「弱さを見せられるリーダーは強い」日本IBMデジタルサービス井上社長
日本IBMデジタルサービスの井上裕美社長。DXの時代、共創とコラボレーションがカギになると言う。

「弱さを見せられるリーダーは強い」日本IBMデジタルサービス井上社長

リンクトインが実施した2021年版「今、働きたい会社」日本ランキングで、4位に入ったIBM。歴史あるグローバル企業だが、時代に合わせて企業価値を伝える文脈を変える柔軟性を持つ。力を入れる施策の一つがダイバーシティ&インクルージョンであり、昨年は日本事業を統括する日本IBM傘下のグループ企業で話題を集める人事が発表された。

日本IBM出資の3社が合併して誕生した日本アイ・ビー・エム デジタルサービスに、最年少の女性社長として井上裕美氏が就任した。今後の戦略事業であるデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の一翼を担うと共に、ダイバーシティ&インクルージョンを社内外に伝える発信者としても注目を集めている。日本IBMグループの取り組みの現在地を、井上氏に聞いた。

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5月7日 12時から、井上さんをゲストにお招きしたLinkedIn News編集部Live!も予定しています。こちらもどうぞ、お楽しみに。

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――2020年7月に、日本IBM出資の3社が合併して誕生した会社のトップに就任しました。

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井上 私が代表取締役社長を務める日本アイ・ビー・エムデジタルサービス(日本IBMデジタルサービス)は、もともと製造業や金融業など、異なる業界分野で強みを持つシステム会社3社が一緒になって発足しました。

デジタル化・情報化をいかに深耕するかは以前から様々な業界における大きな経営課題でしたが、この数年は特に関心が高まっています。デジタルトランスフォーメーション(DX)へ向かう必要性は、働き方改革を通じた生産性の向上やニューノーマルな働き方の広がりと共に注目を集め、企業だけでなく官公庁も含めたあらゆる組織でDXの議論が展開されています。新型コロナウィルスによる複合的な要因も加わり、引き合いも加速しています。

――DXの本質とは何でしょうか。

井上 私たちは「あらゆる垣根を超えてつながっていくこと」だと考えています。従来、一つの組織や企業あるいは業界に閉じていたシステムやサービスが、境界を越えてつながり、それが新たな価値を創出する基盤になっていくイメージです。金融のフィンテックや健康関連のヘルステックなど、異なる技術や業態、組織のコラボレーションは今後さらに加速していくと思います。

目的やゴールが常に変わる時代

変化に適応するには、私たちも変わる必要があります。そのため、業種や分野でそれぞれ強みを持っていたグループ企業3社を一つに統合しました。システム構築やインフラ運用を実施しながら、新たなデジタル戦略の策定などを一体で提供することで、垣根のなくなる時代に対応します。これが新会社発足の大きな狙いの一つです。

――ビジネスのあり方は、具体的にはどう変わりますか。

井上 変化の早い環境に柔軟に対応するため、目的やゴール自体が変わる前提で事業を進めることになると思います。

私自身は、2003年に日本IBMに入社しました。国の社会インフラを支える仕事を担いたいという願いが叶って、公共事業を担当する部署に所属し、一貫して官公庁系公共系のシステムを中心に担当してきました。

これまでの仕事の多くは、常に明確な課題があり、それを解消することが目的として定められていました。従って、いかに安定したシステムを構築するか、いかにスピード早く、効率的な運用を実現できるかが重視されました。私たちの技術やサービスも、お客様が事前に定義した課題を解決するために、提供するという明確な関係がありました。

しかし、これからの時代は、そうしたビジネスばかりではなくなるでしょう。事業環境の変化が早く、お客様自身がどのような課題を解くべきか分からないケースも出てくるからです。「そもそも、どんな課題を解けばいいのか」といった相談も、持ち込まれる頻度が増えていくと見ています。

課題の解決以上に発見が大事

――課題解決だけではなく、課題発見の知見も求められるということですね。

井上 はい。当然、ビジネスの方法も進め方も変わります。顕在化していない課題を探すためにはどうしたらいいか。あるいは、企業の目指し戦略を考えた時、どの課題に取り組めばいいか。お客様と協力して課題を見つけていく必要があります。

では、これまでの価値を守りつつ、新たに変革すべき課題をどのように発見していけば良いでしょうか。私は「共創」や「コラボレーション」がカギになると思います。社会が抱えている課題を見つけるためには、広く他社や異業種の方と一緒に議論し、お客様と共創が不可欠です。課題意識を共有し、多面的にコラボレーションすることで、より大きな課題やビジネスに取り組むこともできます。

コラボレーションは社外だけでなく、自社組織でも求められるようになるでしょう。異なる組織で働く社員が強みを持ち寄って連携することで、新たな知見やアイデアが生まれる可能性が高まります。そうした連携を増やすことが、組織の潜在的な競争力向上にもつながります。

――コラボレーションを上手くビジネスにつなげるためには、どのような工夫が必要ですか?

井上 事業はつまるところ、人と人の関係をどう設計するかです。デジタル変革も、つまるところ推進していくのは人ですから、個々人の能力やモチベーションをどう解放するかを考えることが大切です。

私たちが特に意識しているのは、社員一人ひとりが自身の意見や考えを持ち、主体的、自律的に事業に関わってもらうことです。お客様の課題に対して、「自分ならどのような価値を提供できるのか」「自分ならどう変えていくのか」といった点を絶えず意識するように求めています。

心理的安心感の作り方

そのためには、意見を自由に表明できる安全な雰囲気作りが欠かせません。考えを一人ひとりの中に留めていてはもったいないですから、「自由に発言していいんだ」「主体的に意見を述べることが素晴らしいことなのだ」などと思ってもらえる場作りが、コラボレーションの創発にとって大切になると思います。

心理的な安心感を醸成するためには、ダイバーシティとインクルージョンの観点も必要です。それは、同じ考え方の集団だけで物事を進めるのではなく、多様な視点を取り込むことを意味します。性別、世代、障害の有無・人種・出身地などといった違いを越えて、能力を最大限に発揮できる環境を目指す必要があります。

互いの意見を尊重するためには、組織全員を認め合う努力も大切です。相手の話に耳を傾け、思いやりを持ちながらチームを導いていくようなマネジメントが必要となリます。

――実際にオープンでフラットな雰囲気を作っていくためにはどんな施策を打っていますか。

井上 基本的には、小さな工夫の積み重ねです。例えば、社内でのお互いの呼び方。私は「社長」と呼ばれることは、まずありません。ポジションはあくまでも、その時に与えられた役割なので、常にコミュニケーションは対等でありましょうと。こうした点にも目配りしておかなければ、本当の意味で多様な意見は出てこないと考えています。

フィードバックで強みと弱みを知る

もう一つ、人が主体的に働く上で欠かせないと考えているのは、自己認識力を高める点です。

IBMには伝統的にフィードバック文化が定着していて、自分の業務や仕事ぶりへの評価を受ける機会を設けています。同じチーム以外にも、人事上は利害関係のない社員とコミュニケーションをして、自分自身を理解できます。

この良さは何かというと、次第に客観的な視点で自分の強さや弱さが分かる点です。私も含め、多くの人は、意外と自分の強みや弱みを認識していません。フィードバックを受け続けていくと、次第に自分を客観的に理解できるようになります。

自分を深く理解できるようになると、自覚も芽生えてきます。「自分はここが弱いから、あの人に助けをお願いしよう」「自分はここが得意だから、あの人を助けられる」。他者と関わる動機付けにもつながります。

自己認識力を高める必要性

私自身も、自分を客観的に理解できてはっとしたことが、何度もあります。小学生になる2人の子供がいるのですが、ある時、「お母さんになってからの方が振る舞い方が対応方法がよくなった」というフィードバックをもらいました。

それまでは、自分の性格もあって、全て全力を出し切ることを良しとしていた面がありました。それが自分らしさだと思っていたんです。でも、子供ができると状況が変わります。

当たり前ですが、子供は自分の思い通りにならないし、仕事も計画通りには進みません。最初はそれに対して不満もありましたが、育児をしながら、知らず知らずのうちに考え方が変わっていったのでしょうね。すべて自分でやるのでなく、人に任せる信頼を大切にしようという姿勢が次第に育まれていったと思います。自分でも気づかなかった変化を、フィードバックで気付かされました。

私自身の考え方も変わりました。自分にとっては弱みだと思っていたことも、もしかしたら周囲には強みとなっている可能性もあります。自己を客観的に把握することが、円滑なコラボレーションにも大切です。

弱さも見せられるリーダーに

――組織におけるリーダーシップはどう変わりますか?

井上 フィードバックの影響が大きいのですが、一つは弱さを見せられるかどうか、だと思います。私自身は何が何でも一人で完璧にこなすという考え方から、「1人で全てはできないから、メンバーと協力して乗り越えていきたい」という発想も持てるようになりました。

先に触れたように、これからは共創やコラボレーションが大切になっていくでしょう。1人の力ではできることに限界があります。いかに人と一緒に大きな事業を成し遂げるかを考えた時、リーダーは社員をフォローしながら一緒に乗り越えていく意識を持つ必要があると思います。

助けを求められるか

もっとも、変化に強く、フォローが上手なリーダーは、弱さを見せることにも長けているのではないでしょうか。今は事業も複雑化していて、すべてをリーダー1人で担える時代ではありません。自分の弱いところはチームで共有して、得意な人に任せる。常に120%走り続けるリーダーだけでなく、時々の状況に応じて、「これはできないから助けてほしい」と発信して人を巻き込んでいくことが、より大切になっていくでしょう。

――そうなると、ダイバーシティーやインクルージョンの意識が更に必要になりそうですね。

井上 そですね。最新テクノロジーをお客様の変革のためにいち早く取り入れていくことは、私たちの使命です。同時に、既に存在するビジネスを安定かつ安心を持って運用することも求められます。

当社には、両輪のビジネスがあり、社員によっても得意な領域が異なります。両輪のビジネスにおいて、現場を安定的に支えることが価値だと主体的に考えて行動する社員も含めて、一人ひとりがイノベーションを起こすことができます。

技術変化が激しい時代ですから、スキルや専門性は絶えず磨き続けていく必要はあるでしょう。そうした意欲のある人には、学べる機会を会社としてどんどん用意していきます。自分のありたい姿に向かって、自走できる道筋を提示していくというのは、リーダーとしての私の責務だと思っています。

現状に満足せず、常に成長し続けていくという意識を持つこと。すべてのビジネスパーソンに求められるようになると思います。

—聞き手は 蛯谷 敏(Satoshi Ebitani)

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前田 亮

そのうち温泉でも行こうが、口癖。大金を動かしつつ、お江戸に参勤交代で常に金欠。ユダヤ人ボスからネバダで6つ、数字のテストを毎日受けています。かっこつけてリンクトインでは出来る大人の男を演じてしまう中身、普通のオッサンです。

2年前

たいへん示唆に富むお話、読ませていただきました。 自分の場合、時々、決めつけてしまうことがあるので、それは本当に避けなければいけない点です。 フィードバックとしては、自分の言うことは話半分で聞いていてほしいという、一種の完璧ではないという人間宣言ですね 汗

長谷川 祐子

ライター・翻訳者・ジャーナリスト/ビジネスとダイバーシティを軸にメディア発信・オウンドメディア制作支援・調査・翻訳・登壇・キャンペーン。属性・場所を超えて/リンクトイン日本2020トップボイス 最も人を惹きつけるクリエイター10人

2年前

友人がIBMで人事やっています。彼女は進行性の筋ジストロフィーを抱えながら、職域を限定されることなく多様性の一つとして受け入れられて働き続けています。このような企業で働けることをうらやましく思います。 心理的安心感のある空間をリンクトインでも作っていきたい。 井上さんのリンクトインライブも楽しみにしています。

中山 洋樹

メンタルコーチ、コンストラクションクリエイター:人に関わる様々な結びつきをデザインする(ライフサポーター・カウンセラー・メンタルコーチ)

2年前

凄く共感します。変化が激しく、情報の更新や情報量が多い時代だからこそチームで補完し合い、アンコンシャスバイアスの可能性を意識しながら複眼的に目標へと向かう事が大切になってくるのだろうと感じます。 さらに、リーダーの負担や時期リーダーの育成などに関わる時間も作りにくいことからも、チームで協力し合いながら進めていく事で時期リーダー候補の育成やそれぞれの主体性にも影響があるのだろうと感じました。

中内博昭 Hiroaki Nakauchi

🇺🇦ウクライナに平和を!三重中央開発株式会社 廃棄物処理業-機械エンジニア LinkedIn-CREATOR(English speaking) *つながり大歓迎*

2年前

デジタルツールを活用して業界の垣根を超えて、事業化できればより人間生活に豊かな社会が成就すると思います。

弱さを見せられる経営者は強い、心強い言葉です。私も弱さが全面に出てしまい、遅刻や二日酔いの時など、全てを社員に丸投げしていますが、それが本当は強さだと言うことがわかりました。

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