[ボストン/ニューヨーク 13日 ロイター] - 中国当局がアント・グループにフィンテック企業から金融持ち株会社への再編を指示したことで、新規株式公開(IPO)復活への投資家の関心が薄れつつあるようだ。

再編指示の2日前には、アントの約3分の1の株式を持つアリババ・グループ・ホールディングが、独占禁止法に違反したとして当局から罰金180億元(約3000億円)を科せられた。

香港や米国に拠点を置く複数の投資家は、こうした一連の動きについて、アントの収益力や企業価値を低下させるとして、同社の将来性に懐疑的な見方を示している。

TFCフィナンシャル・マネジメントのダニエル・カーン最高投資責任者(CIO)は「再編後のアントがどうなるのか、非常に不透明だ」と指摘する。

昨年11月に予定されていたが、突如延期が決まったアントのIPOでは、企業価値は3150億ドルとされていた。一方、複数の関係筋が先月ロイターに明らかにしたところでは、一部のグローバル投資家は、2020年の業績を基にアントの企業価値を2000億ドル前後と算定しているといい、再編前から既に企業価値の低下が見られる。

チャイナ・ベージュ・ブックのリーランド・ミラー最高経営責任者(CEO)は、アントのIPO計画はいずれ復活すると考えているが、当局が(IPOを)急いでいるとは思わないとしている。

香港を拠点とするある投資家は、IPOは数年後とみている。

ベイ・ストリート・キャピタル・ホールディングスの創業者、ウィリアム・ヒューストン氏は、アントがフィンテック企業としてIPOを行うのか、銀行もしくは金融会社としてIPOを行うのかで、話は大きく変わってくるとし「銀行への投資を急ぐつもりはない」と述べた。

アントは、IPO計画や企業価値についてコメントを控えた。

<企業価値にマイナスの影響も>

エマージング・マーケッツ・インターネット&EコマースETFの創業者、ケビン・カーター氏は、今後は新たなルールがアントやライバル企業の抑制につながるとし「バリュエーションにマイナスの影響が及ぶことは避けられない」との見方を示した。

ただ、すべての投資家が悲観的なわけではない。

アイビー・インベストメンツのダン・ハンソンCIOは、アントが中国当局の標的になることは予想されていたとした上で「今回の再編は厄介なように見えるかもしれないが、アントに投資しやすくなるという利点もある。アントへの規制の可能性がこれまで大きな不透明要因だったが、(再編指示が出されたことで)それが解消された」と述べた。

一部の投資家は、アントが金融会社としてより高水準の資本を求められ、企業価値に影響するのではないかと懸念している。

ストーンホーン・グローバル・パートナーズのサム・ルコルニュCEOは「追加資本が求められれば、株主資本利益率(ROE)や総資産利益率(ROA)の低下につながる。企業価値への影響は必至だ」と指摘。一方で「(アントが)非常に優れたプラットフォームであるという事実に変わりはない」とも述べた。

(Ross Kerber記者、John McCrank記者)