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3回目の緊急事態宣言  なぜ酒を出してはいけないの? 映画館や本屋まで閉める必要ある? 五輪は特別扱い?

まん延防止等重点措置が関西や東京では十分な効果を見せぬまま、3回目の緊急事態宣言に突入しました。しゃべらない映画館や本屋まで閉めるのはなぜ? なぜ五輪は特別扱い?公衆衛生の専門家にぶつけました。

新しい制度「蔓延防止等重点措置(重点措置)」の努力もむなしく、東京、大阪、京都、兵庫の4都府県は3回目の緊急事態宣言に突入した。

アルコールやカラオケを提供する店、映画館や百貨店(食品・化粧品以外)の休業など、強いハンマーを振り下ろす対策に、「ここまで必要あるのか?」という疑問の声も上がる。

「人の流れを止める」対策が打たれるにもかかわらず、国際的な人の動きを促す東京オリンピック・パラリンピックは実施するのも矛盾しているように見える。

変異ウイルスへの不安や、予防接種が行き渡らない不満も広がる中、3回目の緊急事態宣言をどう受け止めるべきか、国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授の和田耕治さんに再び聞いた。

※インタビューは4月24日夜にZoomで行い、その時の情報に基づいている。

まん延防止措置、失敗だったのか?

ーー「まん延防止等重点措置」は緊急事態宣言に至らないように打つ対策だったはずですが、結局重点措置は失敗だったのでしょうか?

重点措置は地域の感染拡大の初期に使う対策としては合理的な措置です。場所と対象を選んでピンポイントで対策を打つ。

しかし大阪では使うタイミングが少し遅くなりました。重点措置は最低限の要請から様々な追加の強めの市民への要請まで幅がありますが、強い要請に至らなかった。地域も大阪市だけでなく他の地域に早い段階で広げることもできたはずです。

反省としては、今回あらたにコロナ対策として法令に盛り込んで創った「新しい武器」である重点措置を手にした知事たちに、この武器をどう使うのかという情報が足りなかったということはあげられるでしょう。

最初の適用ですからもっと政府からも「それだけで足りてないのでは?」などと介入しても良かったのかもしれません。「いったん始まった重点措置の効果を見るまでは追加の対策ができない」と思ったのではないかという話も現地から聞きました。状況に応じて、追加の対策はできたのではないかと思います。

後からはなんとでも言えるのですが、今後、それぞれの知事らは地元の専門家を交えて迅速な意思決定ができるようにしておく必要があります。知事も断腸の思いで決定し、後に地元からは様々な批判が来る覚悟が必要です。

いずれにせよ、「もう新型コロナ対策として重点措置は使わない、使えない」ということではなく、次回はさらにうまく使いこなせるよう、各都道府県はどう使うかを今から考えておかなければなりません。

「ハンマー」を使う時に「どれにしよう?どう打とう」と慌てたところもあるようです。

使えるハンマーは何百通りもあるわけではないので、常に様々なハンマーを磨いておいて、「今回の場合はどれが効くか」と落ち着いて吟味できるようにする準備が必要です。

利点と欠点、感染を抑える効果、コストと、一般の人に受け入れられるかどうかを含めて見極める。多くの人の雇用や不満、そして経済損失と関係するのに、どのハンマーを使うか、市民の納得が得られる形になっていないようです。

緊急事態宣言も既に2回やったのに、どのハンマーがどう効いたのかの検証はもっとすべきだったと思います。

ーー検証が曖昧なまま第4波に突入している印象ですね。

そうです。変異ウイルスの影響はありますが、もう少し落ち着く日々を期待していました。残念ながら1ヶ月足らずで再度の宣言となりました。

3回目の緊急事態宣言、なぜ今、必要なのか?

ーー今回の緊急事態宣言はかなり強めのハンマーを打つことになりました。なぜ今のタイミングなのでしょうか?

大阪は11月の下旬から独自に飲食店の時短などをして、長い期間、対策を打ってきました。比較的落ち着き、感染者数は下がったと思います。このあたりまでは大阪はとても良い判断をされていたと思います。

しかし、長い期間の自粛後の急な反動が年度末にあり、幅広い年代層が繁華街などへ動きました。そこに変異ウイルスの拡大という新たな感染拡大要因が加わりました。

変異ウイルスは国内では都市から広がるだろうと考え、監視はされていました。関西から拡大することも予測できなかったわけではないですが、変異ウイルスの国内での影響が見えづらかったこともあります。

また、最悪を考えたくない意識もあったのか、市民にも危機感が伝わりづらい状況もあったのか、そうした様々な要因が重なるなかで結果的に今の状況に至っています。

東京は、変異ウイルスも増え始め、1日1000人規模の感染者に達するのは時間の問題です。ゴールデンウイークは受診しづらくなって、見かけ上感染者数が減る可能性もあるものの、今の段階では減る兆しは見えてきません。

重症者の患者の増え方や医療の負担増も見ていると、やはりここでハンマーを打たざるを得ません。大阪を教訓としながら早めに対策を打ちたい考えもあります。変異ウイルスでは40代、50代の重症者が以前より増えているようです。

ゴールデンウイークに大きな波が見えている中で、これ以上患者を増やさないようにしないとがん治療や交通事故など通常の医療もできなくなります。そういう事態は避けたい。

1月中旬の感染拡大では医療者にかなり負担がかかっていました。入院する人の多くが、「飲み会を開いていた」「旅行に行った」という理由で感染したことを医療者は知るわけです。「なぜ自分の感染リスクや命をかけて支えないといけないのか」と、心の中で患者に冷たい思いを抱いたり、つい言葉として発したこともあると聞きました。

しかし、少し落ち着くと、今度はそんな思いを抱いた自分を責めるのが医療者というものです。そのストレスの大きさを聞いた時、「現場の医療者にこんな思いをさせてはいけない」と強く思いました。患者を減らすことは公衆衛生が行政や政治などと連携して行う仕事ですから。


ワクチン接種が始まったのは大きな希望です。

ただ高齢者でも接種を終えるのは7月、8月になるでしょう。ワクチン接種が思うように進まないことも考えると、全ての人が接種を終えるまでなるべく大きな波を作らないことが目標です。

ワクチン接種が遅れたせいで自分の両親が感染したら、誰もが納得できないのではないでしょうか。そのためにもあと数ヶ月、できるだけ感染を拡大させないという目標は、比較的多くの方が支持されるのではないかと思います。

大事なのは酒を飲まないのではなく、対面で喋る場面を減らすこと 

ーーかなり強めのハンマーを打ち、酒やカラオケできるところは休業、映画館や百貨店の休業など、生活に影響が出ます。これほど強い対策が必要ですか?

どのハンマーを使うかは産業界ともすり合わせをする必要がありますが、今回は急過ぎました。23日の夜に宣言を出して、今日準備して、明日からでは大変です。企業も様々な予定があるわけで、経済活動への影響を減らす努力をすべきだったと思います。

宣言で何を減らしてほしいかといえば、結局は「3密」です。

要は「人が集まって」「声を出して」「換気の悪いところに集まる」ことを避けてほしいわけです。同居家族以外の人が集まって食べることを徹底的に避けてもらうだけでもかなり自分を守れます。

お酒が飲める飲食店だけでなく、職場の休憩室やカフェなどで結構みなさんマスクをついついはずしておしゃべりしています。あの回数を減らしてもらうことが大事です。酒類の提供をなくすことが人々の行動に与える影響はよくわかりませんし、それで感染者が減るかというとわかりません。

ノンアルコールビールで食べておしゃべりすれば感染リスクは下がらないのです。抜け道のように、ノンアルコールビールで10人の会食は今できるのです。

むしろ飲食店は開けたとしても、食べながら会話しないことを徹底したほうがいい。感染対策としては、黙食を徹底してくれたらいいのです。それが楽しいかどうかはわかりませんが、なにかうまい方法が見つけられないでしょうか。

カラオケも、1人カラオケや同居家族だけなら大丈夫なんです。でも、友人同士で行って「家族です」と言われたら店の人はわからない。カラオケの感染リスクは高いのです。一人ずつ入った個室同士をオンラインでつなぐなどしてなど新しい形は目指せないでしょうか。

もう一つ、今回対策として入れても良かったと思うのは、「○人以上のイベントは避けて」という数の目安です。海外でも5人以上集まるイベントの制限などが行われています。

また、国会や議会も模範を示すために、もっとオンラインで実施したら良いと思います。事業者にテレワークを要請しているわけですから、国会も一度やってみたら良い。話題になるでしょうし、東京が災害にあった際に国会が開けないと困りますから、危機管理対策にもなると私は思います。

小さい飛沫が空中を漂う「マイクロ飛沫感染」が伝わっていない

繰り返しますが、「しゃべること」「食べること」「集まること」が高い感染リスクなので、それをやめてもらうことが大事です。

それから、「マイクロ飛沫感染」のリスクがあまり伝わっていません。つまり、小さな飛沫がしばらく空中を浮遊して、離れた人が吸い込んで感染する可能性があるということです。

上の図は実際に飲食店でクラスター(集団感染)が起きた席の配置です。黒丸が無症状の感染者で、赤丸が感染した人たちです。空調の空気の流れに乗って、かなり離れた席の人も感染しています。

密閉している場所で会話をするリスクがあまり理解されていません。例えばカフェでもフードコートでもファミリーレストランでもその可能性があります。

おしゃべりをしない施設もなぜ休業?

ゴールデンウイークの過ごし方としては、海や山など野外の活動は感染リスクが低いです。行き帰りは家族だけで車で行き、家族だけで過ごして帰ってくるなら旅行もできます。

家族以外と話さなければ温泉だって行けます。感染対策のポイントを抑えてもらえば、遊ぶことはできるのです。

ーー閉じた空間で、食べて、しゃべるところを避けたらいいことはわかりました。ただ、今回、映画館や本屋など明らかにおしゃべりをしないような施設まで休業対象となります。百貨店で集団感染が起きたことはほとんどないはずです。規制する必要はないのでは?

それはよくわからないところです。少なくとも私はそうした施設を休業するように勧めていません。書店も図書館も対象にしているところがあるのですが、なぜ閉められたかわからない。映画館もしゃべることはほとんどないですし、宣言の期間だけでもポップコーンなど飲食を避けるという営業の仕方はあったはずです。

接触を減らすために人の流れを抑えるということですが、本当に「接触を減らす」効果があるのかは、今後にむけて検証すべきです。

百貨店の中でもほとんどしゃべらない店や、少ししか会話をしないアパレルや靴屋などは開けて、飲食店だけを閉めるという選択はあったかもしれない。

あえて推測すると、人が動けば、結局、デパートや映画館、本屋に行った前後でご飯も食べるでしょうし、カフェにも寄るでしょうということで対象になったのでしょうか。

もちろん休業要請した店の補償はしっかりなされなくてはいけません。

それでもオリンピックはなぜ開く?

ーー菅義偉首相の会見でも各社、オリンピックについての質問が相次ぎました。これほど国民に我慢をさせて、人流を抑制しようとしているのに、国際的な人の動きを促すオリンピックはなぜやるのかという厳しいトーンの質問ばかりです。公衆衛生の専門家として、政府の政策決定に整合性がないと思われませんか?

オリパラといっても、「何を」するのかがまだ見えません。客を入れるのか。海外から人がいつ何人来るのか。どこから来るのか。すべての競技をやるのか。選手は日本に入ってどう行動するのか。

それが見えないとオリンピック全体の感染リスクはわかりません。組織委員会は既に見えているはずです。それぞれの競技での選手の移動や、どこに滞在し、どういう形で交わり、どのぐらいで帰るのか。

一般市民との接点を完全に避ける「バブル方式」という形を採用するようです。それを徹底するとして、東京が緊急事態宣言下であっても一般の人と接点がないなら試合だけはできるかもしれません。

ただし、国内の感染状況によっては、日本の医療者を投入できるとは限らないでしょう。

ーー具体的に感染対策できるかどうかも重要ですが、我々にはこれだけ我慢させるのに、なぜ自分たちのやりたいことは押し通すのか、ということに不満が爆発しかねないと思われます。他のスポーツイベントは無観客とし、人流も強力に抑え込むのに、なぜ五輪だけ「IOCが決めたから」と言ってやるのか。対策への協力意識も下がってしまう気がします。

確かに人の流れを抑制するという対策との整合性は取れないですね。具体的にオリンピックで何をやるかを示し、感染リスクがどれぐらいあるのか示してもらわないといけません。

ーー西浦博先生はさらに1年延期すべきだと訴えています。和田先生はどうですか?

私も1年延期できるならした方がいいと思います。来年ならばワクチンもうっているでしょうし、かなり状況は変わります。せめて10月に延期するだけでも熱中症対策をしなくて済むのでやりようはあると思いました。

ーーワクチン接種の遅れは人の行動変容に影響していますか?「ワクチン接種まではなんとか持ち堪えよう」とみんな頑張ってきたのに、なかなか接種が進みません。

今回の緊急事態宣言の最中に、ワクチン接種が進んでいる様子が目に見える形で示されていたならば、国民の多くももう少し納得してくれたと思います。5月10日以降にワクチンは自治体にどんどん入ってくるようですが、間に合わなかったのは残念です。この間にしっかりワクチン接種の準備をしたいですね。

ーー改めてGW中にどう過ごしてほしいですか。

宣言が出ている地域では同居の家族や普段一緒にいる人だけで過ごしてほしい。「しゃべるところ」「食べるところ」「集まるところ」に行く時は相当に注意して、なるべく時間を短くしてください。

高齢者と接触するのはなるべく避けて、帰省も今年はなるべく我慢してほしいです。

感染から守ることは自分にしかできません。そして周囲の人を守るのも自分です。「私だけは大丈夫」ということのないように、気をつけてお過ごしください。

【和田耕治(わだ・こうじ)】国際医療福祉大学国際医療協力部長、医学部公衆衛生学教授

2000年、産業医科大学卒業。2012年、北里大学医学部公衆衛生学准教授、2013年、国立国際医療研究センター国際医療協力局医師、2017年、JICAチョーライ病院向け管理運営能力強化プロジェクトチーフアドバイザーを経て、2018年より現職。専門は、公衆衛生、産業保健、健康危機管理、感染症、疫学。
『企業のための新型コロナウイルス対策マニュアル』(東洋経済新報社)を6月11日に出版。