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TikTok誕生前夜。ショートムービーの軌跡

2013年1月、6秒間のショートムービーサービスのVineがローンチされ、一世を風靡した。これは日本でも馴染みが深いだろう。人気インフルエンサーのkemioさんやブライアンさんが高校生だった時に、最初に世間から注目を集めた舞台もこのVineだ。

VineはTwitterに買収され、そのあとInstagramも15秒の動画を投稿できるようにし、追随する動きを見せた。

Attention Factory: The Story of TikTok and China's ByteDanceによると、Vineの新しいフォーマットの発明を目にしたとある海外のチームは、さらに面白いことができると考えた。フランスの大学生4人の学生起業家チームだった。

VineやInstagramの動画は正方形に切り取られたものだったが、彼らは縦長のiPhoneには、全画面を覆うような動画のフォーマットが最適だと考えた。

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VineやInstagramはニュースフィードを少しずつスクロールしていく体験だったが、一つの動画で全画面を覆う場合は、ニュースフィードをちまちまスクロールしていくのではなく、一気に上にスワイプし、次の動画がくるようなUIを考えつき、実装した。

また、彼らは次のように考えた。初期のiPhoneのカメラの性能がいまいちだった中で、Instagramはフィルターを使って、プロが作ったような写真をiPhoneで作れるようにした。同じことを動画でするならどうすればいいか?音楽を付ければいい。ユーザーが作った動画は、プロが作った音楽と合わさることで、クオリティの高いものに進化する。音楽の力によって全てのコンテンツが1.5割増しになるInstagram(画像)でいうフィルターは、動画でいう音楽に当たる。

そしてVineのローンチから9ヶ月後の2013年10月に、ミュージックビデオアプリ、mindieをローンチした。

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TikTokの原型がここに見える。TikTokのフォーマットを発明したのは、フランスの学生チームだった。

彼らは3ヶ月後の2014年1月に$1.2Mのシードマネーを調達し、フランスからカリフォルニアに会社を移した。

ほどなくして、彼らがアプリストアでmindieと調べると、似たようなアプリが出てくることに気がついた。アプリストアの説明文、ロゴの色やグラデーション、画面のUI(ボタンの配置まで)、全く同じだった。それは、2014年4月にリリースされたmusical.lyだった。

musical.lyは、上海のチームが中国とアメリカのアプリストアでローンチをしたところ、中国では伸びず、アメリカのティーンがけっこう使ってくれたため、アメリカマーケットにフォーカスしたミュージックビデオアプリだ。(詳細はこちらのnoteで紹介しています。)

mindieチームはmindieのアカウントを漁っていくと、musical.ly創業者のAlex Zhuのアカウントを発見した。彼はmindieのアーリーアダプターだったようで、アクティブ率も高かった。

mindieチームはGitHub上に自分たちのアプリのコードの一部を公開していたことを悔やんだ。

musical.lyのAlex Zhuはインタビューで、musical.lyのアイデアの着想を次のように得たと語っている。

ある日、Mountain Viewからサンフランシスコに向かう電車内で高校生の行動を観察していた。50%の人が音楽を聞いていた。残りの50%は動画や写真でセルフィーをとり、スタンプを載せ、シェアしあっていた。そこに着想を得た。
TikTok前身musicallyの初期グロース戦略およびコミュニティの作り方

Alex Zhuは音楽 x 動画の領域に可能性を感じ、既に存在していたmindieをベンチマークにしてmusical.lyを作ったことが分かる。

そんなmusical.lyも、2015年の頭まで、グロースが思うようにいかず苦戦していた。

最初は、人々はおそらく、カメラ・ロールから動画をアップロードし、音楽をバックグランドに持ってくるだろうと思っていた。実際その時は50%の動画がカメラ・ロールからきていた。このようなかたいユースケースがあった。ただそのアプローチの問題が、頻度が十分ではない。人々が毎日行うものじゃない。習慣がない。週ごとになってしまう。習慣がないと、グロースはない。我々は、どのようにして、動画制作を習慣化させることができるかを考えた。人々は日中、家にいる時にアプリを開く。どうやって、そのような人々がその環境で動画を投稿できるようにするか。これが多くの動画プラットフォームにとって課題だった。動画投稿に適した良いシナリオがなかった。
TikTok前身musicallyの初期グロース戦略およびコミュニティの作り方

ドイツ発のDubsmashのヒット

そんな中、リップシンク(口パク)アプリ、Dubsmashがドイツで誕生する。

2020年にTikTokのUS規制が話題になった時に、対抗馬として注目を浴びたアプリなので、知っている人も多いかもしれない。その後、2020年末にRedditに買収されている。

2014年10月にローンチされたDubsmashは1週間以内にドイツのアプリストアで1位になり、2015年1月には他40か国でもトップに輝き、一大ブームとなった。Dubsmashは音楽のリップシンクもあるが、当初は映画のセリフが使われることが多かった。

Dubmashはアプリ内でアカウント登録/ログイン、フォロー、コンテンツの投稿等ができなかった。リップシンク動画を作成するツールであり、それをWhatsappやFacebook Messengerなどの外部メッセージングアプリで送る前提で設計されていた。動画を保存するにはiPhoneにダウンロードするしかなく、アプリ/運営側では保存されない。TechCrunchによると、創業者たちはMVP(Minimum Viable Product)をなるべくリーンに作り、コストも節約するという考えを持っていた。

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新しいSNSが最初は、外部のSNSでシェアするコンテンツを作成できるツールとしてスタートし、のちに自分のアプリ内でもSNS化していくという流れはよく見られ、Instagramやmusical.lyもそのようにして始まった

だがDubsmashの場合は、アプリ内でコミュニティを作り上げられる前に、流行りがわりとすぐ終わってしまう。

musical.lyの躍進

Dubsmashがグローバルで大ヒットした3ヶ月後、低空飛行を続け、倒産しかけていたmusical.ly内で革新が起こる。

2014年の終わりに、プラットフォーム上の不思議な現象に気が付いた。既にキャッシュが尽きかけていて非常にタフだった時期だ。毎週木曜日の夕方に必ず、musical.lyのダウンロード数が跳ねていた。要因を突き止めようとGoogleでたくさんのリサーチをした。アメリカで「Lip Sync(口パク)バトル」という人気のテレビ番組があり、それが毎週木曜日に放映されていた。視聴者は番組後にアプリストアにいき、リップシンクを探すのであった。そこでmusical.lyがたくさんダウンロードされた。成功していないプロダクトを成功させるために、機能を追加することは助けとならないことを学んだ。1つのプロダクトは、コアな機能が1つあること、それがキラー・フィーチャーになることで成功する。グロース・カーブを変えるためには、Value Propositionを変えないといけない。ジェネラルなミュージックビデオメーカーからリップシンクアプリにValue Propositionをシフトさせた。ユーザーが登録する前に、リップシンクの動画を紹介しそれがメインのユースケースであることを示した。次に、ユーザーがmusical.lyに登録後は、最も良いコンテンツが表示されるようにした。ユーザーのフィードには人的に選出した動画を集めた。
TikTok前身musicallyの初期グロース戦略およびコミュニティの作り方

Lip Sync Battleの番組が始まったのは、偶然にもDubsmashがグローバルでヒットした3ヶ月後。musical.lyはリップシンクに特化し、Product Market Fitを見つけ、グングン伸びていく。一方、mindieもmusical.lyと同じようにリップシンクに注力していったのかと言えばそうではない。

Musical.lyが「チャレンジ企画」によってユーザーのコンテンツ制作を牽引したとき、Mindieのチームはコピーすることに抵抗があった。その後musical.lyはリップシンクアプリに、Mindieはソーシャルストーリーテリングに注力し、Snapchatとの連携を模索した。

Attention Factory: The Story of TikTok and China's ByteDance

musical.ly共同創業者のLouis Yangはインタビューで次のように語っている。

アメリカでは口コミでの広がりを作ることで効率的にマーケティングできる可能性がある。それは、競争パターンが異なるから。アメリカではある領域でイノベーティブなことをしたら、競合は差別化ポイントを作ろうとするから、両者は異なる特性をもとに競争しあうことになる。中国では、正しくなにかをやると、競合は全く同じことをする。中国の人たちは異なるビジネスロジックを有する。お金を注ぎ込むことで、マーケットシェアを素早く奪うことができ、他の競合を蹴落とすことができると考えている。中国の人々は(アメリカのように)徐々にグロースしていく忍耐力がない。中国では全てがあまりに早く起きるので、人々は我慢できない。
Attention Factory: The Story of TikTok and China's ByteDance

mindie共同創業者は、muscial.lyに敬意を示してこう言っている。

musical.lyは僕たちが元々作った物を、最適化し、スケールさせるためにすごく頑張った。
Attention Factory: The Story of TikTok and China's ByteDance

mindieをコピーしたmusical.lyはリップシンクアプリにシフトする前に倒産しかけていることから、アイデアをコピーしただけでは成功し得なかったことが分かる。

そのとき中国では何が起きていたか

musical.lyは中国で早々に失敗していたが、中国で成功する動画アプリも出てきていた。Tech Buzz ChinaのPodcastを聞いていく。

Y: Ying-Ying Lu; R: Rui Ma

Y: 中国のショートビデオはMeipaiまでさかのぼる。Meipaiは、Meitu Xiuxiu( 秀秀)の動画プロダクトだった。Meipaiは9か月で1億人のユーザーを獲得し、Facebook役員のChris Coxは2015年に、Meipaiを「Instagram for video」と表現した。

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R: 私も使った。こんにちのショート動画アプリで見つかるような多くの機能を有していた。簡単に編集できて、フィルターやエフェクト、トランジションがたくさんあり、BGMも簡単に挿入できる。

Y: フィルターは素晴らしかった。それもそのはず。親会社のMeituはあらゆるフィルターや特殊エフェクトで綺麗にしてくれるセルフィーアプリで有名になった会社だからね。

R: 顔を白くしたり、顔を小さくしたり、足を細くしたり、自動で付与される化粧とか。

Y: Meituのミッションは、「世界をより美しい場所にすること」だった。

R: そして成功した。中国ではMeituやその他の似たアプリで加工せずに投稿する人はほぼいない。

Y: Meituは香港の上場会社だから、もっと知りたい人はオンラインに情報がいっぱいあるよ。Meipaiに話を戻すと、

R: Meipaiはツールを作るのが得意な会社から育った。Meituはセルフィーアプリで、コンテンツをベースにしていない。

Y: 人生を美しくするという元々のミッションの外にシフトできなかった。

R: コンテンツのほとんどが綺麗な人のコンテンツだった。

Y: 自然にだろうが加工したものだろうが

R: そして彼女たちが経験する美しい人生の一部をシェアする

Y: そのあとXiao Ka Xiu(小咖秀)という会社が出てくる。

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R: Xiao Ka Xiuは2ヶ月で中国の無料アプリ1位になる。

Y: Dubsmashとほぼ同じようなアプリ。

R: 人気のサウンドトラックに合わせて自分の動画を作り、友達に送ることができるアプリ。

Y: Xiao Ka Xiuチームはたくさんの芸能人とKOL(キーオピニオンリーダー=インフルエンサー)を起用したマーケティングを初期に行った。

R: それは初期のトラクションを得るために寄与したけど、長期的にはうまくいかなかった。一般人にとっては、有名人に対抗することが難しすぎたから。

Y: この辺の話は、後の継承者に関係してくるから言及している、特にKuaishou。後々重要な役目を果たす。

R: いずれにしても、大きな機会がここにあった。特にMeipaiとXiao Ka Xiuや、他のアプリがランキングでトップに躍り出てはまた下がっていくことを繰り返す中で、機会があることが明らかになった。

Y: Lei Jun(Xiaomi CEO)が言うように。

R: "ブタでも台風の目の場所を見つけることができれば、飛ぶことができる"

Y: そしてこれは確実に凄い台風だった!

R: ただ、2016年と2017年の上半期は、多くのブタが走っていく先の嵐ではなかった。なぜならもっとデカい嵐がきていたから。

Y: ライブストリーミング!モバイルライブストリーミング!

R: ライブ配信が中国マーケットでヒートアップし、2016年、2017年に中国の若者の時間を奪っていた中...

 Y: アメリカのティーンはmusical.lyというリップシンクのアプリにとりつかれていた。

R: Aha!ショートムービーだね。Dubsmashのような?

Y: かなり似ているけど、違いは、Dubsmashはメッセンジャー寄りのところで始まっている。musical.lyは最初からソーシャルネットワークだった。

2016年以降、中国インターネットがライブ配信に目を奪われている中、TikTokはどのようにしてそれを超える台風の目になるのか。

来週のnoteでは本題の、バイトダンスがどのようにTikTok前身のDouyinを生み出し、グロースさせていったかを見ていきたいと思います。

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