【カイゼン須藤×受講者】ミッションへの問いが、本質的な「DX」に繋がった

2021/4/7
「NewsPicks NewSchool」では、2021年5月から「DX戦略」について徹底的に学び、ディスカッションするだけでなく、実行計画まで策定するプロジェクト「DX戦略策定-実践編-」を開講します。
プロジェクトリーダーを務めるのは、多数の企業のDX施策を支援してきたKaizenPlatformCEOの須藤憲司氏です。
今回は開講にさきがけ、須藤氏に前回のプロジェクト(「DX人材養成」)を振り返っていただき、今回のプロジェクトへの意気込みを語っていただくとともに、そのプロジェクトを受講された東急ハンズの若手2人からも「参加者の声」をヒアリングしました。
前半は須藤氏のインタビューをお届けします。

DX推進には、DX人材の育成が不可欠

──昨年の7月から9月にかけて、『DX人材養成プロジェクト』を実施しました。須藤さんとして、どのような課題意識があったのでしょうか。
須藤 もともとDXというテーマそのものが、人と組織に依る部分が非常に大きくあります。
DXを進めるには、DX人材の育成が欠かせません。もちろん、DXが進まなければ人材も育っていかない。鶏が先か、卵が先か、という関係に似ているかも知れません。
私たちもDXを支援する事業を行っていますが、組織内に人材がいなければDXは推進できません。人材もおらず、DXも進まないという問題を解決する一歩として、「なんとかDX人材の育成支援ができないか」と。
そう考えていたタイミングで、NewsPicksから声を掛けてもらえたことが、プロジェクト実施のきっかけになります。
──実際に全6回のクラスを行って、課題意識が解消される手ごたえはありましたか。
須藤 6回を通して、多岐に渡る業種・業界のDXを取り上げましたが、まず様々な業種の人材とのディスカッションは非常に有意義だと感じましたね。
関係の近い業種や業界のなかだけで話をしていると、DXも閉じた領域における業務プロセスのデジタル化にとどまってしまいます。
しかし、幅広い業種・業界の方々と関わることで、思わぬ類似点や共通点、問題点などが発見でき、解決策のヒントも提供できました。考え方や視野が、大きく広がったという実感はあります。
一方、DX人材の育成という課題解決は、まだ道半ばと言えます。やはり参加者の目的意識をしっかり揃えていかないと解決は難しいなと。
そのため、今回5月から新たに『DX戦略策定プロジェクト』を始める際は、半年間のスパンでゴールをきっちり設定するつもりです。メインで考えているのは、参加者の所属する企業のDX事業計画や中期経営計画などを詳細化していくこと。
さらに、参加者には自社のDXだけでなく、一緒に参加している企業とコラボレーションできるテーマも探してもらえたらと考えています。
その2つを目標に、半年間に渡ってプロジェクトを行っていこうと考えています。
須藤 憲司/KaizenPlatform 代表取締役
2003年に早稲田大学を卒業後、リクルートに入社。同社のマーケティング部門、新規事業開発部門を経て、リクルートマーケティングパートナーズ執行役員として活躍。その後、2013年にKaizen Platformを米国で創業。現在は日米2拠点で事業を展開。Webサイトをわかりやすくつかいやすく改善する「UXソリューション」、5G時代の次世代動画制作プラットフォーム「動画ソリューション」、事業やビジネスを変革する「DXソリューション」の3つのソリューションを提供。(写真:是枝右恭)

あなたたちの「ミッション」は何ですか

──前回は東急ハンズさんから2人参加していました。須藤さんの目には、2人はどう映っていましたか。
須藤 参加者の方々の意欲は非常に高く、大変ありがたかったですね。
ハンズの2人からも、「自分たちは真剣にハンズのことを考えている」という意欲がひしひしと感じられました。
一方、狭い範囲で物事を考えてしまっていた点が、もったいないとも感じていました。例えばECやデジタルという話題になった瞬間、急速に視野が狭まっていくような印象がありました。
なので、プロジェクト終了後に彼らのプロジェクトに関わるとなったとき、最初に行ったのが「ハンズのミッションは何ですか」と徹底的に聞くことでした。
彼らの答えは、「自分たちはクリエイティブライフを提供している」とのことでした。
ただ、私はそこから「それなら、クリエイティブライフとは何ですか」と、さらに掘り下げていきました。
「自分たちが本当に何をしたいのか」を掘り下げれば、デジタルの活用方法がクリアに見えます。また、自分たちがやりたいこと、成し遂げなければいけない使命も、その企業の目的や存在意義を明らかにすることで把握できるものです。
実際、掘り下げていくうちに、「クリエイティブライフ」という言葉の捉え方も、それぞれで異なっていると感じました。
例えばSNSで投稿するときのネタが欲しかったり、自粛期間に家で夢中になれることが欲しいのかもしれない。あるいは、共通の趣味を持つ人たちで集まるという可能性もあります。
なので、「ハンズさんは、誰のどんな問題を解決しようとしているのか?」「それを実現するために、今できていないことは何か?」と問いていくことを続けました。
そして、最終的に出てきたのが、「ワークコミュニティ」という、今までの商品を売りっぱなしにしてきた構造をどうにか変えたい、というアイデアになります。
商品である手作りキットを販売するだけで終わりにせず、オンラインのサブスクリプションサービスとして、講師から作り方を学び、仲間とともに取り組むという、コミュニティ事業にまで昇華させた形です。
アイデア自体、「クリエイティブライフと謳っているものの、ハンズで手作りキットを購入してもらっても組み立てられずに終わっているのではないか」という思いから生まれたと言えます。
私自身、「それなら、コミュニティをつくることは効果があるかも知れません」という話はしましたが、実際にやったことは「東急ハンズは本当は何をしたいのか」を掘り下げること。
私たちは考えるのではなく、ファシリテーターとして、相手から引き出してくことでした。
(写真:是枝右恭)
──通常、コンサルタントであれば解決策を持っていくところ、解決策を自分たちで考えてもらうと。
須藤 実はほかにも、ハンズの経営会議にお邪魔して、「DXとは何なのか」「今後の論点は何か」などの説明もしていました。そして、経営層がどのような課題を感じているか、オープンな意見も聞いています。
DXを進める際に頻繁に起こる問題として、経営の目線と現場の実体のズレがあります。その乖離を解消するために必要となるのが、現場から問題意識などを引き出していくことです。
ここで重要なのは、答えを出すというより、現場の課題意識を引き出しながら、わかりやすい形に整理することになります。
一方、経営層に対しては、現在起きていること、直面している課題背景の説明が欠かせません。DXの概要はもちろん、世の中の変化を交えた一般論とともに、ハンズの置かれている環境や市場を説明していきます。
なので、私たちの存在は、イメージとしては経営層と現場の橋渡しと言えるかも知れません。

今回はより「実践」に近い形に

──東急ハンズさんのように、受講生を通じた取り組みは今回のプロジェクトでも増やしていこうと考えていますか。
須藤 そうですね。プロジェクト自体、実際の事業につながってほしいからこそ、参加者には自社のDX事業計画をプロジェクト期間の半年間で作成してもらいたいと考えています。
そして、コラボレーションできる企業も1社見つけると。
繰り返しになりますが、この「事業計画の策定」「コラボレーション先を見つける」という2つをテーマにしていきたいですね。
(写真:是枝右恭)
──今回のプロジェクト内容の具体的なイメージを教えてください。
須藤 前回は、業種や業界の話を主に展開していきました。今回は一般論よりもっと掘り下げて、自社とその提供価値の変化などにフォーカスしたいと考えています。
DXを推進しようとすると、当然企業全体の動きに波及していきます。しかし、今回は参加者に「自分たちの部署からでも取り組めることはあるか」というヒントを出していくつもりです。
現実として、DXは当該部署が幅広く、調整すべきことが増えると難易度は上がっていきます。もしもひとつの部署だけで完結できるのであれば、取り組みやすく、PDCAサイクルも非常に早く回せるので、成功しやすいものです。
なので、参加者の部署がDXを立ち上げ、進めながら周囲の部署も巻き込んでいけるような実行のファーストステップまで一緒につくっていきたいと考えています。
前回よりも実践に近い形で、ブラッシュアップをしていくと言えるかも知れません。
──最後にプロジェクトに向けた意気込みや、受講者へのメッセージをお願いします。
須藤 昨年末に『#DX白書2021』というホワイトペーパーをつくった際、今回のコロナ禍で浮き彫りになったのはDX格差だと感じました。
DXを推進している企業はコロナ禍の影響は少なく、むしろ業績を伸ばしているところもあります。一方、DXへの取り組みが遅れていたことで、窮地に陥っている企業もある。
そんな格差が広がっている今の時代だからこそ、今回の実践的なDXプロジェクトを通じて参加者にはきっかけをつかんでもらい、企業のDXを推進し、事業を変えてもらいたいと考えています。
「DXを本当に実践したい」という方にこそ、今回のプロジェクトに参加してもらえれば大変ありがたいですね。
続けて、前回参加者の東急ハンズの2人、デジタル戦略部の小野聖治氏とITソリューション部 DX推進グループ 田中大地氏に話を聞いた。

前回参加したきっかけ

──2人が昨年に『DX人材養成』プロジェクトに参加したきっかけを教えてください。
小野 私は、2019年4月から本社のデジタル戦略部という、主にDXを推進する部署に異動になったことで参加しました。
プロジェクトの存在を知ったのは、他部署でNewsPicksに関わりのある人物から紹介を受けてからです。その上で、他社のDX事例や仕事に生かせそうな話が聞け、DXについてのディスカッションの機会を得られそうだと感じたことが参加のきっかけでした。
田中 私は2020年10月からDX推進グループに配属されましたが、参加の流れは小野と似ています。きっかけ自体は事業開発を担当している人物がslack内で参加募集を呼び掛けたことでした。
私以外からの反応はあまりなかったようですが、個別に「参加費20万円ですが、興味があります」と問い合わせたところ、そのまま参加できたと。チャンスがあるなら掴もうとしたら、そのまま掴めてしまったというのが正直なところです。
ただ、IT関連の部署に入ったからには、注目されているDXへの理解も深めたいという思いが、一番の動機でした。
東急ハンズ・ITソリューション部 DX推進グループ 田中大地氏(写真提供:東急ハンズ)
──実際に参加してみた印象を聞かせてください。
田中 各社の実例を深掘りでき、それをいかに自社で活かすのかを考える機会が多く、非常に実践的という印象でした。
忘れられないエピソードも数多くありますが、強いて挙げるのであれば、SOMPOひまわり生命を扱った回になります。デジタルを活用することで、「保険会社から健康応援企業になる」と企業理念を変える流れが、DXの目指す最たる例だったため、強く印象に残っています。
実際、私たち自身も「こうやってDXを進めていきたい」と強く感じさせられました。
小野 私は、初回のゲストだったTSUNAGU・パートナーズ代表取締役の相澤利彦さんの話が脳裏に焼き付いています。話を聞いた後、帰り道で田中と一緒に「こういう風に進めて行きたい」と、興奮しながら話したことをよく覚えています。
ほかには、中古車を扱うガリバーのIDOM社の事例になります。少人数からスモールスタートで成功を重ねることで、大きなサービスに成長させた過程を聞けたのは、非常に印象的でした。
東急ハンズ・デジタル戦略部 小野聖治氏(写真提供:東急ハンズ)

“良い具合の痛さ”もあった

──講師である須藤さんの印象はいかがでしたか。
小野 基本はモデレーターという立ち位置で他社の事例を触れながら、それをいかに自社に落とし込んでいくかという目線は一貫していました。
個別に相談する機会で、田中とともに東急ハンズのDXについて話を聞いたときも、「なぜ東急ハンズはDXに取り組むのか」「クリエイティブライフとは何なのか」と、根本から考え直すきっかけをもらえました。
そういった目線で考える重要さに気付けたことが、私には非常に為になったと感じています。
田中 須藤さんは会話したとき、かなり深掘りしてもらい、本質を聞こうとしてもらえたという印象が残っています。ディスカッションの相手としては、非常にロジカルでありながら、“良い具合の痛さ”もありました。
伝わりにくい表現かも知れませんが、“なあなあ”で済ますのではなく、「それってどういうことですか?」と、恐れずに聞かれます。外部だからこそできることかも知れませんが、実は非常にありがたく感じたものです。
もしも、私たちが社内の上司に「DXで何をするのか」と問うた場合、食ってかかってきたと思われたり、「何だこいつ」と感じさせるかも知れません。しかし、外部からの意見だからこそ、素直に考える機会になると思わされました。
モデレーターとして話されているときの印象としては、知識量の膨大さに驚きましたね。ポロっと「他社でもこういう事例ありますよね」と口にするこぼれ話にも、かなりの価値を感じたものです。
(写真提供:東急ハンズ)
──良い意味で、遠慮なく指摘をされると。
小野 相談のときも、「東急ハンズは何をする会社なんですか」という質問から始まり、私たちとしては「クリエイティブライフを提供する会社です」とドヤ顔で答えたものです。
しかし、さらに「そもそもクリエイティブライフとは、何ですか?」と突っ込まれました。そのときの私たちは、まったく答えが出て来なくなってしまいまして。
ただ、その質問こそが「クリエイティブライフとは何なのか」と突き詰めていくきっかけになりました。
「クリエイティブライフを提供する」「クリエイティブライフはこういうものだから、お客さんにはこういう価値があるはずだ」と紐解き、突き詰めていくことで、最終的に言語化していけたという感触も持っています。
田中 当時は、「クリエイティブライフ」という考えについて、私たちもある程度のイメージは抱いていました。ところがそのイメージは、対話を通していくことで、実際はそれぞれ異なっていたことがわかってきました。
そして、「クリエイティブライフ」という言葉の捉え方にもかなりの幅があることを理解すると、次はどのように言語化していくかというフェーズに進みます。
その段階で、須藤さんからは「こだわりのあるものを買ったりするだけでも充分クリエイティブライフであるから、クリエイティブライフを何かを作ることだとフォーカスしすぎない方がいいのでは」という、アドバイスがありました。
確かに、DIY=クリエイティブという考えで固まっていた場合、デジタルでの提供ではやれることは限られてくるなと。クリエイティブという考え自体を、より広い意味で捉えると柔軟な発想ができ、本当に提供したいものも見えてくるのではないか、と考えるきっかけになりましたね。
──そうすることで、選択肢が広がったと。
田中 そうですね。今までは事業の一部分だけ切り取り、「これがクリエイティブライフだ」「これがハンズの提供するものだ」と考えがちでした。
しかし、それら以前のマインド面から深掘りできたと感じています。
小野 受講によって、お客さま視点がいかに大事かも改めて気づかされましたね。
DXの失敗事例として、自社の理想を前提にしたツールを使ってサービスをリリースしてしまうことがあると思います。しかし、プロジェクトを受けたことで、「お客さまのニーズは何か」を考えはじめなければ、全く響かないサービスになってしまうと、感覚的に理解できました。
その考えを突き詰めた結果、最終的に「DXをやらない選択肢もある」という発想にも至りました。要するに、デジタルで何かをするのは結果であって、目的ではないと。たとえ、どれほどUIが素晴らしくても、使ってもらわなければ意味がありませんからね。

課題感は経営層にも響いた

──プロジェクトで顧客視点の重要さを再確認したことが、具体的に生かされたエピソードはありますか。
田中 社内でのプレゼンで、「私たちがしたいからではなく、お客さまが望んでいるからこそ変わっていくべきだ」と話しをしたところ、反応は非常によかったですね。
プレゼンの具体的な内容としては、SNSやアプリの普及、コロナ禍で余暇の時間の増加、リモートワークにより趣味に費やす時間も増えているといった、世の中の変化を挙げるとともに、そこで私たちがどんな価値を提供しているかと問いました。
「私たちは商品を販売しているものの、販売後にしっかりと使用されているのかどうかまでは、把握できていないのではないか」と。
例えば、レザークラフトグッズを販売していても、購入したお客さまがしっかりと作れたかどうか配慮できているのか。ほかにも、グラスアートのワークショップなども提供していますが、購入後もお客さまに趣味として継続してもらえているかどうかなどです。
しかし、実際には商品がライフスタイルとして定着しているかまで、目線が行き届いていませんでした。
そして、「その売りっぱなし・やりっぱなし」の構造こそが現在抱えている問題だとして、変化が必要なのではないかと。
変化すべき姿を「商品販売後も、お客さまのクリエイティブライフの実現をサポートする企業にならなければいけない」と定義し、そのために商品販売後のアフターフォローでデジタルの力を活用していくべきだと、プレゼンしました。
デジタル活用の具体例としては、アプリを使ったリマインド通知や説明書にも掲載されていない商品の使い方特集などがあります。
体験提供でも、ワークショップ後にお客さま同士が交流して、楽しみや課題を共有できる環境作りなど、新たに何かが生まれるようなプラットフォームを作っていこうと考えています。
小野 これまでは、瞬間的なクリエイティブライフの実現はできていたかもしれないけど、継続的なサポートはできていなかったという意見は、経営層にも響いた手ごたえはありましたね。
ただ、ひとつのプレゼンで社内の雰囲気を一変させるだけに限らず、日々の業務の中でも、DXのマインドをチームメンバーに伝えて共通理解を構築する上で、プロジェクトの経験は非常に役に立っている感触はあります。
田中 顧客視点や他社の事例について、プロジェクトに参加した私と小野に共通理解があったので、チーム全体を小野が引っ張っていき、私がサポートに回る役割分担もできましたね。その点も、2人で受講した成果と言えそうです。
(写真提供:東急ハンズ)
──経験者の立場から、どのような方に受講を勧めますか。
小野 私たちは若手社員として位置付けられますが、ぜひ経営層の方々にも受けて頂ければと思います。実際にプロジェクトには私たちよりも年上の方もいらっしゃって、毎回感銘を受けているように見受けられました。
私たちとは違う気づきがあるのかも知れないですし、若手がプレゼンするよりも、経営層が直接変えて行く方が組織のDX化も早まるのでは、と感じます。
田中 ほかには、DXの担当になりたて、あるいは関連部署に配属されたばかりであれば、受講する意味は大きいかと思います。
DXにまつわる成功体験や苦労話を聞けるため、DXを推進していく立場からすれば、「私もやってみよう」と、モチベーションにつながりやすいはずです。
もちろん、「『今、DXが流行っているから、お前やれ』と言われたから」といった後ろ向きな理由でも問題ないと思います。
受講することでやる気を起こさせられますし、考えを共有しあえる戦友も必ずできるはずです。
(取材:上田裕、構成:小谷紘友、デザイン:九喜洋介)
「NewsPicks NewSchool」では、2021年5月から「DX戦略策定-実践編-」を開講します。詳細はこちらをご確認ください。