[香港 19日 ロイター] - 中国の電子商取引大手、アリババ・グループ傘下の金融会社アント・グループは、創業者の馬雲(ジャック・マー)氏が保有株を売却し、経営権を手放すことにつながる選択肢を検討している。規制当局の関係者や企業側の関係者が、ロイターに明らかにした。

中国人民銀行(中央銀行)と中国銀行保険監督管理委員会(CBIRC)の当局者が今年1月から3月にかけて、馬氏およびアントと個別に協議を行ったという。

アントは、馬氏の保有株売却について検討したことはないと否定。広報担当者は文書で、「馬氏のアント・グループ保有株売却が議題になったことはない」と説明した。

関係者によると、アントは外部の企業を巻き込むことなく、既存の投資家やアリババ・グループに馬氏の保有株が売却できることを望んでいる。

しかし、規制当局者は馬氏との協議で、同氏に近い企業や個人への株式売却は認められず、完全に撤退しなければならないと同氏に伝えたという。また、政府系の投資家に株式を譲渡することも選択肢の1つだという。

関係筋はいずれの選択肢も、中国当局の承認が必要になるとしている。

19日の香港市場でアリババ株は一時1.9%下落した。馬氏が昨年10月に規制当局を公の場で批判して以来、IT(情報通信)大手に対する当局の締め付けが厳しくなっており、アントは事業見直しを余儀なくされている。

企業側の関係筋によると、馬氏が経営から手を引けば、同氏の当局批判後に頓挫したアントの新規株式公開(IPO)計画に復活の道が開かれる可能性がある。

中国当局は4月10日に、アリババが独占禁止法に違反したとして過去最大となる27億5000万ドルの罰金を科した。その数日後に、中国人民銀行(中央銀行)はアントに対して、銀行と同様の規制対象となる金融持ち株会社に再編するよう指示した。

オリエント・キャピタル・リサーチのマネジングディレクター、アンドリュー・コリアー氏は「中国は国内IT企業について、会社側が思い上がらない限りは、世界的リーダーとして売り込みたいと依然考えている」と分析した。

<複雑な保有構造で経営を支配>

アントがIPOを申請した際の目論見書によると、馬氏が直接保有するアント株は10%にとどまるが、同氏は関係会社を通じて経営を支配している。

目論見書によると、馬氏の投資会社「杭州雲ボー(Yunbo)」はアント株計50.5%を保有する2つの関係会社の経営を支配しており、アントに関し全面的な決定権があり、関係会社2社と自社分を合わせた議決権を行使できる。馬氏は同投資会社の34%を保有する。

関係筋の1人は、馬氏が同投資会社の保有株を売却してアントの経営から手を引き、結果としてアントの事業見直し完了と上場計画復活に道を開く「可能性は大きい」と述べた。

アバディーン・スタンダード・インベストメンツの株式グローバル責任者、デバン・カルー氏は「馬氏が経営から手を引くことで、アントを巡る不透明感が解消され、中国政府との問題は馬氏個人の問題だと認識し直されるようになり、アントの株価見直しに寄与する可能性がある」と指摘。馬氏によるアント株売却はさほど大きな懸念ではなく、経験豊富な経営陣が残っていると述べた。

関係各所はロイターのコメント要請に応じていない。

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