[東京 6日 ロイター] - アジア開発銀行(ADB)の浅川雅嗣総裁はロイターとのインタビューで、正式に発足した「アジア・太平洋税務ハブ」について、途上国財政の強靭(じん)性を高める必要があると狙いを語った。債務の多くがドル建てのため、米国が金利正常化に傾けば途上国通貨に減価圧力がかかりかねないとの懸念も示した。インタビューは日本時間5日にオンライン形式で実施した。

域内ハブは、アジア・太平洋地域の国々の間で租税政策や税務行政に関する知識を共有するための仕組み。ADBが3日に設置した。

浅川総裁は、対国内総生産(GDP)に占める税収の割合が低い域内の構造問題に言及。「徴税能力の問題もあるが、改善の余地は大きい」と語り、域内ハブ設置の意義を語った。

浅川氏によると、税収の割合が最も低いのは東南アジアの14.8%。経済協力開発機構(OECD)平均では24.9%なのに対し、南アジアは15.3%、東アジアは16.4%にとどまる。

浅川氏は、途上国の債務残高や財政赤字が急速に積み上がっていることも懸念。「コロナ対応に伴う財政出動を取りやめるわけにもいかず、中長期的な健全性に不安がある」と述べた。さらに、「途上国の資金調達はドル建てが多い。遅かれ早かれ米国の金融政策が正常化プロセスに移行すれば、途上国通貨に対する減価圧力がかかる事態も想定され、財政の強靭性を高めることが必要」と語った。

環境問題へのADBの対応に関しては、「アジア太平洋地域は気候変動の影響がシリアスな地域でもあり、これらの対応は避けて通れない喫緊の課題」との認識を示した。加盟途上国のNDC(パリ協定に基づく温室効果ガス排出削減目標)の上積みに向けて「化石燃料依存を減らす技術導入などを通じて途上国を支援していきたい」と述べた。

ADBは、気候変動関連の資金支援で2019年から30年にかけ800億ドルの累計目標を掲げる。浅川氏は、年間平均67億ドルの目標に対して「19年は65億ドルを資金支援したが、コロナ対応が先行して20年の実績は43億ドルにとどまった」とした。「今年は60億ドルを超す状態になる見通しで、来年以降もそのモメンタムを維持して2030年までに累積で800億ドルの目標を達成したい」と語った。

国軍による市民への暴力行為が続くミャンマー情勢については、「持続的な経済社会発展に深刻な影響が出かねず、深く憂慮している」と述べ、強い懸念を表明した。ADBの見通しではアジア太平洋地域の21年実質GDP成長率が前年比7.3%に回復するのに対し、ミャンマーの成長率はマイナス9.8%にとどまる。

ADBは13年から19年にかけて計24億ドルのミャンマー向け融資や助成を行ってきたが、今年2月以降は新規融資を見送っている。浅川総裁は今後の対応について「株主である加盟各国政府や関係国際機関などとの議論を続けながら様子を見たい。状況に応じて臨機応変に考えていく」と述べた。

ADBは49の域内加盟国・地域を含め68の加盟国・地域で構成され、20年の融資、無償資金協力などの総額は316億ドルと過去最高だった。ADBによると、このうち約半分がパンデミックへの支援に充てられた。