2021/4/26

【100回記念】The UPDATEは何を発信してきたか?

NewsPicks アナウンサー/キャスター
NewsPicks Studiosが立ち上げた番組「TheUPDATE」が産声を上げてから約2年──。
私たちが番組と共に駆け抜けたこの2年間は激動の年だった。
平成から令和へと移り変わり、新しい時代の到来に歓喜する中、2020年は一転して新型コロナウイルス感染拡大やBlack Lives Matter運動が広がり、世界が新たな課題に直面した。
2021年は緊急事態宣言に始まり、アメリカではトランプ支持者が連邦議会に乱入するなど、波乱の幕開けとなった。
番組が放送を開始した2019年から2021年4月までの主要ニュースと、これまで番組が特集してきたテーマを振り返り、私たちが発信し続けてきたことについて改めて考えてみたい。
INDEX
  • 新時代到来も将来の展望に不安視
  • 大恐慌以来最悪の景気後退
  • 景気回復の兆しも、頭打ちか?
  • 「日本をUPDATEせよ」という使命
  • 奥井奈南の選ぶ、神回3選
  • あれから日本はUPDATEできたのか?

新時代到来も将来の展望に不安視

TheUPDATEが放送を開始した2019年は働き方改革関連法施行に始まり、時代は平成から令和に突入。
新しい時代の到来に歓喜するも、「老後資金2,000万円問題」や台風大雨被害に国民が悩まされた年でもあった。
また海外では、GAFAに独禁法違反で調査が入るなど、肥大化する企業に圧力が強まった。

大恐慌以来最悪の景気後退

2020年は一転して、新型コロナウイルス感染拡大やBLM運動が広がり、世界が新たな課題に直面した。
国内では歴史上初のオリンピック延期という決断に至り、コロナショックで世界経済は大恐慌以来初めての景気後退に陥った*。
この激動の年に、今後の期待を託すかのように日本では首相交代、アメリカでは政権交代が行われました。

景気回復の兆しも、頭打ちか?

そして迎えた2021年。
日本では緊急事態宣言から始まり、アメリカではトランプ支持者が連邦議会に乱入するなど、波乱の幕開けとなった。
しかし、国内ではソニーが好調な業績を見せ、日経平均株価は一時3万円台に回復。
日本のGDP予想の見通しも上方修正されるなど、景気回復への期待が高まっていたものの、ここに来て新型コロナの終息が見通せない状況となり、再び今後を生き抜く真の力が求められている。

「日本をUPDATEせよ」という使命

私たちNewsPicks Studiosは「日本をUPDATEせよ」という番組ミッションの下、経済、社会、教育から働き方やメディア・エンタメといった様々な切り口で日本をアップデートすべく邁進してきた。
さらに、前澤氏のZOZO社長退任やロックダウン、森氏の女性蔑視発言といった時事ニュースもいち早く取り上げてきた。
では、私たちが掲げる「日本をUPDATEせよ」という使命は実現できているのか。筆者が選ぶ神回のなかで琴線に触れた数々の名言を振り返り、検証してみよう。

奥井奈南の選ぶ、神回3選

ジョブ型雇用は日本人を幸せにするのか?(第78回)
新型コロナウイルス感染拡大から、リモートワークやセルフマネジメントが広がり、ジョブ型雇用に取り組む企業が急増した2020年。
一億総フリーランス時代が到来しようとしている中、スキル重視の雇用形態である「ジョブ型雇用」は日本人を幸せにするのか? また、日本でジョブ型雇用がスタンダードになった場合、どうサバイブしていくべきかを議論した。
仕事の本質は雇用制度や仕組みにあるのではなく、やったか、やらなかったか。つまり色んなことにチャレンジして、いかに経験を積んだかでスキルが決まる。
ジョブ型になれば「職に就くのが難しくなるのではないか」と不安に思う人もいるが、スキルはやった人だけにつく。やらないから不安になるだけ。
ユニリーバ・ジャパンの人事総務本部長をつとめる島田由香氏は「『ぱ』を『ら』に変えて、『しんぱい』→『しんらい』へと心の見方を変えていく。自分のマインドセット次第で、なんでも良い方向に変えていける」と述べた。
同氏は、仕事を「ワークインライフ=人生の大切な一部」として、楽しむ方向へ持っていくように心掛けているという。
また、日本の労働市場を変えにきたという麻野耕司氏は「就“社”ではなく、就“職”せよ」と提言。
「今はほとんどの人が『就社』している状態。就社だと、ひとりひとりが誇りを持って仕事ができず、仕事に対してネガティブな感情を抱いてしまう。しかし『就職』であれば、専門スキルを活かしてどこででも生きていける。
会社のジョブローテーションもおかしい。新卒採用もジョブ型(職種型)にして、選ばせてあげるべきだ」と語った。
会社主体ではなく、自身がどう生きたいかを軸にして、スキルと正しいマインドセットを持ち、不利や不都合から脱却すべきである。どう働くかはどう生きるかだ。
タレントはDXでどう稼ぐのか?(第86回)
ここ数年でタレント、著名人のYouTube参戦が続出している。
その本質的な理由は、媒体が多様化したことにより、芸能界だけでなくタレント自身においてもDXが必要になってきたことだ。
インターネット広告費がテレビ広告費を抜き、メディアの構造は今までになく著しい変化を遂げている。
大きな組織に頼ることなくタレント自らが稼げるようになった今、芸能事務所のあり方、そしてタレント、ビジネスパーソンが個人としてどう稼ぐのかを徹底討論した。
「もう『完成品』を売るのが難しくなってる。差別化を図るのが難しい、つまり、完成品はコモディティ化し易いのだ」──そう語る西野亮廣氏が体現しているのが、2020年にけんすう氏が語った「プロセスエコノミー」だ。
成果物や最終的なアウトプットそのものだけではなく「プロセス」、つまり製作の過程自体をビジネスにするという概念だ。
作者には作品の印税しか入らなかったものが、過程を販売することで高価格帯が狙え、利益率も高いだけでなく、完成するまでのストーリーそのものが作品になる。「物語経済」には「とんでもない可能性が広がっている」と、西野氏は展望する。
さらに議論は「芸能人は芸を磨き、事務所は経営を学べ」といった論へと展開。
タレントの武井壮氏は、日本の芸能界は芸能人になりたい人がなっていくような仕組みだが、それではダメだと指摘する。
「既にスキルがある、つまり『能』がある人が出るべき。事務所に入ってから育て上げるという形だとアンフェアな雇用形態になってしまう。スキルがあれば個人でもできるし、能力があれば買ってくれる媒体は山ほどある」と述べた。
佐々木紀彦氏は、韓流コンテンツのヒットの裏には、韓国の芸能事務所に経営能力のあるトップがいたことが大きいと言う。J.Y. Park氏や、BTSも所属するBig Hit Entertainmentの創設者であるパン・シヒョク氏も経営者だ。
彼らのように、腕のある良い経営者がいる事務所は日本には少ないと指摘。
さらに、タレントの「のん」等のマネジメントを手がける株式会社スピーディの福田淳氏は、時代に応じて組織も人も変わっていかないと必ず衰退すると警鐘を鳴らした。
それと同時に、「自分がどの方法で、どのメディア(組織)でなら最もパフォーマンスを発揮できるのか? ということを考えながら、たくさんチャレンジして、失敗して、たくさん学んでほしい」とエールを送った。
この議論の論客は、皆リスクをとって活躍している方ばかりだ。身銭を切って今を生きているからなのか、トップランナーたちから溢れる言葉は私のみならず視聴者の皆さんの琴線に触れるものであっただろう。
【女性蔑視発言】沈黙を破るためにどう行動すべきか?(第93回)
森喜朗氏の女性蔑視発言はさまざまな波紋を呼んだ。
政界のみならず日本社会全体に性差別的慣習が潜んでいると、今回だけでなく過去にも、時代の節目で女性蔑視に反対する声があげられてきた。
しかし、未だジェンダー後進国である日本。
この由々しき事態を解消するために、企業そして私たち個人はどうアクションを取ればいいのかを緊急討論した。
産業医の大室正志氏は、この問題の根底にあるのは、同質性の高い集団が連帯してしまっている現行ルールにあると指摘し、「ホモソーシャル社会の解体」を提言。
「同質性の高い集団の中にいる気楽さはあってもいいが、あくまで嗜好品。権力の中枢で行う行為ではない。男女ともにホモソの快楽を認めた上で、権力と分離していくことが今後の課題だ」と語った。
さらに、ジャーナリストの浜田敬子氏は「企業も個人も、既得権益にすがるのを止め、性別ではなく能力で判断し、任せる」ことの重要性を提言。
例えばキャリアの構築においても、管理職にチャレンジしたい人もいれば、そうでない人もいる。「まずは個別にキャリアをどう進めたいのかという願望を聴いて、本人に選ばせてあげる」ことが重要だと指摘した。
過剰に遠慮をして、仕事や役割を任せないと、いつまでも現行から変わらない。ひとりひとりが能力を最大限発揮できるように、まずは信じて、任せてみよう。
女性たちがフルタイムで働ける環境があれば、日本のGDPは上がるという算段もある。さらに女性たちが自立し、政府にも意見しやすくなれば、日本は国としてより成長するだろう。
これは女性だけの課題ではなく、日本の未来に直結する課題だ。
森氏の発言をきっかけに世界中が関心を寄せたのと同時に、今、要職に就く女性も徐々に増えてきた。さらに、立場に関係なく誰もがSNS等を使って声をあげられるようになった。
生まれ変わろうとしているこの国で、女性蔑視がなぜ起こるのか? という社会的構造からその問題点を読み解くことで、解決策のひとつを提言し、さらに誰かが何かしらのアクションを起こすことにつながったとしたら、番組MCとしてこんなに嬉しいことはない。

あれから日本はUPDATEできたのか?

今回紹介した3回の放送は、雇用形態や働くことのマインドセット、アンタッチャブルだった業界へのメス、女性差別が起こる社会構造を解き明かすなど、これまであった既成概念を打破し、社会及び視聴者の認識をUPDATEできたのでは、という観点から選んだ。
あれから2年。日本は本当にアップデートできているのか?
日本という国はどれくらい変わったのか──。
記念すべき100回目は、歴代キングオブコメントを振り返りながら、これからの日本をUPDATEしていく金言を探る。
今の日本には何が必要なのか、未来を生き抜く力とは何か。
「日本をUPDATEせよ」という使命の下、これからも発信していきたい。
*国際通貨基金(IMF)による指摘。