日本国民は「五輪も乗り越える」バッハ会長の“発言”に批判噴出 ⇒ 実際はこう言っていた

バッハ会長の5者協議での発言内容を検証しました。
東京五輪・パラリンピックに向け5者協議で、IOCのバッハ会長の発言を聞く大会組織委員会の橋本聖子会長(4月28日撮影)
東京五輪・パラリンピックに向け5者協議で、IOCのバッハ会長の発言を聞く大会組織委員会の橋本聖子会長(4月28日撮影)
時事通信社

スポーツ紙が報じた、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長の「発言」が波紋を呼んでいる。記事の内容は、日本国民がコロナ禍の「五輪も乗り越えることが可能」とバッハ会長が発言したというもの。これに関して政治家や著名人からも「五輪は乗り越えるものなのか?」と疑問を呈する声が噴出した。

しかし、バッハ会長の実際の発言を正確に日本語に訳すと、五輪を「乗り越える」という趣旨ではなかった。正確には「逆境を乗り越えてきた能力が日本国民にあるからこそ、この難しい状況での五輪は可能になる」という意味の発言だった。

今回の騒動の経緯を検証した。

■スポーツ紙は何と報じた?

バッハ会長の発言は、4月28日の5者協議での物だった。東京オリンピック・パラリンピックの観客数の上限について組織委員会の橋本聖子会長や、小池百合子都知事とテレビ会議を実施した。

バッハ会長は冒頭あいさつの中で、さまざまな逆境を乗り越えてきた日本国民について触れた。テレビ会議の模様は報道陣に公開されており、同時通訳が以下のように流れた

「これを日本国民は示しておられます。このへこたれないということは歴史を通して証明されていることであります。この能力は日本の国民はお持ちであると言うことで、逆境を乗り越えてこられたのです。今回もオリンピック大会も非常に厳しい状況である中で、乗り越えることが可能に。オリンピック大会が可能になってくるわけであります」

これを受けて、バッハ会長が「五輪も乗り越えることが可能」と発言したと複数のスポーツ紙が報じた。

「粘り強さ、逆境にあってへこたれない精神を日本国民は示しています。逆境を乗り越えてきたことは歴史を通して証明されている。五輪も厳しい状況でも乗り越えることが可能になってくる」

「日本の社会は連帯感をもって、しなやかに対応している。日本国民の精神は賞賛の的です。粘り強さや、へこたれない精神を日本国民が持っていることは、歴史を通して証明されています。逆境を乗り越えてきました。今回の五輪についても、非常に厳しい状況であるなかで、乗り越えることが可能になってきます」

「日本の社会は連帯感をもってしなやかに対応している。大きな称賛をもっている。精神的な粘り強さ。へこたれない精神をもっている。それは歴史が証明している。逆境を乗り越えてきている。五輪も乗り越えることが可能だ」

■「五輪って『乗り越える』ものなんだっけ」各界から批判が噴出

一連の報道を受けて、SNS上では政治家や著名人から批判が噴出した。

日本共産党の志位和夫委員長は「五輪とは『乗り越える』べき困難・苦難なのか? 『乗り越える』べきは、コロナ危機であって、五輪ではない」として、オリンピック中止を訴えた。

作家の乙武洋匡さんも「五輪って『乗り越える』ものなんだっけ?」と疑問を呈したほか、タレントの麻木久仁子さんも「五輪が『逆境』だって言っちゃってますね。語るに落ちてます」と批判した。

■バッハ会長の実際の発言は?

しかし、実際のバッハ会長の発言は微妙にニュアンスが異なるものだった。5者協議のテレビ会議の席で、英語で以下のように言っていた。

The Japanese people have demonstrated this perseverance throughout their history.

And it’s only because of this ability of the Japanese people to overcome adversity that these Olympic games under these very difficult circumstances are possible.

これを日本語に訳すと「歴史を通して、日本国民は不屈の精神を示してきました。逆境を乗り越えてきた能力が日本国民にあるからこそ、この難しい状況での五輪は可能になります」というものになる。

すなわち「五輪を乗り越える」とは、バッハ会長は言っていなかった。

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