変化する「リーダー像」にどう対応するか

2021/3/29
2021年3月7日(日)にオンラインで開催した「なりたくない?増やしたくない?なぜ日本は女性リーダーが増えないのか?」では、ジェンダー平等はいかにして可能かについてゲストを交えて議論した。

ポーラ社長の及川美紀氏と、産業医の大室正志氏、元衆議院議員の杉村太蔵氏、タレントのYOU氏、TBS報道局JNNニュース編集長の久保田智子氏によって繰り広げられた「なぜ日本では女性リーダーが増えないのか」についてのディスカッションをリポートする。
セッション1のレポートはこちら

ジェンダー・ギャップ121位の実態

久保田 世界経済フォーラムが2019年12月に発表した「グローバル・ジェンダー・ギャップ(世界男女格差)レポート2020」では、日本のジェンダー・ギャップ指数は153カ国中121位でした。
及川 このランクづけの判断基準となっているのが、「経済、政治、教育、健康」の4分野です。日本は健康分野では40位と上位にいます。教育分野は91位。
一方で、経済は115位、政治は144位と、この2つが極めて下位のほうにいるというのが現状です。
YOU なぜなんでしょうか?
及川 数年前と比較するとジェンダー・ギャップの問題に関して、日本も少しずつ前進はしていますし、努力を怠っているわけでは決してないのですが、諸外国のスピードはもっと速いので追いついていないのだと思います。
ポーラ社長/及川美紀氏
久保田 政府は「2020年度までに指導的地位に女性が占める割合を30%にする」としていた目標を先送りしました。2020年時点で、女性管理職の比率数値は7.8%と目標からはだいぶ遠いです。
大室 各企業はいま、この数値をあげようと試みていますが、管理職といっても、部下はいないなどの見かけ上の管理職をつくり、数字をあげようとしている例も見られます。
これはやらないよりはマシとも言えますが、そもそもなぜこのような問題が起きるのか。その理由を僕は、「ホモソーシャル社会」と表現しています。「ホモ」とは「同じ」という意味です。
たとえば先日、ある芸人が「キャバクラに連れて行くほう(先輩)も行きたくない、連れて行かれるほう(後輩)も行きたくない。けれど、芸人の世界は先輩が後輩に奢る習慣があり、その場の空気感がそうさせる」と発言して話題になりましたが、これはまさに「ホモソーシャル社会」の一例です。
つまり、女性と話したいから行くのではなく、男性同士の連携を深めるために行く。これに似たようなことが、権力の中枢でも行われているのではないかと思います。

変化する「リーダー像」

TBS報道局JNNニュース編集長/久保田智子氏
久保田 なるほど。ホモソーシャルな社会で女性リーダーがどのような葛藤を抱えているのかを、TBSドラマ『オーマイボス! 恋は別冊で』と『MIU404』を例に見てみます。
前者は、仕事に対して責任感が強い女性編集長が、あまりのストイックさに「鬼上司」と呼ばれ、部下が一時的に離れていってしまう様が描かれています。
後者は、警視庁という男社会の中で、ノンキャリアから機動捜査隊隊長にまで登りつめた、仕事と育児を両立するシングルマザーの女性が登場します。
それぞれ異なる女性リーダー像が描かれていましたが、どうお感じになりましたか?
大室 企業の場合は、ビジネスモデルによって求められるリーダー像が大きく異なります。
たとえば、販売する製品の種類が少なく、「みんなでこれを売ってこい!」といった形のビジネスモデルだと、「鬼上司」と呼ばれるような強いリーダーがマッチしていた。
一方で、昨今のスタートアップやインターネット業界のように、メンバー一人ひとりの知的アイデアが富を生むようなビジネスモデルでは、上司が鬼のようだとうまく機能しません。部下は萎縮してしまい、アイデアを伝えづらくなってしまうので。
そうした企業では、軍曹のようなリーダーよりも、チームをファシリテートできるようなリーダーが求められます。
10年以上前には、星野仙一さんは「理想の上司」の例としてよく挙げられていました。ところが、現在の「理想の上司ランキング」のトップは内村光良さんです。このように求められるリーダー像は時代とともに変化します。
昔よりも個々人のアイデアを最大化するビジネスモデルのほうが、利益を生みやすくなっているので、多くの組織はそちらにシフトしていかざるを得ないでしょう。
産業医/大室正志氏

女性リーダーを増やす方法

及川 リーダーの役割は社会の変化に合わせて変わっていくものです。「〇〇なリーダーでなければならない」とリーダー像を固定しないほうがいいと思います。
リーダーも人間ですので、みな完璧ではなく発展途上です。そこに「ねばならない」という理想像と自分は異なるからリーダーになることは諦める、といった事態が生じるのはすごくもったいないことだと思います。
リーダーでも失敗することは当然ありますし、失敗を許容する文化がこれからの社会に必要とされるのではないかと思います。
YOU 一方で現状だと、「リーダーのくせに失敗した」みたいな声がすぐあがって、そういう風に考えることができる人は少ないですよね。
大室 たとえば企業で「デジタルコンテンツ部の発足」となったら、上司よりも部下のほうがデジタルコンテンツに詳しいケースも大いにあり得ます。
そんな際には「私もわからないけど、一緒にやろう」と言えるリーダーでなければ、チームを回していけないでしょうし、不確実性が高い時代には「上司自身も未経験」なことが増えるはずです。
女性がリーダーに就任して、リーダー自身が未経験な事態に遭遇した場合に、男性同士で「ほら見ろ」といった足を引っ張るような空気を醸成することだけは排除しておかなければなりません。

メディアに求められる視点

杉村 メディアが女性リーダー取り上げる際の視点も改善していって欲しいですね。
たとえばメディアは、小池百合子さんと丸川珠代さん、橋本聖子さん3人の仲が悪いように報じたがりますが、実際は決してそんなことないんです。
元衆議院議員/杉村太蔵氏
大室 それは僕も感じますね。男性は、女性同士が戦っていると自分たちを脅かさないから安心するんでしょうね。女性の分断を好むというか。
メディアは、「こっちのほうがカッコいい。あれはダサい」といった個々人の美意識や価値観の形成にも影響を与えるので、報じ方には注意が必要です。
それはジェンダーバイアスをつくる悪い方向にだけではなく、「森喜朗氏の発言は問題である」という声が若い世代を中心に15万筆の署名として集められたように、「こっちのほうがいいよね」という価値観をつくっていくこともできる。

ジェンダー問題解決の糸口とは

YOU いまの若い世代は、「あの人はカッコいい」と感じられる個人に人が集まる気がします。その裏には、「結局何をやっても、制度が古いから無理……」という諦めがあるんじゃないでしょうか。
だから、小さいコミュニティから始めて大きくするしかないと思っている。
タレント/YOU氏
及川 YOUさんのご指摘は非常に重要です。なぜなら、このままでは「制度が古いからどうしようもない」と考えている若い人から、大企業は選ばれなくなってしまうからです。
YOU はい、選ばないと思います。
及川 だからこそ、企業は変わらなければならない。若い世代にとって当たり前なことが、できない環境があるのだとしたら、そこには誰も行かなくなってしまいますから。
大室 男性は男性で、「負けてはいけない」という価値観によって抑圧され、弱音を吐けず、苦しめられている人も多いです。男性・女性双方の抑圧を取り除いていく必要がある気がします。
及川 そうですね。最も重要なのは、ジェンダーに限らずマイノリティをつくらないためにはどうすればいいか、という視点です。
一方で、人口の半分である男女のジェンダー問題すら解決できず、女性をマイノリティにしてしまっているのが実情です。
ジェンダーギャップが解消されると、個々人が自分のやりたいことや言いたいことを実現しやすくなり、主体的に選択できる道を増やせます。
ひとりの強いリーダーが社長に就任しただけでは、次の社長に変わった際にまた逆戻りしてしまうかもしれません。なので、企業のサステナビリティの観点から考えると、新たにどういうメンバーが入社してくるかのほうが実は重要です。
誰がリーダーになるかももちろん大事ですが、それ以前に、可能性を持った人たちを数多く蓄えておけるか、そういった人たちに門が開かれているのかを重視する必要があると思います。
その実現のためにも、感じた違和感や意見をひとりひとりが自由に表明できるようにしていきたいです。
(構成:代麻理子 編集:染原睦美、佐藤裕美)
※このセッションは、三井住友カードの協賛によりお届けしました。