JPモルガン謝罪 欧州サッカー「新リーグ」支援で逆風
【ニューヨーク=宮本岳則】米金融大手JPモルガン・チェースは23日、欧州サッカー強豪クラブによる「欧州スーパーリーグ(ESL)」構想を資金支援しようとしたことについて「判断を誤った」と声明で述べた。ファンからの厳しい批判にさらされ、事実上の謝罪に追い込まれた形だ。商業的利益と公益の両立が求められる時代を象徴する出来事となった。
ESL構想は18日に公表され、当初イングランド・プレミアリーグのリバプール、スペイン1部のレアル・マドリードなど12の強豪クラブが参加を表明した。新型コロナウイルスの感染拡大で業績が悪化するなか、収益回復の起爆剤にする狙いがあった。JPモルガンは新リーグの構想段階から関与し、約32億5000万ユーロ(約4220億円)を提供する計画だった。
ただ構想自体はすでに崩壊している。イングランドのマンチェスター・シティーなど、いったん参加を表明したクラブが相次ぎ撤退を決めたからだ。強豪クラブ優遇との見方が広まり、欧州全域のファンから非難の声が上がったほか、英国のジョンソン首相など政治家も構想阻止を狙って介入した。
非難の矛先はスポンサーのJPモルガンにも向かった。ツイッター上には「JPモルガンの口座から資金を移そう」などといった書き込みがあふれた。ESG(環境・社会・企業統治)格付け専門の英スタンダード・エシックスはJPモルガンの行為について、ステークホルダー(利害関係者)の利益に配慮していないと指摘し、同社の格付けを一段引き下げた。
JPモルガンは当初、実利を追求しようとした。ダニエル・ピント共同社長は20日、米ブルームバーグ通信のインタビューに応じ、感情的な反応が起きることは予想していたと述べた上で「顧客のために融資案件をまとめた」と強調した。同通信によるとJPモルガンはESL構想の中心メンバー、レアル・マドリードのフロレンティーノ・ペレス会長と近い関係にあるという。
ただ批判の高まりを無視できなくなったようだ。23日の声明の中で「フットボールコミュニティーからどのように見られるのか、そして将来どのような影響を及ぼすのか、という点について明らかに判断を誤った」と釈明、今回の出来事を教訓にしたいと述べた。
世界の大企業は株主利益の追求に加え、地域社会の利益にも配慮した経営を求められるようになっている。米金融界の「顔」であるJPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は米経営者団体「ビジネス・ラウンドテーブル」の中心メンバーとして「株主第一主義」からの脱却を訴えていた。
ダイモンCEOの日ごろの言動と、地域のサッカーチーム弱体化につながりかねないESL支援が「言行不一致」に映り、批判が強まった面もある。英紙ガーディアン(電子版)はダイモン氏が4月に公表した「株主への手紙」を採り上げ、同氏が地域貢献の重要性を語っていたと指摘した。
米アマゾン・ドット・コムは20日、ツイッター上の声明で「ファンと懸念を共有している」と述べ、同社の動画配信サービスがESL構想に関与していないと発表した。SNS(交流サイト)時代に入り、世論の力は増した。公益重視の理念を掲げるだけで、実行に移していない企業は厳しい批判にさらされる。