脱炭素社会実現の鍵としてモビリティーの電動化が挙げられ、電力エネルギー分野との連携や、エネルギー×モビリティーのプラットフォーム構築など、eモビリティーの普及拡大に向けた一層の取り組みが必要な局面を迎えている。モビリティーに関わる位置情報、エネルギーデマンドに関わる情報、充電インフラなどの設備情報の効果的でセキュアな連携の形はどうなるか。第3回ではプラットフォームや分野を横断したデータ連携について展望する。

 ◆フリート&エネルギーマネジメント
 商用車や配送トラック、タクシー、バスでは、車両と運行の管理がシステム化されている。eモビリティーに転換していく過程では、これらフリート(業務用・事業用車両)管理システムに、オフィスや駐車場など充電インフラが設置される拠点のエネルギーマネジメントを統合することで、TCOや環境価値を評価することが重要となる。このシステムは事業者でクローズしているため、車両IDを付加した形で車両と拠点の充電インフラのデータ連携を行うフリート&エネルギーマネジメントシステムが考えられる。乗用車のシェアリングの際にもこのシステムは有効な形態となろう。
 シェアリングの乗用車・商用車、タクシー、バスなどのeモビリティーと、鉄道などの公共交通との横連携を行えば、様々なモビリティーをシームレスにつなぐことができ、都市内や都市間の移動に格段の利便性をもたらすMaaSが実現する。スマートMaaSと呼ばれるパーソナルモビリティーから公共交通までを包含的かつオープンに連携するプラットフォームも検討されている。

 ◆フレキシビリティー・プラットフォーム
 個人所有の乗用車やシェアリング、商用車・トラック・バスなどeモビリティーが幅広く普及する断面では、配電ネットワークの充電負荷集中や分散型再生可能エネルギーとの協調など、電力システム側との協調が重要となってくる。
 自動車会社のテレマティクスや前述のフリート管理システムと、配電ネットワーク側のDERMSとのシステム連携が期待される。これは、eモビリティー側にとっては停車時間にエネルギーシェアを行うことによる車両の利用率向上、配電ネットワーク側は需要家側機器による潮流制御をうまく活用しての設備の利用率向上という、ウィンウィンの関係を狙うものである。
 各種eモビリティーからの位置情報とSOC情報を、各事業者や個人の情報を秘匿しながら集め、電力ネットワークの運用情報と突き合わせる一段進んだフレキシビリティー・プラットフォームが必要となる。

 ◆スマートシティーへの展開
 eモビリティーが持つ位置情報やSOC情報を、様々な社会システムと連携することにより、新しいサービスの創造も期待されている。街区のストリートカメラとの連携で、歩行者や他のモビリティーと決して衝突しない自動運転システムを構築できるかもしれない。スマートメーターデータと合わせれば、人の移動・居住を通したエネルギー・フットプリント(およびカーボン・フットプリントも)のモニタリングも可能となる。公共の充電インフラ・駐車スペースとの情報連携は、eモビリティーの充電ナビゲーションやシェアリングシステムに有効であり、既に様々な取り組みが行われている。
 これら様々な情報を公共データを具備した都市のGISや3D空間マップと統合することで、道路混雑の有無や都市環境の向上、停電時エネルギーシェアによる電力レジリエンスなど、スマートシティーとしてのいろいろなコンテンツが見えるようになる。この段階では、eモビリティーが持つ位置情報とSOC情報のビッグデータをセキュアに流通させる情報銀行やデータ連携基盤の仕組みも必要となろう。

【用語解説】
◆TCO(Total Cost of Ownership)
導入費用に運用期間全体の維持・管理費までを含めた総所有費用。eバス・eトラック導入に当たって車両費用、電気料金、メンテナンス費用、税金などを含めた評価に用いられる。

◆テレマティクス 
テレコミュニケーションとインフォマティクスから作られた造語。モビリティーなど移動体に双方向通信を利用してデータ収集やサービス実装を行う場合に用いられる。

◆DERMS(Distributed Energy Resource Management System)
太陽光・風力発電、蓄電池、電気自動車、自家発電設備、需要家側設備などの分散型エネルギーリソースを統合的に管理・制御するシステム。

◆SOC(State Of Charge)
eモビリティーのバッテリーの残存容量であり、外部へ供給可能な電力量。

電気新聞2021年2月1日