2021/5/2

「引退後では遅い…」。サッカー選手の副業が増える理由

スポーツライター
平均引退年齢25、26歳――。
プロサッカー選手は日本で最も子どもたちに憧れられる職業だが、その生存競争は過酷だ。30歳をすぎてユニフォームを着続けられる者は、ごく一部に限られる。
そうした事情もあってか、昨今、“副業”を始めるサッカー選手が増えている。
「引退してから動き出すのでは、少し遅いという実感を先輩から聞きました」
そう語るのは、ヴィッセル神戸の元日本代表FW田中順也だ。
 田中順也(たなか・じゅんや)/プロサッカー選手、CEUEU社長 
1987年生まれ。順天堂大学4年時の2009年に柏レイソルの特別指定選手としてJリーグデビューし、翌年入団。2011年2月のアイスランド戦で日本代表デビューを果たした。2014年にポルトガルのスポルティングに移籍。2016年柏に復帰し、翌年ヴィッセル神戸へ。2019年3月、アパレルブランド「CEUEU」を立ち上げた(写真:西村尚己/アフロスポーツ)
田中はポルトガルの名門スポルティングからヴィッセルに加入して3年目の2019年、モデルで妻の宇井愛美とともにファッションブランド「CEUEU」を立ち上げた。
「悲しいことに、いつまでサッカーをできるかわからないという現実を30歳を超えて体感しています。サッカー以外に自分がやりたいことを見つけないといけないと思って、夫婦で何が一番強みかを考えたとき、アパレルブランドをやろうとなりました」
サングラスのデザイン&販売から始めた事業は順調に拡大し、カフェの制服デザインをディレクションするまでに。昨年にはオリジナルマスクを販売し、売り上げを医療関係者に寄付した。
サッカー選手が手がける“副業”は、例えば田中のようにアパレルブランドを立ち上げる者から、ユーチューバー、本田圭佑や長友佑都のように起業する選手まで多岐にわたる。
周囲から「現役中は競技に集中しろ」という声が決して少なくないなか、なぜ、「デュアルキャリア」を選択する者が増えているのだろうか。
時代とともに変化するアスリートの“リアル”な姿を、今年34歳になる田中に聞いた。
INDEX
  • 入団3年目までに成果を
  • 社会を知らない恐怖感
  • 意外と“暇”なサッカー選手
  • 現役中に副業をするメリット

入団3年目までに成果を

――サッカー選手の平均引退年齢は25、26歳とされます。プロでキャリアを始める前、一般的な選手寿命の短さをどう捉えていましたか。
田中 僕は大卒だったので22歳からプロのキャリアをスタートしました。
多くの選手は3年契約で入団します。大卒の僕にとって3年後は25歳。それまでにチームの戦力と評価されれば、次の契約を結べるというのが一つの区切りです。
そういうことを毎年積み重ねて、今までやってきました。プロになった当時、自分が10年以上できるとは思っていませんでしたね。
――20代でキャリアを終える選手が多い一方、40代までプレーする選手もいます。多くの選手はプロとして契約する際、「周りと違い、自分は長くプレーできるはず」と考えているのでしょうか。
みんな、「自分はやれる」と思って入団してくると思います。その中で、プロのレベルで自分が思い描いていたプレーができる人と、そうでない人が出てきます。
カテゴリーとして、J1のチームに入れたか、入れなかったか。さらに、所属したチームで自分のやりたいプレーができたか、できなかったか。
毎日の練習から個人への評価が下されます。
選手は試合に出なければ、周りのメディアやサポーターの目にまったく触れません。練習で評価された選手が試合に出て、周りの人に見てもらう。そして活躍する。
そういうサイクルを継続できた人だけが平均年齢を超えていく。シンプルな世界です。
――プロに入り、「これは厳しい世界だな」と実感したのはいつ頃ですか。
初めからですね。
僕は18歳の高卒の時点でプロになれませんでした。各カテゴリーの日本代表や大学選抜に選ばれたこともなかったです。
だからプロに入って、より目立とうとしなければ厳しいだろうと思っていました。初めからそういうマインドを持ち、“目立とう、目立とう”としたのがうまくいきましたね。
――FWで“目立つ”とは、得点に絡むことですか。
僕にとって一番効果的だったのは、ミドルレンジからシュートを狙うことや、がむしゃらに走り続けることです。自分の武器は左足のシュートと、献身的に走り回ること。その二つしかないと思っています。
若いときは、とにかくシュートを打てる場面では打つ。それが入るか入らないかは別にして、まずは打つ。それがたまたま入ったので、今につながっていると思います。
――自分の武器をどうすれば活かせるかと考え、毎年厳しい勝負を繰り返してきた。その積み重ねで、33歳までJ1の第一線でプレーできているということですか。
そうですね。ビジネスに置き換えると目標設定だったり、マインドフルネスじゃないけど、“自分はやれるんだ”と思い込んだりしてきました。
成功するために、試合に出ている先輩たちとコミュニケーションをとって、食事に誘ってもらえるように話しかけたりもしました。若いときって試合でミスすると、「ミスるなよ」という先輩の声に臆してしまいます。そういうことを自分の中で消化するために、先輩たちとコミュニケーションをとりました。
そうやって人間関係をつくると、サッカーの戦術を教えてもらったり、試合でパスを回してもらえたりします。今思うと、一般社会に出て通ずるものは多いだろうなと思いますね。