2021/4/22

【山口周×Space BD永崎】なぜ「宇宙」に“ビジネスの未来”があるのか

NewsPicks, Inc. Brand Design Editor
「宇宙」こそ、次の事業創出のフロンティアだ。 
GAFAMをはじめ、国内外のトップ企業が開発・投資に力を注ぐ「新たな40億人市場」──それが宇宙ビジネスだ。
NewsPicks LIVEは3月25日に「宇宙ビジネス創出BOOTCAMP」と題し、JAXAと共催で宇宙での事業創出を学ぶオンラインイベントを開催。
本レポートでは、宇宙ビジネスに関心の高い独立研究者・著作家の山口周氏と宇宙商社®Space BD代表取締役社長の永崎将利氏によるセッションを徹底再現。
著書『ビジネスの未来』(プレジデント社)で「ビジネスの歴史的使命の終了」というテーマを提示した山口周氏。
その山口氏が「次の事業創出の大きなフロンティアは“宇宙”にこそある」と熱を込めて話す真意とはなにか。
「持続可能な世界」を実現するために、宇宙はどのようなビジネスの可能性を秘めているのか。また、宇宙のような新しいビジネス領域を開拓できる人はなにが違うのか。圧倒的な熱量であった二人のセッションをお届けする。
INDEX
  • 人類に残された成長領域は限られている
  • 「官需」から「民需」へシフトさせる
  • “衝動”で動ける人、動けない人の違い
  • 「宇宙」こそ最後のチャンス

人類に残された成長領域は限られている

──山口さんは、どのような観点から「宇宙ビジネス」に興味を持っているのですか。
山口 GAFAMのようなプラットフォーマーにとどまらず、いま先進諸国の企業にとってビジネスのグローバル化は当たり前になっています。
 それぞれ自国のマーケットだけでは規模に限界がある以上、国外へ拡張することでスケールを追求していく。
 しかし、「グローバル」の語源は「球」でありその範囲は有限です。無限に広がるのではなく、閉じている。グルっと回ったら1周してしまうわけです。
 現在、地球上のあらゆる地域にはすでに商社マンがいる。物理的・地域的なエリアの拡大は限界を迎えています。
 ならば横方向の広がりではなく、縦方向に深く掘り込めばいいのかというと、深刻な環境問題があり、それも難しい。
 では地球環境を毀損せず、次に成長できるフロンティアはどこにあるのか。それが、「宇宙」と「仮想空間」だと考えています。
 またモノが過剰に溢れている私たちの社会では「物質的貧困をなくす」というビジネスの使命は、ほぼ達成されつつあります。
 その過剰さゆえに 「モノ」の価値が減る一方で、「意味」がその希少さゆえに価値を持つのが21世紀です。
 「ビジネスの歴史的使命の終了」を迎えつつあるいま、経済成長しないことは真の問題ではありません。
 経済以外のなにを成長させれば良いのかわからないという社会構想力の貧しさこそが問題なのです。
 このまま経済成長や物質的幸福を追求し続けた先に待っているのは、生きがいや、やりがいといった「意味の喪失」です。
 では経済成長しない状態を豊かに生きることができない、私たちの心の貧しさをどう解決すればいいのか。どこに意味やビジネスの次の使命が眠っているのか。
 その一つが、無限の可能性を秘めている宇宙にこそあるのではないか、そう考えているんです。

「官需」から「民需」へシフトさせる

──永崎さんは、2017年に「宇宙における総合商社」であるSpace BDを設立されています。それから3年、宇宙ビジネスの状況をどのように捉えていますか。
永崎 現状では、宇宙産業はまだまだ官需に頼らざるを得ないところがあり、特にアメリカはその傾向が強いと感じます。スペースXでさえ、官需によって支えられている。
 多くの宇宙企業が民需を広げるといいながら、その実、官需を取りに行くための手段としていることも多い。アメリカのベンチャー企業で、民需をベースに考えている企業はそう多くないのが実感です。
 どれだけうまくロビー活動をして、NASAという官需のお金を取り込むか。それをどう損益分岐点を超えるところで設計するか。
 このように官需を前提に動いているのが、宇宙ビジネスのリアルになります。
──宇宙ビジネスにいつ、どう進出したら勝てるのか。ノウハウやフレームワークのようなものは存在するのでしょうか。
永崎 正直に言ってしまえば、そんな魔法のような方法はまだないというのが本当のところです。
 先行しているアメリカの宇宙企業も含めて、それぞれが「どうすれば儲かるのか?」「そもそも本当に儲かるのか?」の解やアプローチを模索している。
 私は3年半前に全く素人の状態から宇宙ビジネスをスタートしましたが、その理由は「誰もまだ本当の答えを知らなかったから」です。
 当時からみんな言っていることがバラバラで、それを知ったときに「答えがないからこそチャンスだ」と感じました。
 実際、当時は周囲の人から「宇宙ビジネスでどう儲けるの?」と懐疑的に見られていたように思います。
 でもいまでは、主力事業として「衛星の打ち上げ」や「宇宙空間での実証実験」の支援、ほかにも教育事業や宇宙に新規参入したい企業に伴走する宇宙利用事業など、多岐にわたる事業を展開するようになりました。取引先も100社を超える勢いで成長しています。
 ただそういう立場になってなお、「どうしたら儲かるか」の根本的な答えはまだ模索中の段階です。
山口 そもそも「どうしたら儲かるか?」の問いからビジネスを考えることが少し違うと思うんですよね。
 不確実で予見できない未来においては、「計算」よりも「衝動」がビジネスを駆動します。
 例えばなにか新しいビジネスを創るとき、「儲けが出そうだからやる」という従来型のビジネスプロトコルを判断基準としている限り、前述したような成長の限界を超えられなくなっている。
 これからの時代は、「やらずにはいられないからやる」という衝動から生まれるビジネスだけに、限界を超えられる可能性があります。その方向に日本をシフトさせなければいけない。
 そんなことを考えながら『ビジネスの未来』を執筆しているときに、ちょうど永崎さんから『小さな宇宙ベンチャーが起こしたキセキ』(アスコム)の帯の依頼がありました。
 原稿を読んでみたら、「もうここに衝動で動いている人がいた」と。「衝動」で動く人の強さを垣間見ました。

“衝動”で動ける人、動けない人の違い

──永崎さんは宇宙についてなにも知らない状態からスタート。9ヶ月でJAXA初の事業化案件を受託し、様々なパートナーを宇宙の商業化を促進する企業に成長させています。なぜ見通しが立たない中で、宇宙事業に参入できたのですか。
永崎 これはもう本当に不思議な縁の巡り合わせとしか言いようがありません。
 AOKIホールディングス会長の青木拡憲さんとベンチャーキャピタリストの赤浦徹さん(インキュベイトファンド代表パートナー)のお二人が後押ししてくれたことが、いまにつながります。
 私は一度きりの人生で完全に燃え尽きたいという思いが止められなくなり、11年勤めた総合商社を辞めています。その後、紆余曲折を経て、起業して教育事業を始めました。
 そんな中、当時の最大の顧客として接点に恵まれていた青木会長に「あなたの思想はすばらしいけれど、このままでは社会には広がらないだろう。ただ日本を代表する経営者となれば広がるのでは」と言われたんです。
 加えて「その挑戦する姿を子供たちに見せることが、教育としても大切なのでは。日本の将来をつくるような一大産業をつくるのを目標にしてみなさい」と。
 それがすべての始まりでした。
 そこで日本を代表する経営者を目指し、事業を模索している矢先、今度は赤浦さんから「宇宙はどうか」と提案されます。
 半年かけて調べてみると、「宇宙ビジネスにはまだ答えが見つかっていない。そこにチャンスがある」。
 また、宇宙は夢と希望の象徴です。それはいまの閉塞的な日本社会にとって、一番必要なものだと感じたんです。
──山口さんは、先ほど永崎さんを「衝動の実践者」と仰っていました。ほかの起業家と比較して、どのような点が違うと思いますか。
山口 このビジネスモデルならこれくらい利益が出るといった「期待値」がはっきりしない状態でも動けている点ですね。
 宇宙ビジネスはまだまだ国家主導でアメリカを中心に盛り上がっていますが、そこに明確なビジネスモデルが見えているわけではありません。
 宇宙ビジネスで事業創出しようとする企業や人は、期待値が相当低い状態からその一歩を踏み出しています。
 一方で、日本のビジネスの手順は、いつの間にか先々の見通しがきかないと踏み込めないものになってしまい、それを変えられずにいるんです。
 でも矛盾しているようですが、宇宙のような新しい領域は踏み出さないと見通しがつくことはない。
 インターネットが登場したときも、これと同じような現象がありました。スタート地点の最前列に並べなかった日本は、インターネット産業でことごとく敗北した。
 どうなるかわからなくても、とにかくスタート地点に立つことが重要です。儲かるかわからないからと様子見していると、先駆者との距離は広がるばかり。
 むしろ「このビジネスは儲かるか?」という発想自体が、長くイノベーションを阻害してきた要因ではないかと。
 だからこそ、これからは永崎さんのように「とにかく一歩踏み出す」ことが重要になります。

「宇宙」こそ最後のチャンス

──今後、Space BDはどのような戦略で成長を目指しますか。
永崎 私たちが目指しているのは、「宇宙のよろずや」。
 ビジネスや研究で、宇宙をもっと手軽に利用できるようにしていきたい。ハードルを下げ、新規参入を促し、さらには新しい宇宙の使い方をともに開発していきたいです。
 宇宙業界ではモノを供給するサプライヤーが先行しがちですが、我々は逆に需要に特化したプレーヤーなのが特徴です。
 宇宙ビジネスでは、ベースとなるものや最低限の技術力が必要です。私たちが案内人となり準備や伴走をすることで、ベース部分に労力をかけず、それぞれの企業の強みに特化した宇宙ビジネスができる体制をつくることができます。
 そのためパートナーシップ戦略にはこだわりたい。アメリカのように1社で官需のビジネスをするのではなく、パートナーシップを増やして民需を拡大していきたい。最近はそういうパートナーシップのニーズもかなり増えています。
──まさに宇宙商社的な役割ですね。今回のセッションを通して山口さんはどんな感想を持ちましたか。
山口 宇宙ビジネスを改めておさらいして、「見えている人」と「見えていない人」の温度差を非常に痛感しましたね。
 見えていない人の決め台詞は、「だって利益が出てないんでしょ?」とか「それ儲かるの? どういうビジネスモデルなの?」というもの。
 一方で見えている人は、スティーブ・ジョブズが最初にパソコンを見たときに「これは革命だ!」と語ったように、ある種の衝動やロマンを感じて、勝手に体が動いてしまう。
 1990年代の日本は、インターネットの登場に戸惑っている間に大家の立場を全部アメリカに取られてしまい、店子になるしかありませんでした。
 そういう歴史から学ぶことで、自分の動きを変えられる。これからやってくる宇宙の時代では、インターネットの二の舞は避けたいですよね。
永崎 山口さんが冒頭で仰っていた「人類が地球環境を毀損せずに拡張できる領域は、宇宙か仮想空間にしかない」という言葉。私も以前にお聞きしてから使わせてもらっています。
 私はこれからの日本の宇宙産業には世界をリードするチャンスがあり、それがいまの日本社会の課題解決そのものになっていくと信じています。
 だからこそ、手遅れになる前に多くの人に宇宙ビジネスに参画してもらい、一緒に挑戦したい。
 宇宙は日本が自信を取り戻す最後のチャンス。それくらいの覚悟で、これからも宇宙事業をリードしていきます。