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藤井聡太フィーバーの裏、渡辺明の“しぶとい強さ”が注目…史上6人目の4冠が目前

写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト
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渡辺明名人

 藤井聡太(18)の最年少タイトル、最年少二冠に沸いた2020~21期の将棋シーズンが終わり、4月から新たなシーズンがスタートした。現在、8つのタイトルは藤井が棋聖と王位、豊島将之(30)が竜王と叡王、渡辺明(36)が名人、棋王、王将、永瀬拓矢(28)が王座と4人が分け合っている。ここへ来てみると、やはり渡辺明三冠の強さが光る。といっても、渡辺は三冠のうち二冠を3月に防衛したばかりだった。

 渡辺は3月14日に島根県大田市で開かれた王将戦の第6局で、「軍曹」のあだ名を持つ挑戦者の永瀬王座を破り、4勝2敗で王将位を3連覇した。永瀬には初戦から3勝していたがその後、連勝されて追いすがられたが振り切った。第6局は「千日手」(同じ局面が繰り返されること。4回で先手後手を入れ替えての指し直しとなる)になる熱戦だった。

 王将の獲得は通算5期である。これで通算のタイトル獲得は27期となって歴代4位の谷川浩司九段(58 永世名人資格)に並んだ。さらに3日後の17日には、東京で開かれた棋王戦5番勝負の第4局で、挑戦者の糸谷哲郎八段(32 元竜王)に勝利し3勝1敗で9連覇を達成した。

 これで通算のタイトルは28期となり、谷川を抜いて単独4位となった。対局日程も実に過酷だったが、たった3日間で大名人に「追いつき追い抜く」芸当を成し遂げたのだ。

 ちなみに通算タイトル記録のトップはご存じ羽生善治九段(50 永世七冠資格)の99期、そして2位が大山康晴十五世名人(故人)の80期、3位が中原誠十六世名人(73)の64期だから、いくら渡辺とて中原を抜いての「銅メダル」への道程はまだまだ遠い。

 渡辺は2016年、竜王時代、挑戦者の三浦弘行九段の「スマホカンニング騒動」に巻き込まれ、一時は順位戦のA級からB級1組に陥落するなど不調だったが、すぐに持ち直した。しかし三冠を維持していた昨年7月16日に大阪で挑戦者の藤井に棋聖位を奪われ、藤井の「最年少タイトル」の立役者になってしまった。これで二冠に後退したものの8月15日には大阪で、豊島名人に挑戦していた名人戦の第6局で勝利して4勝2敗で念願の名人位を初めて奪った。

「現在の最強棋士」

 考えてみれば、「現在の最強棋士」といわれ、竜王在位の通算11期をはじめとし、「通算27期」を誇る渡辺ほどの棋士が、この時まで名人に届かなかったことも不思議だった。逆に森内俊之九段(50 永世名人資格)は通算タイトルが12期であるが、このうち8期が名人位であり、名人戦には滅法強かった。タイトルにはどこか棋士との相性のようなものもあるのかもしれない。

 筆者も駆けつけた大阪での名人戦後の会見で渡辺は、「年齢的にもいつまでタイトルが狙えるかもわからないので、取れる時に取っておきたい」などと語っていたが、振り返ればこの時に名人を獲得してすぐに三冠に戻り「ずるずる後退」を防いだのが大きかったようだ。

 例年3月ごろに決着がつく王将戦と棋王戦は時期が接近しており、この2つのタイトルを持っていた棋士は同時に守ったり、逆に2つとも失冠してしまうことも多いという。シーズンが新たまる直前に2つ守り切ったのは、渡辺にとって大きいだろう。渡辺は次期へ向けての竜王戦は敗退してしまったが、奪還に向けて棋聖戦は順調に勝ち上がっている。

伝統の名人戦7番勝負

 さて、新たなシーズン、なんといっても注目は4月7日に東京で始まった伝統の名人戦7番勝負だ。初登場の名人戦で渡辺に挑むのは若手、長身で美男子「西のイケメン棋士」といわれる斎藤慎太郎(27)だ。奈良県出身、大阪育ち、18歳でプロ入りした斎藤は、17年に棋聖戦の挑戦権を得て羽生に挑んだが1勝3敗で敗れた。しかし、18年に王座戦の5番勝負で中村太地王座から3勝2敗で王座を奪った。これが初タイトルだったが、翌年には0勝3敗で永瀬に奪われてしまう。

 だが斎藤は昨年、八段に昇段し順位戦のA級にも昇級した。さらに10人しかいないA級では、豊島に敗れたものの8勝1敗のトップ成績で渡辺への挑戦権を得たのだ。A級1期目で名人戦の挑戦権を獲得したのは過去、谷川、羽生など数少ないが、最近では4年前の稲葉陽九段(32)以来だ。実は渡辺自身、名人戦挑戦権を獲得した時はA級1期での獲得だったが、渡辺は過去に8期もA級に在籍し、17年に不調で一度B1組に降級した。それでもB1組は1期で抜けだし、19~20シーズンにすぐにA級に復帰していたのだ。斎藤は現在無冠とはいえ、勢いに乗る強豪であり、楽しみな名人戦となった。

 こまめに日常を公開している渡辺のブログによれば、名人戦まで少し骨休めできたようだ。妻の伊奈めぐみさんは漫画家で夫を描いた、ユニークな『将棋の渡辺くん』も評判だ。余談だが、渡辺が毎週、出題を担当している「週刊新潮」(新潮社)の「気になる一手」は棋力の貧弱な筆者でも正答できることが多く、嬉しくなってしまう。実は渡辺の文章にある「ヒント」を読めば察しが付くことが多いのだ。ときにはヒントどころか、ほとんど解答と思えることもある。

 記者会見でしか取材したことはないが、きっと温かい人柄なのだろう。今シーズン、大山、中原、谷川、米長邦雄(故人 永世棋聖)、羽生しか達成していない4冠にも期待したい。

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

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