2021/4/28
【1話10分】“学び”で音声市場を切り拓く。プロの肉声解説メディア「VOOX」のポテンシャル
moon creative lab | NewsPicks Brand Design
Clubhouseの登場で、一気に盛り上がりを見せる音声メディア市場。国内では未だニッチだが、米国や中国のようにメジャーな存在となるかが注目される。
そんななか、三井物産グループベンチャースタジオ「Moon Creative Lab」から誕生したのが、ビジネスパーソンの学びになる音声メディアアプリ「VOOX(ブックス)」だ。
特徴は大きく3つ。
いったいどのようにこのコンセプトに勝ち筋を見出したのか。
アイデアオーナーの洪貴花氏、ベストセラー『シン・ニホン』のプロデュースなどの出版業界でのキャリアから一転、音声メディアの編集長としてジョインした岩佐文夫氏に聞いた。
INDEX
- 日本の音声メディアに欠けていたもの
- “耳から学ぶ”がメジャーな海外
- テキストの編集者を抜擢した理由
- 本づくりで培った“学びが深くなる”構成
- Clubhouseの登場は「超ラッキー」
- “大企業生まれ”だからこその責任と使命
日本の音声メディアに欠けていたもの
──おこがましい話ですが、VOOXを知ったときにNewsPicksから出た新サービスかと思うほど、ビジネスパーソンの学びになるサービスとして親和性を感じました。意識されたところはありますか?
洪 たしかにビジネスモデルとしてはベンチマークの一つでした(笑)。でも、市場でのポジションはまったく別だと思っています。
この図を見てください。
動画・音声メディアの市場調査をもとに、私たちが独自に作成したもので、各コンテンツの特徴をマッピングしています。
図の横軸がコンテンツの長さです。左にあるほど、1コンテンツの再生時間が長いサービスです。
縦軸はジャンルです。上にあるほど学びに特化し、逆に、下に位置するほど、エンタメなども含む総合型のプラットフォームとなっています。
──なるほど。まさにNewsPicksは学びに特化した長めの番組コンテンツが中心です。そして右上のゾーンが、VOOXの狙うポジションだと。
ええ。VOOXの特徴は、学びに特化した1話10分というショートコンテンツの音声メディアであることです。
日本国内には、総合的な音声プラットフォームはありましたが、学びに特化し、かつ短時間で聴ける音声サービスは見当たりません。
なのでNewsPicksに限らず、他の音声メディアとも競合しないと考えています。
──なぜVOOXは「10分」としたんですか?
本当に忙しいビジネスパーソンって、30分の時間を捻出するのも難しいですよね。でも、10分以下の細切れの時間であれば、1日のいろんな場面に転がっています。
そういった時間を活用して手軽に学べる機会を作りたいと考えました。
実は、VOOXのペルソナのモデルになったのは、三井物産のある女性社員なんです。彼女は子育てをしながらキャリアアップを目指している、いわゆる“バリキャリのワーキングマザー”です。
彼女の起きている時間は一日18時間もあるのに、自分のために使える時間は1時間もなく、しかもそれは細切れの合計1時間です。
2月8日のβ版ローンチ後のレビューでも「授乳中に聴いている」「保育園に送り迎えする移動の際に聞いている」との声も届いています。
もちろん彼女たちのような“バリキャリワーママ”に限らず、ワーパパも含め、忙しいけれど学習意欲の高いビジネスパーソンすべてがVOOXのターゲットになります。
“耳から学ぶ”がメジャーな海外
──洪さんはもともと音声や動画メディアに関心が高かったんですか?
そうですね。自分の経験上、語学や新しい知識などを学ぶ際に、Webメディアや書籍ではなく、人の話を聞くなど耳から学ぶところが大きかったんです。
それもあって、PodcastやAudibleのヘビーユーザーでもありました。
海外では音声メディアが浸透しているという背景もあります。アメリカでは12歳以上の人口の半数以上がPodcastユーザー。
私の出身である中国でも3人に1人、およそ5億人もの人たちが音声コンテンツを聴いています。学習系コンテンツも充実していました。
でもこういった学びの領域が、日本の音声メディアでは抜けている。
そんなとき、三井物産グループの新規事業創出のために設立されたベンチャースタジオ「Moon Creative Lab」の存在を知ったんです。
全社員からアイデアを募るピッチイベントで採用されれば、Moonにフルタイムで出向し、私の求めるコンテンツを自ら作れる。ブルーオーシャンな市場だともわかっていましたから、ビジネスチャンスもある。
こうしてピッチを通過し、2020年5月からVOOXのプロジェクトが動き出しました。
テキストの編集者を抜擢した理由
──メディアやコンテンツ制作の経験はあったのですか?
いえ。三井物産では航空機のエンジンを販売していたので、メディアビジネスとは無縁でした。
Moonに所属するエンジニアとデザイナーが加わってチームを立ち上げましたが、彼女たちにも当然、音声メディアのバックグラウンドはありません。
コンテンツの知見を持つ人が必要でしたが、まったくメディア業界のツテがなかったので、ネットで「編集長」と検索して見つけたのが、『ハーバード・ビジネス・レビュー』の元編集長である岩佐文夫さんでした。
──書籍や雑誌を手がけてきたテキストのプロフェッショナルです。音声のプロを選ばなかったのは、あえてですか?
あえて、というよりも“直感”と説明したほうが、しっくりきます。
当初は、音声や動画系の方にお声がけしようとも考えましたが、岩佐さんのnoteを読んだら、もうこの人しかいないな、と。
一言で説明すれば人柄です。著者も含め、一緒に仕事をしている仲間への敬意がある。
「この人と一緒に仕事がしたい。この人となら、きっと私が目指すコンテンツが作れる」と直感してオファーし、4人目のメンバーとして加わってもらいました。
スマホアプリ開発のエンジニア、UI/UXデザイナーなども加わり、現在のコアメンバーは計8名
そこからさらにメンバーは増えましたが、VOOXプロジェクトに100%コミットしているのは私のみ。その他のメンバーはプロジェクトを掛け持ちしていたり、岩佐さんのように業務委託だったりします。
多様なメンバーだからこそ、魅力あるコンテンツを生み出していけるのだとも感じています。
私たちのコンテンツのこだわりについては、編集長の岩佐さんに直接聞いていただくといいと思います。
本づくりで培った“学びが深くなる”構成
──VOOXのコンテンツを作り上げる上での“こだわり”を聞かせてもらえますか?
岩佐 まず、こだわりの土台となるVOOXの特徴は3つあります。
学びに特化していること、他メディアに比べてコンテンツが10分と短いこと。そして、各界のプロフェッショナルが“生の声”で語るスタイルであることです。
その上で最もこだわっているのが“人”。登場いただくスピーカーの選定です。男女半々というバランスも大切にしています。
当初意識していたのは、他メディアでまとまって紹介されていない“初出のナレッジ”です。なので、スピーカーご自身が体系的に語ってこなかった領域から、ご本人にとっても新たな気づきや学びになるような企画を立てていました。
例えば、「聴く力」について話してくださった篠田真貴子さんは、外資系企業やネットメディアを渡り歩いたキャリアの持ち主です。最近はさまざまなメディアで、傾聴の大切さに言及されていました。
それをまとまったコンテンツとして読者に届けたら、新しいナレッジになるだろうと思い、オファーさせていただきました。
もう一つのこだわりが、本人の肉声です。
実際に聴き比べてみるとわかりますが、プロのナレーターとはまるで違う“本人の肉声ならではの印象”が聞き手に伝わる。
必ずしも上手な話し方である必要はないんです。それぞれの個性が聞き手の頭に残る。これは僕自身、驚きというか気づきでした。
──本人が語ると、なぜ読者に伝わるのでしょう?
その人の“らしさ”が言葉に宿るからですね。ご本人が強調したいところは、自然と声のトーンが変わるんですよ。
もう一つは、語りながら生まれる言葉を発すると、それが台本以上の魅力を生みます。これは、台本通りに忠実に話すナレーターにはないメリットです。
そこに気づいてからは、著書について改めてご本人に語っていただく企画も取り入れ始めました。
──岩佐さんが出版・編集で培った経験やエッセンスが生きている点は、どこだと思われますか?
構成づくりですね。
VOOXでは、1話10分の講話6本がセット。つまり60分を一つの大きなコンテンツとし、このひとまとまりを聴くことで、本1冊を読んだのと同じような学びが得られるようになっています。
VOOXの1話が、本で言うところの1章です。書籍のように各パートに起承転結を作り、1話ごとにそれぞれ学びがある。それでいて1コンテンツ丸々聴くと、さらにまとまった学びが得られる、というのがVOOXの仕組みです。
Clubhouseの登場は「超ラッキー」
──編集長オファーが来たときの率直な感想を聞かせてください。
ピンとこなかったというか、なんで僕?と思いました。というのも僕は音声メディアどころか、ラジオも聴く習慣がありませんでした。「音声」というメディアに関心も馴染みもなかったんです。
むしろ洪さんをはじめとするVOOXチームのビジョン・情熱・行動力に魅了されて「入れてもらった」というのが実態です。
ただ、このコロナ禍で初めて音声メディアのニーズが自分の中にも生まれました。会議がオンライン中心になり、目が疲れていると画面を見たり活字を読んだりするのがストレスになってきたんです。
動画も活字も、あらゆるメディアが視覚に頼っているという点で同じジャンルに括れます。だから、音声は“目を使わないメディア”としてアリかもしれないな、と。
とはいえ、自分に馴染みがなかったこともあり、音声メディアならではのコンテンツ作りや使われ方のイメージ作りは、ゼロからのスタートでした。
プロジェクトが進むにつれて、それらを掴みかけてようやく、大きな可能性を秘めたメディアだと感じるようになっていきました。
映像がない音声は、テキストと同じで話し手を想像する余地が生まれます。いわば“行間を読む”感覚が、音声メディアにもある。
さらに、声だと「活字」以上にその人らしさが出るので、スピーカー本人が自分だけのために話しかけてくれている印象を持ちやすい。
作家であり投資家でもある橘玲さんのような、素顔を出されない著名人の肉声を聴けるのは喜びであり、貴重な体験として残るはずです。
──書籍も手がけられている身として、VOOXによって本が売れなくなるといった不安はなかったのでしょうか?
あまり考えませんでしたね。
本って、1冊に3〜4時間は向き合うメディアです。だから、たとえ読書時間が確保できなくても、細切れの10分を新たな知識の獲得や思考の更新に使える世界であれば、学びの可能性がさらに広がります。
なので、学びという共通点はあっても、本とは異なる新たな選択肢を提案しているイメージです。
実際にVOOXの講話を聴いたときに「これを聴いたら絶対に本を読みたくなるし、読者が聴けば本への理解がもっと深まるな」と確信できた。
──音声メディア市場全体をどう見ていますか? VOOXがローンチしたタイミングは、Clubhouseが大いに盛り上がっていたときでもありますよね。
超ラッキーでしたね。というのも、当初は日本で音声メディアが根づくか、多くの人が懐疑的でした。その扉をClubhouseが開いてくれた。
スマホで音声メディアを聴くという習慣を醸成してくれたことも大きいです。
本来であれば我々がやるべきだった「音声メディアとは」といったプロモーションも、Clubhouseが体現してくれましたから。
“大企業生まれ”だからこその責任と使命
──最後に、洪さんと岩佐さんお二人に伺います。実際にローンチしてみての手応えはいかがですか。
岩佐 これまでニッチと思われていた音声メディアが、テキストや動画と並び、一つの選択肢となる。そんな世界がより明確に想像できるような手応えを感じています。
人類の歴史で言うと、活字の前に文字があり、さらにその前には声を通じた言葉があった。つまり、ヒトはそもそも声や言葉で、コミュニケーションしてきました。
デジタルテクノロジーの進化が、そのような最もプリミティブなものの保存と流通を容易にし、人間として自然なカタチに回帰しているな、と。
Clubhouseのおかげもあったにせよ、5月末までの目標ダウンロード数を3月時点ですでに達成できたのが、何よりの証だと思います。
洪 今後はマネタイズを検討していくフェーズです。
サブスクリプションやコンテンツごとの課金制がオーソドックスですが、ここは新たな手法の可能性を探りたいと思っています。
現在は入山章栄氏の「マンガと経営学」や山口周氏の「アート思考」などの講話を配信中。毎週水曜に新コンテンツが追加される
──VOOXのようなサービスが大手のイノベーションとして生まれてくるのは意外でした。
岩佐 大企業ベンチャーに成功例はまだまだ多くありません。こんなに恵まれた環境で失敗したら、独立系ベンチャーに申し訳ないですよ。
洪 そうですね。私たちはVCなどから資金調達に奔走することがなかったし、オフィスも整えてもらった。
もっと大手企業の社内ベンチャーの成功例が出てくる世の中をつくるためにも、私たちがビジネスとして必ず成功させなければなりません。
岩佐 ベンチャー的なサービスを大手企業でも生み出せるようになれば、日本全体でイノベーションの可能性が広がるはず。そんな事例の一つにしたいという想いが僕にもあります。
洪 VOOXの成功は、日本の深刻な社会課題である“女性が活躍する社会”推進の一端も担うと考えています。
ペルソナになった三井物産の女性社員のように、私の周りにはキャリアアップを望む女性が大勢いて、以前に比べれば、管理職に昇進する割合も増えてきています。でも、まだまだ少ない。
VOOXによる短時間の学びを通じて、マネージャークラス以上にキャリアアップする女性を一人でも多く増やしたいですね。
聞き手・構成:杉山忠義
編集:中道薫
撮影:小野奈那子
デザイン:田中貴美恵
編集:中道薫
撮影:小野奈那子
デザイン:田中貴美恵
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