Culture:経緯報告・NFTで記事が売れた件

Culture:経緯報告・NFTで記事が売れた件

Deep Dive: New Cool

これからのクール

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ゲームだけでなく、アートやファッションの世界でも注目を集めつつあるNFT(Non-fungible token、非代替トークン)。今年3月、QuartzはNFTが正統性を担保するニュース記事が変換されたデジタルデータを販売、1,800ドルで落札されました。担当したレポーターによる舞台裏をお送りします(英語版はこちら)。

Image: Bárbara Abbês for Quartz / Photo by Reuters

🎤 本記事を執筆したQuartz記者に質問してみませんか? こちらからいただいた質問に記者が直接回答し、Quartz JapanのPodcast内で紹介する予定です。

3月18日から22日までの4日間のオークションでは、NFT専門のアートギャラリーzontedが、Quartzの「NFTとして販売された史上初のニュース記事」(元記事はこちら)を、1ETH(落札時は1,800ドル)で落札しました。取引で生まれた利益は、恵まれない環境にいる女性ジャーナリストを支援するローレン・ブラウン・フェローシップに寄付されます。

購入したギャラリーは、NFTのマーケットプレイス「OpenSea」上に数十点のデジタル作品を出品しています。デジタルアーティストBeepleのデジタルアートを6,900万ドルで購入したシンガポールのバイヤーと同じように、彼らもまた、NTFの売買によって利益を生み出そうとしているようです。

Brief History

NFTと10年

  • 2012年:Bitcoinユーザーが「デジタル資産が移動した証拠」としてブロックチェーンにメタデータを記録
  • 2014年:Kevin McCoyとAnil Dashが「ブロックチェーンを利用した、デジタル作品の所有権を主張するためプラットフォーム」を発明(「マネタイズされたグラフィック」と称する)
  • 2017年6月:Matt HallとJohn Watkinsonがイーサリウム・ブロックチェーンで画像を取引するためにスマートコントラクトを活用
  • 2017年11月:デジタルネコの取引が加熱したゲーム「CryptoKitties」の開発元が2,800万ドルを調達
  • 2018年4月:MLBが、NFTのトレーディングカードを発行するためにゲーム開発会社Lucid Sightと提携
  • 2021年2月:ツイッターのCEO、ジャック・ドーシー(Jack Dorsey)が「世界初のツイート」とリンクしたNFTを290万ドルで販売
  • 2021年3月:デジタルアーティストBeepleの作品が約6,900万ドルで落札

Buying QR & Hash

画像と文字列をご購入

Quartzが発行したNFTがその独自性を担保する対象は、SVG形式の画像ファイルです。記事の見出し、著者名、本文、そして記事へとリンクされたQRコードがデザインされています。基本的には表に選手の写真が、裏にプロフィールが記載されたNBAのトレーディングカードと同じです。

実際のカードではなくデジタルデータなので、裏返して選手のデータを読めるわけではありません。ただ、通常の記事では目にすることの少ない関連情報を埋め込みました。著者のメールアドレスやTwitterアカウント名に加えて、トークンが作成される直前に記事を編集した担当者の名前や、Quartzの記事データベースに登録する際に必要なメタデータなどです。

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NFTとともに売買される他の作品と同様に、購入の際にはEthereumブロックチェーンが用いられました。そこで実際に起きたのは、トランザクション・ハッシュ(「鋳造」されたNFTが購入者に譲渡されたことを示す、ユニークな文字列)のやり取りです。「882f5」で終わる64桁の文字列が、記事のデジタルデータの所有権を示します。もうひとつのユニークな識別子はトークンIDで、Quartzの記事の場合は「94113」でした。

購入者はこれらの文字列に対してお金を支払い、デジタルデータの所有権を得ることになります。

バーチャルな所有権なので、少し不安定なものにも思えます。例えば、プラットフォームであるOpenSeaが閉鎖された場合、サーバーに保存されたデータは消えてしまうかもしれません。デジタルデータとその独自性を保証するNFTの連関が失われる可能性があるのです。そうなると、バイヤーの手元に残るのは、デジタル化された記事のデータのみになります。ピカソの絵を所有していても、それがピカソの絵であることを証明できない状況と同じともいえます。

HOW TO SELL

NFT販売の手引き

Quartzが取引に要したお金は、250ドル程度でした。NFTをブロックチェーン上に「鋳造」するために支払う200ドルの「ガス料金(取引手数料)」と、トークンの所有権をバイヤーに譲渡するための手数料50ドルが含まれています。

購入者がNFTを二次販売すると、Quartzはその売上の10%を得ることができます。ちなみにOpenSeaは、販売額の2.5%を手数料として受け取っています。

それらすべてのコストは、イーサリアムで支払う必要がありました。ただし取引開始当日、デビットカードからイーサリアムを直接購入するための決済システムが機能していませんでした。そのため、暗号通貨取引所「Coinbase」のアカウントを作成しました。イーサリアムを購入してウォレットに送金し、手数料を支払うという遠回りな方法をとることになりました。

入札はそれほど盛り上がりませんでした。最初の約12時間でQuartzは3つのオファーを受けました。3つ目のオファーが、落札したギャラリーによるものです。ただし、オークションが終了する3月22日までは、何も起こりませんでした。

落札後、NFTを作成・販売するために必要になるカーボン・フットプリントも計算してみました。「carbon.fyi」というサイトでは、特定のイーサリアムアドレスのカーボン・フットプリントを把握することができます。記事の取引は、267kgの二酸化炭素排出量に相当するものでした。例えばロンドン〜ローマの往復フライトでは、乗客1人あたり234kgの二酸化炭素が発生します。結局、ホンジュラスに風力発電機を建設することによって生まれる1,000kg分のカーボンオフセットをNFTマーケットプレイスの「Offsetra」から5ポンド(7ドル)で購入しました。

What we dit

Quartzがやったこと

  1. マーケットプレイス「OpenSea」にアクセス
  2. デジタル資産を管理するためのブラウザ拡張機能「MetaMask」をインストール
  3. 記事本文やキービジュアル、記事へリンクしたQRコードを1枚の画像として、アップロード
  4. 手数料として250ドルをイーサリウムで支払う
  5. 入札を待つ
  6. 落札後、取引に必要となった二酸化炭素排出量と等価のカーボンオフセットを購入

FUTURE OF MEDIA

ニュースの価値とは?

NFT史上初となるニュース記事の掲載と販売は、業界内で話題を呼びました。ハーバード大学でニーマン・ジャーナリズムラボを創設した、ジャーナリストのジョシュア・ベントンは、キャッシュが過剰に流入しているNFTの市場と、デジタルメディアがサブスクリプションビジネスのために直面している困難とを比較し、こう述べています。

「取引がどんなに馬鹿げたものであっても、最終的な価格がいかに高騰していようと関係ありません。商品としてのニュースの価値と、市場がそれに支払う金額一致することはほとんどないことを思い出させてくれるだけです。Quartzの記事に入札したn00bmind、jarzod、zontedの3者は、記事のスクリーンショットに大金を払おうとしました。しかし、彼らはTwitterのタイムラインに流れてきたニュース記事のリンクをクリックして『月額10ドルを払わないと読めない』と言われると、文句を言うかもしれません」

消費者は、ふたつの要素から商品の値を判断します。ひとつは表示された価格、もうひとつは製品やサービスがもたらす価値です。

このふたつは必ずしも一致するわけではなく、現在のNFTバブルともいえる状況では、目まぐるしく変化する市場評価と冷静な判断を行き来することになるでしょう。

GameStopの株価が1株あたり1,000ドルに向かって急上昇した場合、他の株銘柄は過小評価されているのでしょうか。デジタルアート作品が6,900万ドルで売られていたら、物理的なアートを所有する権利は重要ではないと言い切れるのでしょうか? 記事のデジタルデータが1,800ドルで売れるとして、その記事にはどんな価値があるのでしょうか。

🎤 本記事を執筆したQuartz記者に質問してみませんか? こちらからいただいた質問に記者が直接回答し、Quartz JapanのPodcast内で紹介する予定です。


COLUMN: What to watch for

NFTはエコじゃない?

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Image: Liana Sposto

米国を拠点に活動しているアーティストが、デジタルデータを印刷した作品を米国内の購入者に発送するとします。そのとき計上される二酸化炭素排出量は、2.3kg。ガソリン車で少しの時間移動した場合に排出される量です。一方、NFTとして作品を取引した場合はどうでしょう。正確な算出はかなり難しいですが、すべてを合計すると128kgの二酸化炭素を排出することになります。同じガソリン車で、800km移動するのと同じです。

NFTの二酸化炭素排出量は、イーサリウムのブロックチェーンが取引を検証するために、大量の電気を使う必要があります。イーサリウムが取引を検証する仕組みを変更することによって、もっと消費電力は下げられると主張する人もいます(NFTとカーボンフットプリントについて扱った英語版はこちら)。

(翻訳・編集:矢代真也)


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