Impact:ビットコインは地球に優しくない

Impact:ビットコインは地球に優しくない

Deep Dive: Impact Economy

これからの経済

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高騰を続けるビットコイン。プレイヤーたちが「発掘」に躍起になる一方で、その環境負荷が危惧されています。同時に、解決策を提示しようという者も……。毎週火曜夕方のニュースレターでは、気候変動をはじめとするグローバル経済の大転換点をお伝えしています(英語版はこちら)。

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Image: REUTERS/MAXIM SHEMETOV

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暗号通貨は気候変動を加速させる要因のひとつとして知られています。ケンブリッジ大学が行った調査では、ビットコインのマイニング(大量のコンピューターに複雑な演算を処理させることでコインを手に入れる行為)によって、アルゼンチンの年間の電力消費量と同じだけの電力が使われていることが明らかになりました。

最近のビットコインの過熱相場と連動してマイニングは急増しており、学術誌『Joule』に3月10日に掲載された記事によれば、その排出量はロンドンの都市圏とほぼ同じにまで拡大しています。投資家やトレーダーなど暗号通貨から利益を得ている人の数は限られることを考えれば、かなりの水準だと言えるでしょう。

テスラや決済大手スクエア(Square)は相当量のビットコインを資産として保有していますが、環境対策を売りにする企業にとって、暗号通貨の排出量問題潜在的なリスクになり得ます。こうしたなか、エコロジーなビットコインを目指す試みも行われるようになりました。ただ、デジタル通貨は現在のシステムではエネルギーの無駄遣いを助長するような仕組みになっており、仮にクリーンなエネルギーを使っても、大量の電力消費を正当化できるかはわかりません。

Bitcoin tries to go green

環境に優しくなろう

「環境に無害なビットコイン」を目指す最新の取り組みのひとつが、ノルウェーで進められています。同国2位の富豪のシェル・インゲ・レッケ(Kjell Inge Røk­ke)は3月、Seeteeというベンチャーを立ち上げると明らかにしました。

レッケは株主に対し、Seeteeは「地域で安定した需要がない電力(風力、太陽光、水力発電による電力)を、他の場所でも使用可能な経済的資産に変換するためのマイニングを確立する」ことを目指すと述べています。彼は、ビットコインは「負荷分散型の経済的なバッテリーであり、パリ協定の目標を達成するために必要なエネルギー転換にはバッテリーが不可欠」だと説明します。いったいどういうことでしょうか?

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Image: REUTERS/ALESSANDRO BIANCHI

具体的には、Seeteeは再生可能エネルギー発電設備のそばにビットコインのマイニング施設を設置し、エネルギー供給が需要を上回る時間帯に余剰電力を使ってマイニングを行う計画を示しています。こうすれば低コストで排出量ゼロのマイニングが可能になる一方で、発電事業者は安定した大口顧客を獲得することができるというのです。

ただ、『Joule』の記事を書いたデジタル通貨の専門家アレックス・デフリース(Alex de Vries)は、このアプローチには致命的な欠陥があると指摘します。Seeteeの計画は、地元コミュニティの電力需要があるときにはマイニングを停止することが前提となっていますが、マイニングは24時間休みなしに続けなければうまく機能しません。

ブロックチェーンでは、トランザクション(取引)を検証してコインが得られると次の検証のための計算は自動的に難易度が上がっていきます。つまり時間との戦いであり、ライバルに勝つ唯一の方法は、安価な電力を確保できる場所で演算能力の高いコンピューターを常時稼働することなのです(この点についてSeeteeにコメントを求めましたが、回答は得られていません)。デフリースは「マシンをシャットダウンするたびに取り返しのつかない水準の収入を失い、永遠に遅れを取ることになるのです」と言います。

「ビットコインはバッテリー」という例えも、あまり説得力はありません。余剰電力は実際に二次電池に貯蔵したり、水素の製造に利用したりすることができます。また、送電インフラを整備すれば需要のある地域に送ることも可能でしょう。

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Image: REUTERS/ALESSANDRO BIANCHI

一方で、グリーン電力を使ったマイニングはすでに行われています。中国では一部のマイニング事業者が夏に水力発電による安価な電力が手に入る地域に移動することがわかっているほか(ただ、冬は石炭火力発電による電力が使われます)、アラスカなど米国の太平洋岸北西部カナダでも同様のことが起きています。ケンブリッジ大学が2019年にビットコイン企業280社を対象に行った調査では、39%がマイニングには再生可能エネルギーを利用していると回答しました。

中国の大規模なダムに代表されるように、マイニングに使われなければ無駄になってしまう電力もあります。また、ロシアの国営天然ガス企業ガスプロム(Gazprom)は採掘や精製の過程で発生するフレアガスと呼ばれる余剰物をマイニング事業者に販売していますが、このフレアガスも通常は廃棄されてしまうものです(ただ、フレアガスの販売から得られる収益が採掘促進のインセンティブになる可能性はあります)。

Eethical energy dilemma

電力を巡るジレンマ

いずれにしても、マイニングに使われる電力の総量が「余剰」電力を大幅に上回っている現状では、再生可能エネルギーへのシフトに向けた努力をしても、倫理的な難問に直面せざるをえません。世界が脱炭素化に向けた懸命な努力を続けるなかで、資本や天然資源を暗号通貨に費やすことは受け入れられるのでしょうか?

デフリースは「長期的に見れば電力は徐々にグリーン化していくことが見込めますが、ビットコインが足を引っ張ることはあるでしょう」と言います。「本来なら他のことに使えるはずだった再生可能エネルギーが、マイニングに奪われてしまうからです」

これに対し、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院で応用経済学を教えるロベルト・リゴボン(Roberto Rigobon)は、システム全体のエネルギー効率を高めるなど技術的な解決策はあると説明します。ビットコインのマイニングは「どれだけ電力を使ったかによって勝者が決まる非常に悪いシステム」ですが、リゴボンは「これはビットコインだけの問題で、暗号通貨が一般的にそうであるわけではありません」と言います。

ただ、デジタル通貨を環境への罪悪感なしに利用できるようにするためには抜本的な変革(例えば、ブロックチェーンでの演算の総量を減らすためにマイニングそのものを完全に廃止するといったこと)が必要で、これは関係各所の合意を得なければ不可能なほか、通貨の暴落を引き起こす可能性もあります。なお、ビットコインの競合のイーサリアム(Ethereum)は、将来的にはマイニングのいらないプルーフ・オブ・ステーク(PoS)型への移行計画しています。

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一方、暗号通貨での取引が可能な決済プラットフォームも環境負荷に注目し始めました。ペイパルPaypal)の広報担当者は、この問題を調査しており「排出量を計測してそれに対処するための基準および手法が開発されることを期待している」と述べています。競合のスクエアは昨年12月、環境に配慮した事業運営を行うビットコイン企業を支援する目的で1,000万ドル(約11億円)の基金を立ち上げる明らかにしました。ただ、支援対象となる企業はまだ決まっていません。

マイニングによる排出量はビットコイン相場の上昇と連動して増えています。しかし、過熱相場に乗じようとマイニングを始めたマシンは、ビットコインの価格が下がっても電力を消費し続けるでしょう。これが電力需給に深刻な影響を及ぼすようになれば、当局が何らかの措置を取ることはあるだろうと、デフリースは指摘します。電力価格が安いためマイニング施設が多い中国の内モンゴル自治区では、3月に地元政府が暗号通貨のマイニングを禁止する方針を打ち出しました。

また、マイニングという行為そのものや、暗号通貨専用のハードウェアを製造する企業に特別税を課すというやり方もあります。デフリースは、重要なのは「これは何とかしなければならない問題なのだという認識を社会に広めること」だと言います。


Column: What to watch for

ガスとビットコイン

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Image: REUTERS/ANGUS MORDANT

12日には6万1,229ドルをつけるなど、この1年でほぼ9倍の値上がりを見せているビットコイン。そのマイニングに膨大な電力が必要なのは上記の本文にある通りですが、より安価なエネルギーが求められた結果、昨年4月の時点でビットコイン採掘能力の約65%が中国に集中。なかでも石炭資源が豊富な新疆ウイグル自治区がその中心地となっており(中国国内の36%を占める。英大学が開発したオンラインツール「Cambridge Bitcoin Electricity Consumption Index」による)、その倫理的な是非が問われています。

一方、アメリカにおける電力供給源としていま注目されているのは、天然ガスのガス井から発生するフレアガス。メタンを主成分とするフレアガスはいわば「副産物」で、販売しても採算が合わないため燃焼して処理されていましたが、その処理をめぐっては気候変動リスクの観点から改善が求められていました。「天然ガスによるビットコインマイニング」を掲げる米EZ Blockchainをはじめ、本文でふれたロシア・ガスプロムなどがそのソリューションに取り組んでいます。

(翻訳:岡千尋、編集:年吉聡太)


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