日米両首脳が共同声明に「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」と明記した米東部時間4月16日の歴史的会談。それでは、当事者の台湾はどう考えているのか。台湾の駐日代表部に当たる台北駐日経済文化代表処ナンバー2の蔡明耀副代表は共同通信社の単独インタビューで、抑止力の維持が必要と強調する一方、軍備拡張競争にならないよう求めた。台湾が成功した新型コロナウイルス対策では、世界保健機関(WHO)に参加し、各国の対策に貢献したいとの意向を明らかにした(共同通信=松浦篤)
―改めて、日米首脳会談の結果をどう受け止めるか。
「歓迎と感謝だ。日米が正しいメッセージを発信してくれた。台湾海峡の波は今、本当に高い。中国の軽挙妄動があるかもしれない。戦争を望まない。海峡の平和と安定のため日米台で行動しなければならない」
―日米首脳の共同文書での台湾言及は、冷戦期の1969年の佐藤栄作首相とニクソン大統領の会談以来。歴史的な文書と言われている。
「日米だけでなく東アジアの安定にとっても重要な文書だ。これから米国の世界戦略にとって日本が必要。日本も行動を求められると思う」
―バイデン米政権は台湾との関係を強化した。
「米国は、中国が経済発展すれば民主化も進むと期待したが、そうではなかった。自由や人権を抑える中国共産党の体質は全世界に暴露された。米国は自国の利益だけではなく、世界の自由や民主主義のために適切な行動を取っている」
―米インド太平洋軍が、台湾侵攻は「6年以内」に起きる可能性があると指摘した。米国は中国による台湾侵攻を本気で懸念している。
「もし中国が台湾に侵攻したり、衝突したりすれば大変なことになる。だからこそ米国はこの4年間、超党派で台湾を支持している。バイデン大統領も今のところ本当に頼もしい行動を取っている」
―だが、中国は台湾を自国領と主張している。
「そもそも中国共産党が台湾を統治したことは一度もない。『台湾は中国の核心的利益』というのは中国の勝手な主張だ。日本は、1945年に中華民国(当時)に植民地だった台湾を返還した」
―日本の軍事的貢献への期待は。米国のミサイル配備を日本が受け入れるべきか。
「中国の台湾への侵攻を防ぐため、日本の役割はより重要になった。ただ武器の配備は日本や米国の判断で私が言うことではない。中国が侵攻してきて応戦となると大変なことになる。戦争を起こさせないように、抑止力の維持が必要だ」
―軍備増強ではこの地域は安定しないか。
「軍拡競争には切りがない。抑止力を高めるといって中国との軍拡競争になるのは駄目だ。知恵を絞って政治的、外交的手段で解決してほしい」
―中国は日米連携にどう対処すると考えるか。
「米国と対立している中国は、日本の協力が必要だ。日本は自分を過小評価している。日本にとって中国と対等な関係を構築できるチャンスだ」
―半導体世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が茨城県つくば市に研究開発拠点を新設する。
「日本の優秀な人材が最先端の製品を開発し、台湾の生産性を生かして多くの製品を製造できることを期待している」
「日本が中国の半導体サプライチェーン(供給網)から抜け出すのは当然重要だ。台湾製品が中国に対し半導体技術でリードし続けるため、日本の人材に期待する」
―日本に工場をつくるように促さないのか。
「TSMCが日本に工場を設立するかについては答えられない。いろいろな条件や状況に基づいて投資するか否かを判断するでしょう」
―WHOは、新型コロナ対策に成功した台湾のオブザーバー参加を認めていない。
「日本政府も何度もオブザーバー参加の必要性を発信してくれた。ウイルスは人も国も選ばない。全世界が一致団結して協力しないといけない」
「中国は台湾の健康や衛生を守ると言っているがうそだ。中国は政治的理由で台湾をWHOから排除した。オブザーバー参加して世界各国の公衆衛生促進に貢献したい」
―台湾は、東京電力福島第1原発事故に伴う日本産食品の輸入規制を撤廃していない。
「台湾と日本の政府が互いに円満な方法で解決しなければならない。信頼関係に基づいて安全安心な食品をお互いに提供しなければならない」
―今年の環太平洋連携協定(TPP)の議長国は日本だ。
「米国の離脱後、日本がTPPのリーダーシップを取っている。台湾がTPPメンバーになるため、主導的な役割を果たしてもらいたい」
―輸入規制を撤廃すればTPP加入にプラスではないか。
「政府間が互いに努力しないといけない。今のところ私はそのことに答えられない。台湾と日本の間では重要な議題となっているからだ」
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さい・めいよう 1953年台湾生まれ。アフリカで唯一、台湾と外交関係があるスワジランド(現エスワティニ)の大使や、台北駐大阪経済文化弁事処(総領事館に相当)処長などを経て、2019年1月から現職。68歳。