2021/6/9

【独占】メルカリ山田進太郎が語る、真に強い 「組織と人」とは

NewsPicks Brand Design Senior Editor
2013年の創業から8年、日本トップのユニコーン企業へと成長したメルカリ。優れたプロダクト開発、ユーザーインサイトを捉えたマーケティング活動、グローバルへの挑戦……、その成長のすべてを支えたのは「人」である。

創業当初から優秀な人材を惹きつけてやまないメルカリだが、その裏には、どの企業よりも本気で人への投資を続けてきた歴史がある。また、すでに東京オフィスのエンジニアの約半数を日本国籍以外のメンバーが占めるなど、組織内のダイバーシティも進む。

今後、ますます採用にチカラを入れるというメルカリが考える、真に強い組織と人とは。創業者であり代表取締役CEOの山田進太郎氏に今後の展望を聞きながら、メルカリの強さの源泉を解き明かす。

求心力の源泉は変わらない

山田 世界で使われるインターネットサービスを作ろう──。創業当時から、この思いは変わりません。
 私個人ではなく、会社という組織で挑戦するのはより大きなことを実現したいから。そのための仲間集めは最も重要なポイントであり、ここに多くの時間とコストをかけてきた自負があります。
 事業が成長し、組織も常にめまぐるしく変化してきましたが、私自身の人へのアプローチの仕方は、この8年間、基本的に変わっていません。
 仲間集めの中心にあるのは、「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションへの共感。
 我々の3つのバリュー(Go Bold:大胆にやろう、All for One:全ては成功のために、Be a Pro:プロフェッショナルであれ)を体現できるかどうかです。

個人のWillを叶える器「メルカリ」

 ただ、働く個人にとってより重要なのは、「メルカリでできることが自分のやりたいこととマッチしているか」という視点でしょう。
 メルカリはどんなオポチュニティ(機会)を提供できるのか。どんなリターンを見せられるのか。
 報酬など金銭的価値だけではなく、「世の中によい影響を与えたい」「社会にインパクトを残したい」という個人のWillと、組織の方向性が合っていることが最も重要です。
 メルカリには、経営者として独立できるような優秀な人材が多く在籍しています。
 メルカリで働くこと以外にも多くの選択肢がある彼らに対し、「この事業をやりたいから、こんな仕事をしてほしい」と伝えても響くはずがない。
 それに強く誘ったところで、本人のWillと乖離があれば活躍にはつながらないでしょう。本当に好きでやっているかどうかが、パフォーマンスには最も影響するからです。
 私は、普段からさまざまな業界のインスパイアを受ける友人たちと定期的に会うようにしていますが、今、彼らがやりたいことは何かをいつも確認しながら接しています。
 もし、それがメルカリでできるのであれば、「こんなオポチュニティがあるんだけどどうかな?」と話してみる。そうして集まってくれた人たちが、これまでのメルカリを作ってきたんです。
もちろん、入ってくる人もいれば、出ていく人もいるし、一度出たあとに、また戻ってくる人もいます。
 長期的なビジョンは変わりませんが、“今、やるべき”目の前の課題はどんどん移り変わるので、「入社当初はやりたいことが合致していたけれど、今はフェーズが違う」こともあるでしょう。
 そうして別の道に移っていくのは、ある意味、自然なこと。メルカリを卒業して、自分のやりたいことをやれていればそれでいいし、また一緒に働けるチャンスがやってきたらうれしい。
 人と組織の関係は流動的なものであり、経営としては多様なオポチュニティを用意できることが組織の強さにつながると考えています。

多国籍化する組織をまとめる根源的欲求

 優秀な人材の採用を進めてきた結果、現在メルカリでエンジニアとして働くメンバーの約半数が日本国籍以外のメンバーです。
 出身国もインド、中国、台湾、シンガポール、ベルギーなど多様で、英語が自然に飛び交う環境になりました。
 彼らがメルカリを働く場所として選ぶ理由はさまざま。日本の長い歴史からくるカルチャーだけでなく、ゲームやマンガなどのサブカルチャー、治安の良さ、ご飯の美味しさや多様性など日本にはさまざまな魅力があります。
 ただ、求心力の真ん中にはミッションの一部でもある「世界的なマーケットプレイスを創る」というビジネスコンセプトがあると考えています。
 CtoCの個人間取引は、とてもプリミティブな欲求です。
 物々交換、あるいは労働力の交換は文明の起源と言ってもよく、ここには「自分にとって価値がないと思っていたものが、誰かからすごく喜ばれる」という、社会的動物としてのおもしろみがある。
 メルカリの売り買いのプロセスにも、エモーショナルな感情のやりとりがあります。
 人々が長く続けてきた普遍的な営みをインターネットサービスに落とし込むアイデア自体に、共感し入社してくれるメンバーが多いと感じています。

拡大とともに増す、社会への責任

 我々が目指しているのは「循環型社会」の構築、そして実現です。
 成長を続ける中で、サービスがある種の公共性を帯び、果たすべき社会への責任についてより考える必要があると痛感しています。
 2017年には現金の出品問題が起こり、「メルカリという“プラットフォーマー”が悪質な出品を野放しにしている」とメディアやお客さまからご指摘が寄せられました。
 この出来事により、自分たちは社会的立場に無自覚だったと深く反省し、「社会にとっていいこと、必要なこととは何か」という視点に改めて立ち返りました
 社会に必要不可欠な存在として事業拡大を目指すのであれば、さまざまな考えを持つお客さまに広く受け入れられるサービスにならなければいけない。
 尖ったままでは、ここから成長できない──と認識を大きく改めました。
 コロナ禍では、品薄になったマスクの高額出品でも大きな批判を受けました。
 それまでも毎月、社内で協議会を開いていましたが、出品基準の判断に対し、もっと大枠の原則が必要だと考え、外部有識者とともに「マーケットプレイスの基本原則(Principles)」を策定。今後も見直しを重ねていきます。
 2021年3月には、ファーストリテイリングと転売対策の提携を発表。メルカリ上で人気商品の大量転売が起こらないよう、発売前の注意喚起などを行っています。
 他企業との提携を深め、小売・流通業界全体を盛り上げていくことは、メルカリの役割の一つだと考えています。

D&I推進でつかんだ手応え

 社会的責任を担う立場を強く認識しながら、この8年の間で私自身の中で最も変わったのは、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に対する考え方です。
 グローバルだけでなく、国内でもより拡大し多様なお客さまに対してサービスを展開していくのであれば、D&Iの視点は不可欠。
 もちろん多様な価値観のメンバーが増えれば増えるほど、コンセンサスをとることは難しくなります。社内の議論も時間がかかるし、そのぶんパワーも求められる。
 しかし今は、その議論を経て集約されていくアイデアの質にすごく手応えを感じています。
 さまざまな角度から意見を出し議論を深め、その中から重要なエッセンスを見極める。そして、その答えをプロダクトに反映させていくことで、サービスが非常にソリッド(堅固)なものになっていく。
 たとえば、iPhoneやグーグルのサービスは、とてもシンプルで、ユーザーのバックグラウンドにかかわらず世界中で使われています。説明書が必要ないのは、多様な価値観の中に共通する「普遍的な要素」だけにフォーカスされているから。
 これはインターネット企業に限らず、さまざまなコンシューマー系ビジネスに求められる姿勢でしょう。
 D&Iは、サービスに普遍性を持たせ価値に変えていく企業競争力の源泉になると確信しています。
 ただ、組織内のダイバーシティは進みましたが、真の意味でのインクルージョンという点では、我々もこれからです。
 国籍やジェンダーの垣根を越えるだけでなく、多様な経験や視点を尊重する環境を実現するために、私の直下組織として「D&I Council」を発足、本気で向き合っていきます。
 組織はすぐに変わるものではありませんが、コツコツ続けることでメルカリらしいD&Iのあり方が生まれていくと期待し、年単位で模索していきたいと思っています。

足元が固まったメルカリの「次」

 経営とは、無限の打ち手がある将棋のようなものです。極端な話、線の上にも駒を打てます。
 あらゆる選択肢がある中、日々の決断の積み重ねで、会社の方向性が決まる。
 早く決めることより、“正しい”決断を導き出すことが重要です。
 しかし、そのときに会社がやりたいこと、置かれているフェーズによって正しさの基準はまったく異なるので、決めた瞬間には、それが本当に正しいかどうかは誰にもわかりません。
 だから、まずはできる限りの情報を集め、あらゆる意見を考慮した上で決定したい。それが自分の考えとは違う結論になっても、みんなで議論して合意すれば、最後は「Disagree and Commit(同意はしないけれどコミット)」できます。
 もし何かが違っていたら、議事録に立ち戻って、何が考慮できていなかったか再度議論して、間違いを認め軌道修正する。
 徹底した議論重視の姿勢は、メルカリの意思決定のカルチャーとして根付いてきました。
 上場以来、メルカリJP、メルペイ、メルカリUSの3事業に集中し、一定の成果を出すことができたのも、あらゆる意見をぶつけ合ったからこそ。それが今の我々の現在地なんです。
 現在、フリマアプリ「メルカリ」の利用者数は月間1904万人、流通総額は年間7566億円に拡大。
 2017年11月には金融サービスを手がける・メルペイを設立。2018年6月にはマザーズに上場しました。
 グローバルにおいても、スマートフォンを活用したCtoCビジネスのコンセプトがUSで広がりを見せはじめ、やってきたことは間違っていなかった、世界のマーケットにもポテンシャルがある、という思いを今は強めています。
 今後、国内ではメルカリのユーザー数を2倍、3倍に拡大させ、テクノロジー導入による安心・安全ももっと追求していきたい。
 サービスの透明度を上げていくことは、グローバルの成功にもつながっていくでしょう。
 しかし、日本とUSの実績だけでは、日本発の“グローバルなプロダクト”とは言えません。進出エリアを広げるチャレンジは今後も続けます。
 2021年1月には、新規事業の企画・開発・運営を手がける株式会社ソウゾウを設立。4月には暗号資産やブロックチェーンに関するサービスの企画・開発を行う株式会社メルコインもスタートしました。
 これは、3年前であればできなかったこと。しかし、今、我々にはメルペイで培った金融ビジネスの免許取得や法令遵守の知識があり、収益性を高めてきた実績があります。
 ソウゾウも2019年に一度クローズしましたが、現在、新規事業の土台となる人的アセットやノウハウの蓄積が進み、新生ソウゾウとしてチャレンジに踏み出せるタイミングが来た。
 メルカリは、いまやメンバーが1700人を超える大きな組織になりました。
 積み重ねてきたアセットを活かしながら、世の中に対してより大きなインパクトのある事業にチャレンジできるのが今のメルカリのオポチュニティです。
 大きな組織になると動きが遅くなる、守りに入るという先入観があるかもしれませんが、少なくともメルカリにおいては当てはまらないと言い切れます。
 3事業に集中して手応えを得た今だからこそ、メルカリをコアに周辺事業を広げていく。
 テックカンパニーとして、まさに拡大フェーズにあるのがこれからのメルカリなのです。