2021/3/27

【長期投資】衰退しないプラットフォームはこう見極めよ

NewsPicksアンカー
隔週木曜日に配信中の、投資リアリティショー「INVESTORS」。

番組内では、バフェット流投資のパイオニア 奥野一成氏から、長期投資のあり方を実践しながら学んでいるが、本編で深堀りし切れなかった事をこの「アトカの投資塾」でインベスターズのリーダー(※自称) 徐 亜斗香が聞き出していく。
今回は、【実践編】GAFAを脅かす「新時代プラットフォーマー」に投資の補習として構造的に強靭=絶対的な参入障壁を持つプラットフォーマーの条件について伺いました。

プラットフォーマーとは?

 今回は「投資価値のあるプラットフォーマー」の参入障壁に関して、知見を深めていければと思います。
プラットフォーマーとは、物理的に、又は架空の場所に人を集める基盤。
そして、その人や情報が集まる場所を提供し、そこに集まるユーザーや企業から報酬を得るモデルとなっています。
奥野 実は、インターネットがここまで普及し、個人がネット上に集まりやすくなった2008年以降、つまりiPhone以降、インターネット上でのプラットフォームがビジネスモデルとして成り立つようになった。
 私たちに馴染みのあるプラットフォーマーといえばフェイスブックですが、フェイスブックが世界中で普及し始めたのも、そのくらいなのでしょうか?
奥野 フェイスブックが上場したのは2012年で、出た時は衝撃的だった。これ無料で成り立つのか?どんなビジネスモデルなんだろう、と。日本にはミクシーがあったじゃない?
 ありましたね。ミクシーはなぜあまり普及しなかったのですか?

Facebookにあってmixiにないもの

奥野 フェイスブックとミクシーの大きな違いは、世間に顔を晒すか晒さないか。
フェイスブックは実名なのに対してミクシーは偽名。実際の名前を晒すことによって物凄く価値が変わる。
例えば、徐さんは小学校の時の友達を今でも全員覚えている?
徐 全員は流石に覚えきれていないですね。。
奥野 そう。それが当然だと思う。
人間関係というのは、「いま接している」人達との関係性が濃くなる一方、過去の人間関係は時間の経過とともに薄弱になっていく。
大学を卒業して仕事を始めると、当然のことながら身の周りの人達は仕事関係が多くなっていき、その半面、学生時代以前の人間関係は自然と希薄化していく。人間が一度に親密に接することのできる人間の上限は150人だという話を聞いたことがある。だからこそ時間が経てば経つほど、昔のネットワークが削げ落ちてしまうのは構造的と言える。
徐 150人ですか。思った以上に少ないですね。
奥野 でもそんな時代に機能したのがフェイスブック。
フェイスブックは時間とともに剥落していく人間関係をアクティベートしているからだ。
中学校の時の友達や最近会えていない友達はもう会えないのが普通だと思っているのに、その友達が今何をしているのか、というのがフェイスブックの投稿などで確認することが出来る。そして、それを機に、実際にリアルで会ったりも出来る。
つまり、会えなくなって、どんどん疎遠になっている人間関係をもう一回生き返らせるツールなのだ。だからこそ、フェイスブックの価値は実名というところにあると言える。
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徐 その反面、ミクシーはバーチャルなのでアバターみたいになってしまいますもんね。
奥野 フェイスブックとミクシーの圧倒的な違いは、ミクシーが「バーチャルで将来の」関係性にしか影響を及ぼせないのに対して、フェイスブックは「リアルで過去の」関係性にまでアクセスできるということ。
年に一回でもリアルに会うことが出来るかもしれないのであれば、年に300円くらいは払ってもいいと思う。それくらい利用者に具体的な価値を提供している。だから、企業として永続的にサービスを提供していくなら、「広告モデル」でなく「課金モデル」にした方が健全だと言える。
徐 「広告モデル」から「課金モデル」へシフトさせることが大切だということですね。
奥野 プラットフォーマーには、大きく分けるとフェイスブックのように利用者には課金せず、広告で儲ける「広告モデル」とINVESTORS内でのプレゼンで出てきたマッチグループ(男女交際マッチングアプリ)のように、利用者に課金する「課金モデル」があるが、どちらのモデルであっても、具体的な価値提供を利用者にできることはビジネスの前提だ。
だが今後、個人情報の取り扱いが厳しくなることを考えると、「広告モデル」の単純なBTCプラットフォーマーが持続的に儲けるのは難しいかもしれない。

参入障壁の構築方法①:ドメインエキスパティーズ

奥野 インターネットを使ったバーチャルなプラットフォーマーは性質上、参入障壁を築きにくい。そもそも物理的なコストがあまりかからない産業では、「規模の経済」が参入障壁としては機能しにくいからだ。
そんなプラットフォーマーの参入障壁の築き方には大きく分けて三つある。
その一つは「ドメインエキスパティーズ(専門領域での知見)」。
徐 ドメインエキスパティーズとは具体的になんでしょうか?
奥野 専門領域での知見やノウハウのこと。
事業対象領域を特定の専門領域に絞ることで、ノウハウの蓄積において競合と差別化する。市場規模をある程度限定することで、ニッチ戦略に持ち込むことでもある。
企業でいえば、エムスリー。
エムスリーは医療業界の業務効率を向上させる各種サービスを提供している。その中でも、主力サービス「MR君」は製薬会社の大きなコストベースである医療情報担当者を置き換える医者限定のSNSサービス。「医者という専門集団の9割以上をプラットフォームに乗せた」ことにより、頑固な参入障壁を形成している。
徐 特定の領域に特化しているからこそ、参入障壁を築けているということですか?
奥野 そう。医者と製薬会社の間を取り持つので、専門知識が必要。だからこそ汎用SNSであるフェイスブックはそこには入ってこられない。
徐 法律の専門性という観点から見ると、弁護士ドットコムなどもそうですか?
奥野 確かに似ている。弁護士ドットコムも一種のプラットフォーマーではあるけれど、弁護士を集めているだけで、専門知識がそこに内蔵されているとは限らない。
一方、エムスリーは薬の専門知識とその規制を認識している。医療業界独特の商慣習や厳しい規制などがあり、これが「ドメインエキスパティーズ」なのだ。
徐 だからこそ、エムスリーは医療業界にとって必要不可欠なプラットフォームになるのですね。
奥野 日本には医者が32万人ほどいて、なんとその内の9割がこのプラットフォームにいる。
メディカルリプリゼンタティブ(MR)、つまり製薬会社の営業の方々は、医者のところに出向いて、このような薬が出ました、このような効果がありますよ、という感じで自社の薬を病院に入れてもらうべく営業をかける。そのような製薬会社の営業コストは、製薬会社の営業コストの91%にもなるのだ。
徐 91%もですか!
奥野 なのに、医師が新薬などの情報収集にかける時間のうち、MRから話を聞く時間はわずか17%。大体はネットや学会から情報を得ているわけだ。
どんなにMRにコストをかけても、薬の採用を決める医者にとってMRの価値が減じているのであれば、製薬会社はMRに充当するコストを削減して、その分エムスリーに喜んでお金を払う。
エムスリーは製薬会社のMRを代替するビジネスというわけだ。
徐 どんな製薬会社でもエムスリーから同じような恩恵を受けることが出来るのですか?
奥野 もちろん最新の薬やがん関係の難しい薬とかになるとMRがいないと駄目だったりするけれど、汎用化されたような薬であれば、エムスリーのMR君を活用すれば良い。
製薬業界はこういった非効率をたくさん抱えているので、効率化が大きな付加価値を生むのだ。
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製薬会社のシステム効率化:ヴィーバ・システムズ

徐 他にも製薬業界で上手くいっているプラットフォーマーはありますか?
奥野 米国で製薬業界に特化したクラウド型のCRM(Customer Relationship Management;顧客管理)システムを展開している、ヴィーバ・システムズ。
製薬会社のシステムは物凄く複雑。顧客情報のみならず、営業情報、規制関連情報などの様々な情報が一つの製薬会社の中で別々のシステムで管理されている。
だが、製薬会社の本業は薬を開発すること。だから、薬を開発する研究者のところにはものすごい研究費が流れるが、本業ではない部分の情報管理にはあまり手が回っていなかったりする。
そういった本業以外の部分を効率化させるシステムこそがビジネスチャンスとなる。
徐 一般的なシステムでいうと、セールスフォースがそこのビジネスチャンスを掴んでいますね。
奥野 確かに一般的なCRMシステムはセールスフォースが強い。このヴィーバ・システムズももともとはセールスフォースの幹部が設立した企業で、今も業務的にはつながりがある。
医療業界は規制などの特殊性が高いために独特な参入障壁がある。大きなマーケットなので、新薬を開発するだけではない、システムでそれをサポートするような領域にも様々なビジネスチャンスが転がっていると思う。
つまり、医薬品製造はドメインエキスパティーズの塊であると同時に、成長する巨大市場であるにも関わらず、本業以外の非効率性が極めて高い。そういう意味でも製薬企業をターゲットに、DXを活用した効率化する企業は、参入障壁を築きながら成長できる面白い企業が多いと思う。
医療業界の非効率性もかなり高いけれど、運送業界の非効率性もかなり高い。

参入障壁の構築方法②:設備投資とのセット

徐 運送業界の非効率性の解消に取り組んでいる企業はありますか?
奥野 C.H. Robinson Worldwide(ロビンソン)がそう。ロビンソンは運送業界に構造的に存在する非効率性(行きのトラックは満杯でも帰りは空っぽ)に着目したマッチングサービス。
米国のように広い土地だと大きなトラックで沢山の荷物が運ばれる。
そのトラックが行きは満杯に荷物を積んでいても、帰りは空っぽだと物凄いロスになる。となると、トラックを運営している業者は帰りに運べる荷物を探す。米国のようにもの凄い国土が広いと、その非効率も甚大になる。
このロビンソンはトラック業者の「荷台を埋めたいニーズ」と、荷主の「運んで欲しいニーズ」をマッチングさせて、価格差で儲けるというビジネスモデルになっている。
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徐 マッチングが成功するとトラック業者にも荷主にもwin-winになりますね。

運送業界の証券取引所

奥野 つまり、ロビンソンは証券市場で株式売買を仲介する大きな証券取引所みたいな感じ。
とある荷物を運ぶのにこれくらい払うと言っている荷主がいて、それに対して、これくらいの金額であれば荷物を運ぶというトラック業者がいる。そのため、値段が日々動く。
例えば、帰り道に運ぶ荷物が何もない場合、少しでもいいから何か運びたいのがトラック業者の本音。そこでロビンソンのシステムは、他のトラック業者より安い値段を提示するといった入札競争が始まる。
実際に5年ほど前にロビンソンのオフィスを訪問してシステムルームを見せてもらったのだが、まさに東京証券取引所のようだった。
徐 運送業界のマッチングって、いま結構ホットなトピックですよね。
奥野 日本のラクスルも「ハコベル」という似たようなシステムを開発した。かつては、この手のシステムを構築するのに莫大な投資が必要だった。物理的なサーバーであるとか開発投資であるとか。でも今では比較的軽い投資ですますことができる。
ロビンソンはシステム的な投資だけでなく、ロジスティクス周りの設備投資も行ってきたので、そう簡単に参入障壁が壊されることはないと思うけど、とはいえシステム面では新興勢力の新規参入を許してしまう危険性があるだろう。
同様に、アマゾンがもつ参入障壁もある意味フィジカルの部分にあり、あれほど投資してあらゆるところに巨大倉庫を建てたとなれば、他の企業が入りにくくなる。
その反面、どうしてもソフトウェアなどは参入障壁が低くなってしまう。日本では楽天と日本郵政が包括提携するなど、アマゾンと言えども安穏としていられないかもしれない。
参入障壁をどう築き、どのように守るかは時代とともに、テクノロジーとともにアップデートすることこそが経営である
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徐 まさに今のインターネットの時代というと、時代の流れによってプラットフォーマーが変化していると思うのですが、以前は強かったけれど今は弱いプラットフォーマー、又は以前は弱かったけれど今は強いプラットフォーマーの例などはありますか?
奥野 インターネット系の新興企業が最初から参入障壁を築くことは、定義上難しいと考えている。参入障壁がない産業だから自社が参入できた、ということだから。
ただ、参入する時に「どのように参入障壁を築くのか」「他社にできないことは何か」を常に考え、市場と自社が成長している数年の間に自社の競争優位に積極的に投資することで参入障壁を築くことが必要だ。目先の売上や利益に集中していたのでは持続的な成長はありえないだろう。
強い企業であっても、より強い参入障壁を築いていくことが必要。例えばアップル。

参入障壁の構築方法③:ソフトとハードの組み合わせ

徐 アップルの参入障壁とはなんでしょうか?
奥野 ソフトウェアもハードウェアも単体で見ると実はそこまで参入障壁は高くないが、ソフトウェアとハードウェアを組み合わせることで参入障壁が築ける。
ソフトの面では、Apple Storeというプラットフォームを通じて様々なアプリを提供し、消費者の生活を全てあの箱の中に詰め込んでしまっている。しかしこれだけでは他の会社もマネできる。
ハードの面でいうと、デザインを徹底的に作り込むことで「クール」であるというブランドを築き上げている。iPhoneの部品自体は様々な会社が作っていて、それを組み立てているだけだが、おそらく1~2万円ほどの原価のものを10万円以上で売ることができるのだ。
更に言うと、昔のiPhoneにはイヤホンジャックが付いていたが、現在はなくなったことによって、iPhone専用のイヤホンを使わなければならなくなった。もしiPhoneが潰れても、そのイヤホンを使い続けたいとなれば、顧客は再度iPhoneを購入しなければならないのだ。
「イヤホンジャックが付いていると」いうことは汎用性があるということ。反対に、他の物に対して汎用性を無くすということは、顧客をアップルの「船」に乗せてしまうようなイメージ。
消費者にとっては不便な話で、普通はこんなことをすると顧客が離れてしまうけれど、アップルがやると「こんなところにもこだわっている。さすがだ」となる。これがブランドだ。
恐らくこれがアップルが一番上手くいっている理由だと思う。
このようなアップル型は非常に特殊で、他に似た事例で参入障壁を築いている企業は思い当たらない。
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世界で勝たなければ意味がない

徐 なぜ日本ではアップルのようなプラットフォーマーが生まれないのでしょうか?
奥野 やはりサービスが日本語だからだと思う。
日本のサービスはどうしても日本語というその枠を抜けられない。しかも、日本は人口が1.3億人ほどいるので、日本の経済規模だけでなんとかなってしまう。
韓国ほど人口が少ないと、サムスンのように国外に出る戦略をとる。日本は今まではずっと経済成長してきていて、その分売り上げも増えてきた。しかし、人口は限られているので、日本もこれからはもっと海外に目を向けていかなければいけない。
徐 数年前に楽天の社内公用語が英語になったなど、そういったところから変化していくのかもしれませんね。
今回もとても勉強になりました。
投資対象として目を付けたプラットフォーマーが、これからも成功し続けるかを判断する物差しの一つとして、どのような参入障壁を築いているのかを見極めることが大事だということですね。
本編では、誰もが知るアマゾンがいま最も注力している次なる「儲けの泉」や、中国で○億人が使っているプラットフォーム、新興国で急成長をしている企業などを取り上げて、プラットフォームモデルについて深掘りしました。
ぜひご覧ください。
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