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ライブコマース先進国 中国から学ぶ、日本のライブ配信の未来

こんにちは、作業中×ライブ配信サービス「00:00 Studio」(フォーゼロスタジオ)運営です。

この記事は『TikTok 最強のSNSは中国から生まれる』の著者である中国トレンドマーケター・こうみくさんに、中国のライブ配信業界の現状について話していただいた勉強会のレポートです。

日本よりも一歩先を進む中国のライブ配信業界を参考に、ライブ配信の「関心を集めやすい」「ファンを獲得しやすい」「お金を稼ぎやすい」という3つの特徴、ロケットまで売ってしまう中国のインフルエンサーの動向、中国で「ライブ配信元年」と言われる2020年に起きた出来事などのトピックをまとめています。

「ライブ配信って何だか難しそうだけど興味がある」という人は、この機会にぜひ読んでみてください。聞き手は、00:00 Studio運営のアル株式会社 代表・けんすうが務めます。

■登場する人のプロフィール
こうみく
中国トレンドマーケター。1989年中国・西安市生まれ。6歳で来日。2018年秋より上海交通大学MBAに留学。マーケティングマネージャーとしてバイトダンス北京本社に勤め、2019年10月に著書『TikTok 最強のSNSは中国から生まれる』(ダイヤモンド社出版)を執筆。2021年現在、オンラインサロン「中国トレンド情報局」を主催しながら、東京を拠点に活動中。
けんすう
作業中×ライブ配信サービス「00:00 Studio」を運営するアル株式会社の代表取締役。

日中のライブ配信の市場規模と、ライブ配信の本質①関心の集めやすさ

けんすう:今日はよろしくお願いします!

こうみく:はい、よろしくお願いします。実はライブ配信って今後すごく大きな波が来る業界で、中国にはすでにその波が来ています。

今日は日本より一歩先を進む中国の様子を参考に、そもそもライブ配信は何がすごいのか?他のSNSと何が違うのか?日本のライブ配信業界はこれからどうなっていくのか?といった内容をお話ししようと思います。

まず、みなさんのライブ配信に対するイメージどんなものでしょう。けんすうさん、どうですか?

けんすう:僕はちょっと若干、キャバクラやホストに近い形のものが多いイメージがありますね。ルックスがいい人たちが人気になって、投げ銭をもらうみたいな…?

こうみく:そうですよね。「17LIVE(イチナナ)」や「SHOWROOM」などのサービスで、若くてかわいい女の子に視聴者が投げ銭をして名前を呼んでもらう…といった使われ方が多いと思います。

今、日本のライブ配信の市場規模は2020年時点で約500億円、利用者数は約447万人と言われています。日本人の約3.6%が利用しているわけです。

アプリの月間ユーザー数を見ると実は「ツイキャス」がトップで、その下に「SHOWROOM」、「LINE LIVE」、「Mirrativ(ミラティブ)」、「V LIVE」…と並んでいます。

※ライブ配信業界コミュニティによる調査を参照。

けんすう:ツイキャスが強いんですね!

こうみく:そうなんですよ。イチナナよりもミラティブやV LIVEのほうがユーザー数が多かったりするんです。

例えばツイキャスも、SHOWROOMも、LINE LIVEも、若い女の子を中心とした演者である配信者とそれを眺めてる視聴者がいて、演者が気に入ったら投げ銭するという投げ銭が中心のビジネスモデルが、今の日本市場での状況です。

一方で中国はライブコマースのみに絞った市場規模だけでも、2020年に約14兆円に達すると予測されています。ちょっと数字が大きすぎて、あまりイメージが湧かないかもしれませんね。

ユーザー数でいうと大体3.1億人いて、これは中国の人口の22%にあたります。日本と中国のユーザー数の差をわかりやすくいうと、日本だと100人に4人ぐらいが利用していますが、中国では100人に22人です。

※三井物産戦略研究所の調査を参照。

つまり、4人に1人はライブ配信を見ています。しかも、赤ちゃんや高齢者も入れての数字です。

けんすう:桁が全然違いますね。すごい。

こうみく:ここまで日本と中国それぞれのライブ配信業界の現状についてお話ししてみました。

次にライブ配信の3つの本質について話していきます。1つ目が関心を集めやすいところ、2つ目がファンを獲得しやすいところ、3つ目がお金を稼ぎやすいところです。

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こうみく:1つ目から説明していきます。まずライブ配信の特徴として、真剣に見なくてもいいというか、ながら見ができる点があります。

面白い事例として、中国の武漢で新型コロナウイルスの患者を受け入れるために、たった10日間で1500人を収容できるすごく大きな病院がつくられたんです。

病院もベッドも足りないから急いで建設されたんですね。実はその病院が建てられていく様子が、ずっとライブ配信されていたんですよ。

こうみく:病院が建てられていく様子なんて、誰が見るんだろうと思うじゃないですか。

でも、24時間ずっとライブ配信されているから、「病院を建てる様子がライブ配信されている」という話題がホットトピックとして広まり続けるんです。

面白いのが、配信を見ていると工事現場でサボっている人がわかったりするんですよ。それに「1日でこんなに工事が進んだ」と一目でわかるし、ニュースもどんどんアップデートされるんです。

多くの人がずっとながら見しているから、常にトレンドとしての熱量が保たれ続けるんですね。

けんすう:「病院がここまで完成した」という点のニュースではなく、いつでも見れるからこそ、小さいニュースがポンポンと出てきて熱量が保たれているのかな。面白いですね。

こうみく:ライブ配信されていると気になったときに自分の都合で見に行けるし、工事は常に進んでいるから現場の様子も変わっていって、結構面白いんですよね。

けんすう:確かに一度これに慣れると、次は建築現場が配信されていないことにストレスを感じるかもしれません。

「あのときはいつでも進捗が生で見れたのに今は見れない」って思っちゃいそうで、これが増えてくると配信する側も見る側も止められなくなりそうです。

ライブ配信の本質②ファン獲得のしやすさ、本質③お金の稼ぎやすさ

こうみく:次に2つ目のファンを獲得しやすいというポイントについて説明していきますね。

中国版TikTokの「ドウイン(抖音)」では、本当にいろいろな配信が雑多に配信されています。よくある歌やダンス、ゲーム、プロレス、エクササイズ、こんにゃくやケーキなどの食品工場の様子、動物園での象の餌付けなど。

特に夜になると物を売る系の配信が増えて、観光地の紹介やドリルの実演販売、面白いものだと羊の毛を刈っているところをライブ配信しながらセーターを売っていたり。

羊の毛を刈りながら、「羊毛は臭いますか?」という質問に「刈った羊毛はちゃんと洗うんで、製品になると臭いません」みたいに返していたりしているんですよね。

けんすう:面白いですね。カテゴリーが本当にバラバラですが、みんな何かを探したくて見に来ているわけじゃなくて、だらだらと見ているうちに面白いのを発見するような感じなんですか?

こうみく:まさにそこがポイントなんですよ。流し見で目に止まったものが受け入れられるカルチャーになっているんです。

かつ食品やセーターの生産工程などはいわゆる映えるコンテンツではないですが、いきなりライブ配信でその様子を見せられると、ふと気になって見てしまうんです。

だから、ファンを獲得しやすいし、その先の3つ目であるお金を稼ぎやすいというところにつながっていくんです。

けんすう:ライブ配信だと見つけてもらいやすいということですが、アルゴリズムはどうなっているのかが気になりました。

例えばYouTubeだったらアルゴリズム的に、自分がよく見る動画に関連したコンテンツしかおすすめされません。

でもドウインだと、普段アイドルの配信ばかり見ている人に対して、おじさんが羊の毛を刈っている様子もおすすめされるんですか?

こうみく:基本はパーソナライズされた上で、評価が高い配信に関しては誰に対してもおすすめされるんですよ。

例えば、羊の毛を刈る配信の評価がすごく高ければ、普段はアイドルの配信しか見ない人にも表示されます。

けんすう:新しくライブ配信する人にも、結構チャンスが与えられるというか…。

こうみく:そうなんです。ライブ配信はオンタイムでしか見れないので、いつも見ているような配信が少ない時間帯にアプリを開いた場合は、まったく別ジャンルの配信も表示されます。

だから否応なしに、新しいコンテンツが発見されるんです。

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けんすう:なるほど。

こうみく:Instagramだとルックスがよかったり映える写真を載せたりしないといけないですし、Twitterだと面白いことを言わないといけないですよね。

何かしらで目立たなければ見てもらえないんですが、ライブ配信はダラダラ見れるような、ちょっと違う評価軸でのコンテンツがハマるんです。

しかも、ライブコマースの市場規模って、中国のネット通販全体の15%ぐらいと言われているんですよ

これってものすごい数字ですよね。日本のみなさんはAmazonや楽天などのECサイトでたくさん物を買うと思いますが、中国ではそういったネット通販の売上の15%がライブコマースで動いているんです。

けんすう:すごいですね。

こうみく:ライブ配信にもいろんな種類がありますが、最近の中国ではライブ配信といえばライブコマースが連想されます。それくらい一般的に利用されているんです。

けんすう:日本でも一時期、たくさんの人がライブコマースをやろうとして軒並みダメだったんですけど、中国でうまくいっているのはなぜでしょうか?

こうみく:まず日本でライブコマースがうまくいかなかったのは、まだライブ配信という文化が根付いていなかったからです。

ライブ配信を見る習慣がそもそもない人たちがいきなりライブ配信を通じて物を買うかというと、買わないですよね。

例えるなら、テレビを見る習慣がない人がいきなりテレビショッピングで物を買わないのと一緒です。

だから、日本でライブコマースがうまくいかなかった事例は、ライブ配信を見る人がまだ少ない時期に始めちゃったことが要因だと思います。

けんすう:なるほど、早すぎたんですね。

こうみく:その点、中国ではすでにライブ配信が文化として根付いていたんです。さらに、中国独特の物流の事情もライブコマースの成長に影響しています。

例えば上海や北京などの大都市だとさまざまな商品を店舗で買えるんですが、中国は国土がとても広いので、地方都市まで行き届かない商品がたくさんあるんです。

特に海外メーカーの商品はあまり取り扱われていません。

「タオバオ(淘宝網)」という、日本でいうAmazonと楽天を合体させたようなECサイトで商品を買えるんですが、商品を自分の目でしっかり見たわけじゃないからどれを買えばいいかわからないという課題があります。

そんなとき、ライブコマースで生産工程を見ていたり、信用しているインフルエンサーに紹介されていたりすると、買ってみようと思えますよね。

けんすう:なるほど。

こうみく:実質的に、消費者が十分に商品を吟味して購入できる場所がライブコマース以外にないので、爆発的に伸びているということです。

その点、日本の地方都市の場合は商品が十分に取り揃えられているので、ライブコマースの市場が中国ほど爆発的に伸びることはなさそうです。

とはいえ、これから日本でもライブ配信の文化が根付いていくにつれて市場規模は間違いなく伸びるでしょうし、その中でも一番伸びるのはライブコマースだと思います。

インフルエンサーはブランド化する

こうみく:けんすうさん、最近「インフルエンサーはダサいという流れが来るんじゃないか」とツイートされていましたよね。

けんすう:ひどいことを言いますね。

こうみく:物をつくりもせずに広めるだけで、信念もないんじゃダメだろうと。

けんすう:そこまでは言ってないですよ!

こうみく:このツイートをされた背景を、けんすうさんからもう少しご説明いただけますか?

けんすう:これは社内の人間とこれからインフルエンサーはどうなっていくんだろうって話をしたときのツイートですね。

インフルエンサーは物を広めて利益を得ているわけですが、それだけで売上を最大化しようとすると、一番いいものだけじゃなくて、そこそこのものをたくさん紹介したほうが儲かるじゃないですか。

それを始めると結果として、「この人はたくさんの物をおすすめするけど、そんなによくない物も混じっているよね」と思われるようになって、信用が落ちていく。

そう考えると、インフルエンサーの寿命って結構短いんじゃないかっていう仮説があって。

でも、その人がそれだけいいものを見る目があるなら、その人が自分で一番いいものをつくればいいんじゃないかと思ったので、そういう流れが来るのかなと考えたんです。

こうみく:なるほど、すごく面白いですね。それにしても、けんすうさんのいう「一番いいもの」って定義が難しいと思いませんか。

とにかく質がいいものなのか、それともそこそこの質でコスパがいいものなのか、とにかく安いものなのか。その商品がいいものかどうかって、人によると思うんです。

けんすう:確かにそうですね。

こうみく:そんなとき、それぞれの層に向けて一番いいものを紹介できるインフルエンサーがいればよくないですか?

値段を度外視したときに一番いいもの、もう少しコスパのいいもの、とにかく安いものといったそれぞれ軸の異なるいいもの…言い換えるとより解像度が高い個別化された「いいもの」をそれぞれ紹介すれば、多種多様な異なるニーズを持つファンの期待に応えることができます。

中国では実際に、そういう風に高い解像度で商品について語ることで、「とりあえずこの人のすすめるものを買っておけば安心」と思われるようなインフルエンサーが登場し始めています。

つまり中国ではとりあえずライブコマースで商品を買っておけばいいから、消費者が商品を選ぶコストをインフルエンサーが削減しているわけです。

ここで考えたいのは、「ここで買えば安心」と思われることって要するにブランドであることです。

例えばとにかく安いものを買いたい人はダイソーに行くし、そこそこ生地がよくて安い服を買いたい人はユニクロに行きますよね。それと同じなんです。

そもそもブランドって、基本的に個人に宿るものだと思うんですよ。シャネルもルイ・ヴィトンもラルフローレンも、どれも人の名前じゃないですか。インフルエンサーも同じなんです。

つまりインフルエンサー経済とは、インフルエンサーによるブランド形成であり、その手段の一つとしてライブ配信やライブコマースがあるんです。

けんすう:なるほど。

こうみく:そして、どんな人がインフルエンサーになれるかなんですが、有名人だったら誰でもなれるのかというと、そんなことはないんですよね。

日本でも結構売れている芸能人の方がオンラインサロンを開いたり、クラウドファンディングをやったりしても、あまり人が集まらなかったりするじゃないですか。

なぜかというと、知名度があっても信用がない人が紹介する物は売れないんですね。それと同じだと思っています。逆に、知名度がそこまで高くなくても信用がある人は売れるんですよ。

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こうみく:例えば、中国の一流タレントの范冰冰(ファンビンビン)さんという方のマネージャーとして有名だった女性がいるんですが、彼女はぽっちゃりした体型を活かして、同じような体型の女性向けのファッションインフルエンサーとして勢いをつけています。

タレントのマネージャーって、何となく仕事ができそうじゃないですか。今まで何人もの有名なタレントのマネージャーをしてきた彼女は、その信用に多少の知名度を上乗せしてインフルエンサーになりました。

彼女のような人に「ぽっちゃりした女性にとって一番イケてる服を安く仕入れるから私から買って」と言われたら、買いたくなっちゃうと思うんです。

そんな感じで、ものすごく知名度のある人じゃないとできないわけでもないし、トップインフルエンサーにならなくても物は売れます。

信用さえあれば、ファンがそこまで多くなくても商売として成り立つのが、ライブコマースのすごく面白いところだと思います。

ロケットまで売る中国のトップインフルエンサー

こうみく:中国では圧倒的トップインフルエンサーとしてAustin(李佳琦)さん、viya(薇婭)さんという人がいます。

ライブコマース業界で100人に聞いて100人が「この2人」と名指しする2人です。どれくらいすごいかというと、これはAustinさんの会社で働いている友人から聞いた情報なのですが、彼は5分で3,000万円ぐらい売り上げるんですよ。

けんすう:やばいですね。

こうみく:もともとはロレアルで美容部員をやっていたAustinさんが最初に商品として扱ったのは口紅でしたが、次第にさまざまな商品を扱うようになりました。

今は季節に応じてどんな商品でも売っています。美容関連はもちろん、服や農産物、お菓子なんかも売ります。

例えば口紅を紹介する配信で、口紅を紹介する合間にお菓子を紹介すると飛ぶように売れたりするんです。

それぐらいトップになると、彼一人がフロントにいるだけで、バックには100名以上の社員がいるんですね。ざっくり分けると物流部隊と商談部隊の2つがあります。

物流部隊はAustinさんが何かを買うと決めた瞬間、ものすごい早さで商品を届ける人たち。もし商品が気に入らなければ、すぐに返品処理も行います。

そして、中国のトップインフルエンサーとなると、たくさんの人たちが商品の紹介を依頼してくるわけですが、その中で質の低い商品をはじくのが商談部隊の人たちです。

さらに、彼らはクライアントとの価格交渉も行います。5分で3,000万円も売り上げるとなると、価格交渉が優位にできるんですよ。

結果として何が起きているかというと、お客さんはAustinさんから商品を買うのが一番安く済むんです。それってものすごく価値がありますよね。

けんすう:めちゃくちゃすごいですね。

こうみく:さらにAustinさんの場合は、ECサイトのタオバオと運営元が同じの「タオバオライブ(淘宝直播)」と契約しているので、ECプラットフォームのデータをもとに、これからどういう商品が流行するかがわかります。

そうすると、これから流行るものを先取りして紹介するので、そもそも流行るものがAustinさんがアクセルを踏んでさらに勢いを増すんです。

結果、「Austinさんが紹介したものは絶対に流行る」と認識され、ちゃんとトレンドに合ったものを買いたいというニーズに応えてくれる関係ができる。消費者としてはすごく安心で満足できるんですよ。

けんすう:なるほど。インフルエンサー個人の感覚だけじゃなく、ちゃんとしたデータをもとに紹介しているから持続性があるという感じなんですね。

こうみく:そうなんですよ。しかも、普段の生活で買うものの中で、「絶対にここでしか買いたくない」というものってそんなにないじゃないですか。

その商品の質が悪くはないと保証されていて、質やコスパの観点から何がいいのかしっかり説明されていれば、買いますよね。むしろ、選ぶコストが下がるからすごく楽だと思うんです。

Austinさんやviyaさんは毎日のライブ配信で季節に合わせて必要なものを紹介してくれるから、彼らが紹介するものをとりあえず買っておけば生活は成り立ちます。

質が悪くなくて、市場で買うよりも確実に安く買えるという安心感もあるので、消費者としてはものすごくありがたい存在ですよね。

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けんすう:面白い。

こうみく:彼らは本当に何でも売ることができて、viyaさんはついにロケットを売り始めたんですよ。

けんすう:ロケットですか?

こうみく:日本円で約7億円のロケットをライブコマースの割引価格の約6億円で売ったんですけど、すぐに売り切れたんです。

インフルエンサーとして名が通っちゃうと、本当に何でも売れるんですよ。インフルエンサー個人が総合商社になれるイメージです。

けんすう:すごい。気になったのは、Austinさんやviyaさんってどうしてトップシェアを獲れたんですか?

こうみく:最初にタオバオがライブコマースをやってくれるインフルエンサーを募集したとき、ものすごく反応が悪くて全然人が集まらなかったんですよ。Austinさんとviyaさんはそのときに集まった人なんです。

けんすう:なるほど、プラットフォームに最初に乗っかったのが大事なんですね。

こうみく:なので、先方者利益というのが一つあります。あと、Austinさんもviyaさんもものすごく働くんですよ。2人は今でも週5か週6で毎日4時間欠かさずライブ配信をしています。

ライブ配信で商品について語るには膨大な知識をインプットし続けなければいけないので、ものすごい時間が必要なはずですが、それだけの努力をし続けているのが理由と言えそうです。

国家主席・習近平がライブ配信を絶賛する3つの理由

こうみく:2020年は中国でライブ配信元年と言われたぐらい、爆発的にライブ配信の市場が伸びた一年でした。中国ではすごく面白い事例がたくさん生まれたので、それについてご紹介します。

まずここまでライブコマースが流行った理由の一つとして、国家主席の習近平さんが「これからはライブコマースだ」と絶賛したんですよ。

中国ってみなさんもご存じの通り中国共産党の一党体制なので、国が注力する産業としてお墨付きをもらえるとみんな安心するというか、国も資金を出してくれるだろうし、変な規制もかからないとわかるので、後押しになるんです。

けんすう:なるほど。

こうみく:ライブコマースが国策として押される理由は3つあります。まず1つ目は、配信する場所、人、ものを問わないこと。

場所を問わないとはそのままで、例えば沖縄からでも東京からでも、配信でできることは同じですよね。

かつ人を問わないとは、ルックスのいい美男美女じゃなくても見てもらえること。おじさんでもおばさんでも、おじいちゃんでもおばあちゃんでも、コンテンツが面白かったら見てもらえる。

さらに、ものを問わないとは、何でも売れること。化粧品やファッションアイテムだけじゃなく、やろうと思えば何でも紹介できますよね。

特に中国だと農村部の人たちが都心に出てきて一極集中が進んでおり、地方の経済が発展しないっていう課題を抱えていて。

その点、ライブコマースだと地方のおじちゃんおばちゃんが、どこからでも地方の名産品を売ることができて、地方の経済を盛り上げられる。

2つ目の理由は、スマホ一台でできるので設備投資の初期費用が大してかからず、誰でもすぐに始めやすいことです。

配信をリッチにするためにライトリングやマイクを買ったとしても、そこまでお金がかからないですよね。

そして3つ目の理由が今日もっともお伝えしたいことなんですけど、インフルエンサーじゃなくても工夫次第で誰でも稼げる可能性があることです。

けんすう:というと?

こうみく:中国版TikTokの「ドウイン(抖音)」では、例えば私がさっき見つけたものだと、大豆製品工場のアカウントが豆腐や湯葉などの豆製品をつくっている様子をライブ配信していたりします。

特に中国は豆をたくさん食べる文化があって、中華料理ではよく豆腐を使いますし、豆乳も毎日のように飲みます。毎日食べるものなんで、買う頻度が高い商品なんです。

アカウントを見に行くと豆の選別の様子などの生産工程を配信していて、色々な大豆製品がつくられる様子が紹介されています。

面白いのは、そこに製品を紹介する役割の人はいなくて、生産工程をそのまま配信しているだけで、インフルエンサーが不在でも成り立っている点です。

視聴者としては、たまたま見かけた配信で紹介されている商品がよさそうだったら、近所のスーパーに買いに行くよりも、その場で買ってしまおうという気持ちになるんです。

配信で扱われている商品を買ってくれる人もいれば、アカウントのトップページに飛んで別の紹介動画を見て他の商品を買ってくれる人もいるはずです。

けんすう:なるほど、面白い。

こうみく:他にも、水墨画を描く人が、絵を描きながらその場でオークションをして売っている配信も見つけました。

大体20人ぐらいが動画を見ていたんですが、売ろうとしている水墨画は2枚くらいなので、たくさんの人に見てもらわなくても、その20人のうちの誰かが買ってくれたらそれで成り立つんですよ。

中国には水墨画を描ける人が多すぎて、コモディティになりつつあるんですね。日本にイラストレーターさんがたくさんいるのと同じような感じです。

だからすごくいい作品を描けたとしても、有名な画家じゃない限り、あまりいい値段がつかないんですよ。だけど、作品が描かれるプロセスを全部見た絵だったら、愛着が湧いて買いたくなりそうですよね。

実際に、ライブ配信を始めたことで売り上げが10倍になったという画家の方もいらっしゃいます。

だから、トップ層のインフルエンサーにならないと商売が成り立たないかといえば、まったくそんなことはないんですよ。

スライド5のコピー

けんすう:10倍はすごいですね。

こうみく:インフルエンサーじゃなくても一芸があれば、作品をつくるプロセスを見せることでお客さんがつくんです。

それはものすごい売り上げではないかもしれないけど、その人が豊かに暮らすのに十分な金額になると思います。

政治家や経営者も次々にライブ配信をスタート

こうみく:コロナ下で興味深かったのが、政治家がライブ配信をして各地の名産品を売っていた事例です。「コロナの影響で大変だから、買ってください」と。

するとたくさんの人が買ってくれるし、投げ銭もされるんです。経済効果はおそらく募金よりも大きいんじゃないかと思います。

けんすう:確かに募金サイトを見たりして募金するよりは、困っている人を見つけてリアルタイムですぐ投げ銭をするほうがやりやすそうです。

こうみく:そうですね。それに多分、集まる金額が全然違います。そういった効果から、2020年は中国で県知事や市長がどんどんライブ配信を始めました。

インフルエンサーや芸能人といったエンタメに関わらない人がたくさん参入したことが、2020年の大きなニュースの一つですね。

けんすう:なるほど。

こうみく:新型コロナウイルスによって被害を受けた企業のCEOが次々ライブ配信を始めたのも興味深い話です。

中国ではコロナ下で打撃を受けた企業の社長がライブ配信をすると、売上の回復に大きく効果があったんです。

例えば新型コロナウイルスの影響で業績が大きく悪化した中国の旅行業界トップ企業のCtripのCEOは、地域ごとのコスプレをしてライブ配信を始めたんですよ。

中国では新規感染の抑え込みに成功していて、徐々に日常が戻りつつあるんですが、そんな中でインフルエンサーが旅行案件の配信は、まだちょっとやりづらいじゃないですか。

でも、旅行会社の社長が出てくるとあまり嫌な気がしないんですよ。

けんすう:わかります。すごく困ってそうですもんね。

こうみく:社長さんが出てきて、「うちは本当に大変だったんですが、ようやくコロナが収まったんで、みなさんぜひ使ってください」と言われたら、心が動かされる人が結構いると思うんですよね。

旅行だけじゃなく飲食や酒造、製薬といったいろんな業界の社長が配信をしていて、1回の配信で数億円を売り上げるような例もありました。

けんすう:すごい。

こうみく:あと、最後にもう一つ面白い事例を紹介しようと思います。

中国のライブコマースのプラットフォームっていろいろあるんですけど、大手はアリババ運営のタオバオライブ、テンセント運営の「クワイショウ(快手)」、バイトダンス運営のドウインなんですよね。

その中で、バイトダンスだけプラットフォームの顔になる存在がいなかったんですよ。それで、新しく顔になった人の話が面白くて、バイトダンスに買収されたスマホメーカーの元社長が駆り出されたんですよ。

中国独特の価値観なんですけど、会社が買収されることは、数億円や数十億円といった大金が手に入ったとしても「負け」として扱われるんですね。独立できている人が偉いという価値観なんです。

羅永浩(ルォ・ヨンハオ)さんという方なんですけど、中国では一般的にも有名な人で、ドウインのライブコマースの顔として採用されたときは多くの人が驚きました。

それから彼はドウインのライブコマースで、数年間ライバルだったシャオミ(小米)のスマホを売らされたんですね。

今までは「うちのスマホのほうがいい」と言っていたのに、買収された先で当時のライバル会社の携帯を一生懸命売っている彼の姿を見て、中国の人たちはみんな涙したんですよ。

それで「あの人は本当に頑張っている」と話題になって、彼は2020年で60億円ぐらいあった借金をライブ配信で完済したんです。

けんすう:めっちゃ面白いですね、これ。

こうみく:それだけ夢がある市場なんです。という感じで、最後に面白い事例を一つ紹介してみました。

けんすう:ありがとうございます。すごく面白かったです。

こうみく:日本だと中国と同じくらいまで盛り上がるかはわかりませんが、これからライブ配信ないしライブコマースが伸びていくのは間違いないです。

中国の様子を知っておくことで、日本の未来について考える参考にしてもらえると嬉しいです。みなさんの普段のお仕事に活かせるポイントも、いろいろあったんじゃないかと思います。

けんすう:そうですよね。中国ではアメリカよりも先行している事例が多くなってきたので、中国の情報をキャッチアップしないともう無理だなと個人的には思っています。

ではお時間になりましたので、これにて終了です。こうみくさん、今日はいろいろ教えていただいてありがとうございました。

こうみく:みなさんも、今日は長い時間お付き合いいただきありがとうございました。

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