(ブルームバーグ): ソフトバンクグループの孫正義社長が5月に行った決算説明会で、6分間の時間を割いて紹介した投資先企業がある。人気動画クリエイターらのマネジメント業務などを手掛ける米ジェリースマックだ。現在は米国を中心に事業展開しているが、今後は世界進出や買収も視野に入れている。

共同創業者のマイケル・フィリッぺ氏はブルームバーグ・ニュースのインタビューで、欧州やアジア、南米を含む地域で事業を拡大していきたいと述べた。具体的には市場が巨大なブラジルやインド、映像への関心が高い日本と韓国に興味を示した。

孫社長は、「21世紀型のクリエイター集団」と自ら紹介したジェリースマックに対し、自己資本で運営するビジョン・ファンド2号を通じて出資している。フィリッぺ氏は出資額について明らかにしなかったが、同社の評価額は1000億円を超え、「ユニコーンとしての地位」を獲得したと語った。

ソフトバンクGの2021年3月期決算は、有望な人工知能(AI)企業を対象とした群戦略投資が奏功し、純利益が日本企業としては過去最高の約5兆円となった。

ジェリースマックは現在、インフルエンサーと呼ばれることもある約200人の人気動画クリエイターと契約している。彼らはユーチューブなどで動画を投稿しており、米国での月間視聴者数は1億2500万人に上る。

同社のビジネスモデルは、動画クリエイターがフェイスブックやインスタグラムなど他の媒体にも露出できるよう編集技術や視聴者を増やすためのコンサルティングサービスを提供し、売り上げの一部を得るというものだ。

フィリッぺ氏は「米国で驚異的に成長した今、グローバル化を加速する時期にある」と話した。中でも日本や韓国は、ユーチューブやインスタグラムなどのメディアが「非常に高い浸透力を持つ」と分析し、同地域への進出が視野に入っていることを明らかにしたが、詳細についてはコメントを控えるとしている。

M&Aにも関心

孫社長は決算説明会で、「米国の子供たちの75%が動画クリエイターになりたがっている」、「若者はテレビにじっとしがみつくよりも、個人のクリエーターが作ったショートビデオを見る時間の方が長くなりつつある」などと話し、ジェリースマックが持つ高い将来性に期待感を示した。

孫社長によると、米国の人気クリエイターの1人はジェリースマックに帰属したことでフォロワーが従来と比較し10-20倍に増え、フェイスブックのフォロワーも200万人増えたという。

ジェリースマックは、企業の合併・買収(M&A)にも関心を寄せている。フィリッペ氏は「クリエイティブ産業には多くの会社が今後誕生してくるだろう」とみており、インフラ構築企業への出資や買収を検討しているという。

ソフトバンクGのビジョン・ファンドのマネジングパートナーであるヤニ・ピピリス氏はブルームバーグの取材に対し、ジェリースマックは「ビジネスモデルと経営状態に関する限り、あすにでも上場できる」と指摘した半面、「非上場企業として伸びる余地が依然としてある」とも述べた。

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