(篠原 信:農業研究者)

「幸せになる力」ってなんだろう。親は子どもの幸せを願う。幸せになる力として、学歴や学力をつけさせようと躍起になる。

 学歴≒能力ととらえ、社会の側も能力を一定程度保証するものとして、学歴を高く評価している。他方、十代のうちに学ぶ意欲を持つに至らなかった若者は、学歴を獲得する機会を逃したまま大人になり、自ら落伍者の烙印を押しがちだ。実にもったいない。能力主義が人を格付けし、こうした歪みを生んでいる。

 仮に能力主義が正しいとすると、日本では東京大学で一番の成績をとった人間こそが一番能力が高く、一番幸せな人生を送れることになる。

能力は幸せを約束しない

 だが、そうでもない。もしその人間が能力の高さを鼻にかけ、他人をバカにする態度を取るようなら、周囲から浮いて空回りし、大した仕事も成し遂げることができないだろう。

 事務次官という、官僚世界のトップに上り詰め、誰もがうらやむ経歴を誇ったとしても、息子に刃物を向けざるを得なくなることもある。仕事の能力は、家庭での幸せを保証してくれるわけではない。仕事の能力や学歴は、幸せと必ずしも一致しない。