ビジネス

2021.03.10

淡路島に本社移転、果断で知られるパソナ南部靖之代表の「原点」

パソナグループ代表取締役グループ代表 南部靖之

いったいどこまで本気なのか──。2020年9月、パソナグループが本社機能を東京から兵庫県淡路島に移すと発表した。東京本社には管理部門を中心に約1800人が勤務しているが、そのうち1200人を23年度末までに段階期に移す計画だ。

この発表は世間で賛否両論を巻き起こした。東京一極集中が問題視されているが、大企業が1000人を超える規模で地方に本社機能を移した例は聞いたことがない。地方創生を加速させる取り組みに称賛の声があがる一方で、ポーズだけではないかと懐疑的な声もあがるのも無理はなかった。

否定的な意見をどう受け止めているのか。代表取締役グループ代表の南部靖之は、屈託のない笑みを浮かべてこう答えた。

「そうなの? そういう声は僕に届いてない。みんな『パソナらしい』『ほかの人ならホントかと思うけど、南部ちゃんなら驚かない』って言ってくれてますから」

実は本社機能移転計画は急に降って湧いた話ではない。南部はすでに15年の時点で社員に向けて構想を発表。新入社員から毎年20人を選んで淡路島に社員を受け入れるためのチームをつくり、オフィスや住宅、教育環境、ITシステムなどの準備をしてきた。構想発表から5年が経過して、受け入れチームはすでに100人規模に。下地があったうえでの今回の発表だった。

そもそもなぜ移転を考えたのか。きっかけは11年の東日本大震災だ。

「あのとき東京を離れた企業も、喉元過ぎればで、みんな戻ってきた。でも、僕は地震や富士山噴火、テロなど必ず何かが繰り返されると思っていました。リスクは、喜びの絶頂期にどこからともなくやってくるもの。そう仮説を立てて、東京五輪・パラリンピックの20年から逆算して準備を始めたんです」

リスクが顕在化すれば、パソナグループの全社員約2万人を淡路島で受け入れて生活を守り、事業を続ける。何も起きなかったら、人を移して地方創生を推進するつもりだった。

今回は結果的にBCP(事業継続計画)より地方創生の文脈での移転になったが、「何も起きなければ、僕は移転を口で言うだけのオオカミ少年になっていたかも。コロナ禍が背中を押してくれた面がある」と心中を吐露。果断で知られる南部にとっても前代未聞のチャレンジであり、やすやすと決断できなかったことがうかがえる。
次ページ > 南部の精神を築いたものとは

文=村上 敬 写真=苅部太郎

この記事は 「Forbes JAPAN No.078 2021年2月号(2020/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

連載

10年後のリーダーたちへ

ForbesBrandVoice

人気記事