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大学スポーツ365日

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厩舎が全焼 愛馬失った岐阜大馬術部 足音響く「日常」を求めて

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昨春、満開の桜の下で記念撮影をした岩本華(前列右から3人目)ら岐阜大馬術部のメンバーたち。右の白い馬が「マイネルゴーシュ」で左が「コクリコ」=同部提供
昨春、満開の桜の下で記念撮影をした岩本華(前列右から3人目)ら岐阜大馬術部のメンバーたち。右の白い馬が「マイネルゴーシュ」で左が「コクリコ」=同部提供

 3月下旬、柔らかな春の朝日が降り注ぐ馬場で2頭の馬が小気味よい足音を響かせていた。岐阜大馬術部の新4年生、岩本華(21)は「特別なことではないが、馬と仲間に囲まれて過ごす幸せな時間が戻ってきたことが何よりうれしかった」と言葉に実感を込める。「日常」の風景が戻ってきたのはわずか2カ月前。今も思い出すと胸が痛む、あの記憶を忘れたことはない。

 2020年6月23日午前2時半ごろ、岐阜市の大学内の厩舎(きゅうしゃ)から自転車で10分ほどのマンションで寝ていた岩本の携帯電話が鳴った。「厩舎が火事で、大変なことになっている」。部員から連絡を受け、慌てて上着だけを羽織り、ペダルをこいだ。

 築37年の鉄骨2階建ての厩舎は炎に包まれていた。ちょうど放水作業が始まるところだったが、屋外の馬場に馬の姿は見当たらない。「もう遅かったんだな」と直感した。当時主将だった岩本は、集まった部員たちと声を掛け合い、何とか平静を保とうとした。馬の鳴き声は聞こえない。火の勢いはなかなか収まらず、厩舎が燃える音だけが耳に残った。

 厩舎は全焼し、7~18歳の馬4頭は全て犠牲になった。明け方に鎮火した後、一度帰宅した部員たちは少し休み、その日のうちに厩舎に戻ってきた。焼け跡から馬の亡きがらを自分たちの手で運び出し、トラックに乗せた。馬のひづめを保護する「てい鉄」や、馬の口に含ませる「ハミ」など、焼け残った馬具を集め、遺品として部員同士で分け合った。

 作業中は明るく振る舞おうと努め、楽しかった馬との思い出話などに花を咲かせ、冗談も言って笑い合った。「ここで私が落ち込んでいたら、他の部員に影響が出てしまう。とりあえず今は頑張ろう。…

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