【小島英揮】コミュニティ拡大の上でやるべきこと、避けるべきこと

2021/4/4
「NewsPicks NewSchool」では、2021年4月から「コミュニティマーケティング」について徹底的に学び、実践するプロジェクト「コミュニティマーケティング実践編」を開講します。
プロジェクトリーダーを務めるのは、コミュニティマーケティングをいち早く推し進めたAWS(アマゾンウェブサービスジャパン)のマーケティング本部長を務めるなど、コミュニティマーケティングの第一人者である小島英揮氏です。
今回は開講に先駆け、小島氏が過去に出演したMOOC「ゼロから始めるコミュニティマーケティング」の内容をハイライトし掲載します。

3つの「ファースト」を意識しよう

コミュニティを正しく拡大させる「ポリシー」「メンバー」「ベクトル」の3つの視点において、はじめの「ポリシー」では、コンテキストファースト、アウトプットファースト、オフラインファーストという、3つのファーストを意識する必要があります。
まず、コンテキストファーストは、「この場はどういう場なのか」「どこに向かっているのか」を共有するための文脈です。この文脈を初めに設計しておかなければ、コミュニティの成長はままなりません。
次なるアウトプットファーストは、コミュニティの活動であるコンテンツを外部に拡散するということ。そもそもコミュニティの活動が外部に発信されなければ、誰にも発見されることがないため、sell through the communityには欠かせないポイントです。
そして、外部に拡散する流れをオフラインで生み出した方が上手く行きやすいという点で、オフラインファーストを挙げています。人の熱気も、目の前にいる相手に話をしたり、同意を得たり、周囲が頷いている様子などを感じることで、伝わりやすくなります。
ただ、コロナ禍によって、オフラインが難しい現状があります。そのため、現在はかつてオフラインで行っていたことを、オンライン上でいかに再現できるかが重視されます。
それは心理的安全性を保ち、参加者の熱気を共有すること。そして、そのためになにより必要なのは信頼になります。
コロナ禍である現在は、オフラインファーストはトラストファーストと入れ替えられ、いかにメンバーとの信頼を築き、新しい参加者に心理的安全を提供できるかがカギとなります。
信頼を築くための手法もいくつかあり、そのひとつに紹介があります。新しく知り合う相手との間に、共通の知人や話題があれば信頼は築きやすいものです。もしくは、同じコンテキストやアウトプットを共有している場合です。
そのため、トラストファーストを意識する際は、今まで以上にコンテキストやアウトプットに注力してもいいのではないでしょうか。
小島 英揮
パラレルマーケター / Still Day One 合同会社 代表社員
IT/B2Bの世界で、30年ほどマーケティング活動に従事。PFU、アドビシステムズ等を経て2009年から2016年まで、AWS(アマゾン ウェブ サービス)で日本のマーケティングを統括。その間、日本最大のクラウドユーザーコミュニティ JAWS-UGの設計、立ち上げに携わる。2016年にコミュニティマーケティングへのニーズの高まりを受け、コミュニティマーケティングのためのコミュニティ = CMC_Meetup を立ち上げる一方、2017年よりAI、キャッシュレス、コラボレーションなどの分野の複数のSaaS サブスクビジネスで、マーケティング、エバンジェリスト支援業務をパラレルに推進中。著書に『ビジネスも人生もグロースさせる コミュニティマーケティング』(日本実業出版社)

リーダー、フォロワー、ワナビーズ

コミュニティを拡大させる3つの視点の2つ目である「メンバー」では、まず関心軸を設定してから、構成メンバーを集める必要があります。
関心軸の設定がなぜ必要かと言えば、一度走りはじめたコミュニティの方向転換は非常に難しいためです。
参加者はある程度のイメージを持ってコミュニティに入っているのにも関わらず、「やっぱり違う」と方向転換をしてしまうと、当然ながらほとんど一から作り直しになってしまいます。そのため、「まずは作ってみてから考える」というアプローチは、コミュニティ作りに関しては、避けるべきだと言えるでしょう。
コミュニティに集めるメンバーでは、“リーダー”、“フォロワー”、“ワナビーズ”という構成が望ましいと考えられています。
リーダーは、商品やサービスの良さを把握して人に伝えることができる人物。フォロワーは、リーダーの話を知りたがっていたり、聞いて試してみようとする人になります。最後のワナビーズは、コミュニティに関心があり、これから参加しようとする層です。
コミュニティにおける比率としては、リーダーとフォロワーで約20%。ワナビーズで残りの約80%という数字が最適と言えそうです。ただ、ワナビーズは後から入ってくるため、コミュニティの初期はリーダーとフォロワーを中心にムーブメントを作ることが非常に重要になってきます。
このリーダーとフォロワーを、私はボーリングの先頭のピンにボールが当たればストライクを出せることにかけて、“ファーストピン”と称しています。
同じような現象が、プレゼンテーションイベントのTEDでの、「How to start a movement?」という動画にあります。
社会運動やムーブメントがどう起こるのかを紹介した動画で、初めに1人の人物がおかしなダンスを踊り、それを真似する人々が続々と出てくることで、大きなムーブメントに成長する様子を収めています。
コミュニティづくりでも同じような流れを実践するために、まずは熱量高いファーストピンになるような人物を見つける必要があります。
そのためには、とにかく顧客と接点を持つことが欠かせません。多くの顧客と会う中で、熱量が高く、人に教えることができ、そしてその話を聞きたがっている人物を集めることで、ファーストピンになり得るリーダーとフォロワーでコミュニティを形成していけます。
とはいえ、初期のメンバー全員を独力で見つける必要はまったくありません。初めの何人かを見つけることができれば、そこから「同じ考えを持つ方はいませんか」と、紹介の連鎖を辿ることで、コミュニティに適した同タイプの人々に行き着くものです。
このリーダーとフォロワーでコミュニティの熱量を高めたのちに、ワナビーズも入れてオープンなコミュニティを形成していく考えは、焚火にも似ています。しっかりと種火を起こしてから、燃料物を投入していくことで大きな火になっていくという、焚き火の鉄則と言えます。

自走化、エリア展開、株分け

コミュニティを拡大させる視点の、最後にあたる「ベクトル」でも、3つのポイントがあります。
まず1つ目のポイントは、“自走化”になります。企業がコミュニティを作る際に、コミュニティマネージャーやマーケターを担当につける場合もあると思います。
しかし、彼らが専任でなければコミュニティが回らないのであれば、いずれ企業の人的リソースの限界が、コミュニティの成長スピードの限界と同一になってしまいます。
企業としてはもちろん必要な支援はするものの、拡大を目指すにはコミュニティ内で様々な活動が自然と発生するような、自走化ができるかどうかが重要な分かれ目になります。
次のポイントは“エリア展開”です。例えば東京にコミュニティがあるならば、大阪にも同じコミュニティの発足が望まれるなど、エリアごとに支部が生まれることはコミュニティが大きくなる上で非常に効果的です。
巨大なコミュニティでリーダーシップをとれる人材は限られますが、多くの支部があれば支部の数だけリーダーも生まれます。
リーダーの増加は自分事化する人材の増加でもありますから、コミュニティ全体の成長にも非常によい影響を及ぼします。
そして、3つ目のポイントが、“株分け”という考え方です。
新しいテクノロジーのコミュニティの場合、はじめは誰もが初心者になります。しかし、やがてコミュニティ内にも「より深く知りたい」というニーズと、「新しい参加者にも知って欲しい」というニーズが出てきます。
この2つの異なるニーズを、1つのコミュニティでこなし続けるのは困難を極めます。
そこで、規模が大きくなってきたときこそ、株分けのタイミングになります。例えば、初心者だけを集めて玄人お断りの場を作ると同時に、非常にディープな話だけをする場を作るイメージです。
その上、株分けの場合でも、支部が作られるのと同様にリーダーが生まれます。エリア展開と株分けは、コミュニティ全体のリーダーを増やし、ベクトルを強くする作用があります。
実際に、この3つのポイントを押さえてコミュニティ拡大を図ったのが、AWSのJAWS-UGというコミュニティです。JAWS-UGの参加者は年間1万人以上で、イベントなどの会合も年250回以上開催しています。
かなりの頻度でイベントを開催できる理由こそ、コミュニティが自走化し、各支部の設立と株分けがしっかりと行われているからに、ほかなりません。自走化、エリア展開、株分けが理想的に行われた結果、JAWS-UGのモデルを踏襲して様々なIT系コミュニティも拡大を続けています。

3つのNGには注意

最後に、コミュニティを拡大させる3つの視点があるように、コミュニティづくりにおける3つのNGも紹介しておきます。
まず1つ目は、関心軸ではなく人軸でメンバーを集まることです。
特定の人物の魅力などをコミュニティの中心に据えると、参加者はその人物との関係性の奪い合いになり、拡大するための外への力ではなく、内向きの力が働いてしまいます。
そして、その人物がいなくなった瞬間にコミュニティそのものが崩壊する危険性もはらんでいます。
次のNGは、インフルエンサーマーケティングの持ち込みになります。コミュニティマーケティングは口コミマーケティングのように見られがちなため、インフルエンサーを取り込んだらいいと、考えられることがあります。
しかし、インフルエンサーマーケティングは大勢のフォロワーを抱える人物の影響力を購入するため、マスマーケティングと変わりません。
もちろん、瞬間的に拡散力は上がる可能性はあります。ただ、影響力は継続するわけでもなく、いずれは宣伝だと簡単に見抜かれてしまいます。コミュニティづくりにおいては、インフルエンサーの力を借りるよりも、コミュニティ内のファンがインフルエンサーになることが理想と言えます。
そして最後のNGが、商品やサービスについて知識があれば偉い、といったマウンティングです。知識によるヒエラルキーがコミュニティ内に持ち込まれると、一見さんが入りにくくなり、雰囲気も悪くなりがちです。
とはいえ、知識に富むことは尊重すべきことではあります。そのためコミュニティ作りにおいては、知識をマウンティングではなく、利用者の増加や世界感の拡大に活用するようにすべきでしょう。

まずはコミュニティに参加しよう

VUCAの時代、そしてコロナ禍と、不確実性が高まる時代において、ビジネスにおけるコミュニティの存在感は確実に高まってきています。
一方、「コミュニティ・バブル」とも思えるコミュニティを銀のタマにとらえる論調や、コミュニティ経験のない人や組織がコミュニティ構築をコンサルする等の状況が見受けられ、「コミュニティ幻滅期」が始まっているとも言えます。
今回のNewSchoolのプロジェクトでは、実践に裏打ちされたビジネスコミュニティの立ち上げ・運営のフレームワークを提供するとともに、参加者の方とのディスカッションやワークショップを通じて、個々のケースに合ったビジネスコミュニティ創りの計画書の作成を目標とします。
また、フレームワークや考え方を身につけるだけではなく、一緒に学んだ人たちが相互に助け合い、ゴールを目指すコミュニティの一員になっていく過程をぜひ体験していただきたいと思っています。
コミュニティを学ぶには、まずコミュニティに参加する。
アタマだけで理解するのではなく、実体験でも理解する、そんなプロジェクトに興味のある方の参加をお待ちしております。
(構成:小谷紘友、デザイン:九喜洋介)
「NewsPicks NewSchool」では、2021年4月から「コミュニティマーケティング実践編」を開講します。詳細はこちらをご確認ください。