『シン・エヴァ劇場版』の高クオリティを実現した、庵野秀明の巧みな経営戦略

スタッフに利益が還元されるシステム

「会社のためのフィルムは面白くない」

「理解してしまったら経営者になってしまいますよ(笑)。自分がそうなったら、守りのフィルム作りになってしまう。(サラリーマン的な)会社のためのフィルム作りって面白くないんですよ、やっぱり」(1997年刊行の『庵野秀明 パラノ・エヴァンゲリオン』より)

これは、当時在籍していた株式会社ガイナックスが、『トップをねらえ!』を下請けのスタジオに丸投げしようとしていたことを非難した、庵野秀明の言葉だ。ガイナックスの元社長が「庵野は会社を経営するということの困難さをまったく理解していない」と発言していると聞いて、冒頭のように答えている。

この発言から10年後の2006年、庵野は自らが代表取締役を務める株式会社カラーを設立することになる。

2021年3月8日、延期が繰り返されてきた『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開され、15年にわたる「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズがついに完結した。庵野秀明総監督のもと同シリーズを制作してきたスタジオカラーにとっても大きな転換点となるだろう。

©カラー/エヴァンゲリオン公式Twitterアカウントより
 

そこでこれを機に、過去の記事や発言をもとに庵野秀明がスタジオカラーを設立した経緯とその後の経営戦略について考えてみたい。

なおスタジオカラーという名称は、庵野秀明が代表取締役を務める株式会社カラーが作品を制作する時の通称なのだが、本稿ではアニメの制作スタジオとして取り上げる場合はスタジオカラー、企画会社として取り上げる場合は株式会社カラーとして表記する。

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