2021/3/31

【岩政大樹】日本代表、完璧な2試合はこう作られた

コロナ禍で止まっていた、ビッグトーナメントが少しずつ動き出している。サッカー日本代表は先日、2019年11月以来の国内での試合を行った。
アジアカップの準優勝から逆風が吹き始めていた日本代表は、宿敵の相手・韓国に3対0、二次予選となるモンゴル戦では14対0と完勝した。ベスト8を目指す森保ジャパンのこれからとは。元サッカー日本代表の岩政大樹が分析する。

1)韓国に圧勝できた理由

──ライバル韓国との一戦は3対0の完勝でした。この一戦を中心に、本大会まで1年半に向けた現在地・見方をお聞きしたいです。まず韓国戦で、これだけの結果になったのは「韓国が低調だったのか」、それとも「日本が韓国の良さを消した、上回った」のか。岩政さんの見立てからお聞かせください。
岩政 事実として韓国のパフォーマンスは決して良かったとは言えません。ただ、だからといって「韓国が低調だったから勝てた」としてこの試合を評価するのは“いちゃもん”に近いと思います。
選手たちからすれば「そんな簡単じゃないよ」という話です。今回は、相手の状態、戦術をふくめて日本が上回っていた、素晴らしかった、につきます。
──では、今回の勝利でまず指摘すべきところはどこでしょう。
岩政 ふたつの側面があると思います。
ひとつは、選手層。韓国にはソン・フンミンという世界トップの選手がいますが、それでも両国の絶対的な存在である選手たちの総合力ではそこまで差がないだろうと思います。
しかし、それ以外の、例えば五輪代表や各ポジションの選手のバランスなどを含めて見ると日本のほうが上にいるな、と感じました。レギュラークラスが数人抜けたときに、日本はそこまでレベルが落ちませんけど、韓国は落ちるな、と。
もう一つは戦術。韓国はゼロトップ気味で臨んできましたが、これはおそらく冨安(健洋)・吉田(麻也)という日本の2センターバックに対して、まともにいっては対抗できないだろうという判断からだったと思います。それが、まったくはまらなかった。
韓国はもともとフィジカルが強く、それを基準にしたサッカーがストロングポイントでした。逆に言えば、テクニック面では日本に劣るところがあったわけです。
今回のような戦い方においては、狭いスペースでプレーできる選手や、プレッシャーがかかる中で配球できる選手が必要ですが、そうしたメンバーが韓国にはいなかった。人材が少ないなかで、選べる戦術が少ないことを露呈しました。
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──森保ジャパンの立場からすると、その韓国に対策を取ったと言えるでしょうか。
岩政 対韓国を意識したものは最小限だったと思います。これまで積み上げてきたものを再確認しつつ、その試合に勝つ方法にフォーカスしていた。これは代表戦特有の、クラブチームの戦い方との違いです。
一方で選手たちは韓国の戦い方を瞬時に察知して、しっかりと対応していました。特に、かなり不安定だった韓国のビルドアップに対し、日本の選手たちは守備のスタート位置をふだんより5-10メートルくらい高い位置からスタートしました。
ピッチに立った上で、相手の状態や特徴、立ち位置をふまえて下した選手たちの判断が試合を大きく左右したと思います。
選手の話で言えばもう一つ、2センターバック(冨安・吉田)と2ボランチ(遠藤航・守田英正)の4枚のレベル差ですね。ここは安定感、強さ、ポジション修正、技術、戦術……様々な面で、韓国とはかなり違いがありました。
試合全体の流れがここで決まったところもあったと思います。この4枚については、過去の日本代表の中でも相当にレベルの高いところにいると思います。

2)森保ジャパンの現在地

──指摘がありました「積み上げているもの」とはなんでしょう。
岩政 これまでの森保ジャパンを振り返れば、日本代表という特別な場所において「選手たちに競争」をさせながら、「個々がよりレベルアップする」ことを求めていくこと。基本にあるのはその部分だと思います。
「このやり方で」というように、戦術的にチームを固め、そこにフィットさせていくというアプローチではなく、そのときの選手たちのパフォーマンス、コンディション、調子によってメンバーを選ぶ。
そしてその組み合わせでどう戦えるかを見ていく。これが森保ジャパンにおける、今の戦い方であり、それは継続し続けていると思います。
──現時点では、戦い方を明確にする、というより選手たちのレベルアップを促す。試合ごとにベストなメンバーを選択していく、と。
岩政 もちろん本大会が近くなれば、そういったものが出てくるとは思います。ただ、あくまで現時点における戦い方でいえば、オーソドックスで、何か特殊なやり方をしよう、というふうには見えません。
むしろその中で、選手たちの個性、特徴によって立ち位置(ポジショニング)を変化させていく。具体的に「ここの立ち位置から始めよう」といったことをスタッフが指示するというより、選手たちがその試合のメンバーによって変えていく、「変えていいよ」ということでしょうね。
わかりやすいのが今回の南野拓実のポジションです。森保ジャパンの初期は、ここに中島翔哉がいました。個性が違う選手が入ることで立ち位置も変わります。具体的に言えば、南野は所属するクラブ・サウサンプトンでプレーしているときのように、サイドに張りすぎず、中に絞ってプレスを掛けようとします。これは中島とは違った特徴です。
つまり、(南野を左に置いたように)一つのポジションに違う個性を入れることで、大きな変化が生まれ、周りの選手に求められる個性も変わる。その最適な組み合わせを見つけていく。今回の韓国戦はそれがハマったし、今後はこれに加えてさらにその組み合わせを増やしていく、ということだと思います。
──選手の個性をベースにしている。
岩政 そうです。チームが戦術を先に用意するというよりも、選手たちの個性によってチームを作っていくほうが今は強い。
これは致し方ない面はあって、4年間ある代表チームの場合、4年後に選手たちがどういうコンディションであるかはわかりません。先に戦術を固めてしまうと、そのズレが出てきてしまう。
ですから、「そのときに調子のいい選手の組み合わせ」を考える。もちろん、本大会が近づけば固めていくでしょうけど、いまはそのくらいしかチームとしてはできないのかな、と思います。
そう考えていけば必然的に、選手たちに求めるものも明確になります。
森保ジャパンの場合、対世界を意識したもの、つまりインテンシティや強国との戦いのなかで、どれだけやれるのか? といったことです。
──その点で言えば、今回活躍した、冨安、遠藤、守田といった面々は、海外でプレーすることでそのプレースタイル飛躍的に成長させています。
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岩政 海外でプレーする選手、特にドイツを中心にインテンシティの高いリーグに日常に置いている選手たちが髄所によさを見せてくれました。
先ほど言った(5-10メートル)高い位置から守備をする、というのはその例で、ドイツにおいてはスタンダードな高さです。Jリーグではもうちょっと低い位置で中盤のエリアでブロックを組みたがります。
そうすると多少、縦・横のコンパクトさが失われるんですが、後ろの選手もしっかり押し上げることができていましたし、それでもやっていける距離感がある。普段やっている環境がもたらしたものであり、日本にとってはとてもいい状況ですね。
そうすると結局、今の日本代表の戦術どうこうよりも、個々のレベルアップを促している効果とも言えますし、呼応した選手たちもさすがでした。
先ほどの高い位置で守備を開始する、という判断も、これがスタッフや監督からの指示だと──これはニュアンスになりますが──やや硬い動き、組織になるんですが、選手たちがピッチで肌感覚を同じくしてできると、有機的な動きになる。
最適解を素早く見つける。ヨーロッパでやっている選手がふだんやっていることがそのまま出たんだろうと思いますね。

3)日本代表のキーマンとウィークポイント

──ここ数試合、森保ジャパンに対してはネガティブな意見も多かったと思います。特に、戦術的な面で明確な指示がないのではないか、という点などがそれです。この試合でそういった面は改善されたでしょうか。
岩政 個人的に言えば、試合を良い、悪いでは見ないので簡単には言えません。サッカーは相手があって、それに対してどう応じていくかというスポーツです。組み合わせ、噛み合わせを変化させていく。それがスタッフによる指示なのか、選手が感じてやるものなのか。
今回の2試合で日本はいい試合をしました。ただそれは今回の相手に対しては効果的だっただけ、ということでもあります。
これまでの森保ジャパンの課題は戦い方を変えられたときの修正が挙げられたと思います。メキシコ戦では序盤は良かったけれど、後半に相手が変化をしてきたとき、打つ手が見えなかった。そういう点は、まだ改善の余地はあると思います。
先ほど左サイドハーフの南野が中央に絞って守備を始めると言いましたが、同サイドでコンビを組むサイドバックの佐々木(翔)は守備的な選手で、そこに大きなスペースが生まれていました。
韓国の右サイドがあまり器用なタイプではなかったため、危険なシーンが多く生まれたわけではありません。しかし、もしここをうまく使われていたら、それにどう対応できたか。このあたりは、今回あまり見ることができませんでした。
そうやって課題に見えるよなところもあるにはありますが、それは違った相手に対して、どう対応できるのか、を注視するしかないと思います。
──ほかに、今後の森保ジャパンをうらなううえで見えたことがあれば教えてください。
岩政 大迫(勇也)の存在ですね。ドイツでなかなか試合に出られていない状況で、どういうパフォーマンスをするのか注目していたのですが、非常に良かったと思います。
特に今回両サイドに走るタイプの南野・伊東(純也)をチョイスしたことで、起点の作り方が変わりました。中島や堂安(律)といったサイドに起点を作るタイプを置くことが多かったこれまでと違って、両サイドが斜めにゴールに向かっていく選手でしたから、中央に起点ができるかどうかがポイントになっていました。
その点で大迫は好材料だったと言えます。体の大きな相手に対しても、イーブンなボールに対しても、きっちりとボールを収めてキープができる。そこからの選択肢も多彩です。
サイドバックの山根(視来)や、ボランチの守田が思い切って飛び出し、攻撃に絡むことができたのも、この大迫への信頼があるからこそになります。
試合に出られていない中でも、これだけのパフォーマンスができる。一年後、大迫がどういうシーズンを送っているかわかりませんが、そうであっても計算のめどがたったことは非常にいい点だったと思います。
──裏を返せば、代えが効ない存在でもありませんか。
岩政 確かに得点が多いわけではありませんが、それを補う稀有な能力を持っています。だからこそ、代えが効ないという点では、森保さんもプランBを模索しているだろうと思います。
これはトップを張れるフォワードがどんなタイプであるのか、にもよります。これまで呼ばれた鈴木武蔵や、浅野(拓磨)といったこちらも走るタイプであれば起点を別に作る必要がありますから、二列目の選手や並びも変わってくるでしょう。
加えてポジションの課題で言えば、左サイドバックですね。韓国戦に出場した佐々木は良い出来でしたが、南野を左サイドに置く場合には、どうしてもギャップができてしまう。攻守に、より高い位置を取れる左サイドバックが出てくるか、このあたりも今後チェックしたいポイントです。
いずれにしても、素晴らしい2試合を終えて、個々の選手のベースがアップしている、その中で競争が生まれ、またベンチワークとしてもそれを促していることは奏功しています。
あとは、相手が対応してきたときにどう修正するのか。そこはこの2試合では見られませんでしたので、これから見ていく必要があるでしょう。
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