乳業夏期特集:あらためて考える学校給食と牛乳
2014/08/25, 日本食糧新聞
生乳生産基盤の強化とともに重要な課題が需要の拡大だ。供給不足による需要を失うことを避けると同時に、牛乳乳製品の価値向上も酪農・乳業界にとってのテーマだ。しかし、新潟県三条市教育委員会は今年3月に「14年12月~15年3月までの4ヵ月間、学校給食での牛乳の提供を試験的に停止する」ことを決定した。和食中心の献立に牛乳は合わないなどの理由からだという。昨年12月にも京都市教育委員会で給食での和食の比率を高めるため、牛乳を中間休みに飲ませることはできないかなど取り扱いを検討し継続審議中だ。今年4月には学乳での異臭問題もあり、何かと学校給食における牛乳が話題となった。この機会にあらためて学校給食の意義について考えてみる。
●昨今の学校給食
農林水産省では、文部科学省と連携し、酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律に基づき、年間を通じて学校給食用に安定的かつ効率的に牛乳を供給することで、児童・生徒の体位・体力の向上を図るとともに酪農振興を進めるため、学校給食用牛乳等供給推進事業における供給支援を実施している。具体的には島嶼(しょ)や山間部への輸送費等を一部補助する供給条件不利地域への供給対策支援や、自県産生乳を用いた低温殺菌牛乳・はっ酵乳等の供給支援等を行っている。
12年度では小学校の学乳普及率が99.3%、中学校77.1%、夜間高校36.5%、特別支援学校86.6%で、合計91.2%(飲用向け生乳の約1割である約38万tを学校給食用牛乳として消費)。
昨今の学乳供給における乳業事故をみてみる。今年4月に給食用牛乳に黒い異物(2~3mm)を確認。牛乳供給再開までの約2週間461校約15万本(1日当たり)出荷停止。原因は、牛乳パック熱圧着に焦げた牛乳が入ったため。牛乳充填(じゅうてん)ラインのスピード減、確認頻度の向上などで対応した。
同じく今年4月、給食用牛乳を飲んだ小中学校から風味異常の訴えがあった。牛乳供給再開までの約2週間弱646校約33万本(1日当たり)が出荷停止。原因は、特定の原料乳を運んだタンクローリーに臭気があり、生乳の青草臭と相まって人が感じるレベルになったと推察される。対応策としては、タンクローリーの臭気チェックの徹底、工場での官能検査の徹底などが求められ、農水省も通知を出し注意喚起や事例供給を図っている。
次に、学校給食の意義についてみてみる。
●三条市が学乳を中止
三条市は「『和食中心の献立に牛乳は合わない』との声に応えた」「どんな献立でも必ず牛乳を付けることで食べる組み合わせがわからなくなっている。学校給食は食べることを学ぶ時間であり、一汁三菜の望ましい和食を提供することで子どもたちに将来の食習慣を創る献立のバランスを学んでもらいたい」などと説明。和食文化に牛乳は合わないというほかに、消費税アップに対する給食費の据え置き、冬場に冷たい牛乳は飲み残しになるなどの理由も背景にある。
●全国学校栄養士協議会の見解
◆学校給食の果たす役割
バランスの良い食事を提供し、成長期の児童生徒の体位向上や健康の保持増進に役割を果たすもの。08年6月に改正された学校給食法でも「適切な栄養の摂取による健康の保持増進を図る」ことが目標として定められている。学校給食は食の理解と適切な判断力を養い、適切な栄養管理や食に関する指導ができる。
◆栄養管理における牛乳の役割
成長期に栄養バランスの良い食が必要。牛乳はカルシウム供給減として大変重要で、家庭で不足するカルシウムを補完する重要な役割を果たしている。牛乳1本に他の食材を併せて1日推奨量のカルシウム50%を補っているが、給食用牛乳は安価で供給され、栄養素や作業効率を考えても他の食品で補うことは難しい。不足しがちなビタミンB2についても1日推奨量40%程度を確保でき、良質なタンパク質源にもなっている。
◆食育に果たす役割と可能性
牛乳は栄養的な価値に合わせ、学校での関連教科における教材としての可能性を無限に持っている。乳牛や酪農家などの仕事から「命」「感謝」「生産と流通の仕組み」「環境」「衛生管理」「食品表示」など、牛乳を切り口に多くの事柄を臨場的に学ぶことができる。食育で牛乳を活用する意義は大きい。
学校給食が成長期の児童や生徒に対し、発達段階を踏まえた適切な栄養の摂取と健康の保持増進を図ることを目標としていることから、牛乳を中止する理由の視点をずらしてはならない。学校給食から一定期間牛乳を中止する試みについては、児童生徒の成長、食習慣、食文化の観点から冷静な判断が行われることを願う。
●日本栄養士会の見解
学校給食の時間では、栄養バランスや地域の畜産業の生産・流通・消費について学ぶとともに、命の大切さや生産者の苦労に対する感謝の気持ちを育む教育が行われている。また、学校給食は、子どもたちの未来を展望した上で「適切な栄養の摂取による健康の保持増進を図ること」を目標としている。
子どもたちの現状に目を向けると、給食がない日のカルシウム摂取量は推奨量を下回る30~50%にとどまり、学校給食での牛乳提供停止は子どもたちのカルシウム不足を招きかねない。このほどの問題は和食の一汁三菜に牛乳が合わないとされているが、これは摂取上の工夫で克服できる問題であり、牛乳提供を一律に廃止する理由になるかは疑問だ。少子社会を迎える日本に未来を担う子どもたちの健全な成長は、社会の重要課題の一つ。学校給食では、和食の良さを守りつつ、発展的に継承していくことが求められる。日本栄養士会では今後ともよりよい給食の在り方を考える。
●Jミルクの対応
Jミルクは、学校給食法の趣旨に照らしても三条市の一面的な説明に対しても「看過できない問題を内包している」との認識を示した。酪農・乳業関係者が自ら主張することは“業界エゴ”と見られる可能性もあるが、今回は中立的な立場の日本栄養士会や全国学校栄養士協議会からも批判的な見解が表明されている。
Jミルクでは、今後も日本栄養士会や全国学校栄養士協議会、さらに学会や有識者との連携を取りつつこの問題に対処していく。
また、学校給食の歴史や子どもたちの栄養状態の現状、学校給食に牛乳が無くてはならない理由、保護者がこの問題をどう捉えているかなどについてまとめた「学校給食における牛乳摂取の意義」を作成。メディアやフォーラムの場などあらゆる場を活用して今回の問題のアピール浸透に努めていく方針だ。
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