2021/4/1

【必見】脱・睡眠後進国日本へ、スタンフォード流改善計画

2018年のOECDの調査によると、日本人は世界で一番睡眠時間が短い。さらに近年、ますます睡眠時間は削られていて、 今や人口の4割が6時間未満の睡眠時間だと言われている。
2018年OECDデータより
そんな状況を改善すべく、新商品や新サービスの共創を目指すNewsPicks Creationsは世界的な睡眠の研究者であるスタンフォード大学 西野精治教授が設立したブレインスリープと共同で共創コミュニティ「SLEEP LAB.com」を立ち上げた。
「SLEEP LAB.com」とは、商品アイデアの提案から、テストマーケティング、プロモーションといった新商品開発に必要な工程を、法人パートナー企業、NewsPicksユーザーと一緒に取り組めるコミュニティのこと。
まだ世の中にない新しい商品やサービスの開発に加え、コミュニティ内外での活発な議論を通じて「ヒトと社会とビジネスに、一流の睡眠を。」という世論を形成することが狙いだ。(参加申し込みはコチラから)
果たして、日本人が抱える睡眠の課題とは。改善のため、ブレインスリープはどのようなアプローチをとっているのか。代表取締役 兼 最高研究顧問である西野精治氏と、同じく代表取締役を務める道端孝助氏に聞いた。

日本には誤った「睡眠の常識」が蔓延している

──睡眠に対して日本人が抱える課題を教えてください。
西野 睡眠に関する誤った情報が蔓延していることです。とくに最近は、睡眠衛生に関して雑誌で特集が組まれるなど、情報量が増えていますが、実は誤った認識に基づくケースも多いです。
例えば枕。質の良い睡眠を担保するには体温調節が非常に重要で、なかでも頭は、スムーズに睡眠状態へ移行するために、就寝中温度を下げる必要があります。しかし、流行している枕は低反発材を使った「頭にフィット」を謳っているものが多く、それだと逆に熱がこもり寝苦しくなってしまいます。
美容に良いとされる時間「シンデレラタイム」に関しても「●時から●時の間」と間違った言説が流行しています。美容に影響を与える成長ホルモンは、特定の時間によって分泌されるのではなく、入眠直後の深い睡眠によって分泌されるもの。 つまり「何時に寝るか」よりも睡眠の質の方が大事なのです。
よく言われる「理想の睡眠時間は90分周期」も誤りです。各人の睡眠周期には個人差がありますし、同じ人でもコンディションによって全く変わってくるものです。
──睡眠に関する「誤った常識」は社会にどんな影響を与えるのでしょうか?
西野 特に問題なのは、睡眠事業を営む企業が、専門家が不在のなか誤った認識により睡眠改善プログラムを提供することです。その結果、睡眠時無呼吸症候群など病院での治療が必要な症状が、治療効果のないプログラムの中でいつまでも放置されることになります。
治療しなければ脳出血、脳梗塞、虚血性心疾患、糖尿病、高血圧といったリスクが、健康な人の4倍にまで高まり、放置を続けることで7〜8年で4割もの人が亡くなっているとのデータがアメリカで算出されています。日本でも、潜在的に400万人ほどが、睡眠時無呼吸症候群に悩まされています。早期発見をして治療を行えば、リスクが抑えられるうえに、寝たきりなど重篤な併発疾患を防ぐことができ、生涯の医療費が半分ほどに抑えられます

「プレゼンティーズム」 改善こそ、経営に大きなインパクトを与える

──睡眠の課題を放置すると、生活にどのような影響があるのでしょうか?
西野 睡眠不足は様々な疾病リスクに密接に関係していて、認知症・脳卒中・生活習慣病・高血圧など、ありとあらゆる病気の発症リスクが高まります。また、精神的なバランスを崩す原因にもなり、深刻な場合にはうつ症状を引き起こすことも。その影響は個人に止まらず、医療費の増加や自殺といった社会問題を引き起こす原因にもなりうるのです。
さらに、深刻なのはビジネスパーソンの睡眠不足による労働生産性の低下です。世界でもワーストレベルで睡眠時間が少ない日本では、十分な量の睡眠、質の高い睡眠がとれていないため、ビジネスパーソンの仕事のパフォーマンスは低下していて、2017年米国のランド研究所の報告では経済損失の額は15兆円ともいわれております。
米国の研究では、18時間連続して起きている人は、免許取り消しになる血中濃度0.05%の飲酒量と同等の、判断力の鈍化やパフォーマンスの低下が起こることがわかっています。
日本の労働現場ではこれまで、「アブセンティーズム」(遅刻や早退、就労が困難な欠勤や休職など、業務自体が行えない状態)にばかり注目が集まり、「プレゼンティーズム」 (出勤しているにも関わらず、パフォーマンスが上がらない状態)は軽視されてきました。ただ、比率的には仕事に来ている人の方が、休暇中の人より遥かに多いわけで、彼らのパフォーマンス改善は会社全体の業績に大きな影響をもたらします。
例えば「昼寝」は睡眠不足によるパフォーマンス低下を防ぐ有効な手段の一つです。30分未満の短い昼寝がもたらすメリットは、デメリットより遥かに大きいです。しかし「仮眠=怠けている」と誤った認識が広まっていて、そんな状況でビジネスパーソンが社内で仮眠をとるのは難しいでしょう。全てのビジネスパーソンは、自分のためにも、会社のためにも仮眠は必要だと主張すべきで、それを管理する会社はプレゼンティーズム改善のためにも、仮眠をうまく活用すべきです。
参考:スタンフォード式 最高の睡眠

ビジネスで社会全体の睡眠課題にアプローチ

──改めて、ブレインスリープ立ち上げの経緯を教えてください。
西野 私は、1987年大阪医科大学大学院からスタンフォード大学医学部精神科睡眠研究所に留学し、それ以来過眠症「ナルコレプシー」(日中に自分では制御できない過度な眠気が繰り返し起こる睡眠障害)を中心に睡眠分野の研究を行ってきました。現在も、スタンフォード大学睡眠生体リズム研究所(SCNL)所長として研究を進めています。
日本にも睡眠の専門家はいて、良い本もたくさん出版されています。ただ、平易に書かれていないものも多く、一般人にまで情報が届かず、専門家ではない人たちが誤った情報を広めている状況です。誰かが異を唱え、正しい知識を発信しなければと感じていました。
そもそも睡眠分野は、学問として確立されてから日が浅く、まだわからないことが多い未開の領域です。だからこそ「何がわかっていて」「何がわかっていないか」は専門家にしか判断できない領域でもあります。睡眠研究家だからこそできる、裏打ちのある発信を増やし、正しいソリューションを世の中に提案していきたい
そんななか、予防医学を取り入れたエイジングケア商品の開発に取り組むアンファーに出会いました。とくに、現在共同で代表取締役を務める道端さんとはコミュニケーションを何度も重ね、正しいエビデンスに基づいたサービス開発の必要性や、睡眠に関する啓蒙について共感いただき、最終的には、一緒に会社をつくり、ビジネス観点から社会全体の睡眠課題にアプローチすることにしました。
道端  前職の企業理念は「人と医学の架け橋に」を掲げていて、予防医学領域でのサービスづくりに力を入れてきました。ただ現状、食事や運動と並んで重要な睡眠に関して、寝具の見直しや睡眠薬の服用しか改善の手立てがなく、社会的な問題だと感じていました。そんなとき、たまたま西野先生に出会い、我々の課題感に共感いただき、それなら一緒にと会社を立ち上げることになりました。

「ブレインスリープ×企業×ユーザー」で新しいサービスを生み出す

──具体的なブレインスリープの事業内容を教えてください。
道端  2019年の立ち上げから約1年は、我々に提供できる価値を模索すべく、いくつかの事業に同時に取り組み、網羅的にサービスを展開してきました。そんななか、インターネットを活用して、我々が開発した枕やコンフォーター(ライトな掛け布団)を販売するD2C事業や、睡眠に関連した様々な情報を発信するメディア「SleepediA(スリーペディア)」は事業として軌道に乗っていて、会社の基幹モデルになっています。
zzzLand(ECサイト)にて販売中の枕「ブレインスリープピロー」
最高の睡眠をgiftする 眠りの百科事典SleepediA(スリーペディア
さらに2020年からは、NTT東日本と共同で法人向けの健康経営サービス「睡眠偏差値forBiz」を立ち上げました。このサービスを活用すれば、従業員の睡眠の質を可視化でき、全国1万人のベースデータと比較することで偏差値化され、表面化されていない新たな課題に気づけます。さらに、我々で可視化されたデータをベースに課題分析を行い、予算やターゲットに合わせた睡眠改善ソリューションの提案も行います。ヘルスケアへの意識が高い、多くの経営者さまからお問い合わせをいただいています。
「睡眠偏差値forBiz」一連のサービスの流れ
さらに今後は、集めたデータを活用し、住宅開発や都市開発といった新たな分野にもチャレンジしていきたいと考えています。
西野  企業との協業は今後も積極的に続けたいですね。日本には技術があっても製品やサービスの開発まで至っていない企業は多いです。そんな会社とつながり、我々の持っているデータやノウハウを活用した新しいサービスづくりをしたいです。
そのための場所として、NewsPicksと一緒に共創コミュニティ「SLEEP LAB.com」を立ち上げました。
現在は約560名のメンバーが所属していて、すでに、ホテルと睡眠に特化した宿泊プランの開発、コワーキングスペースにおける仮眠ブースの開発など複数のプロジェクトが進行中です。現在もコミュニティメンバーは募集中で、NewsPicksのPickerのみなさんを中心に多くの方に参画いただいています。
道端 コミュニティが介在することでブレインスリープと企業だけでなくユーザーの視点が入り、よりお客さんの声を採り入れた本質的なサービスや商品がつくれると感じています。
さらに、まだまだ未開の領域である睡眠分野で、ユーザーの方々と一緒に正解を追い求め、またその姿勢を発信することで人々の関心を集められると考えています。その結果、睡眠市場そのものをより大きくスケールできるのではとも考えています。
西野 正直なところ睡眠のビジネスはうまくいっているところの方が少ないです。 事業を軌道に乗せるためにも睡眠への関心を高める必要があります。仲間を増やしつつ一定の影響力を持ち、業界全体を正しい方向に導く役割を、ブレインスリープで担っていければと思っています。

データを活用し、さらなるサービスの開発を

──これから挑戦したいことを教えてください。
道端 2年間いろんな事業にトライするなかで、伸びる事業が絞れてきたので、来年以降は売上規模を拡大し、再来年には100億を超える事業規模を実現させたいです。
西野 私は、スタンフォード大学での研究や「睡眠偏差値forBiz」などで集めたデータを活用して、睡眠に関する新しいソリューションをどんどん開発していきたいと考えています。とくに、個人的に興味があるのはお年寄りの遠隔モニタリングです。ベッドにIoTを掛け合わせ、睡眠の質を計測できるようにすれば、身体疾患や精神的な不調が離れた場所からでも感知可能になります。一人暮らしの高齢者でも安心して暮らせる社会に一歩近づくのではと考えています。
ありがたいことに、今、睡眠への関心は高まってきていますが、この傾向を単なるブームで終わらせるわけにはいきません。自分たちの専門性を活かして、ビジネスパーソンのパフォーマンス向上や、国民全体のQOL向上に貢献していければと思います。
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「SLEEP LAB.com」は、睡眠にまつわる最新情報を取得しながら、睡眠のリーディングカンパニーとともに新商品創出に携わることができる共創型コミュニティで、「ヒトと社会とビジネスに、一流の睡眠を。」をテーマに活動しています。
睡眠に関するさまざまなハックを実践しているメンバーや、睡眠を通じビジネスパーソンの生産性やwell-beingを向上させるための世論形成をしたいというメンバーなど、多様なメンバーが参画。オンラインでの定例会や交流会が開催され、新しいアイデアのプレゼンや、過去の活動に対する表彰、メンバー同士の交流など活発に活動しています。
ここでしか見ることのできない「睡眠」コンテンツも配信中です。
今後も新たなサービス・プロダクト開発など、コミュニティメンバーで共有・共創し、「一流の睡眠」が当たり前になる世界をめざして活動していきます。ぜひ一緒に、睡眠の新たなカタチを創ってみませんか?