[サンフランシスコ/上海 15日 ロイター] - 世界的に広がっている半導体不足は自動車産業のみならず、電子機器産業全体を揺るがす状況になってきた。品不足は米クアルコムが供給するスマートフォン向け半導体にも及んでおり、高性能製品でも需給ひっ迫の悪影響が懸念されている。

事情に詳しい関係者2人によると、世界最大のスマホメーカーであるサムスン電子は、スマホの「心臓部」となるクアルコム製アプリケーションプロセッサー(基本ソフトなどを実行する半導体)の供給不足に見舞われている。

アンドロイド版スマホのメーカーは、米国の制裁措置を受けた中国・華為技術(ファーウェイ)製スマホからの乗り換え顧客の獲得を競っており、クアルコム製半導体の需要はこの数カ月間に急増。同社は一部部品の不足などで、予想外の需要増に応じるのが難しくなった。

サムスンのサプライヤーの社員によると、クアルコム製半導体の不足で打撃を受けたのはサムスン製スマホの中位から低位のモデル。また別のサプライヤーの社員は、クアルコムの新旗艦モデル「スナップドラゴン888」の供給が不足していると述べたが、それがサムスンの上位機種の生産に影響しているかどうかは明らかにしなかった。

ロイターの取材に対し、サムスン電子の広報はコメントを避けた。クアルコムの広報担当者は、同社が2月に示した第2・四半期の売上高見通しを達成できると信じている、とする10日の幹部公式発言を回答とした。

複数の主要スマホメーカーから注文を受けている大手受託製造会社の幹部は匿名を条件に、クアルコム製の幅広い製品で供給が不足しており、今年はスマホの出荷を減らすだろうとの見通しを明らかにした。

中国・小米科技(シャオミ)のLu Weibing副社長は先月、中国版ツイッターの微博(ウェイボ)に半導体について「(普通の)不足ではない。極端な品不足だ」と投稿し、供給不足を嘆いた。

半導体は家電向けの需要が急増して世界的に需給がひっ迫し、自動車メーカーが生産を休止する事態になった。これまでの供給不足はおおむね、クアルコムが設計したスマホ向けの高性能プロセッサーではなく、旧式技術が使われた半導体に集中してきた。

しかしクアルコム製の深刻な品不足は、さらに根深い問題をあぶり出した。半導体の複雑なサプライチェーンは1カ所で問題が起きると他の部分に簡単に波及することが浮き彫りになった。数年先を見込んで大量生産計画を立てる必要がある半導体メーカーは、市場の急変にあっという間に足をすくわれることも分かった。

クアルコムのクリスチャーノ・アモン次期最高経営責任者(CEO)は10日の年次株主総会で「依然として基本的に需要が供給を上回っている」と述べた。

クアルコムの「スナップドラゴン888」はまだ開発から日が浅い。主要部品をサムスン電子の半導体関連別会社から調達し、線幅5ナノメートルの新技術を使っており、すぐに増産するのは困難だ。

クアルコムの無線送受信装置の一部を手掛けるサムスンのテキサス州工場も先月、寒波による停電で生産を停止せざるを得なくなったが、その影響がスマホメーカーに及んだかどうかは不明だ。

<回復力弱いサプライチェーン>

クアルコム製アプリケーションプロセッサーの全モデルは、中国の中芯国際集成電路製造(SMIC)や台湾積体電路製造(TSMC)が旧式技術で製造した電源管理用集積回路(IC)を組み込んでいる。

バーンスタインのアナリスト、ステーシー・ラスゴン氏は「部品は1セット全部が必要だ。そうでないと何ひとつ組み立てられない。サプライチェーンは世界全体に広がり、非常に固く結びついている。効率性を目的に構築された体制だが、問題が起こった際の回復力は劣る」と述べた。

関係者によると、クアルコムはサムスンからの需要に応じるため、こうした旧式技術を使った電源管理用ICの供給を、利益率の高い高性能アプリケーションプロセッサーであるスナップドラゴン888に振り向けた。しかしそのために下位アプリケーションプロセッサーの供給に支障が生じたという。

シャオミは半導体のほとんどをクアルコムと台湾のメディアテックから調達している。

<パニック買いが火に油>

専門家によると、半導体不足は製品のパニック買いを引き起こし、メーカーの生産能力が一段とひっ迫。ほぼすべての半導体で、最も安い部品に至るまで価格が上昇している。

設計・製造受託会社ティトマのケース・エンゲレンCEOによると、例えば一般的に使われるSTマイクロエレクトロニクス製半導体は当初2ドルだったが、今では14ドルに価格が跳ね上がった。

中国の掃除機メーカー、ロボロックの創業者、サイモン・ワン氏は、半導体サプライヤーから注文の際の預託金の引き上げを求められ、在庫を確保するため応じた。「誰もが正気を失ったように注文を出している。実際には使い切れないのに」と話す。

中小企業の打撃はもっと深刻だ。

中国の東莞市で電子機器工場を経営するFabien Gaussorgues氏によると、半導体の供給不足は昨年12月から悪化した。同社は中国の旧正月前に海外の顧客が設計したスマートホーム用機器を大量に製造する予定だった。

しかし、半導体を組み込んだ村田製作所の主要部品の供給が不足し、製造の立ち上げを3週間遅らせた挙げ句、最終的に他社のやや性能の劣る代替製品で間に合わせざるを得なくなった。村田製作所はロイターの取材に対し、「全般的に半導体不足の影響を受けているが、努力して最小限にとどめている」とコメントした。

同氏の顧客にはプロジェクトを無期限に延期したところもあった。「半導体の発注から納入までのリードタイムは6週間と見込んでいた。それが1週間後に10週間となり、その1週間後には1年になった」という。

(Stephen Nellis記者、Josh Horwitz記者、Hyunjoo Jin記者)

*内容を追加しました。