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洋上風力発電と直流送電について

地球温暖化対策として、再生可能エネルギーが注目されている昨今ですが、その中でも大規模洋上風力発電は、再エネの切り札といわれています。

日本での洋上風力発電については、まだこれから本格的に開発が進められるという段階ですが、その洋上風力発電の実現にあたり、多端子直流送電技術の開発が重要視されています。海上の風車が発電した電気を陸上まで送り届けるための技術です。

本記事では、多端子直流送電とは何か。メリットと技術的課題についてまとめていきます。

そもそも直流送電とは?

そもそも直流送電とはどのようなものでしょうか。現在、社会の電力インフラを網羅している送電線のほとんどは交流です。

発送電システムを初めて社会に実現したのは、かの有名な発明王、エジソンでした。エジソンが採用した送電システムは直流方式でした。前述のように、現在は交流方式が主流ですが、直流の何が問題だったのでしょうか。

電気を送る際、必ず送電損失というものが生じます。これは、送電線の電気抵抗によるもので、電線を流れる電流の2乗に比例します。つまり、電力(=電圧×電流)を社会の各所に届けようとするとき、同じ電力を送るなら、極力電圧を高くする方が送電損失を抑えることができて、有利になります。

この、電圧を高めるという点において、交流方式は直流方式に対して圧倒的に有利でした。これが、交流方式が世の中の主流になった大きな理由です。ただし、近年、直流×交流の実用的な変換技術が確立されたことと、交流には「表皮効果」という別のデメリットもあることなどから、以前よりも、直流方式は見直されてきています。

特に高圧での大容量かつ長距離の直流送電は、コストメリットがあり、海底ケーブルの敷設においては、敷設距離が50㎞以上になるならば、交流送電よりも直流送電に軍配が上がるようです。

多端子直流送電の仕組み

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多端子直流送電の模式図
(出典:来るべき洋上浮力実用化時代に向けた系統技術,加藤寛・東太郎,Journal of JWEA,2018)

多端子直流送電は上の図のようなイメージになります。風車のある各サイト(以下、WF(wind farm)と略します)から、交流で発電された電気が最寄りの洋上変電所に送られます。洋上変電所で直流変換された電気は陸上変電所まで直流で送電されます。陸上変電所で再び交流変換され、電力系統に供給されます。

図に表されているように、洋上変電所は複数あり、横並びに配置され、それぞれ接続しあい、かつ、それぞれ陸上変電所とも接続しています。このような構造の直流送電を多端子直流送電といいます。

多端子直流送電のメリット

では、多端子直流送電のメリットをまとめていきましょう。

直流送電のメリット
先に示した、コスト上のメリットがあります。

故障に対する耐性が高い
もし、陸上への送電設備の一つが故障しても、複数の送電網があるので、故障経路を迂回しての送電が可能です。発電を継続しながら、修理対応ができます。

日本の地形に合っている
技術的に水深200m以上での洋上風力発電所の建設は困難とされています。日本周囲の海域は、遠浅ではなく、陸地との距離が遠くなると水深が大きくなります。そのため、日本での洋上風力発電開発では、沿岸部近海での帯状の設置を検討するのが有効と考えられています。

この場合、先の図に示すような横並びのWFを結ぶ多端子直流送電との相性が良いといえます。

多端子直流送電技術の課題

システム全体の制御技術の確立
洋上変電所、陸上変電所とも複数存在しているので、それぞれの変換装置の制御を行い、潮流(送電)のコントロールが必要です。

事故時の検出と遮断技術の確立
メリットの項目で、故障が起きても、故障経路を迂回しての送電が可能ということを書きましたが、これができるためには、故障箇所の検出と、健全な送電線の運用を維持しながら、故障部を速やかに遮断する技術の確立が必要です。因みに直流は、交流に比べ、送電の遮断についてはデメリットを抱えています。

終わりに

洋上風力発電の実現のキーテクノロジーといわれている、多端子直流送電技術についてまとめました。

エネルギーMIXにおける日本の再生可能エネルギーの割合は、他の先進国に比べ、大きく後れを取っているのが現状です。洋上風力発電がこうした遅れ挽回の切り札になれれば、いいですね。

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