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次世代原子炉「高温ガス炉」で未来は変わるか

次世代原子炉「高温ガス炉」で未来は変わるか

HTTRと水素製造装置のイメージ(原子力機構提供)

高い安全性、高効率で発電

化石燃料に代わる高温供給源として期待の次世代原子炉「高温ガス炉」。日本原子力研究開発機構は高温ガス炉の試験研究炉「高温工学試験研究炉(HTTR)」(茨城県大洗町)を利用し、技術を蓄積している。高温ガスの利用で発電や水素製造、海水の淡水化などを可能とする。二酸化炭素(CO2)削減効果もあり、2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロを目指す「カーボンニュートラル」実現への貢献が期待される。(冨井哲雄)

燃料溶け出さず

高温ガス炉の最大の特徴はその安全性だ。HTTRは1600度Cでも放射性物質を閉じ込められるセラミックス被覆燃料粒子をはじめ、耐熱性や伝熱性が高い減速材の黒鉛、冷却材のヘリウムガスを使う。冷却機能を失っても燃料が溶け出さず、自然に冷える仕組みだ。

11年の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故で、軽水炉のリスクが認識されるようになった。原子力機構大洗研究所高温ガス炉研究開発センター高温工学試験研究炉部の篠崎正幸部長は、「(高温ガス炉は)福島第一原発のような事故を起こすことはない」と断言する。

また、HTTRは950度Cと高温の熱が利用できるため、多くの産業や生活分野で活用が期待される。例えば熱化学法を利用することで、950度Cのヘリウムガスで水を分解し水素を製造できる。「化石燃料を使わないため、CO2の排出量を減らせる」(篠崎部長)。19年の運転では1時間当たり30リットルの水素を150時間連続製造できた。「大量製造した水素を製鉄にも使える」(同)と期待する。

さらに熱効率の高さも大きなメリットだ。軽水炉で得られるガスの温度は300度C程度でタービンによる発電の熱効率は35%。一方、950度Cのヘリウムガスでタービンを駆動すれば熱効率は50%まで向上できる。

耐震基準クリア

HTTR施設の外観(原子力機構提供)

HTTRは04年、950度Cの熱の取り出しに世界で初成功した。その後、東日本大震災での運転停止を経て、従来基準の約3倍の地震動に耐えられる政府の新規制基準をクリア。現在は21年7月の運転再開を目指して準備中だ。運転再開後、安全性の実証実験を22年1月にも開始。HTTRにガスタービン発電施設と水素製造施設をつなぎ、コージェネレーション(熱電併給)熱利用技術を30年に実証する予定だ。

高温ガス炉は世界中で導入が検討されているが、稼働しているのは日本と中国のみ。中国は高温ガス炉の実証炉を21年中に稼働し、発電する見込みだ。

一方、日本政府は20年12月に策定したグリーン成長戦略の中で、高温ガス炉を含む次世代原子炉の研究開発を重要な柱に位置付けた。

さらに原子力機構とポーランド国立原子力研究センターが研究協力し、ポーランドで高温ガス炉の研究炉の25年以降運転開始を目指すなど、HTTRで培った知見を海外で生かそうとしている。

脱炭素化に向けた動きが世界中で加速する中、日本で培った高温ガス炉の技術でどう貢献していくのか、政府の戦略が問われる。

日刊工業新聞2021年4月26日

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