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AI時代、伸びそうなマーケティングの仕事とは?

スマートフォンの普及や新型感染症によるリモートワークの普及など、テクノロジーによって生活は大きく変わりました。スマホを使う前の日常の仕事を思いだすと、アポ先の地図と乗換案内をプリントアウトして電車に乗っていました。今思えば、非効率なことにずいぶん時間を使っていたものです。これからはAI活用、自動運転やスマートシティなど、さらに大きな変化が起きそうです。完全自動運転が実現したら移動時間は全て生産時間に変わります。(休憩してもいいですけど笑)想像するだけでワクワクします。

これからのAI時代、マーケティングの仕事はどうなるでしょうか?

本来のマーケティング職またはマーケターとは企業の経営戦略としての意思決定に関わるような方だと思いますが、ここでは企業で広告や販促やPRなどのコミュニケーションやリサーチに付帯する実務をされている方やコンサル会社や広告会社などの支援会社やクリエイター、マーケティング関連サービスのベンダーなど広義でのマーケティング職として考えます。

このnoteはマーケティングを仕事にしている認識のある方、またはマーケティングを仕事にしたいと思う全ての方に向けたものです!

自己紹介

株式会社秤の代表の小川と申します。2019年末に法人を設立し意思決定に必要なサイエンスを多くの組織に「秤」として共有する活動に注力しています。

アドバイザーやエバンジェリストなど業務委託で複数の役割で活動しています。昔から仮説を考えて検証することが大好きなマーケティングバカだと思います。

ベースとなるスキルは数社で10年強働いていた広告会社での業務です。中堅以上の広告会社は大規模な消費者パネルデータを契約しています。それを分析して市場把握、顧客理解、メディアなどコミュニケーションを設計することが主な業務でした。TVCMもデジタル運用型広告も両方手掛けていたのでマスデジタルの最適化がテーマになっていました。

「MMM」の衝撃

その頃マーケティング・ミックス・モデリングという分析を知ります。専門用語でMMMです。

時系列データ解析や人間の振る舞いのシミュレーションなどモデル化することで、たとえばTVCMを5億円投下した際に、それによって売上(KGI)または売上との関連が強い検索数(KPI)などをいくつ増やすか?施策による純増効果を定量化し、最適化試算まで行うサイエンスです。そんなことができるとはそれまで知らなかったので衝撃的でした。(今までやってきた効果検証は何だったんだああぁっ!?汗)

※TVCMの効果検証は、事前事後の消費者調査で認知率や想起率を比較するものが主でした。

学者ソクラテスの「無知の知」という言葉があります。人は自分が無知であることに気づいた時、自分と向き合い知を探究します。それは苦しいことかもしれませんが、反面、自分の殻を破り成長するターニングポイントにもなります。MMMを知った時、それは衝撃的な無知の知でした。

早速使いたくなり、まずは専門家の力をお借りして、MMMを行いました。

その頃、出会ったのが松本健太郎さんです。著書も多数です。私のお気に入りは「人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学」です。

その後、欧米製の高価な分析ソフトを使ってMMMを学び、分析に没頭しました。蓄積したノウハウを体系化して、2018年にExcelでできるデータドリブン・マーケティングを出版しました。MMMをExcelで学べる書籍です。

書籍では「エクセル統計(体験版)による演習でExcel標準機能では対応できない分析手法を体験できます(Macには対応していません※エクセル統計の製品版も同様です)」Amazon書籍紹介ページの「出版社より」(直下右部より引用)

50万部を超える大ヒットシリーズ書籍の統計学が最強の学問である

著者の西内啓氏より、「マーケターはグラフの見た目より『因果推論』に注意すべきである」という推薦コメントを頂きました。

無知の知、「因果推論」

書籍執筆時、監修者の方の原稿フィードバックに

「交絡についての言及は必要ないのでしょうか?」

というコメントがあり、調べて因果推論を知りました。学んで拙書に盛り込みました。

交絡とは原因と結果双方に影響する要因のことを示し、因果関係の判断の間違えとなるものです。

消費者パネルデータの分析でTVCMに接触した人と接触していない人の購買行動を比較した差分から効果を推定する。顧客の分析でDMを送った顧客と送ってない顧客との購買回数や金額の差分からDMの効果を推定する場合は注意が必要です。

前者はTVCMに当たり易い人、つまり良くTVを見る傾向から2つの集団に偏りが生まれます。良くTVを見る傾向が購買行動の違いを生んでいる場合、原因( CM接触)と結果(購買行動)双方に影響する交絡となるので、2つの集団を比較できません。

後者は大抵、顧客傾向の分析から良く買う傾向を持つ人にDMが送られているため、良く買う傾向がDM送付(原因)と購買(結果)双方に影響する交絡となるのでDMを送った顧客と送っていない顧客を比較した購買の差分をDMの効果と判断すると過大評価となります。

理想としては無作為に抽出した標本のうち、原因となる施策の影響を与える集団と与えない集団を比較する実験を行いたいところですが、実験ができない状況があったり、コストが高くなるのがネックです。そこで実験に近い状況を分析で作りだす準実験という方法があります。

TVCMとDMの事例では傾向スコアという分析を使います。TVCMを投下した前後の売上などの比較も、トレンドなど他の要因の影響を除外するための差分の差分法という分析を使います。

「原因と結果」の経済学や、岩波データサイエンス Vol.3を読めば、効果を把握するための準実験について知ることができます。

MMMと因果推論の分析を使うことで

自社の目標売上を増やすために必要なブランド想起率や認知率は何パーセントか?そのために必要な予算はいくらか?

把握できます。


マーケティング目標となる指標をサイエンスで明確化する

元P&G、現ファミリーマート社のCMO、マーケティング大原則の著者の足立光氏など、

一流マーケターの氏のように、大きな舵をとることができるのはマーケティング従事者のごく一部です。多くのマーケティング業務は、広告や販促などのコミュニケーションの開発などのクリエーティブな仕事か運用や改善などオペレーティブな仕事に支えられています。

しかし、その施策をなぜ行うのか?どこまでリソースを投資すべきなのか?目標を数値とともに明確にされていないまま、手探りまたは慣例から実行している様な組織も多いようです。

現刀社の代表の森岡毅氏、今西聖貴氏の「確率思考の戦略論」を読むと、氏らが認知や売上や広告費の関連性を把握して目標を明確化されていたことがわかります。

同書で紹介された内容に450億円の投資をしたハリー・ポッターエリアのオープニングに当時の安倍首相がかけつけ、日本中にニュースが伝わり、計測上の認知度が100パーセントになり集客も成功した事例があります。

事前の需要予測と事業計画によるハリー・ポッターエリアで達成すべき追加集客は200万人。それに必要な認知率は全国90%。限界まで広告を投下しても75%が限界で残り15%を埋める必要があったので、PRとデジタルマーケティングに注力することを決めていました。

その着火剤としてメディアに興味を持ってもらう為に仕掛けた奇策が、USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?をベストセラーにすることでした。


それを下地にして、メディアに注目され、首相が駆けつけることにつなげたファクトの凄さは当然ですが、

広告を限界まで投資しても15%認知度が足りない、逆説すれば15%の認知度を埋めれば200万人達成できると、マーケティング目的をサイエンスによって数値で明確化していたプロセスが重要です。

みなさんが関わるブランドは、たとえば

TVCMなどのコミュニケーション施策によって認知率や想起率を1%増やした場合に売上数や金額がいくつ増えるか、把握できているでしょうか?

売上などのビジネス目標達成に必要なマーケティング予算を確かな計算から求めているでしょうか?

それを行うためのサイエンスがあります。本noteの最後で紹介するオンライン講義で共有しています。


マーケターとして、未来をどう捉えるか?

私はマーケティングにサイエンスを浸透する活動をする一方で、未来のマーケティングを模索する、次世代テクノロジーの社会基盤を推進する取り組みの支援をしています。

ここでは「2030年すべてが「加速」する世界に備えよ」を紹介します。この書籍では、広告のパーソナライズ化はおろか、その先に広告そのものがなくなる未来を予見しています。

AIに歯磨き粉を買うように語り掛ければAIが商品機能や顧客の評判、論文まで調べ上げて最適な商品を購入。その先には、AIが日常的に使う商品の在庫をモニターし、ユーザーが気付く前に買い足し注文する様になり、AIがショッピングをするユーザーの目線を追跡し、日常会話に耳を傾け、SNSをスキャンしてファッションの好みを調べあげ好みに合致する洋服を選んでくれる、そんな世界を描いています。

ユーザー自身がほしいとすら気づいていなかった商品やサービスとの出会いをAIがリコメンドする未来には広告という概念自体がなくなるというのです。

こうした世界について、便利という感覚より、気持ち悪いという感覚の方のほうが多いのではないでしょうか?個人情報が漏れたらどうする?AIが暴走して事故が起こったらどうする?そんな懸念も色々と浮かんできますが、

私はポジティブに捉えて、それを実装することをメインの仕事にしていこうと考えています。

自動運転、ドローン配送、スマートシティなど次世代のテクノロジーを社会実装するには新たな倫理感にもとづく法整備が必要となります。政府機関も含めて、テクノロジーを社会で活用するためにどうするか?それを目的としたガイドライン作りが議論されています。

そうした動向を察知して未来への対応を考えることがマーケターの新たな役割となるのではないでしょうか?

マーケターにとってのDXとは?

私は今後の変化をポジティブに捉え、次世代テクノロジーの社会実装のイノベーションを目指します。直近ではマーケティングの現場で秤となるサイエンスとして、MMMと因果推論の一般化を目指します。

感染症の影響が出てからはオンライン講義に注力して2020年から企業向け個人向けのべ1,200人(現時点)に講義をしてきました。それにより、変化したマーケターやマーケティング組織もあります。

その知識が一般化すれば、研修講師やアドバイザーとしての私のスキルは陳腐化しますが、そうなれば本望です。それを目指して活動を続けます。徐々に次世代テクノロジーの社会実装に軸足を移していきたいと思います。

マーケターにとってのDXとは、今までの仕事の延長であり、今までの仕事の非効率な部分の否定でもあると思います。自らの仕事のやり方を否定するイノベーションを自ら模索し続けることができる人材、無知の知と向き合い続けることができる人材がこれから求められるマーケティングで求められるDX人材ではないでしょうか?

広義でのマーケターと本来のマーケターの役割

今後の変化において、一流マーケターでもデータサイエンティストでもない、広義でのマーケター(私も)が、マーケティングの仕事を続けていくために重要なことは、有効に使えるスキルや伸びしろとなる仕事を見定めること、未来のテクノロジーにアンテナを張ること、人間にしかできないアイデアやクリエイティブでビジネスが動くことを証明し続けることではないでしょうか?

一方、本来の意味でのマーケター、戦略を決める立場にある方は、前述したサイエンスを道具として使いこなし、(ご自身が、というよりも組織として使いこなす)マーケティング目的と目標を明確化することで、戦術を考える際、必要な施策を徹底的に突き詰める環境を作ることが重要ではないでしょうか?

※以下の告知情報は適宜更新させて頂きます。

ストアカ研修

 誰をターゲットにするか?どんな施策に注力するか?どれだけの投資が適切か?マーケティング意思決定に必要なサイエンスを共有する研修を企業と個人向けに行っています。

横長
横長 統計モデルで効果検証

上記は「確率思考の戦略論」で紹介された確率モデルと、拙書「Excelでできるデータドリブン・マーケティング」で紹介した統計モデルによる効果検証の分析をExcelで演習しながら理解して活用する個人向けのオンライン講義です。1ヶ月ほど開催をお休みしてブラッシュアップしました。分析の専門性を少し柔らかくして間口を広げた内容にして、以前は3.5時間だった講義時間を2時間に凝縮し、1週間閲覧可能な復習用動画も充実させています。

また、欧米流のコミュニケーションプランニング法の「アカウントプランニング」のフレームを用いて、TVCMなどのクリエイティブから、逆説して、なぜそのクリエイティブか?を分解することで、マーケターの仮説の筋力を鍛えるトレーニング法「バックフローシンキング」の講義もご用意しています。

バックフローシンキングについては、下記のnoteで紹介しています。




補足:直近で需要が高まりそうなマーケティングの仕事とは?

AI化が進むことで減る、またはなくなる仕事も出てくるかもしれませんが、それ以上に新しい仕事が生まれる可能性に期待したいところです。「マッキンゼー・グローバル・リサーチの研究では、インターネットによって消滅した雇用が1とすれば、新たに生み出された雇用は2.6」だったそうです。(「2030年すべてが「加速」する世界に備えよ」書籍の49Pより引用)私見ですが、直近では①〜⑤の仕事が伸びるのではないかと考えています。

①個人データ活用のゲームチェンジを踏まえたサービスデザイン。オウンドメディアや店舗など顧客接点全体を設計する仕事

②仮説探索または予測におけるAIの活用など、マーケティングの意思決定やオペレーションを自動化する仕事

③TVCMのプログラマティックバイイングなど、マスメディアの広告効果を数値で管理して運用型広告としてオペレーションする仕事

④新たなツールを活用して、クリエイティブや分析など生産性を高めてアウトプットを提供する仕事 

⑤デジタルコミュニケーションで世の中や人の心を動かす仕事


①はクッキー規制など、個人データ利活用についての新たなルールを踏まえたサービスデザインをする仕事などです。キーワードは個人データ利活用の適正化です。今後、日本でその鍵を握るのは、マイナンバーや情報銀行など官民連動での取り組みです。

②はデータレイクなどを活用し、需要予測による仕入れ最適化やダイナミックプライシングなど、ビッグデータを活用する仕組みを作る仕事などです。キーワードは意思決定とオペレーションの自動化です。主に小売企業でイノベーションが進んでいます。

③はTVCMのバイイングをWEB指標と紐づけて最適化を行う仕事などです。キーワードはマスメディアの運用型化です。TV局、ツールベンダーなど、CMバイイングのゲームチェンジが加速しています。海外と比較して遅れていましたが、ようやく日本もこの流れが進むと思います。

④は、高機能ツールを使いこなして、データ分析やクリエイティブ作業などの生産性を高めて多くの成果物を提供するフリーランスや副業、複業の仕事などです。キーワードはデータ分析やクリエイティブ作業の一般化です。AIにより、人間が行っていた前処理工程などがいらなくなっています。

⑤はデジタルなコミュニケーションでWEBのコンバージョンだけでなく、消費者の心を動かしてリアルも含めた購買行動を誘発する仕事です。キーワードはデジタルコミュニケーションのマス的活用です。デジタルコミュニケーションが想起率や実店舗売上にどれだけ寄与するか?検証しながら活用する取り組みが増えています。

以上となります。ここまでお読み頂きありがとうございました。

追加情報(2023年12月18日更新)

クッキー規制で目減りする効果計測の課題を解決法をnoteにしました。無料で使えるMETA社の高機能なMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)ツール「Robyn」を徹底解説する2時間強のYouTube講義を公開しました。