新設する徳島県立ホール前に新駅を造る。この構想について、徳島新聞は3月21日付朝刊で特集「県立ホール新駅どう思う?」を掲載しました。奥嶋政嗣・徳島大教授(交通工学)は「採算性が悪い鉄道という公共交通に投資をし、便利にして需要を喚起することは重要」、藍谷鋼一郎・テキサスA&M大准教授(建築・都市デザイン)は「住宅地が鉄道路線と離れた場所に広がる徳島では、新駅よりもバス路線を張り巡らせる方が理にかなう。また、停滞している鉄道の高架計画は先進国では時代遅れの発想で、撤回した方がいい」とそれぞれの視点で説明してくれました。

特集「県立ホール新駅どう思う?」(3ページ目に新駅構想や鉄道高架計画についての基礎知識があります)

 この特集を見た阿南市出身でニューヨーク在住の建築家・吉原弘記さんから寄稿が届いたので紹介します。藍谷さんと同じく、吉原さんも、徳島中央公園、ホール、新町川を一体として捉えた上で、この立地を生かす都市計画が必要だとし、「便利さ」よりも大事なものがあると言います。

 

道のりを楽しむ

 JR四国の牟岐線に駅が増えて新ホールへ便利に行けることは大変喜ばしいことですが、少し心配な点があります。新駅周辺が佐古駅のように寂しい感じになるのじゃないか、という心配です。

 これまで徳島駅で降りていた県南部の人が徳島駅まで行かなくなります。また、鳴門や県西部から列車で来た人にとっては徳島駅で牟岐線への乗り換え列車を待つよりは、新駅周辺までは歩いた方が早いだろうから、新駅は利用しないことになります。

 コンサートが終わるのが午後9時ごろだとしましょう。牟岐線沿線に住む人は徳島駅前周辺に繰り出さず、新駅から直接、帰ってしまうかもしれません。徳島駅付近の商店がさらに客を失うのではないか。既に少なくなっている限られた客を両駅が分割して、結局両方ともひっそりするのではないか。都市の熱は集中から発生しますが、便利にすることで熱が分散してしまい、発展につながるかどうか、案じられるところです。

 これからの発展のキーワードは昔の「便利」に替えて「楽しい」ではないでしょうか。多少不便でも楽しければ人は寄ってくるものです。徳島駅から新ホールまで歩いて600mほど。この道のりが楽しければ、それは不便ではなくて、コンサートの「前奏」になるでしょう。

 わくわくしながら新ホールまで歩いてきて、帰りは余韻を味わいながら駅まで歩けます。では、楽しくするにはどうしたらいいでしょう。駅と新ホールの間に並木の緑道をつくってはどうか。おしゃれなカフェなどが沿道にできるでしょう。若い世代が求めるものはこれです。

徳島駅に北口をつくり、中央公園を通ってホール、ボードウオークへと抜けられるようにすればいい(吉原さん作成)

 これに加えて、徳島駅北側にあるJR四国の操車場を整理して、徳島駅北口から中央公園につながる連絡道を造って、公園の中を歩いてもらうのはどうでしょう。(上の図を参照。立体交差という障害は下の図のように、新ホールの建築デザインで解決できます。)公園に気軽に行け、楽しめるようになって、ホール利用者だけでなく、全市民、全県民に喜ばれるのではないでしょうか。

 これが可能になるまでの間、徳島駅からホールまでの道のりに緑の木々を植えて「並木緑道化」すればいいでしょう。

吉原さんが提言する街の緑化計画

立体交差という障害は、ホールの建築デザインで解決できる。このように中央公園とホールをブリッジでつなげるといい(吉原さん作成)

徳島中央公園を生かし個性ある街に

 大きな駅にじかに接した徳島中央公園は世界でもまれな立地条件で、徳島市を個性ある街にする絶好の資産です。徳島の人々は、現状を当たり前のこととして見続けてきて、その恵みに気付いていません。

 ニューヨークのセントラルパークのように毎日公園へブラブラ行ける。そこからさらにボードウオークへと歩いて回れるのです。想像してみてください。人の出歩くところには経済活動も生まれます。

徳島中央公園。駅に隣接する立地を生かし、徳島を個性ある街にしたい

 新ホールの駐車場を新町川近く、徳島中央署跡に設けるとのこと。寺島公園から駐車場と線路の両方をまたぐように新町川沿いのボードウオークにデッキをかければ、駐車場と線路を気軽にしかも楽しく越せます。私は世界中の駐車場を見てきましたが、美しいのは本当にまれです。街の大切な散策ルートのど真ん中に駐車場がドンとあるということはあり得ません。駐車所が目立たないように工夫しなければ、徳島駅から新ホールと散策路が一体になったルートが楽しくなくなって観光資源にもならなくなります。

 駐車場に必要な空間の高さは2メートルなので、その上をデッキで覆って、歩けるようにします。こうすることで、徳島中央公園からホール、寺島公園、ボードウオークをつなぐ大きな線状の公園が出来上がります。下記の写真はシアトルです。このように(鉄道線路の方向は違いますが)線路を挟んだ両側をつなげ、全体を公園にできます。写真にはありませんが、ここは気候の良い季節は人でいっぱいです。

シアトルにある公園。線路のあちら側とこちら側を自由に行き来できる(吉原さん提供)

鉄道高架計画は何のため?

 今、真剣に考えたいことは、「便利にすることが街の活性化につながるかどうか」ということです。高度経済発展は終わりました。人口が減っているのだから、人々を家から誘い出して、街を歩き回ってもらうことが活性化のカギになるでしょう。

 県市は鉄道の高架計画を掲げますが、それで街ににぎわいが生まれるでしょうか。鉄道の利用客が街に出る前に目的地に着いてしまうほど便利にすることが、街ににぎわいをもたらすでしょうか。極端に言えば、便利にし過ぎないで人々を誘う仕掛けをつくるのがこれからの手法ではないか。楽しくなければなりません。

 徳島中央公園と徳島駅、新ホール、新町ボードウオークを一体的につなげる。そうした長期的で大きなビジョンが必要ではないでしょうか。

 鉄道高架計画も街づくりのビジョンに合致するかどうか、再検討が必要でしょう。線路下に倉庫や商店を並べた街並みは美しいでしょうか。新駅特集でテキサス大学の藍谷鋼一郎准教授が述べていた通り、世界の先進国では鉄道高架はなくす方向に進んでいます。これは高架によって街の雰囲気が壊されたという確固たる反省に基づくものです。

 ホールだけ、新駅だけの設計を考えるのではなく、駅前周辺をどう面白く、美しくするか。徳島駅、鉄道、川、駐車場を一体的にデザインすることが必要ではないでしょうか。

吉原弘記(よしはら・ひろき)1956年、阿南市生まれ。名古屋大学大学院建築学研究科修了。東京国際フォーラムのホールBとDを担当。物理学博士。

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 読者のみなさんにも意見を募ったところ、「例えばホール利用のチケットを持参すれば、駅から無料のオシャレなバスに乗ってコンサートに行ける、なんて仕組みにすれば楽しいのでは」という提案や、「新駅は周辺整備も含めていくらかかるか分からない。県議会でも議論しないのが不思議だ」という疑問の声、「鉄道高架事業は撤回し、事業費500億円を採算性が悪い鉄道路線を守るために活用してほしい」といった要望が寄せられました。

 県は5月中旬から、設計・施工業者の公募を始め、7月中旬に一次審査、9月に二次審査をして優先交渉者を決めます。