3月26日に文部科学省が始めた「#教師のバトン」プロジェクト。現役の教師の声を働き方改革のヒントにしようとツイッターなどで改革事例の共有を目指したのだが、現場から「やりがい搾取だ」など労働環境への不満や批判が相次いだ。

萩生田光一文科相にこのプロジェクトの真の狙いを聞いた。

賛否あるが現場の声に真摯に耳を傾けたい

萩生田文科相「現場の声を文科省内で共有しようと始めた」
萩生田文科相「現場の声を文科省内で共有しようと始めた」
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――教師のバトンは文科省がSNSを活用して教育現場の声を直接聞くという画期的な試みでした。あらためてこの狙いを教えてもらえますか?

萩生田氏:
私は大臣に就任以来、教員の皆さんの働き方を変えなければいけないと使命感をもって、さまざまな取組をしてきました。すでに給特法の改正(※)や学校へのタイムカード設置、部活動への外部人材の積極的導入などを行っています。

私は教職員の皆さんから直接話を聞いてきましたし、私に直接メールなどで現場の実態を教えてくれる先生方もいます。ですから私なりに現場の実情を承知しているつもりですが、まだまだ先生方の大変さが伝わっていないところがありました。

そこで私が受け止めている感覚を文科省内でも共有してもらおうと、SNSを使って積極的に現場の先生方の声を聞こうじゃないかと始めたのです。

(※)改正教職員給与特別措置法(今月1日施行)。教員の深刻な長時間労働を踏まえ変形労働時間制適用や業務量の適切な管理を行うようにした。

――しかし投稿された教育現場の声は、当初文科省が狙っていた「学校現場で進行中の様々な改革事例やエピソード」ばかりではありませんでした。

萩生田氏:
当初は「教師は大変だけどやりがいのある仕事だね」という気持ちを教職を目指す若い人たちに感じてもらえればという期待はありました。一方で現場の苦労を吐露される方もいらっしゃるだろうと想定していました。確かに賛否がありますが、真摯に現場の声に耳を傾けていきたいと思っています。投稿の中にはマタニティハラスメントやパワハラの具体的な事例を書き込んだ方もいらっしゃるので、それは直ちに現状を確認し、改善につなげたいと思います。

「直ちに現状を確認し改善につなげたい」
「直ちに現状を確認し改善につなげたい」

現場の苦労や怒り想いを書いてほしい

――多くのメディアは「炎上」「批判殺到」と報じていますが、確かに投稿を見ると教育者としていかがかと思うような言葉も散見されます。大臣は先月30日の閣議後会見で「願わくば学校の先生ですから、もう少し品のいい書き方をしてほしい」と訴えたのですが、それにまた反発する投稿も見られます。

萩生田氏:
私が「文句を書き込むのをやめてほしい」と言ったように受け取った方もいらっしゃるようですが、そうではなく現場の苦労や怒り、想いがあったら書いて頂いて結構です。実は投稿の中には、一部大変過激な言葉があったんです。これから学校現場でICT教育が始まると子どもたちにSNSの利用を許可する学校も出てくると思います。そうした中で先生がああいう言葉を書き込むのは、子どもたちが見てどう思うのかなという思いでお願いしたわけです。何か意見を出すことについて言ったのでは全くありません。

「意見を出すことについて言ったのではありません」
「意見を出すことについて言ったのではありません」

――学校現場での様々な想いから多少荒っぽい言葉が出てしまうこともあると思います。こうした声に対して文科省では一件一件言葉を返していかれますか。

萩生田氏:
我々は現場の声を受け止めすべての投稿を見ていますので、必要な改善策があれば直ちに手を打っていくようにしたいと思っています。逆に言いますと、ここまで踏み込んだ文科省の覚悟を、私は現場の教員の皆さんに共有してほしいと思います。学校現場ではこれまで教員の働き方改革が常に話題になりながら、どんどん負担の大きな職になってしまいました。少なくとも私の任期中にこれを正常化したいと改革に取り組んできましたし、これからも魅力ある職業にブラッシュアップしていきたい、もう一度子ども達の憧れの職業にしていきたいという覚悟で取り組んでいます。

先生の働き方を一気に変えていくチャンスに

――とはいえ文科省への不信感が根強いことが投稿からは伺えます。

萩生田氏:
文科省を信用できないという書き込みがたくさんあることは認識しています。しかし変革の胎動は感じてほしいと思います。学校現場にICT端末が導入され35人学級が実現し、部活動の顧問に外部人材の導入が進んできました。明らかに一歩一歩変革しているので、この改革の胎動を学校現場の先生も共有して頂きたいと思います。先生たちのご苦労には本当に申し訳ないと思っています。特にコロナ禍でこれまで以上に業務が増えていることも充分承知しています。

先生の職業はやりがいがあるいい仕事であり、その人との出会いが子どもたちの人生観まで変えることもある。教え子たちがどんどん社会で活躍することができる。そういう人づくりの大切な職業だという気持ちをぜひ現場の皆さんと共有したいと思っています。

――投稿ではやはり長時間労働や給与など待遇面についての訴えが多いです。

萩生田氏:
昭和の時代では先生は人材確保法(※)と給特法で特別な公務員と位置付けられ、一般の地方公務員より待遇がよかったと思います。しかしいまは本来の仕事以外のことで多くの時間を取られている実態を考えると、報酬のあり方にはやや限界がきていると思います。先生たちの使命感に依存してどんどん仕事が広がってしまったことを、やはり改善していかないとならないと思います。

GIGAスクールも今年度からスタートしますので、職場環境と先生方の働き方を一気に変えていくチャンスだと思っています。

「先生の報酬の在り方にはやや限界がきている」
「先生の報酬の在り方にはやや限界がきている」

(※)教員の給与を一般の公務員より優遇し、優れた人材確保を目的とする。1974年施行。

――次は職場環境の改善と同時に課題となっている教師の質と量の確保について伺います。

後編に続く

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】
【撮影:山田大輔】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。