【山口周×遠山正道】これからは「個のプロジェクト」が社会を作り上げていく

2021/4/9
NewsPicks NewSchoolでは2021年4月から「新しい時代の仕事との向き合い方」を考える2つのプロジェクトが始動する。
スマイルズ代表取締役社長でスープストックトーキョー をはじめ数々の新しいブランドやプロジェクトを立ち上げてきた遠山正道氏とともに「社会的私欲」をキーワードに自身の関心ごととビジネスをどうリンクさせるかを考え、システムやパターンにとらわれないオリジナルな人生を構想していく。
もうひとつは、話題の書籍『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す』などの著者としても知られる山口周氏によるビジョンクエスト〜「ビジネスの未来」創出〜
「ビジネスの使命は終了しつつある」と考える同氏とともに今後の社会において求められる「ビジネスに立脚しながら社会的課題を解決する人材=資本主義のハッカー」を目指し、それぞれの「パーソナルビジョン」を作り上げていく。
プロジェクトの開講に先立ち、既存ビジネスに対する課題感やこれからの生き方について独自のビジョンを掲げる両氏による対談が実現した。

世の中には、3タイプの人がいる

山口 僕は遠山さんのことを「マスター」だと思っています。遠山さんのビジネスには特別なものがあると感じていて、長いこと憧れていました。
山口 周
独立研究者/著作家/パブリックスピーカー
1970年東京都生まれ。電通、BCGなどで戦略策定、文化政策、組織開発等に従事。著書に『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す』『ニュータイプの時代』『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『武器になる哲学』など。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修士課程修了。株式会社中川政七商店社外取締役、株式会社モバイルファクトリー社外取締役。
遠山 ありがとうございます。
山口 印象的だったのは、以前年賀状に書かれていた3つのタイプの話。あれは興味深かったです。
遠山 世の中には「A:プロジェクトを自ら仕掛ける」「B:プロジェクトにお声がかかる」「C:仕掛けもせずお声もかからない」という、3つのタイプの人がいるという話ですね。
大きなシステムの中にいるとAのように自ら仕掛けることを忘れがちです。
最初からいつもお声がかかるBの状態だと、自分で仕掛けることを知らぬまま過ごしてしまう。でもAがないと、気付いたときにはCになってしまっているかもしれないんですよね。
一方、一人ひとりが常に自分事の小さなAをやっていると、お声もかかる。自ら仕掛ける人でありつつ、さらに声をかける人でいると良い循環が生まれます。
仕事と暮らしが混じり合う個人の商いを行う人が大半だった江戸時代のように、これからの時代は一人の人生と仕事がそのまま重なる、発意がカタチになるチャンスに溢れた時代になるのではないかなと、そんな風に考えています。
遠山 正道
スマイルズ代表取締役社長/スープストックトーキョー代表取締役会長/The Chain Museum共同創業CEO
1962年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイ専門店「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」を展開。「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、既成概念や業界の枠にとらわれず、現代の新しい生活の在り方を提案している。著書に『成功することを決めた』、『やりたいことをやるビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』。

「仕事」に人生を丸ごと預けてはいけない

──遠山さんのプロジェクトタイトルにある「1/1の人生デザイン」というキーワードともつながってきそうです。今回の企画についての思いや課題意識を詳しく教えていただけますか。
遠山 以前から世の中の大きなシステム、例えば経済、会社、拡大、効率、出世などが壊れて、もっと小さなプロジェクト化する時代が来るんじゃないか、つまり「組織から個人の時代になる」という予感がありました。コロナ禍において、いよいよそれが加速しましたね。
システムというものはいとも簡単に崩れてしまうのだなと実感しています。
同時に以前のように出歩けない状況になった今、自宅で家族とご飯を作って毎日一緒に食卓を囲むという、身近な幸せがそばにあったことに気づかされました。
その時に「1/1(1分の1)の人生」というキーワードが浮かびました。
自分が分母で、分子も自分。少なくともその1分の1の自分を自身でちゃんと面倒見ないといけないな、と。幸福も仕事だけでなく人生全体で考えることの大切さを改めて感じました。言い換えると、これまで会社組織に人生の全てをまるまる預けてしまっていたなぁという反省もありました。
──人生がシステムに組み込まれ過ぎていたということでしょうか。
遠山 仕事の中にやりがいや生きがいも目標やお金も仲間も、全てひっくるめてしまっていて、その横に「家族」というものが寄り添っているような感覚を持っていました。
でも今改めて人生を見つめてみると、自分というものがまずあって、家族や色々なコミュニティが存在する。仕事や組織はその一部でしかないんですよね。やりがい、生きがい、夢もそこに多種多様に存在しているから、仕事と自分の人生の順序を捉え直して、自分自身の在り方を修正していこう、と。
社員にも「自分の人生は自分で設計してね、まずは小さく。会社に依存しすぎないでね。」と伝えています。自分が幸せでいられる状態を作るには、大げさなことはいらなくて、ちょっとしたことの積み重ねで十分かもしれない。
それにはまず、自分自身を自立させた状態にすることです。自立的な人生を進めていこうとする個人が3人〜4人集まって家族となったり、あるいは組織になっていたりすると、おそらくそのチームはより強いものになるし、過剰に依存し合わないから家族の形としても良い状態になるんじゃないかなと。
スマイルズの年賀状に描かれたイラスト

小さなプロジェクトを仕掛ける

遠山 そうして人生を充実させていくには、自ら行動を起こす機会を増やして自然と仕掛けられる人になっていたほうが良いですよね。今は複業も認められている時代。
グラデーションのある働き方や暮らし方、そういうことを一つひとつ小さなプロジェクトととらえて、自分でハンドリングしながら楽しむ。そうしていると、元々本業と思っていたところにも良い影響を持ち帰れて、結果的に別々にやっていたことが結び付いてさらに楽しく、さらに強く、さらに魅力的になっていく気がしています。
そしてそれはきっと、社会にも良い影響を与えていくことなんじゃないかと考えて、私は「社会的私欲(Social Self Interest)」なんて呼んでいます。
NewSchoolのプロジェクトでは、対話やワーク、ゲストを招いての交流を通して、そのことを肌で感じてもらいながら、最終的にそれぞれの「1/1の人生設計図」を描いて、実践への一歩を踏み出すきっかけを作れればと思っています。
誰のものでもない自分の人生。まずは自分を整えて、自らを掘り下げていった先に社会的な豊かさが開けたなら、社会も自分ももっと幸せになれる未来が待っている、そう信じています。
山口 遠山さんのお話にはすごく共感します。僕も、もらった仕事をやっているだけでなく自分で仕掛けていこうと色々とプロジェクトは立ち上げているのですが、そろそろもっとギアチェンジをしていきたいと思っています。
そんなことを考えている中で、ちょうど今回NewsPicksからお声がけいただいたのですが「自分自身が新しいプロジェクトを考えるきっかけにしたい」という思いもあって引き受けることにしました。
遠山 周さんのプロジェクト、すごく面白そうだよね。

熱中できること×世の中に求められること

── 今回、プロジェクトを立ち上げるにあたって山口さんがお考えになったことや課題意識を伺えますか?
山口 ちょうど去年50歳になったのですが、実は僕は「人生4分の計算」というものを掲げていて、25、50、75で、50になったらギアを変えようと提唱してきたので、ちょうどいまがギアチェンジの時期だと思っています。
次の25年、何をやっていくかを考えたときに、もう少し具体的なものをまず個人的にやりたいと考えていました。
遠山さんのお話を聞いていると、いつもなんだか自分が怒られている気がするんですよ(笑)。「お前そのままでいいの?」って。もっと自分でクエストしていきたい。
資本主義の仕組みを否定的に捉える人もいるけれど、これを今ひっくり返しても仕方がないですから、上手に利用していけばいいと思うんです。僕は「資本主義のハッカー」という言葉を使っています。
この考え方をすでに実現しているケース、プロジェクトもたくさんあります。
クラスでは、そうしたケースに触れながら、自分ができることの手がかりを掴める機会を作れればと思っています。
また、熱量の高い人が集まる場はどんどん科学反応が起こります。一人でやるよりも同じ問題意識を持っている人と一緒に進めたほうが絶対に良い。
自分というものがあって社会があって、その間にプロジェクトがあるという状態に身を置くと、自分がどんな人間で何に熱中しているのかや、好き嫌いの理解が進みます。
その状態で、世の中の課題やニーズを見つめた時に見えてくるものがあるはずです。熱中できる事、世の中に求められる事、どちらか片方だけではうまくいきません。
これは稼げそう!と思ったとしても自分が夢中になれないことって、やっぱり頑張れないし、やっていて面白くないですから。
だから双方がピースとしてパチッと合うものを作らないといけなくて、そのためには独特な思考方法が必要だと思っています。それを一緒に捉えて考え実行していくプロジェクトにしたいですね。
遠山 具体的にみんなで新しいビジネスプランを考えちゃおう!というイメージですか?
山口 そこまでいけるといいなと思っています。

自然と当事者になれる場作りを

遠山 今の周さんのお話にもあったように、やっぱり自分自身の気づきと、どうエンジンをかけてアクセル踏むかっていうことを実体験してもらえる場を作っていきたいですよね。
だから、講座では私も話をするけれど、受講者ご自身に語ってもらう、動いてもらう機会を多くしていきたいなと思っているんです。
今「新種のimmigrations」というコミュニティをやっていて、初回はオンラインで約60人の顔合わせをしたんです。
普段だったら私が60分くらい話してしまうけれど、私が話すより「1人1言でもいいから必ず全員が最初に発言する場を設けたほうがいい」ってアドバイスをシステムの運営会社の社長から受けて、私は本当に最初に3分ぐらいしか話さず、あとはみんなに振っていきました。
そうしたら各自が3分くらいしっかり話をしてくれて、結果すごく充実した良い機会になった。それぞれが主役で、いつ順番が来るかわからないドキドキや、何を話すか頭を高速回転させてみるとか、そういう体験が良かったなと。こういう自分ごとになる機会を今回も散りばめたいと思います。
山口 NewSchoolのコンセプトが「プロジェクト型」というのも面白いと思っています。
プロジェクトと捉えると初日は初のプロジェクトミーティングだし、僕が何か話すにしてもプロジェクトのオリエンテーションくらいの位置づけで参加者に当事者になってもらえると思います。
遠山 そうそう、何事もプロジェクトベースでやっていくとみんなが本気になれるから良い効果をもたらすのではないでしょうか。
※次回は、これからの働き方、プロジェクトベースの仕事、暮らしについて深堀りしていきます。
(構成・執筆:小俣荘子、撮影:遠藤素子)
「NewsPicks NewSchool」では、

遠山正道氏による「1/1の人生デザイン ― 私欲を社会につなぐためのスマイルズ的メソッド ―」プロジェクト 

山口周氏による「ビジョンクエスト 〜「ビジネスの未来」創出〜」プロジェクト

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