奥野 今回は決算書の読み方について、簡単に説明してくれる方をお呼びしました。
そもそも決算書を読まないで投資をするのは、ルールを知らないで麻雀をするのと同じです。
大手町 決算書を読む楽しさは、日常生活で気づけないような「企業の儲けポイント」を読み解けることにあります。
まず、財務諸表には3種類あります。
1. 損益計算書
(会社の経営成績を報告する決算書)

2. 貸借対照表
(会社の財産の状況を報告する決算書)

3. キャッシュフロー計算
(会社のお金の動きを報告する決算書)
そして、会社の業種やビジネスモデルによって変わるのが、「損益計算書の形」なのです。

損益計算書を読む

大手町 下記の損益計算書はファミリーマート(コンビニ)、サイゼリア(飲食)、マツモトキヨシHD(ドラッグストア)のものです。
売上原価は原材料の値段、販管費は原材料を引いた本社のコスト、広告、そして輸送費のことを示しています。
大手町 この3社では売っているものが異なり、商品によって売上原価が変わってくることや、企業がどこでお金を稼いでいるかによって「損益計算書の形」が変わります。
損益計算書とは、収益と費用を比べて利益が出ているかどうかを表しているものです。そのため、シンプルにどれが費用、収益、利益なのかを見極めることが大切です。
その中で「利益」という単語が複数登場し、厄介になっています。
利益には、売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益があります。
大手町 売上というのは入ってくるお金のことを指していて、そこから売上原価が引かれたものが売上総利益です。これは商品の強さを表す利益と言われています。
例えば、りんごを売る会社があったら、りんご1個売ったらいくら利益が出るのかですね。
ここから販管費を除いて出された利益が営業利益と言います。
りんごを売る会社には店舗や売る営業マンが必要です。広告も間接的に発生したコストとなります。
注目すべきは「営業利益」で、ビジネスモデルの強さを表す利益だからです。初心者の方はここまでで大丈夫だと思っておいて良いでしょう。
ビジネスモデルの強さを表す「営業利益」を見るべし

同じ業種でもビジネスモデルで変わる

大手町 ここで問題です。この二つの損益計算書のうち、セブンイレブンジャパン(以下セブンイレブン)はどちらでしょうか?
ちなみに、もう一つはキャンドゥです。どのようなものが売られているのか、どのようなところで原価がかかっているのかを考えてみましょう。
安田 コンビニは24時間営業で、競争関係にある大きい3社があるのでマーケティングにもお金をかけていて、人件費など販管費の割合が大きいと仮説立てると、②だと思いました。
大手町 そうですね。セブンイレブンの売上原価がここまで低いのかと思われた方もいらっしゃると思います。
ではそれはなぜでしょう?
そもそもセブンイレブンはどこで売り上げを上げているのか。内訳を見てみると加盟店収入が87.5%を構成しています。セブンイレブンは小売業といいながらも、この加盟店収入で一番売り上げを上げているんですね。
大手町 小売業というと商品を売って、売上をあげるのが普通ですが、セブンイレブンの場合はフランチャイズ収入で稼いでいるのです。
佐渡島 ではフランチャイズ店のPLは、①のキャンドゥのように売上原価が高くなるということですか?
大手町 おっしゃる通り、フランチャイズ店は純粋に、商品を売って、売上をあげているので、売上原価が大きくなります。
では、そもそもセブンイレブンの直営店で売られている商品の売上原価は?となりますが、直営店は原価率が高くなりやすく、直営店の売上高、売上原価、そして売上総利益を見てみると、原価率が71%で売上利益率が29%とわかります。
大手町 食品関係は特に売上原価が大きくなりやすいため、セブンイレブンの直営店は原価率が高めとなります。
また、直営店では廃棄物を処理するので、お弁当など、廃棄したものが売上原価の中に入ってきます。そのため、原価率は71%となってしまうんですね。
奥野 売上を見た時に同じ小売業をやっているからと言って、損益計算書の形が同じになるとは限りません。
形が違うのは、フランチャイズモデルをとっているのと、とっていないのとではビジネスモデルが全然違うからです。
安田 PLを見るだけでフランチャイズビジネスだとわかるんですか?
奥野 大体原価率が少なくて、販管費が多いとフランチャイズビジネスであることが多いです。これがフランチャイズ型のビジネスモデルなので。

一般的な小売業 - キャンドゥ

大手町 100円ショップのキャンドゥの損益計算書も見てみましょう。
こちらは、いわゆる一般的な小売業の損益計算書になります。
ここでいう一般的な小売業とは仕入れて売るということを指しています。ある意味セブンイレブンがイレギュラーで、こちらが通常の小売業に近いんです。
大手町 100円均一の面白いところは、単価が100円と決まっているところです。
このビジネスモデルでは、単価を上げて利益を増やすのが難しいので、いかにコストを減らすかというところが経営の論点となります。
小売業はどこも原価率が55%から60%くらいのため、規模を出して、仕入原価を抑えたり、沢山の店舗を出すことによって収益性を上げなければいけません。
安田 この原価率は自社で作っている製品の原価ですか?それとも仕入れ値でしょうか?
大手町 キャンドゥはほとんどの商品を仕入れています。
キャンドゥの有価証券報告書などを読むと仕入れ先の名前が出てきます。100円均一用に販売している会社などがあるので。
まとめますと、今回取り上げたセブンイレブン、キャンドゥともに店舗ビジネスを展開していて、全国に店舗を抱えています。
セブンイレブンは加盟店を中心に加盟店のロイヤリティで売上を上げている一方、キャンドゥは直営店中心の出店形態で販売収益がメインの収入となっています。
大手町 ここが日常生活では気づけない点だからこそ、決算書を見る面白いポイントでもあります。
実はこんなところでお金を稼いでいたんだ、といった気づきがあるのが、決算書を読み解く一番の面白さです。
佐渡島 決算書を読んで、実際の日常生活でセブンイレブンに行って、フランチャイズ店だと気付くことができると面白いですよね。
一度決算書で読んだことが日常生活でも活きると、どんどん投資が上手くなりそうです。
大手町 この問題を解いた方はセブンイレブンに行った時の目が変わると思うんですよ。視点が新たに一つ増える感覚が楽しいと思います。
同じ小売業でもビジネスモデルによって損益計算書の形が違う

独特な小売業 - コストコ

大手町 コストコの損益計算書はどのような形になると思いますか?
大手町 決算書をイメージする時のポイントは、まずその企業の知っている情報を片っ端から書き出して頭にイメージしてみることです。
販売している商品の単価は安いのか高いのか? 売上原価はどれくらいか? どこで売っているのか? コストコであれば、倉庫で売っているので「倉庫はどのようにコストとして入ってくるのか」を考えてみましょう。
安田 フランチャイズビジネスではないので、売上原価がキャンドゥの例に近いかと思います。
あと、コストコは店舗が大きいからこそ economics of scale(規模の経済)で販管費をある程度抑えられているかと。
奥井 年会費が結構高いので、そこで利益を得ていると思います。商品自体が結構安いので、年会費で儲けているのかと。
徐 私、以前のINVESTORS実践編でコストコをプレゼンしたのでばっちりです(笑)
コストコの魅力は、原価に近い価格で商品を売っていることです。原価にそこまで利益を上乗せしていません。
コストコの主な収入源は会員費ですが、この損益計算書には会員費は入っていないので、それを考慮すると、確か売上原価が87%で、売上総利益が13%だった気がします。
大手町 大正解!
大手町 コストコはすごく面白いビジネスモデルです。
何が面白いかというと、通常の商品売上の他に会員収入というものが入ってきます。
コストコの損益計算書を見る前に、会員収入が上乗せされているのでもっと利益が出るのかと思っていたのですが、思っていた以上に売上原価が高くて利益はほとんど出ないのだとこの数字を見て思いました。
会員の方々は会員費を払ってどのようなメリットがあるのか、がポイントとなります。
会員の方々は原価に近い値段で商品を買うことが出来るんですね。コストコは、会員収入で収入があるので、商品販売の部分ではほとんど利益を出していません。つまり、ほとんど原価すれすれで売っているということになります。
大手町 ちなみに、皆さん原価バーに行ったことはありますか?
原価バーは出てくるお酒が全て原価で、その代わりに入場料を取ります、というビジネスモデルなのですが、コストコは結構そのモデルに近いです。
商品をどれだけ売るかではなく、顧客を何人入場させたかが肝となります。
したがって、見るポイントが普通の小売業とは若干違ってくるというのがコストコのポイントです。
奥野 売上高に対する利益比率が低いだけであって、そもそも売上が高いので、コストコはかなり儲かっています。
ROA(総資産利益率)で見ましょう、と「【勉強編】ROAでビジネスの本質を知る」で言ったのも同じ理由です。

損益計算書の後はROAを確認

奥野 資産に対してどのくらい儲かっているのかは、ROA(総資産利益率)を見れば明確です。
廉価販売をしたって、資産の回転が早ければROAは高くなり、儲かります。コストコは田舎の倉庫のようなところで店舗をかまえているので、資産が物凄く安いのです。
奥野 一般的な小売業では、SKU(Stock Keeping Unit - 受発注や在庫管理を行う時の「最小の管理単位」)を6万点以上必要なところ、コストコは店に置く商品点数を3,700点まで絞っています。
1SKUあたりの売値を下げ、粗利を13%に抑えています。(利益を)取ろうと思えばもっと取れるはずですが、抑えることによってコストコに行ったら一番安く手に入るということを顧客にアピールしています。だからこそ、顧客が月に一回行こうと思うんですよね。
結果的に、会員費で儲かって営業利益の実に7割が会員費となっているんです。
徐 つまり、安く手に入るということがインセンティブになって、顧客が皆コストコに行くということですね。
安田 会員収入が入る企業のPL(損益計算書)は、必然的にコストコと同様の形になるという認識で合っていますか?
奥野 そうとは限りません。単純に儲からない企業もこの形になります。原価が高すぎて競争に負けているので安く売らざるを得ない企業は儲かりません。
安く売るのを意図的な戦略としてとっているコストコと、安く売らされている一般的な小売業の弱い企業は出来上がりが違います。
そもそも、売上高営業利益率だけを見ても何もわからないので、ROA(総資産利益率)を見なければいけません。
佐渡島 決算書でビジネスモデルを読み解いて、本当にしっかりと良い企業かどうかを判断するためにROAを見るということが重要ですね。
奥野 ビジネスモデルや企業が強いのかを判断する上で、わかりやすいリトマス試験紙としてROAがあるんです。
ROAは売上高利益率と総資産回転率のこの二つに分解できて、どちらも高ければ良いけれど、どちらかが大体高くて低いのが通常です。出来上がりのROAは高いに越したことありません。

決算書は企業の成績表

奥井 社会情勢やテーマ株ではなく、決算書の結果が最も株価に反映されますか?
奥野 はい、決算書は企業の成績書ですので。
企業の社長が過去に言っていたことと決算書を照らし合わせて、再現性を確認していくことが企業を分析するということです。企業のオーナーになるというのは、こういった点がわからないと投資できないよね、ということになります。
会社のビジネスモデルが抽象的な話だとすると、決算の数字が具体的な話。
抽象的な話と具体的な話を常に行き来する形で、自分で仮説を立てていくことが重要です。
まさに無限ループ。この無限ループこそが投資をするということであり、ビジネスをすることも同様だと考えています。
この具体的な話と抽象的な話の無限ループをどれだけ多く早く回すことが出来るかが、ビジネスパーソンとしての資質であり、長期投資において必須の思考法だと思います。
番組本編もぜひご覧ください。