(ブルームバーグ): インドのベンガルール(旧バンガロール)のアウターリングロード周辺はかつて世界的な金融機関のバックオフィス(事務管理部門)の中心だった。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が発生する前は、米ゴールドマン・サックス・グループやスイスのUBSグループなど、付近のオフィスビルに入居している企業の従業員数千人がリスク管理から顧客サービス、コンプライアンス(法令順守)に至るあらゆる業務で重要な役割を果たしていた。

これらのビルは現在、空っぽの状態だ。ベンガルールをはじめインドの大半の地域で感染者が急増しており、数カ月にわたり実施してきた在宅勤務の運用も難しくなりつつある。体調を崩したり、親族や友人のために酸素などの重要な医療用品を探すのが急務となった従業員が増えているためだ。

英銀スタンダードチャータードは先週、インドのスタッフ2万人のうち約800人が感染したと発表。UBSの一部チームでは従業員の25%が欠勤していると、同社幹部1人が失職の恐れがあるとして匿名で語った。米ウェルズ・ファーゴの幹部1人によれば、共同ブランドのクレジットカードや送金、リワード・プログラムなどの業務に支障が出ているという。

銀行はこれまでのところ他のオフショアセンターへの業務移管による大きな混乱を避けてきたが、インドのコロナ危機で、数十年かけてバックオフィス機能を同国にアウトソーシングしてきた各行にとってほとんど想定外のもろさが露呈した。世界の他の地域ではワクチン接種が景気回復の追い風になっているが、インドのコロナ禍は深刻化しつつあり、ウォール街の金融機関のバックオフィス機能にボトルネックが生じるリスクが高まっている。 

調査会社ガートナーのシニアディレクターアナリスト、D・D・ミシュラ氏らは先週のリポートで、「これはインドだけのローカルな問題ではなく、世界的な危機だ」と指摘。現在の波は「大きく広がる」見通しで、同国在勤のスタッフを擁する組織は「必要に応じて計画を練り、対策を取る必要がある」との見方を示した。

インドの新型コロナウイルス感染者数は累計で2100万人を超え、うち約700万が4月中旬以降の増加分だ。ベンガルールを州都とするカルナタカ州では、1日当たりの新規感染者数が初めて5万人を突破。そのうちの約半分がベンガルール市内だった。

金融大手の3大主要拠点であるベンガルール、デリー、ムンバイでは、感染率が警戒水準に達しており、地元当局は厳格な移動制限を発令している。

ウェルズ・ファーゴの従業員1人によれば、一部の業務はフィリピンに移され、遅れを取り戻すため深夜シフトの作業も行っているという。同行のインド従業員は約3万5000人で、自動車、住宅、個人ローンの処理や集金のほか、口座の開設・閉鎖などで顧客サポートを担当している。同行にコメントを求めたが、返答はなかった。

UBSはポーランドなどのセンターに業務を移していると従業員1人が明らかにした。ムンバイとプネ、ハイデラバードの従業員計8000人の多くが欠勤しているためだ。

スタンダードチャータードは一部の業務をクアラルンプールや天津、ワルシャワに移し、バークレイズもインドから英国に一部機能をシフトしている。

インド政府が昨年、全土でロックダウンを開始した際、欧州銀行監督機構(EBA)は報告書で、コールセンターなどのサポート機能をアウトソースする動きは「これら銀行をオペレーションリスクにさらした」と指摘していた。

世界最大の封鎖に放り込まれた野村やバークレイズ-欧州は影響を検証

原題:Wall Street Giants Get Swept Up by India’s Brutal Covid Wave (1)(抜粋)

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