2021/3/13

【脳科学】たった1文字の変化が人類を誕生させた

NewsPicks 編集委員 / 科学ジャーナリスト
思考する。記憶する。会話する。さまざまな道具を作り、使う。
これらヒトに特有の能力を司るのが脳だ。
ヒトの脳と類人猿の脳の決定的な違いは、なんと言ってもその大きさだろう。
脳の中でも特に記憶などの高次の機能を司るのは、「大脳皮質」と呼ばれる表層部分だが、ヒトの大脳皮質の大きさは、チンパンジーの約3倍もあるという。
つまりヒトは、「大きな脳」を持つことで初めてヒトになったとも言える。
では、ヒトに至る進化の過程で、脳はいつごろ、なぜ大きくなったのか。
その謎に迫る重要な発見が、昨年6月に米科学誌Scienceで報告された。驚くべきことに、キーとなる遺伝子をヒトでない霊長類の実験動物に導入したところ、実際に脳が大きくなったという。
日独の国際研究チームの中心メンバー、慶應義塾大学の岡野栄之教授が、研究の背景と意義を語る。
INDEX
  • 脳の容量は指数関数的に増えた
  • ヒトにしかない遺伝子に着目
  • 小型霊長類にヒトの遺伝子を導入した
  • 突然変異で獲得した重要遺伝子
  • 大きな脳は生存や繁殖に有利だった?
  • 人類はさらに進化するかもしれない

脳の容量は指数関数的に増えた

岡野 まず、人類の脳の進化を示した次のグラフを見てみてください。脳の大きさを頭蓋骨の内側の容量と見なすと、1000万年前、大型類人猿だった時の脳は約400ccでした。
200万年前から400万年ほど前にアフリカにいたアウストラロピテクス・アフリカヌスという初期人類の脳は500cc弱。ここまでの進化では、脳の容量はゆっくりと直線的に増えていました。
元図の公開リンク:https://researchmap.jp/multidatabases/multidatabase_contents/detail/240072/d75ede6193d50d3134cfc8e253748e4f?frame_id=732567
ところがその後、ホモ属が出現し、ホモ・ハビリス、ホモ・エレクトス、さらにはネアンデルタール人や現生人類であるホモ・サピエンスが現れるにつれ、脳の容量はまさに指数関数的に増えていった。このあたりで何か、重要なことが起きたに違いありません。
その「何か」を解き明かそうと試みたのが今回の研究です。