山口貴也

[東京 21日 ロイター] - 今年11月の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)に先立ちバイデン米政権が22日から開催する気候変動サミットでは、脱炭素の2050年目標にどう道筋を付けるかが焦点となる。30年の温室効果ガスの国別削減目標(NDC)上積みは不可避で、菅義偉首相があすにも意向表明するとみられる日本の新たな削減幅は、世界の環境投資を呼び込めるかにも影響しそうだ。

「米国の出方も待って首相が最終判断するしかない」。新たな30年目標設定を巡って日本政府関係者の1人はこう話す。

菅首相は昨年10月、温室効果ガスの排出を50年までにゼロにすると宣言した。「当時も、政府内で議論を積み上げた末の宣言ではなかった。(30年削減上積みに関しての)統一見解は今もない。トップダウンでの意向表明という形になる」と、先の関係者は言う。政府の地球温暖化対策推進本部での決定プロセスは後回しとする舞台回しだ。

首相は30年目標について「あすの気候サミットをひとつの節目として判断したい。野心的な目標とすることで脱炭素化のリーダーシップをとっていく」と、21日の参院本会議で語った。

欧州連合(EU)はすでに1990年比で温室効果ガスを55%減らす目標を掲げ、米誌ワシントン・ポストによると、米国は少なくとも2005年比で半減させる新方針を打ち出すとみられる。日本は50年ゼロ目標を掲げたが、13年基準から26%減らす目標をどう見直すかの着地はみえていない。

政府が19日に開催した有識者会議では、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)が「気候危機回避と競争力維持のため30年に13年比50%以上の削減を求める」と訴えた。ただ、現状では「環境省が45%プラスアルファを念頭に置いているのに対し、経済産業省はどんなに積み上げても40%に満たないとの立場を崩していない。依然として隔たりが大きい」と、別の関係者は明かす。

複数の出席者によると、有識者会議では「野心的とはいえ、達成できない目標を掲げても意味がない」との声も出たという。「30年目標までは10年足らずと期限が近い。50年目標とは異なり『達成できない』と見透かされれば国際社会から厳しい目線が向けられる」と警戒する声も、政府内にはある。

気候変動への取り組みは環境マネー流入という副次的効果も想定され、金融市場からの関心が高い。

「グリーンか、それ以外か」と線引きの厳しいEUがタクソノミー(投資対象の分類基準)をもとに近く公表するとみられる最終報告で、日本が主張するトランジション(移行)ファイナンスに一定の理解を示せば「世界の環境投資3000兆円、日本企業の現預金240兆円を原資に、自動車の電動化推進や水素還元製鉄の技術開発、再生エネルギーの普及拡大などに弾みがつく」と、金融当局担当者は期待を寄せる。

金融庁と東証は6月をめどにコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)を見直す。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に基づき、プライム市場に上場する企業に対し、自社の気候変動リスクや対応策の開示を求めることで環境投資の広がりに備える。

<気候変動協議、世界で林立>

バイデン米政権の呼び掛けでオンライン開催される気候変動サミットには、菅首相を含め世界各国・地域の首脳40人が参加する見通し。サミットは22、23両日開かれる。

気候サミットに先立つ日米首脳会談でバイデン大統領は「野心的な気候変動対策で日米がけん引役になるだろう」と述べ、日米両国による気候パートナーシップ創設を決めた。

一方で、ケリー米大統領特使がバイデン政権の閣僚級として初めて訪中。15、16両日に上海で実施した気候変動問題を担当する解振華氏との会談を通じ、同問題で協力することを確認した。安全保障面で激しく対立する中でも、気候変動では連携する構えだ。

20カ国・地域(G20)では、米中が共同議長の研究グループを格上げする動きもある。議長国イタリアは16日、サスティナブルファイナンス・スタディグループ(SFSG)をワーキンググループ(作業部会)に格上げすることを決めた。

気候変動を巡る協議体が世界で林立する中でも、日本が米国と連携して国際社会をリードする姿を示せるかも焦点となる。

(山口貴也 編集:田中志保)